偲ぶ会の前に行われた特別試写会は映画製作関係の主催で行われました。
スクリーンには当時の新大久保の事故の映像が流されました。当時の映像は今見ても当時速報で流れたことを思い出すほど衝撃的だったことが思い出されます。お母様の姿が苦しいほど痛く感じられます。続いて映画のメイキング映像が流れました。

そして、監督はじめプロデューサー、主演のイ・テソンさん、マーキーさん、金子貴俊さん、浜口順子さん、チョン・ドンファンさん、イ・ギョンジンさんが舞台に登場し、順番に挨拶をしました。イ・テソンさんは、少しメモを見ながらですが、流暢な日本語で挨拶しました。昨年の偲ぶ会の時とは更に上達して内容も心に響くものでした。
「撮影の間、イ・スヒョンさんが天から見守ってくださったし、きょうもこの場所にきてくださっていると思います。僕はもうこれ以上この映画が悲しいとは思っていません。幸せを運んでくる映画だと思います。」幸せを運ぶ、こんな素敵な表現が出来る彼は、映画の中で正に死を体験したのと同じ状態なのかもしれません。そしてこの映画を見て自分が生きていることを実感したとき、家族や身近な人に電話をしてほしいとも言いました。　

花堂監督は、「山のように積もる思いがありますが、この彼の真っ直ぐと前をみつめる遺影をみたときに、彼の存在を残したい、彼のことを描きたいと思ったのです。そして彼の御両親とお会いして、その関係を大事にしていきたいと思った。今の日本は心の置き場が不安定であり、失っていくものが多い。人が他人のために飛び込むことができるのか、そんなことを追求しながらここまできたが、それは日本と韓国ということ以外のものがあると感じてきたのです。ここですべての人に感謝を申し上げたい。」

そして、槇原敬之さんが舞台に登場して、主題歌「光～あなたを忘れない」を関根さんと秀賢さんに捧げる歌として披露しました。彼の思いを切々と歌い上げ、その歌が会場内に響き渡ります。歌詞が大変意味が深い内容でした。

そして、天皇皇后両陛下を全員拍手でお席にお迎えしました。
残念ながら、全員起立でしたので、前の人たちの頭の間から、お二人のシルーバーの髪が見えたくらいでした。それでもお二人のお出ましで、場内の空気が全く違ったものに感じられました。温かい、そんな感じです。ニュース映像を見ると、秀賢さんの御両親はこのとき涙を拭いてらっしゃいました。おふたりの気持ちを察するに余りあります。

そして本編が上映されました。いくつもの笑いもとりながら、爽やかにテンポよくストーリーは進んでいきます。彼の真っ直ぐで溌剌とした姿が鮮明に描かれています。後半は周りの多くの人が涙しているのがわかります。私もハンカチを握り締めていました。
そして、エンドロールの最後に秀賢さんご本人のお写真が映し出され、「李秀賢さん、関根史郎さんにこの映画を捧ぐ」の文字。会場からは割れんばかりの拍手が湧きおこりました。

天皇皇后両陛下はここでご退席となり、再び全員立ち上がって拍手でお送りしました。

この日天皇皇后陛下がこの試写会をご覧になることになった経緯は、この後の偲ぶ会で奨学会会長が話されました。（週刊誌にも取り上げられていましたが）
事故のあった年、偶然美智子様が秀賢さんのご両親と言葉を交わされたことから、両陛下はずっと秀賢さんのご両親に対しての想いがおありになったようです。映画をご覧になることは、秀賢さんのご両親と再会するよいきっかけになったのかもしれません。　
翌日テレビ映像で見たお母様とお父様の笑顔、そして涙が心に残ります。

偲ぶ会終了後、マスコミのインタビューを受けるご両親は、時間があれば私達ともお話がしたいと、通訳のパクさんに伝言されていました。事故のあった時間午後７：１５に事故現場の新大久保駅での献花に向かうために時間に余裕がない中でしたが、一緒にお写真だけでもと一枚だけご一緒してくださいました。チマチョゴリに身を包むお母様は初めてでした。

「オモニム、きょうはいい日になりましたね!」　と一言だけ伝えました。
素敵な笑みが返ってきました。