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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1356088/1893329
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抱きしめたい
元気で天然な美月、可愛い年下の大学生 航平                                            そして クールな大人の男 永瀬が織成す 明るい(?)三角関係…
No 1 HIT数 5934
日付 2009/04/04 ハンドルネーム aoi32
タイトル 抱きしめたい -1- 17回目のプロポーズ
本文

 





-1-  17回目のプロポーズ

 


「美月ちゃん、僕と結婚して!」


「嫌よ」


「・・・今年もやっぱりだめ?」


「だめ」

 

航平は跪いたまま得意の上目遣いで じっと美月を見上げている。


うっ・・一瞬たじろぐ美月。


少女漫画に出てくるような綺麗な瞳をキラキラさせて
必死に懇願するその真剣な顔を見せられたら きっと世の中の
ほとんどの女性はあっけなくこの子のお願いをきいてあげるだろう

でも・・わたしには通用しないのよ だって見慣れてるもの


にこりともしない美月の様子を見て、航平は諦めたようだった。

大袈裟に やたら大きなため息をつくとゆっくり立ち上がった。

180以上はある長身の航平が 今度は美月を見下ろしている。

美月はほっと胸を撫で下ろした。


「航平、いい加減、諦めたら?
 あと何回プロポーズしたって、わたしの気持ちは変わらないわよ」


「そんなことない。
 人の気持ちなんて この先どうなるかわからないじゃないか」


航平はそう言うと拗ねたように頬を膨らませた。

 


・・・可愛い・・のよね


いかにもやわらかそうな髪に思わず触ってみたくなる

女の子みたいに綺麗な顔を撫でてみたくなる

は・・! いけない、いけない・・何を考えてるの わたしは


美月はその思いを打ち消すように頭をぶんぶんと振った。

 

「あのね、航平
 あなたのことは弟みたいにしか思えないの
 今までも、そしてこれからも」


「それでも僕は 美月ちゃんがいいんだ」


「何言ってんだか・・この子は。
 大学の同じ学部とかサークルとか 航平の周りには 
 あなたにぴったりの可愛い女の子がたくさんいるでしょ?」


「僕は美月ちゃんじゃなきゃ駄目なんだ!」


「・・・・・・」


すがるような瞳を向ける航平を見て 美月は何も言えなくなってしまった。

真剣で純粋でどこまでも深く澄んだ綺麗な瞳・・・瞳・・

思わず惹きつけられて動けなくなる。

 

「スキあり!」

「え?」


その時、航平が叫んだ。

あまりにも速い彼の行動に 美月はついて行けなかった。

突然の出来事だった。

美月の唇がやわらかくくて温かいものにふさがれてしまったのだ。


んん!んーーー!


驚いた美月は声を上げようとするが それは航平の唇で閉じ込められて
言葉にならない。

必死で離れようとする美月の顔は航平の大きな手で包まれていて動けない。

抵抗する美月の手は必死で航平の胸を叩いているが彼はびくともしない。


しばらくバタバタあがいていた美月からやっと航平が離れた。

息も出来なかった美月は はぁっと息を吐くと唇を押さえながら叫んだ。


「なっ、何するのー!!!」


「僕からの誕生日プレゼントだよ」

真っ赤になって慌てふためいている美月とは反対に 航平は澄ました顔で言った。


「なっ・・!」


「美月ちゃん、動揺してるね 可愛いなー!」


航平はまるで天使のように微笑むと、少しずつ後ずさりをし始めた。

この後、怒りが爆発した美月の平手打ちが飛んでくると予想してたからだ。

航平は 美月ちゃんの唇はやっぱり最高!という感動の言葉を残して部屋から
出て行った。

 

「航平!待ちなさい!!!」

美月はベッドの上にあったクッションを掴むと航平の後を追ってその背中に
向かって それを投げつけた。


「おっと・・」

二階からの階段の途中で 航平はひょいっとクッションを受け止めると
明るく笑いながら下まで駆け下りてきた。

居間のソファに座って新聞を読んでいた美月の父 亮一が
航平に気づいて声を掛けた。 


「お、航平君・・今年も来てたのかい。
 ・・・で、どうだった?」


「あ、おじさん おはようございます!」


クリーム色の花柄のクッションを抱えたまま 航平は明るく笑った。


「その様子じゃ・・やっぱり・・」

亮一はそのクッションを見て悟ったようだった。


「はい、今年も断られました!」

航平は照れたように頭を掻きながら言った。


「そうか・・残念だったな」


「はい。でも また来年も来ますから!」


「めげないね、航平君は。
 それにしても、美月のどこがそんなにいいんだ?
 親のひいき目に見ても、あの子にそんな魅力があるとは思えないんだが」


「おじさん、何言ってるんですか。美月ちゃんは最高にいい女です! 
 僕は諦めませんから! おじさんも応援してください
 それに、以前から言ってますが 僕が美月ちゃんと結婚したらこの家に
 入りますから。 次男だし、うちはもう兄貴が結婚して同居してるんで」


「はは・・航平君がうちに来てくれるのか
 美月は一人娘だし それはなかなか魅力的な話だねえ」


亮一は機嫌良く笑うと航平の肩をぽんぽんと叩いた。

航平も頷きながらぴかぴかの笑顔を向ける。

 

「航平君、朝ごはん食べていかない?」

美月の母親の美沙子が キッチンから顔を出した。

航平の母親とも親しい美沙子にとって 可愛くて素直な航平はお気に入りの存在だ。


「いえ、もう帰ります。
 ・・・でないと美月ちゃんに引っ叩かれそうだし・・」


「あら、何かあの子を怒らせたの?」


「はい、さっきキスしてしまいました」


航平はあっけらかんと答えた。

亮一は飲んでいたお茶をぶっと噴き出し、美沙子は まあ!っと驚きの声を上げた。

それでも、屈託の無い笑顔を浮かべる航平の顔を見ていると
とがめる事などできず、苦笑いをする美月の両親だった。

 

 


「・・ひどい格好・・・」

部屋にあるドレッサーに映っている自分の姿を見て 美月はぼそっと呟いた。

よれよれのTシャツとコットンのショートパンツ。

髪はボサボサだし、寝起きの顔はもちろんすっぴん。


昨夜 残業で遅くなって帰ってきたのが夜中過ぎで

疲れてたからシャワーを浴びて そのまま泥のように寝ちゃったのよね

やだ! 寝不足でお肌がカサカサじゃない!

しかも太腿・生足丸出しなのに まったくの色気無し~!

 


美月は鏡に向かって嘆きながら頬を押さえ、唇にも触ってみた。


さっきの航平の唇の感触を思い出していた。

すごくやわらかくて・・温かかった・・・

航平ったら・・あんなキスをするなんて・・・

学生のくせにキスが上手なんて、何しに大学に行ってるの!


でも・・わたしはこんなひどい格好してるのにあんな事したくなるのかしら

そうね  航平はわたしに夢中なのよね

可愛くて、けなげなのよね

 


・・・・・・・・・・・

   ・・・・・・・・・・

 

はっ! わたしったら何を浸ってるのーーー!

問題外だわ、航平なんて

あの子はまだ22歳の大学生で、わたしより4つも年下のただの幼なじみじゃないの

あ、違う違う・・今日で5歳年下になったんだわ

美月はその事実にショックを受けながら またぼんやりと唇に指を当てる。


5歳も年下の航平のキスに痺れたなんて・・・永遠に秘密にしておこう

 

 


美月は クローゼットを開けてクリーム色のツインニットとグレーのスカートを選んだ。

そして、テーブルの上に置いてあった小さな箱を手に取って蓋を開けてみる。

その中にはパールのピアスが優しく淡く輝いている。

それは さっき航平からもらった誕生日プレゼントだった。


きっと航平はバイトを増やして買ってくれたのだろう。


学生のくせに無理しちゃって・・


美月はそんなことを思いながらも、箱からピアスを取り出し耳朶に付けた。
そして、鏡の中を覗き込むと嬉しそうに微笑んだ。 

 

 

 

 

慌しく玄関から出てきた美月は足早に歩き始めた。

隣の桜庭家のベランダにいた航平は 美月ちゃん!と声をかけた。

振り向いた美月はキッと睨んでいた。

航平はびくともせずに叫んだ。


「さっきはごちそうさまー!!!」


美月は何が?という怪訝な顔をしている。

航平は笑いながら明るく答えた。


「美月ちゃんのキスは美味しかったよーー!!!」


「ばっ! もう二度と来るなー! 当分、出入り禁止よ!」


美月はまた睨むと大声で叫んだ。

そして、くるっと背を向けるとカツカツとヒールを鳴らしながら歩き出した。

 

「・・・相当、怒ってるな・・・」

航平はそう呟くと、くすくす笑い出した。

美月の華奢な背中が怒りを表してるようだ。

でも、それも今日だけ。

一晩寝れば、もうその翌日には美月の機嫌は直っているはずだ。

気が強いがさばさばしてて でも、涙もろくて繊細で優しい。

 

航平はそんな美月のことが好きでたまらない。


「みっきーちゃん! ぼくとけっこんして~!」

初めてその言葉を告げた時 航平は5歳だった。

“みつき”と舌が回らないくらい幼かった頃。

それから 毎年、美月の誕生日になる度に言い続けて来た。

美月の驚いた顔を見るのが楽しくて からかってふざけ半分で面白がっていた時も
あった。

でも、いつの頃からか真剣に考えるようになっていた。

航平の中で美月は “隣に住んでる 綺麗でしっかりしたお姉さん”から 
“恋焦がれるただ一人の女性”に変わっていた。

本気で 美月とずっと一緒にいたい、と思うようになっていた。

肝心の美月は本気にしてないようだったが・・・

あと何回告白したら信じてくれるんだろう・・


「・・どうってことないか・・まだ17回目だ」


航平は もう既に見えなくなってしまった方向をぼんやり見つめ

さっきの真っ赤になった美月の顔を思い出して またやわらかく微笑んだ。

 

 

 


大手出版社 S社ビルのエントランスホールを進み 
美月はエレベーターが下りてくるのを待っていた。


「お、美月」

エレベーターに乗り込むと、同じ編集部の秋山が後から入って来た。

彼と美月は同期入社の同僚だった。


「あれ、確か今日は阿川先生の所に寄って来るって言ってなかった?」


「ああ、やっと帰国したから また連載を依頼してきた」


「先生はずっとロスに?」


「うん、結婚して向こうに住んでいる息子夫婦の所にいたらしい
 なんか、ますます若返って・・不思議な人だ
 でも、これで一年ぶりに執筆再開だ!やったね!」
 

「ふふ、秋山君 嬉しそう」


「そりゃ、好きな作家の担当になるなんて編集者冥利に尽きるね
 誰よりも先に新作が読めるんだぜ
 しかもこれが仕事なんて・・・あー、編集者になって良かったー!」


「そうよねー!すごくよくわかる!」

喜んでいる秋山を見て、美月もうんうん、と頷いた。

 

 


「おい、大野 ちょっと来い!」

話が盛り上がった美月と秋山が編集室に入ってくると
奥のブースから編集長の森田が美月を呼んだ。


S社発行の月刊誌「小説 群青」の編集部には総勢15名のスタッフがいる。

「大野、お前がやってた新刊のプレリリースは無事終了だよな?」 


プレリリースというのは 新刊の効果的なトピックやキャッチコピーを考え新聞や
さまざまな雑誌の編集部に本と一緒に送る、という仕事だ。


「はい、昨日無事に終わりました!」

美月が張り切って答えると、森田はニヤッとして言った。


「じゃあ、次はこの作家の連載を担当してくれ
 永瀬聡・・・直木賞作家で売れっ子だが 
 やっとウチでも書いてくれることになった」


「え、永瀬聡・・・って、あの ながせさとし?」


「そう、その 永瀬聡だ」


森田はそう言うと、複雑そうな顔をしている美月に向かってニヤッと笑った。

 

 


気難しくて無口でマスコミ嫌い・・それが出版社業界に出回っている
永瀬聡の評判だった。

三年前の直木賞の授賞式にさえ ちょっと顔を出しただけで 
すぐに姿を消したことは 今でも伝説のように語り継がれているほどだった。

ただ、その授賞式でのわずかな写真でしか知らない彼の顔は おそろしく
無表情だったが俳優にも負けないくらいの端正な顔立ちであることは確かだった。

それ以来、数々のベストセラー作品を生み出してきたにもかかわらず
彼は一切、マスコミの取材を受けることもなく その私生活は謎のヴェールに
包まれたままだった。

 

「な、なんでこのわたしが・・
 そんなおっかない人の担当が こんな気の弱いわたしで務まりますかー?」


「・・誰が気が弱いって?」


一応、美月は抵抗してみるが 編集長をはじめ近くにいた同僚にあっけなく
却下された。

そして彼女は これも仕事!とすぐに切り換えて 
「早速、挨拶と打ち合わせに行ってきます」と言って編集室を飛び出していた。

実は 美月は飛び上がりそうなほど嬉しかったのだ。

 

 


東京メトロの階段を上がると 目の前に深緑の森が広がっていた。

それに向かって歩道を歩いて行くと 生い茂る樹木にぐるっと囲まれるように広大な森林公園が現れてくる。

公園内を通り抜けて少し進むと、近代的な高層マンションが見えてきた。
それは 垂直方向へまっすぐ伸びたフレームワークと、煌めくガラスウォールによって特別な存在感を放って 広大な空に眩いほど映えている。


駅から近いし、お洒落なお店も多そうだし、緑も溢れてて ここは抜群の環境ね

うわ~、高級そうなマンション!セキュリティも完璧だろうな


美月は 少し気後れしそうな思いを奮い立たせるようにマンションの
エントランスロビーに入った。

広いグランドロビーは スタイリッシュな外観にも劣ることなく 
光沢のある大理石の床と明るさを押さえてライトアップされた照明が 深いグレーの壁を照らしてより一層 高級感を醸し出していた。


美月は腕時計を見て時間を確認した。

約束の時間の15分前だった。

ちょっと早過ぎたかしら?と思いながら 美月が何気なくエントランスの外に目を
向けた時だった。

少し前まで晴れていた空が 見る見るうちに暗くなり、暗雲が立ち込めてポツポツと雨が落ちてきた。

大きな水滴がアスファルトを濡らし始めたかと思うと、すぐにザーっと音をたてて
激しい雨が降り出した。

灰色の空からは滝のような雨が容赦なく落ちてくる。


その時、エントランスの中に一人の男が駆け込んできた。

ジョギングの途中で雨に降られたのだろうか・・

フード付きの白いトレーニングウェアを着た男の全身からは 
ポタポタと透明な水が滴り落ちている。

男はかぶっていたフードを外し、俯いていた顔を上げた。

 

!!!

 

美月は思わず声を上げそうになった。

まさしく、その男は今日 美月が訪ねて来た相手だった。

数枚の記事の写真でしか見たことがない人物なのに、彼女にはすぐわかった。

だが、美月は彼に声をかけることが出来ずに立ちすくんだ。


男がびしょ濡れなのは 突然、降り出した雨のせいに違いなかった。


なのに、美月の脳裏には別のことが浮かぶ。


雨に濡れて乱れている黒髪と何の感情も読み取れない端正な顔。


美月は なぜそう思うのか、自分でもわからなかった。

ただ、漠然と感じていた。


悲しみを秘めた透明な雫が彼の頬を濡らしている・・

 


美月はその相手をぼんやりと見つめ、ただ立ち尽くしていた・・・。 



















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