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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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秘  密
大学講師の深沢潤と人気女優の青山優。                                                実は結婚していることは秘密。                                                       そして、優には誰にも言えないもう一つの秘密が…
No 6 HIT数 7644
日付 2009/04/02 ハンドルネーム aoi32
タイトル 秘密 6 愛が育まれる時 前
本文

   秘密 6  愛が育まれる時 

 


「『講座社会学』・・・うっ・・16巻もあるの?
 『講座社会変動』・・・難しそうな本ねーー。
 これは・・英文?・・・Social str・・・う~、なんて読むのかしら・・・。」

優は研究室の本棚にずっしりと並んでいる書籍を眺めていた。

そして、時々 取り出してはタイトルを見て首を傾げてぶつぶつ呟いた。

本を開いてみても、数行読んだだけで眠気を誘うような本ばかりだ。


優は小さくため息をつくとゆっくりと振り向いた。


そこには 日常的にこれらの文献を読み探求している尊敬に値する人物がいた。

彼は窓側の席に座りパソコンの画面を熱心に見ていた。

 

窓から入ってくるそよ風が 彼の神経質そうな額にかかる髪を揺らしている。

優の視線は自然とそのさらさらとした髪・・・そして、彼の唇にいってしまう・・・。


あの日、その人は優しく何度も何度もキスをしてくれた。

嬉しくて胸がいっぱいで涙があふれてきた。・・・涙の味がしたキス・・。


・・・あれからもう何日もたったのに・・・。


胸の鼓動が速くなる。


優は自分の唇に手を当てて頬を赤くした。 

 

そして 優は思わず彼の名前を呼んでしまう。

 
「・・・潤先生・・・。」

 

「・・・・・・・・・。」

 

「ねえ、潤先生・・。」

 

優が何度か呼びかけると パソコンの画面を見ていた潤が優に顔を向けた。

 

「・・・うん・・?」

潤は微かに首を傾げると眩しそうに優を見た。

眼鏡の奥の黒い瞳が穏やかに優しく揺れる。

 

「・・・・・」

優は思わず真っ赤になってうつむいてしまう。

 

「優?」

 

「・・あの・・その・・・・。」


どぎまぎしている優を見て潤は思わず笑った。

 

「ここに座る?」

潤はそう言うと自分が座っている椅子の近くにもう一つ椅子を引き寄せた。

 

「・・・・・。」

優は黙ってこくんと頷くと、もじもじしながらその椅子に座った。

そして 少し遠慮がちに潤を見た。

 

「・・・退屈・・・だよね・・?」

潤は優の方に少し体を向けると言った。


「ううん、そんなことない。」

優は首を横に振ると何気なくパソコンの画面に目を向けた。


『―― 現代社会におけるイノベーションの普及とその影響 ――』


   ・・・・・???・・・・・・


「もう少しで終わるから・・そしたらどこかへ行こうか。」

潤はそう言うと優の頬にそっと手を当てた。


突然の出来事に優の胸が高鳴る。


彼はまるで小さい子供に向けるような穏やかな瞳で見つめている。

 

「ほんと?」

優は躊躇いながらも嬉しそうに潤を見つめる。

 

「うん。・・どこか行きたい所ある? と言っても、あまり人が集まる所は無理かな。」


「そうね・・人目につかない場所。・・ふふふ・・。」


「・・・何かおかしい?」


「だってーー。これじゃ・・秘密の恋をしてるみたい。・・人目を忍ぶ恋だわーー。」


優が明るく笑って言うので、潤も思わず笑ってしまう。


「・・・そうかもしれない。・・優と久しぶりに会ったと思ったら、こんな殺風景な研究室だし・・。」


「それは・・潤先生のせいじゃないわ。」


「女優と大学講師。 しかも 君はここの学生だ。・・その優に手を出した僕は解雇されるかな。」

潤は面白そうに笑う。


「そんなことない!・・・その時はわたしが大学をやめるもの。」

優は今度はむきになって叫んだ。

「潤先生は大学で研究を続けなきゃ駄目よ。・・わたし・・この大学に編入する時いろいろ調べたの。

 ・・・結川教授と潤先生の合同論文は学会でもかなりの評価を受けてるって聞いたわ。

 だから・・先生はここにずっといるべきなの。」


「・・・優?」


「それでも、もし潤先生に迷惑をかけるくらいなら・・わたし・・。」


「・・・もうやめる・・・?」


「・・・先生・・・。」


「・・優は後悔してるのかな。」


「ちっ、違う!!・・後悔なんてしてない。・・先生がわたしの思いを受けとめてくれた時

 すごく嬉しかった。・・でも、本当は夢だったんじゃないかって・・いつか覚めてしまうんじゃないかって

 ずっと思ってた。・・だから 今日、先生に会うまで不安だった・・・。でも、今日 先生は優しく笑ってくれたから

 ・・・迷惑をかけるかもしれないけど・・わたしは・・先生の傍にいたいの・・。」

 

「・・僕もそうだ。・・後悔なんかしていないし、迷惑だなんて思ってない。

 ・・・こんなに自分の気持ちを素直に言えるようになったのは 優が傍にいてくれたからだ・・・。」

 

「・・潤先生・・・。」

 

「・・ありがとう、優。」

 

「・・わたしも・・わたしも・・ありがとう、潤先生・・。」

 

 

窓から入ってきた風が 優の長い髪をさらさらと揺らす・・・。

 

  ・・・甘くて切ない香り・・・。

 

 

穏やかに見つめあった二人は 静かに唇を重ねた・・・。

 

 


   ―――――――

 


潤が研究室を出たところで 思わぬ人物と出会った。

「お、深沢先生も今、帰り?」

国文学の結川教授はにこやかに笑うと声をかけてきた。


「あ、はい。・・教授も遅くまでいらっしゃったんですね。」

潤は一瞬 戸惑ったような表情を向けた。


「はは・・ちょっと調べる事があって・・・う・・ん・・・?」

結川は言いかけて途中で言葉を止めた。


潤の後ろに 一人の女子学生がいることに気がついたのだ。

彼の大きな背中に寄り添うようにしていた彼女も 驚いたように結川を見上げた。


結川は 彼女を見て、潤をじっくりと見た。

そして ふっと笑うと口を開いた。

「うちの息子・・。深沢君も知ってるよね、家に来たことがあるから・・。

 あの子も もう高校生なんだけどね・・・。」


「・・・?・・・」


「今の深沢先生と同じような表情をしたことがあるんだよ。・・そう、偶然 街であの子に出くわした時ね。

 困ったような照れてるような、何とも表現し難い・・。その時、彼は可愛いガールフレンドと一緒だったんだよね・・。」


「・・・!!!・・・。」


「・・・お・・。いつもクールな深沢先生が・・動揺してるね。」


「教授・・・!」


潤が慌てている様子を見て 結川は面白そうに笑い出した。


「君、それじゃあ、すぐにばれるよ。・・まったく深沢君は正直者だな。

 学生の頃と少しも変わっていない。」


結川はニコニコ笑うと潤の肩をポンポンと叩いた。

「結構な事じゃないか。・・良かった、良かった。」


「教授・・。」


「ところで・・君は・・確か・・私の授業も受けてるよね?・・2年生だったかな。」

結川はそう言うと 今度は優を見た。

その目は穏やかだった。


「は、はい・・・2年生の青山優です。あの・・教授の社会心理学を履修してます。」

優は慌ててお辞儀をした。


「・・そうそう。・・今、人気の女優さんだよね。・・うちの息子がファンなんだ・・あ、もちろん私もね。」


「・・・・・・」


「うちの息子ががっかりするだろうね。・・ま、深沢先生が相手では息子に勝ち目はないけどね。」


結川ののんびりした口調に 潤と優は思わず吹き出しそうになった。

 

「・・でも、あまり派手に振舞ってはだめだよ。一応ここは大学なんだから・・。

 二人とも気をつけなさいよ。」


「はい。」
「はい。」

潤と優が同時に返事をしたので 結川はまた笑い出した。

彼の教え子の二人も つられて楽しそうに笑ってしまうのだった。          

 


 




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