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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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遠距離恋愛
「抱きしめたい」の続編。                                                           甘くて切ない三角関係に また新しいメンバーが加わって…
No 12 HIT数 7505
日付 2010/01/05 ハンドルネーム aoi32
タイトル 遠距離恋愛 -11- 恋敵
本文






-11- 恋敵

 


 

 


雨はまだ降り続いていた。


美月は固唾を呑んで永瀬を見つめている。

 

「…二年前に言いましたよね?

 今度、帰って来た時 もし、あなたがまだ一人だったら
 もう一度プロポーズする…と」


「…先生…」


「もう、そんな呼び方はやめて欲しいな」


「でも、編集者のわたしにとって 永瀬先生はわたしの先生ですから…
 それに…」


「それに?」


「仕事中に私情を挟むなとおっしゃったのは先生です」


「あの時とは状況が違います。
 それに今は仕事ではなく、僕の個人的な話をしてるつもりですが…」


「先生…」


ますます混乱していく美月を見て永瀬は苦笑した。

美月は白いタオルをぎゅっと握り締めて考え込んでいたが
しばらくして、意を決したように言った。


「では、わたしも個人的な話を…します。

 まさか…今でも先生がわたしのことを そんな風に思っててくださったなんて
 思いもしませんでした。
 何と言っていいのか…あの、嬉しいです。…とても嬉しいんですけど

 でも…わたし… その、今度 結婚することになりました」


思いがけない美月の言葉に、永瀬ははっとして彼女を見た。


「相手は…先生もご存知の  …あの彼です。
 昨日の朝、わたしからプロポーズしました」


「………」


「…ですから、わたしは…」


そこで言葉に詰まってしまった美月は 困惑した顔で永瀬を見上げる。

それまで黙っていた永瀬はふっと小さく息を吐くと 微かに笑った。


「…また出遅れてしまいましたか」


「え?」


「あの時もそうでした。
 ちょうどあの時、あなたは彼と…桜庭航平君、でしたね。
 …彼と付き合い始めたばかりだった…」


「……」


「どうやら僕は彼から一歩遅れる運命にあるらしい。
 というより、かなり遅れをとってるのかな?」


「先生…」


「でも、まだ完全に負けたわけじゃない」


「え?」


「今ならまだ間に合うかもしれない。
 結末でどんでん返し…花嫁略奪っていうのもありかな」


「先生!」


美月は悲鳴に近い声を上げた。


「映画や小説の中ではありえる事だが、実際にやってみるのも
 面白いかもしれない」


「………」


美月は混乱していた。

まるで小説のプロットでも考えるように、あれこれと思いを巡らせている永瀬は
どこまでが真剣なのかわからない。

 

「先生! またからかってるんですか?」


「え?」


「わたしは真剣に答えてるのに…それなのに…面白いなんて、ふざけないでください」


「違う、そうじゃありません」


「……」


「僕が真剣すぎて…またあなたを追いつめたら
 申し訳ないと思って」


「え…?」


「それに…これで あなたが僕の担当編集者を降りると言い出しそうで…」


「先生」


「それなら、最初からこんな告白をしなければ良かったのかもしれませんが
 それもできなくて…」


「……」


「…何だか自分でも何を言ってるのか分からなくなってきました」


「え…?」


美月は呆気に取られて、まじまじと永瀬を見つめた。

いま、目の前にいるのは いつも自信たっぷりで余裕のあった大人の男ではなく
自分の気持ちを持て余して当惑しているひとりの男だった。


…この人は……


美月は呆れたようにため息をついた。


「…相変わらず回りくどい方ですね」


それまで遠慮がちだった美月は 一転して強い眼差しを真直ぐに向けると
すっと一歩前に出て永瀬を見上げた。


「…でも、何て言うか…可愛いです」


「え?」


「オドオドして、まるで悪い事をして様子を伺っている
 やんちゃな子供みたい…」


「…子供…ですか?」


「はい、子供です」


「…そんなこと言われたのは初めてです」


「大丈夫です、先生。
 これは仕事ですから、先生の担当を降りるつもりはありません
 それに…わたしは “作家 永瀬聡”のファンですから
 先生が拒絶なさらない限り、止めたりしません」


「大野さん」


「…だから…あの、もうこのお話は終わりにして…
 その、そろそろ打ち合わせをしないと…

 わたしの気持ちはお伝えしましたし…いいですよね?」


そう言ってにっこり笑う美月を見て 永瀬はふっと口元を緩めた。


「…上手く かわしましたね」


「はい?」


「残念だな。
 以前のあなたなら、もう少しで口説き落とせたのに…
 逞しく…強くなりましたね」


「そうですか?」


「まさか、子供扱いされるとは思いませんでした」


「はい、新たな発見です。
 やっぱり先生はお変わりになったかも…以前より味わい深くなったというか
 タフで、繊細で…でも 何だかとても楽しそうです」


「え?」


「でも、それはわたしではなくて…他の誰かのせいですよね?
 …先生は気づいてらっしゃらないかもしれませんけど…」


「もしかして、彼女…ジェシカのことを言ってるんですか?」

 

さあ? 美月は首を傾げると楽しそうに笑った。

 

 

 

 

「雨が止まないようなので 送ります」


打ち合わせが終わり帰ろうとする美月を見て 永瀬は立ち上がり
テーブルの上にあった車のキーを手に取った。


「い、いえ! 大丈夫です!」

美月は慌てて手を振りながらその申し出を断った。


「遠慮しないで。 それとも、僕が怖い?」


「そんなことありません!」


「心配しないで、襲ったりしませんから」


「え???」


「でも…覚悟しててください。
 じわじわと攻めて行くつもりですから」


「先生!」


「ああ、いけない。これは胸の中に留めておくことでした」


少しも諦めた様子のない永瀬は 冗談交じりにそう言うと
動揺して固まってる美月を見て存分に楽しんだ後、面白そうに笑った。

 

 

マンションの地下駐車場から外に出ると、やはりまだ雨は降り続いていた。

そして表通りに差しかかろうとした時、なぜか永瀬はブレーキをかけて車を止めた。

見ると ぱっと目を引くような明るいオレンジ色の傘をさした女性が近づいて来た。

永瀬が車のパワーウインドーを下げると、明るい鳶色の髪を揺らしながらジェシカが
覗き込んできた。


「良かった!また会えまシタネ、ナガセー!」

「ジェシカさん?」

「オー、みつきサンも一緒デシタカ?」

「あ、仕事だったんです」

「わかってマス。みつきサンは優秀な編集者だと聞いてマス。
 ナガセのビジネスパートナーですネ?」

「そんな、優秀だなんて」

「…そんなこと言った覚えはない」

「え、違うんですか?」

「言わなくてもワカリマス。
 …ところで ワタシも乗せてもらっていいデスカ?」

「……」


永瀬が無言のまま車のドアロックを解除すると、ジェシカは嬉しそうに声を上げながら
後部座席に滑り込んできた。

雨に濡れたオレンジ色の傘をたたみ、髪をかき上げながら頭を軽く振ると
甘い香りが車内にふわりと広がった。


「…いい香り…」

香水をつけていない美月は気持ちよさそうに息を吸い込んだ。


瑞々しくて、ちょっと甘くて、透明感のある香り…こんな雨の日にはぴったりね…


そんな事を思っていると車がゆっくりと滑るように動き出した。

 

「ソウデスカ?
 じゃあ、今度みつきサンにプレゼントしますネ」

「あ、あら そんな…いいですよ」

「フフ…ほめてくれたお礼デス。実はこれ男性用なんデス。
 でも、クリアでジェントルなのにセクシーで、まるで恋の駆け引きみたいデショ?」

「恋の駆け引き?」

「あ、みつきサンはコイガタキだからマズイです。
 やっぱり他のフレグランスにしますネ」

「あの、だからそれは違う…」


美月が慌てて否定しようとすると、永瀬がゴホンと咳払いをした。

そして、前方のルームミラーをちらっと覗き込んだ。


「ところで、ジェシカは何しに来たんだ?」

「オー、何言ってるんデスカ!
 ナガセに会いに来たに決まってるデショ?」

「それは残念だったな。まだ仕事が残ってるんだ。
 ジェシカに付き合ってる暇はない」

「それなら大丈夫デス。
 お仕事が終わるまで、おとなしく待ってマスから
 だから永瀬のおウチに連れてってくだサイ」

「断る」

「そんなこと言わないで。
 今夜、オトモダチと会う約束をしてて…ナガセも一緒に行きませんか?
 ニホンでモデルの仕事をしているコたちデス。
 アンジェリカとカレンとジーナ…美人3姉妹のモデルです。
 知ってマスカ?」


「知ってます! ファッション雑誌とかTVにもよく出てますよね!
 え? ジェシカさんはあの3姉妹とお友達なんですか?」

知ってるはずがない永瀬の代わりに美月が叫んだ。


「ハイ、カノジョたちはイタリアにいた頃は近所に住んでマシタ。
 カレンは歳も同じで、いつも一緒に遊んでマシタ」

「わあ、先生 良かったですね!
 両手に花、美女4人に囲まれて…きっと楽しいですよ!」


美月はそう言うと悪戯っぽい目で 隣の永瀬の顔を覗き込んだ。

相変わらず、永瀬は不機嫌な顔をしている。
  

「永瀬先生も女性の扱いがお上手になったことだし…
 よろしいんじゃないですか?」

つい、皮肉めいた口調になった美月を見て、永瀬は眼鏡の奥の目を
少し細めた。


「…もしかして」


「はい?」


「妬いてるんですか?」


「はあ?」


「面白くない、というような顔してますよ」


「まっ、まさか!」


「あなたが嫉妬してくれるのなら 行ってみる価値があるかな」


「先生!」


慌てる美月を見て、永瀬はさも可笑しそうに笑った。


永瀬は美月との軽いやり取りを楽しんでいるようだ。

 

「オー! やっぱり、みつきサンはコイガタキですねー!」

ジェシカは両手で頬を押さえて大袈裟に叫んだ。

「ナガセが恋の駆け引きをしてるところを初めて見まシタ!
 ワタシにはいつも冷たいのに、ずるいデス!」
 

「ずるいって…」


「ワタシ、みつきサンのこと好きですけど、
 ナガセは渡しませんからーーー!」


「だから、そうじゃないんです!
 先生からもちゃんとおっしゃってください!」


困ったように助けを求める美月をちらっと見るが
永瀬はまるで自分は関係ないというように知らん顔をして
ふっと笑っただけだった。

 

 


“わたしには結婚するつもりの恋人がいます”

結局、美月は自分からジェシカに説明する羽目になったが
なかなか彼女は信じようとはしなかった。


「うそデショー?
 ナガセよりいいオトコがいるんですかー?」

目を丸くしたまま、ジェシカが叫ぶ。


「ええ…先生より優しくて、素直で…皮肉なんて絶対言わない素敵な彼よ」

美月は自慢げに言うとちらっと永瀬の方を見たが、彼はさほど気にする様子もなく
唇の端を少し上げただけで 大して表情も変わらない。


……何だか憎らしいような気がした。


「オーー! じゃあ、みつきサンにはフィアンセがいるのデスネー?」

「え?」

「ということは、ナガセのカタオモイですね!
 安心シマシタ!これでナガセはワタシのコイビトになってくれますネ?」

「え? あ、ええ そうですね。
 がんばって、ジェシカさん」

「アリガトウゴザイマース!」


美月と永瀬の二人は黙ったまま ジェシカの明るく陽気な笑い声を背中で聞いていた。

 


出版社の前で車から降りた美月が運転席の永瀬の方に回ると
彼はゆっくりとウインドーを下げて顔を出した。


「先生、送っていただいてありがとうございました」

「じゃあ、また何か決まったら連絡ください」

「はい、またお伺いします。
 それから…メールもお送りしますね。
 あの…また毎朝…ご挨拶のメールをお送りしてもよろしいですか?」

「え?」

「いえ…あの、また 居場所がわからなくなったら心配…いえ、困りますので…」

美月は慌ててうつむいた。

 

「…いいですよ。 …毎朝、待っています」


ふわっと…永瀬が微笑んだ。

それは その日、美月が見た中で一番やわらかな笑みだった。 

胸の中が熱くなって、高まって…息が止まりそうだった。

 

「ナガセー、トナリに行ってもいいデスネー?」


突然、後部座席にいたジェシカが車から降りたかと思うと
そう言いながら助手席に乗り込んで、嬉しそうに座った。


え? …今度は美月の胸がきゅっと締め付けられるような気がした。

 


「じゃあ、また」
「サヨナラ、みつきサーン!」


短い言葉で告げた永瀬と 明るく陽気な笑顔を向けたジェシカ。

二人が乗った車はゆっくりと動き出し、どんどん美月から離れて行く。

後に残された美月は すでに見えなくなってしまった方向をぼんやりと眺めている。

 


今まで美月が座っていた場所にジェシカがいた…

 

それだけのことに 胸の奥…ずっと奥の部分がチクっと痛んだ。

 

美月は 今、自分が抱いている気持ちが何なのかわからないまま

しばらくその場に佇んでいた……。

 

 

 

 

 

 


 


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