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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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抱きしめたい
元気で天然な美月、可愛い年下の大学生 航平                                            そして クールな大人の男 永瀬が織成す 明るい(?)三角関係…
No 9 HIT数 5027
日付 2009/04/05 ハンドルネーム aoi32
タイトル 抱きしめたい -9- 星に願う夜 
本文

 



-9-  星に願う夜 

 


「よお、来たな 深沢!…優ちゃんも、いらっしゃーい!」

小椋は友人の深沢と、その妻の優を迎えた。

深沢潤は永瀬と高校・大学の同級生で、現在は私立の名門 K大学の
文学部社会学科の准教授として教壇に立っていた。

彼の妻の青山優は映画・舞台を中心に活躍する人気と実力を備えた女優だ。

二年前、同じ大学で講師と学生として知り合った二人が結婚した時には 世間はその話題で盛り上がったが、今ではそれも落ち着いて
静かな結婚生活を送っていた。

深沢は永瀬を見つけると 穏やかに笑って“久しぶり”と声をかけた。

そして、彼の後ろから 遠慮がちに優が顔を出した。


「あ、永瀬さんだー! おはよう…じゃなくて、こんばんはー!」

優は大きな瞳を輝かせながら挨拶をした。

「お久しぶりです。お元気でしたか?」


「はい」

永瀬は唇の端を微かに上げる。


「きゃー、永瀬さんって相変わらず怖そうだけど
 クールで素敵ですーー!」

優は手を合わせてはしゃぎながら叫んだ。

すると、隣に立っていた深沢がちらっと彼女を見た。


「優」


「はい?」


「そんな大声を出すと目立つから、やめたほうがいいよ」


「あ、潤先生 もしかして妬いてるー?」


「うん、妬いてる」


「やだ、潤先生 可愛い~! 大好きー!」

優は嬉しそう言うと 深沢の腕に両手を回して寄り添った。

 

「………」

「…………」


永瀬と美月は何も言えずに固まった。

さすがに いつもクールな永瀬も苦笑いをしている。


何て大らかで明るい子なのー!

それに、さすがに女優だけあって・・可愛い!

そこにいるだけで周りがぱ~っと明るくなったわ

でも…深沢先生って、あんなに笑う人だったっけ?

物静かで冷静で人を寄せ付けないような感じだったのに…

まるで別人! ラブラブじゃないーーー!


美月は驚いて二人を見ていた。 

 



「優、あまり飲みすぎちゃだめだよ」


「はあい、潤先生!」


テーブル席に座っている深沢が優に声をかけた。

美月と優が座っているカウンターの上には
綺麗なブルーのカクテルグラスが並んでいる。

美月は はしゃぎながら手を振る優を見て思わず笑ってしまった。


「潤先生…って呼んでるの?」


「はい、お付き合いを始めた時からずっとです。
 名前だけでは呼べなくて…何だか恥ずかしくて」

優は頬を染めてうつむいた。


ホントに可愛い… いいなあ、“潤先生”なんて… 

わたしも先生のこと“聡先生”って呼んでみようかしら

…きっとマイナス100度ぐらいの冷たい視線を浴びせられるわね、

はあ~



「可愛いわね、優さんって。今、何歳でしたっけ?」


「22歳になりました」


「ということは、今は大学4年生?」 

…うっ、航平と同じ?  若い!


「はい、来年は卒業です…うまくいけば
 でも、今 単位がギリギリなので危ないかも~」


「きっと大丈夫よ、頑張って!
 深沢先生もついてることだし、心強いんじゃない?」


「でも、潤先生は特別扱いしないし、厳しいんです」


「あ、だからお酒もあまり飲まないようにって?」
 

「あ、違うんです。わたし…酔うとすぐ寝ちゃうんです。
 二十歳の時、初めて潤先生とお酒を飲みに行った時、爆睡してしまって それで自宅まで送ってもらって、その上 おぶって部屋まで運んでもらったという恥ずかしい経験があって…」


…ふ~ん、最近 どこかで同じような話を聞いたような…


美月は首を傾げた。


「おまけに、その時のことをわたしは覚えてなくて…
 だから、もうお酒をたくさん飲むのはやめようと思って」


「…その気持ち、よくわかるわー!
 世の中には同じようなことが起こるものなのね」

美月は勝手に納得してうなずいた。


でも…酔って爆睡しちゃうなんて 二十歳の女の子と27歳の女では
受ける印象が まったく違うわよね…

やっぱり、わたしも当分お酒は控えなきゃいけないわ

今日、もし酔っ払って、先生に送ってもらうなんてことになったら

そしてまた強引に押し倒したりして……


母親の凄まじい形相が浮かんで 美月はぶるっと震えた。


ありえない!そんなことーーー!


…でも、せっかく作ってくれたカクテル

このまま一口も飲まないのは失礼よね

うん、一杯ぐらいなら平気よね


懲りない美月は 自分に都合の良い言い訳をしながら
綺麗なブルーの液体をうっとりと見つめてからグラスに口をつけた。


「おいしーー!」

美月の顔がぱっと輝く。

そして 隣の優もほとんど同時に 美味しい!と声を上げた。

 

「…面白いねー、若い女の子達がカウンターで楽しそうにカクテルを飲んで 30過ぎた男二人がテーブルで細々とコーヒーを飲んでるなんて…」

カウンター越しに小椋がしみじみと言う。

「せっかく久しぶりに飲もうと思ったのに…
 ま、車で来たあいつらがいけないんだな。
 昔から付き合いが悪かったんだ」


小椋のぼやきを聞いて 美月と優は顔を見合わせてぷっと噴き出した。


「多分ね、潤先生はわたしを連れて帰らなきゃいけないから
 飲まないようにしてるんだと思います」

優は嬉しそうに言うと すでに空になったグラスを差し出した。


え…? 確か今、あまり飲むのはやめた…って言わなかった?


驚いている美月を見て察したのか、優はにっこり笑う。

「あ、でもね 潤先生が 僕が一緒の時は飲んでもいいよって
 言ってくれたんです~! 」


「そ、そうなの」

美月は引きつった笑いを浮かべる。


「とっても優しい人なんです」


「そうね、優さんは幸せね」


「はい…潤先生のおかげです」


優はそう言うと ぼんやりと遠くを見つめてふわっと微笑んだ。

一瞬、その瞳の中に わずかな哀しみを見たような気がした。


「…優さん?」

美月に名前を呼ばれて はっと気づいた優は明るく笑う。


「美月さん! 今夜は飲みましょうね!」


「え?あ、あら そうね」


そうね、カクテルを2杯ぐらいならどうってことないわよね…

そう、酔わない程度に ほどほどにね!


美月もまた 空になったグラスを差し出した。


「すみません、お代わりを!」

「わたしも~!」


美月と優は過去の失敗など忘れてしまったかのように、カクテルを注文した。

 

 

 

「…何だか楽しそうだな」

深沢はカウンターの二人を見て穏やかに笑う。

永瀬も ああ、と頷く。視線の先には美月がいる。

賑やかに笑っている美月を見てると 
永瀬の口元にも自然に笑みが浮かんでくる。


「…なが  …なあ、聡…」


「そんな風に呼ばれるのは久しぶりだな」


「そうだったかな。昔はそう呼んでたのに」


「そうだな」


「……奈緒さん、結婚するんだって?」


「なぜそれを?」


「昼間、奈緒さんから葉子さんに電話があったらしい。
 永瀬がこっちに来てないかって」


「そうか」


「君はもう奈緒さんのことは…」


「彼女には幸せになってほしいと思ってる
 …今はそれだけだ」


「そうか」


その時、カウンターの方でまた歓声が上がる。

見ると、美月と優が小椋を相手に何か言い合って
笑い声を上げている。

美月と優はすっかり打ち解けて賑やかにはしゃいでいる。


…二人とも精神年齢が同じなんだな


永瀬は可笑しくなって思わず笑みがこぼれてしまう。

その様子を見た深沢は静かに問いかけた。


「彼女のことをどう思ってるんだ …好きなのか?」


「どうかな… まだよくわからない」


「でも、君は笑ってる」


「…そうだな。笑う事が多くなったかもしれない」


「そうか」

 

二人の男は顔を見合わせて静かに笑った。


そして しばらくしてから、お互いにゆっくりと視線を外した…。

 

 

 


   * * * * * *

 

 

 

真冬の澄みきった夜空の下、二人を乗せた車が街を走っている。

美月は助手席に座って 窓越しにきらめくイルミネーションをぼんやりと眺めながら時々 ハンドルを握る永瀬を見ている。

行き交う車のライトがフロントガラスを照らし、永瀬の横顔がほのかに浮かび上がる。


「すみません、わざわざ送っていただいて」


「通り道ですから」


「今夜はご実家に泊まらなくていいんですか?」


「昨夜泊まりましたから もういいんです」


「お母様はお寂しいのでは?」


「母は姉の家族と同居してますから そんなことはないでしょう」


「そうなんですか。
 …先生はお母様に似てらっしゃいますね。
 物静かで綺麗な方でした」


「………」


「何だか今日は 先生に気を使わせてしまって…
 突然、ご実家まで押しかけたりしてすみません…
 せっかくご友人と会えたのに、お邪魔してしまいました」


「もっと飲んでも良かったのに」


「え?」


「小椋の店のカクテル…けっこう美味いと評判なんですよ」


「あ、でもお代わりしましたから十分です
 それに…ちょっと今はお酒を控えめにしてるんです」


「え?」


「少し前に飲み過ぎて…失敗したことがあって
 …先生は記憶を無くすほど飲んだ事がありますか?」


「ありません」


「…そうですよね」


「実は、あまり飲めないんです」


「そうなんですか? 意外ですねーー!」


「……だから、僕に遠慮しないでもっと飲んで良かったのに」


「いえ、いいんです。とても美味しくいただきましたから。
 久しぶりに深沢先生とお会いできたし、
 小椋さんと葉子さんにも面白いお話を聞きました。
 優さんもとても可愛くて素直な女の子、いえ 素敵な女性でした
 彼女とはメルアドまで交換したんですよ。
 女優さんと知り合いになるなんて初めてです」


「そうですか」


「先生、今度 青山優さんと対談、なんてどうですか?
 もちろん個人的な話題は避けて 
 “私の好きな本”というようなテーマで
 対談するっていうのは いかがでしょうか。
 優さんもけっこう読書家みたいなんです」


「…僕が承諾するとでも?」

永瀬はいつものようにひんやりと答える。


「…やっぱり却下…ですよね」

美月はそう言うと力なく笑った。

そして はあ~っと大きなため息をついた。


「あの、もしもの話なんですけど これから先 本を出版することになったとして記念にサイン会を開く…なんてお願いしたら」


「論外ですね」

永瀬はにこりともせずにあっさりと答える。


うう、何もそんなにきっぱり即答しなくたって…

これじゃ、明るい未来はずっと先ねーーー


「ああ、永瀬先生のサイン会! 
 きっと長い行列ができて盛り上がると思うんですけど…
 やっぱりだめですかーー?」


「だめです。
 …以前にも言いましたが 人前に出るのが苦手なんです
 それに、僕は芸能人じゃない」


美月はがっかりして項垂れた。


その時、美月は そんな彼女を見た永瀬の顔に 

やわらかな笑みが浮かんだ事に気づかなかった。

 

 

 

 

車は美月の自宅の前にゆっくりと停まった。

美月が車から降りると、永瀬もドアを開けて車の横に降り立った。

冬の凍てついた空気を頬に感じて、思わず美月はぶるっと身体を震わせる。


「送っていただいてありがとうございました」

美月は永瀬を見上げると笑顔を向けた。


永瀬の肩越しに 透き通った夜空の星が見える。


「今日はお疲れ様でした」

永瀬も笑みを浮かべる。

吐く息が白い。

 

美月は 永瀬の寒そうな顔を見ると…温めてあげたい

ひんやりと冷たい頬を両手で包んであげたい…と思う


…わたしが傍にいるだけで温かい 先生はそう言ってくれましたよね?

だったら わたしは カイロでも湯たんぽにでもなりますから

 

「いえ、先生の方がお疲れでしょう?
 わたしはとても楽しかったです
 あの、いろいろありがとうございました」


「また来週からよろしく」


「え? あ、はい …こちらこそよろしくお願いします」


永瀬に見つめられて美月は胸が高鳴る。

今日一日で 永瀬との距離がぐっと近くなったような気がする。

 

また来週から頑張ろう

先生がもっともっと素敵な小説が書けるように

これからもずっと 編集者として傍にいて

少しでも先生の力になれますように…
 

美月は夜空に輝く星を見上げながら願い、思った。

 


その時だった。

 



「…美月ちゃん?」


美月は驚いて振り向いた。


するとそこには航平が立っていた。


「航平…」


美月は短く名前を呼ぶと航平を見つめた。

 

航平は美月に笑いかけた後、彼女の隣にいる永瀬に視線を移す。


その時、航平の顔からは いつもの笑顔が消えていた……。





 



























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