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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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抱きしめたい
元気で天然な美月、可愛い年下の大学生 航平                                            そして クールな大人の男 永瀬が織成す 明るい(?)三角関係…
No 14 HIT数 4097
日付 2009/04/05 ハンドルネーム aoi32
タイトル 抱きしめたい -14- 告白の行方
本文




-14- 告白の行方

 



「え…?」

言葉を無くした美月は ただ永瀬を見つめている。


え? 今、先生は何て言ったの?

確か…一緒について来て欲しい …って?


「あっ、あの わたし よくわからなくて…
 先生の取材旅行に? ついて来て欲しいってことですか?
 でもっ、一年? 二年?
 えっと、そんなに長期の取材をうちの編集長が許可してくれるか…
 絶対無理だと思うんですよね…!」

頭の中がぐるぐると混乱している美月は
自分でも訳のわからないことを一気にまくし立てた。


「…いや、そうじゃなくて」

「え…?」

「編集者としてではなく 僕の生涯のパートナーとして
 ついて来て欲しいという意味です」

「あの…それって  もしかして…」

「…まだ時間はあるので ゆっくり考えてみてください」

「………」


美月は呆然と立ちすくんでしまった。

そして混乱している自分を落ち着かせようと深呼吸をした。

 

えっと…これはやっぱり そういうことよね

先生はわたしに一緒について来て欲しい…って

つまり…プ、プ、プロポーズーーー???

嘘でしょー???


「あっ、あの わたしっ、会社に戻らないと!
 しっ、失礼します!」

美月は後ずさりをしながら永瀬から離れようとした。

一秒でも速く その場から逃げ出したかった。

だが、あまりにも慌てていたので くるっと背を向けた途端
足が絡まってしまい しかも床が濡れていたので
つるっと滑ってバランスを崩してしまった。

美月が あっ!と声を上げた時にはすでに遅く、頭に激しい衝撃を感じ 
その後のことは意識を無くして 何も覚えていなかった。

 

 


…………………


     …………………

 

 

航平が泣きそうな顔をして美月を見つめている。

 

…こうへい? どうしたの?


美月ちゃんは やっぱりあの人のことが好きなんだね


何言ってるの…


いいんだ 本当は最初からわかってた
美月ちゃんがあの人に惹かれてるって…


違う… 違うわ 航平


さよなら 美月ちゃん


待って! 航平! …待って!!!


懸命に叫ぶ美月の声など聞こえないかのように
背を向けた航平はどんどん遠のいて行く。

 

…行かないで…


…………………


     …………………

 

 

うなされながら目を覚ました美月の瞳にぼんやりと映ったのは
彼女を覗き込んでいる永瀬の顔だった。


「…せん…せい?」


「気がつきましたか?」

次第にはっきりしてきた永瀬の顔は青ざめていて
心配そうに美月を見つめている。


「…ここは?  わたし…どうして…」


「ジムの医務室です …あなたはプールサイドで転んで気を失ったんです。
 覚えていませんか?」


「あっ!!!  ……ぁ…」


思い出した美月は慌てて起き上がろうとしたが その途端 
頭がクラッとしたので思わず額を押さえた。


「まだ横になっていたほうがいい。
 倒れた時に頭を打ったようですから」

永瀬は美月の体を支えると ゆっくりとベッドに寝かせた。


「…先生…」

心細くなった美月は頼りなげに永瀬を見上げる。


「もう少し休んだら病院に行きましょう。
 ここのドクターの診察だと軽い脳震盪だということですが
 念のため検査をしたほうがいいと…」


「検査?」

ますます深刻な展開に美月の不安が募る。


「念のためです。
 知り合いの脳外科医に連絡しておきましたから
 後で一緒に行きましょう」

いつもと同じように永瀬が静かに語りかけてくる。

脳外科医と聞いて 美月は緊張して思わず震えてしまった。


「先生のお知り合いにそんな方が?
 …すみません、ご迷惑をかけて…」


「いや、こうなったのは僕にも原因があるようだし…」


「え?」


「…思っていたよりも僕はあなたを驚かせてしまったらしい」


永瀬の言葉を聞いて その時美月はやっと思い出した。


そうだった  …さっき先生はわたしに…


途端に美月の胸は不安よりも熱い鼓動を感じ始めていた。


「あっ、あの 先生!」


「今は何も言わないで。 ゆっくり考えてみてください」


「………」


真剣な表情の永瀬がじっと美月を見つめている。

深くて黒い真直ぐな瞳。

美月は何も言えなくなって 戸惑いながら毛布を顔まで引き上げた。


…どうしよう まさか先生がそんな風にわたしを見ていたなんて

 全然気づかなかった……


毛布を頭からかぶった美月はまだ混乱している。

永瀬の視線を感じて美月の心は落ち着かない。

 

…でも……


ふと頭を過った思いに 美月はそろそろと顔を出す。

 

「…あの 先生…?」


「はい」


「…ゆっくり考える…というよりも
 わたしは 先生にお伝えしなければいけないことがあります」


「何ですか?」


「その… 今、わたしには付き合ってる人がいます」


「いつかあなたの家で会った大学生の彼ですか?」


「え?」


「確か…桜庭航平君でしたね」


「ご存知だったんですか?」


「あの時の彼を見ればわかります。
 彼はあなたのことが好きでたまらないという感じでした」


永瀬の言葉に美月は目を細めて微笑んだ。


「…それで 彼とは将来の約束でも?」


「え?」


「もう結婚の話が出てるとか…」


「いえ、それはまだ…
 その、ちゃんと付き合い始めたのが最近なので…
 彼のことは今まで弟のように思ってきましたから」


「じゃあ、僕にもまだ脈はあるわけですね」


「え? あのっ!…」


「僕のことを顔も見たくないほど嫌いだと言うのなら諦めますが」


「そんな…先生のことを嫌いだなんて…」


慌てて否定する美月を見て 永瀬は静かに笑った。


「それを聞いて安心しました」


「先生…」


「…その話はここまでにして、そろそろ病院に行きましょう。
 何よりもあなたには元気になってもらわないと」


相変わらず 感情をはっきりと顔に出さない永瀬だったが
心底、美月の事を気遣っていることが感じられた。


胸の奥に秘めた静かな情熱

そして 今の自分に限界を感じてもう一度やり直そうと決意した強い意志

そんな永瀬を目の当たりにして 美月は彼を拒む事は出来なかった。

 

 

 


   * * * * * *

 

 


「え!美月ちゃんが怪我?」

航平が驚いて声を上げた。

大学から帰る途中、美月の家に立ち寄った航平に
彼女の母親の美沙子が事情を説明する。


「そうなのよ。プールで滑って頭を打ったらしいの。
 一緒にいた永瀬さんが病院まで連れてって
 検査を受けるようにしてくださったみたいなの。
 あ、それで 結果は異常なしですって。
 ひとまず、安心なんだけど」
 

「それで美月ちゃんは?」


「さっき永瀬さんが送って来てくださって…
 今は部屋で休んでるわ。
 でも、何だか興奮してて眠れないみたい」

美沙子はそう言うと小さなため息をついた。


「…永瀬さんが色々してくれたんだ…」

航平の呟きを聞いた美沙子は慌てて航平を見上げた。


「あっ、あのね 航平君!
 美月が永瀬さんと一緒だったのは仕事だったからよ
 ほら、原稿の締め切りに間に合うように
 編集者って色々手を尽くすじゃない?」


「わかってますよ、おばさん。
 それより、ちょっと美月ちゃんの様子を見に行っていいですか?」

 
「え? あっ、そうね。
 航平君の顔を見れば美月も安心するかもしれないわ」


「寝かし付けてきます」


「そうね、お願いね 航平君」


無邪気な笑顔を浮かべながら冗談を言う航平を見て 
美沙子はほっとしたように笑った。

 

 


二階の美月の部屋に入ると パジャマ姿の美月が
ぼんやりとした様子でベッドに座っていた。

航平の顔を見た美月はほっとしたように笑いかける。


「航平、今 帰って来たの?」

「うん、美月ちゃん 大丈夫?」

「お母さんに聞いたのね。
 大丈夫よ、ぶつけた所はちょっと痛いけどね」

「そう、良かったね 大した事なくて」

「うん。 航平? 立ってないでここに座って」

美月はそう言うと ベッドの上をポンポンと叩いた。

航平はうん、と頷くと美月の隣に腰を下ろした。


「眠れないの?美月ちゃん」

「…うん、 …何だか落ち着かなくて」

「怪我したのがショックだった?」

「ううん、違うの。
 ちゃんと検査して大丈夫だってわかったし…
 …それより今日は もっとショックなことがあって」

「どうしたの」

「先生が…永瀬先生がしばらくの間 執筆活動を休止するって…
 色々考えたい事があるからって」

「…そうなんだ」

「いつも自信たっぷりで、余裕でこなしてると思ってたのに
 本当は違ってたのかなと思うと…」

「美月ちゃん」

「…先生は今まで何も言ってくれなかったのよね…」

「………」

 

…何だか寂しいの…かな

 

そんな美月の悲しげな顔を 航平は黙って見ている。

 

「…ごめ…ん 航平 ちょっと肩を貸して…」


「うん」


美月はそのまま航平の肩に頭を乗せると ゆっくりと目を閉じる。

航平は顔を横に向けると美月の髪にそっと顔を埋める。

二人はそのまま黙っている。

静かな部屋の中には加湿器から出る蒸気の音だけが聞こえてくる。

 


…航平…


うん?


航平はいつも温かいね


………


航平と一緒にいると安心するの

 

航平は美月の肩に手をまわして抱き寄せた。

そして もう片方の手で美月の顎を持ち上げると静かに唇を重ねる。


優しいキス 穏やかなキス 慈しむようなキス

春の陽だまりのような暖かさが美月の体を包み込む。


…なのに ふるふると美月の睫毛が震えたかと思うと 
その閉じた目から涙が溢れ出して すーっと白い頬を伝わって落ちていった。

 


…どうして泣くの?


どうしてかな…わからないの


美月ちゃん…
  

航平 わたしを抱きしめて もっと強く抱きしめて


 
航平は両手で美月を胸の中に包み込むと 彼女の背中を何度も撫でる。

抱きしめられた腕の中で 美月はその胸に顔を押し付けると小さく呟いた。

 


…どうして 

 どうしてこんなに寂しいの…?

 航平の胸の中はこんなに温かいのに……

 

 

 

 

「航平君 美月は?」

二階から降りてきた航平に気づいた美沙子が声をかけた。


「大丈夫、やっと眠りました」

「そう、良かったわ。 ありがとね、航平君
 美月ったら航平君に頼ってばかりでごめんね」

「いえ」

「ほんとにあの子ったらいつまでも危なっかしくて
 だから 航平君が傍にいてくれると安心だわ」

「…でも 僕より永瀬さんのほうが頼りになりますよね…」

「え?」

「あの人は大人だし…そうか、考えてみれば
 僕より10歳も年上なんだ…  そう考えると当然なんだ」

「航平君?」

「…初めから敵うわけないんだ」


航平はそう呟くと驚いている美沙子に力なく笑いかけた。


「じゃあ、もう帰ります。お休みなさい!」


航平はくるっと背を向けると 美沙子が止める暇もなく出て行った。

 

 

 


   * * * * * *

 

 

 

   ―― 翌朝 ――

 


「起きなさい! 航平!」

突然、美月の声が響き渡る。

何事かと部屋のベッドの中で目を開けた航平の視界に美月の顔が飛び込んできた。


「…美月ちゃ…ん?」

夢でも見てるのかと航平が目をこすりながら また見上げた。


「そうよ、わたしよ。早く起きなさい!」


美月に追い立てられるように航平はもぞもぞっと起き上がると
ぼんやりと美月を見た。

仁王立ちをした美月はいつもよりきつい視線を向けている。


「美月ちゃん…もう大丈夫なの?」

「大丈夫よ。もう何とも無いわ」

「…もしかして怒ってる?」

「怒ってるわよ!」

「え」

「航平ったら 何 ひとりでいじけてるの?」

「……」

「永瀬先生には適わないって? あの人のほうが頼りになるって?」

「……」

「どうしてそんな風に思うの?」

「…美月ちゃん」

「あの日 クリスマスの朝に航平は言ってくれたわ。
 “この人は大切な人だ”って…あれは嘘だったの?」

「嘘じゃない!」

「あの時、航平の後輩にお姉さんと間違われて わたしは弱気になってたわ。
 年下の航平と付き合うってこういう事なんだなって
 でも、航平が真剣に言ってくれたから そんな不安はすぐに消えたの」

「…美月ちゃん…」

「だから わたしも誰にでも胸を張って言えるわ。
 …わたしは航平と付き合ってるって…
 航平はわたしの大切な人だって!」

「美月ちゃん」


航平は驚いて目を丸くしたまま美月を見ている。

 

「…航平のこと頼りにしてるんだから」

「え?」

「わかった?」

美月はそう言うと航平の乱れた髪を指で撫で付けた。


「う…ん」

航平はまるで叱られた子供のように頼りなげに頷いた。


「何だかいつもと逆みたいね」

「え?」

「寝起きを襲うのは いつも航平でしょ?」

「…そうだね」

「ふふん、今回はわたしの方が上手だったわね」

満足そうに笑う美月を見て 航平も笑みを浮かべる。

「…っと、そろそろ出かけなくちゃ!遅刻しちゃう!」


美月は腕時計を見ると慌てて叫んだ。


「美月ちゃん 仕事に行くの?」

「そうよ。 航平もちゃんと大学に行くのよ」


わかってる、と言いながら航平はベッドから下りると
美月を両腕でやわらかく抱きしめた。


「航平?」

「…ごめん 美月ちゃん …ありがとう」

「ばかね…航平は」

「うん」

「航平のこと大切に思ってる …だから不安になったりしないで」

「うん」

 

やっぱり可愛いね 航平は…

抱きしめて 抱きしめられて こんなに幸せな気持ちになるのは航平だけよ…


しなやかに…美月は航平の背中に手を回した…。

 

 


「美月ちゃん 朝ごはん食べていかない?」

「わ~ん、ごめんね おばさん! もう時間がないの」

「じゃあ、夕食はどう?
 美月ちゃんの好きなちらし寿司を作るわ」

「え、ほんと? 嬉しいー! じゃあ、後で電話しますね!
 行って来ま~す!」


下の階での賑やかなやり取りを聞いた航平は 思わず笑ってしまう。

そして航平はゆっくりと目を閉じて呟いた。

 

…美月ちゃん 大好きだよ

 

 

 


桜庭家の玄関でブーツを履こうとしていた美月の携帯電話が着信を告げた。

画面を見た美月ははっとする。


「…おはようございます、先生ですか?
 昨日はすみませんでした。色々お世話になってしまって…
 はい、もう大丈夫です。ええ、これから出勤するところです。
 …え…?」


美月は慌てて玄関の外に出ると あっと声を上げる。


「…先生?」


家の前の通りには 車からゆっくりと降りて来る永瀬がいた……。 

 




















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