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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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遠距離恋愛
「抱きしめたい」の続編。                                                           甘くて切ない三角関係に また新しいメンバーが加わって…
No 13 HIT数 7284
日付 2010/01/05 ハンドルネーム aoi32
タイトル 遠距離恋愛 -12- 混線
本文





-12- 混線

 


 

 

航平は 神戸の学会での論文発表を終えた教授の相沢とともに
市内のホテルに来ていた。

今夜はここに泊まり、翌日は神戸大学の研究センターでセミナーに出席する
予定になっている。


「今日はご苦労さん。
 君のおかげでいい論文に仕上がったよ。
 今夜はゆっくり休んで、また明日も頼むよ」

相沢は機嫌よさそうに言うと航平の肩をポンポンと叩いた。


「こちらこそ、いい経験になりました。
 興味深い学説が多くて…興奮しました!」

航平は目を輝かせて元気よく叫んだ。

相沢は満足そうに頷くと目を細めて航平を見た。


「はは…桜庭君は本当に率直でよろしい。
 その探究心と発想の豊かさには感心するよ。
 将来有望な君にうちの娘の相手にお願いしたいところだ」


「そんな…僕は教授が思ってくださるほど優秀ではありませんが…
 そう言っていただくのは光栄です  …でも…」


航平は言葉を選びながら困ったように笑った。


「わかってるよ。
 君に決まった女性がいることは聞いてるからね。
 それで…その後 何か進展はあったのかな?」


「はい。
 その…実は やっと彼女が結婚を承諾してくれて
 僕の奥さんになると言ってくれました」


「ほほー、君の奥さんになると?
 それは なかなか素晴らしい返事をしてくれたね。
 ますますその女性に会いたくなったな」


「はい、今度 京都に来た時には紹介します」


「そうか、ぜひそうしてくれたまえ。
 何か美味しいものをご馳走しよう
 おめでとう、桜庭君」


「ありがとうございます!」


そう言って満面の笑顔を向けた航平が あまりにも嬉しそうだったので 
相沢はつられて笑ってしまった。

 


部屋に入った航平は上着を脱ぎイスに掛けると 窓のカーテンを開けた。

元町の海側に立つホテルの部屋からは 山に向かってきらめく明かりが
ずっと続いているのが見える。

その言葉にできないほど美しい夜景をぼんやりと眺めていたら
美月のことを思い出した。


美月ちゃんに見せてあげたいな…きっと目を輝かせて喜ぶに違いない。


ふと、自分がネクタイをしていることに気づいた航平は手で緩めて外すと
ほっと一息ついた。

着慣れないスーツの上着を脱いで 外の夜景を見つめる航平の横顔は 
どこか憂いを帯びていて 大人の男性を感じさせるものだった。

東京にいる美月の声が聞きたくなった航平は携帯電話を取り出してキーを押したが
留守電になっている。

きっと帰宅途中なのだろう…航平はがっかりしたが とりあえず無事に学会が
終わった事だけメールして携帯を閉じた。

また後でかけてみよう、と思った時だった。

突然、携帯電話が着信を告げた。

美月からだと思い込んだ航平は 何も確認することなくそのまま電話に出た。


「もしもし!」

『………』


なぜか何も言わない相手を不審に思った航平は そこで初めて着信画面を見た。


「結衣さん?」


『……』


「どうしたんだ?…結衣さんでしょ?」


『…助けて…』


「え?」


『助けて…桜庭さん』


何が起こってるのか、わからないまま航平は
結衣の今にも消え入りそうな弱弱しい声を聞いていた……。

 

 

 

 


「ふ~ん、やっぱり作家先生は美月のことがまだ好きなのね」

麻美はそう言って美月の顔を覗き込んだ。

「しかも それを告白されたのが航平君との結婚を決めた翌日で…
 だけど先生は諦める様子がない…ってことよね?」


美月は黙って頷くとグラスに入ったビールをぐっと飲みほした。

そんな美月を見て、麻美は首を傾げた。


「…で、何が問題なの?」

「え?」

「美月は航平君と結婚するって決めたんでしょ?
 そう決めたのなら何も迷うことないじゃない」

「……」

「美月がしっかりしてれば 永瀬さんが何を言おうと大丈夫でしょ?」

「…それはそうだけど…」

「それとも、彼に告白されて やっぱり揺れてしまったとか?」

「麻美…」

「ねえ、美月  …一度、聞いてみたかったんだけど
 どうして美月は 突然、航平君との結婚を決めたの?」

「え?それは言ったじゃない。
 …航平があまりにも一途で可愛くて…だからずっと一緒にいたいと思って…」

「それだけ? 他にも何か理由があるんじゃない?」

「え?」

「…永瀬さんが帰国して…そしたら すぐ…だったよね?」

「何が言いたいの」

「まるで…何かから逃げるように…そう…
 美月は どこか不安な気持ちを追い払おうとしているように見えたの」

「何よ、それ」

「美月」

「わたしのどこが不安そうに見えるの?
 何かから逃げようとしてるって…それって何?
 …永瀬先生からだって言うの?」


美月は今にも立ち上がりそうなほど興奮して叫んだ。
 

「…落ち着きなさいよ、美月。
 わたしの誤解なら謝るわ。
 ただ…ふとそんな気がしただけ」

「………」

「美月が本当に航平君のことを愛してるのならそれでいいの」

「愛してるわ。…だから、航平の奥さんにしてって言ったのよ。
 …愛してるから わたしからプロポーズしたのよ…」


今にも泣きそうな美月を見て 麻美は深いため息をついた。


「ごめん、美月。わたしが悪かったわ」

「麻美」

「ほら、わたしって航平君のファンだから ちょっと心配だっただけなの。
 もし美月がいい加減な気持ちで結婚を決めたとしたら 彼はすごく
 傷ついて きっと立ち直れないなと思って…」

「いい加減な気持ちじゃないわ」

「そうよね… 美月は航平君のことわかってるものね。
 彼…美月を失ったりしたら死んじゃうかもしれないし…」

「麻美ったら大袈裟ね…」

「…大袈裟だと思う?」

「え…?」

「………」

「………」

二人は黙ったまま顔を見合わせた。


「…なーんてね!
 冗談よ、冗談!
 さあ、もう一度乾杯しよう。
 …美月、結婚おめでとう!」

「う、うん、ありがとう」


明るく笑う麻美と まだ戸惑いが残ったままの美月は
また二人でグラスを合わせた。

思いがけず、勢いよくぶつかってしまったグラスの中で小麦色の液体がゆらっと揺れる。


慌てた美月は それが零れ落ちないように手を添えた……。

 

 

 

 


麻美と別れて帰宅した美月は、その時になって初めて
航平からの着信があったことに気づいた。

いつものように、すぐ電話をかけることに躊躇う美月だったが
少し考えた後、携帯のキーを押した。

何回かのコール音の後、相手に繋がった。


『…もしもし…』


「え?」


美月の胸がどくんと波打った。

航平の携帯にかけたはずなのに、聞こえてきたのは女性の声だった。


「…あの…」

声が擦れて凍りついたように動けなくなった。


『…あ…美月さんですか?』

電話の相手が言った。


「え?」


『わたし…結衣です。 相沢結衣です』


「結衣さん?」


『はい。…あの、桜庭さん 今 ここにいいなくて…
 戻って来たら伝えておきますね』


気のせいか、弱弱しい声の結衣はそれだけ言うと電話を切った。


「え? もしもし? 結衣さん?」


美月は慌てて叫んだが そこには通話が切れた音だけが空しく響いている。


どうして? …今日、航平は神戸にいるはずだわ

結衣さんもそこにいるってこと?


美月の頭の中にそんな疑問がぐるぐると回っていた。

 

 

結衣は携帯電話を切り、じっと画面を見つめて考え込んでいたが
その後 電源もオフにしてベッドの枕の下に押し込んだ。

そして そのまま何もなかったようにまたベッドの上で横になった。

その時、部屋のドアが開く音がしたので慌てて目を閉じた。

人が中に入ってくる気配を感じたが、結衣は眠っているふりをする。


「…結衣さん?」


遠慮がちな航平の声が静かに響いた。


「大丈夫? 薬を買ってきたよ。
 …寝ちゃったのかな?」


心配そうな航平の声を聞いて結衣は胸が痛んだが
目を瞑ったままじっとしている。

やがて、諦めたように小さく息を吐いた後 
航平はベッドの傍にあるイスに腰を下ろしたようだった。




…ごめんなさい…


結衣は心の中で謝っていた。

本当はすでに痛みは治まりかけていた。

でも、その事を言ったら 航平は安心して自分の部屋に戻ってしまうだろう。

…だから、もう少し嘘をつくしかなかった。

 


お願いだから…朝までここにいて…

今夜だけは あの人のことを忘れて…


じんわりと…涙が瞼の中に沁みてくる。


結衣はそれが溢れないように必死に堪えていた。

 

 

 

 


いつの間にか夜が明けていた。

美月ははっと目を覚まし、慌ててベッドから起き上がった。

気がつくと携帯電話を握っていた。

昨夜 航平からの電話を待ってるうちに眠ってしまったようだった。

あれから何度か航平の携帯に電話をかけてみたが 電源が入ってなかった。

メールも送ってみたが何の返事も返ってこない。


「…一体、どうしちゃったの、航平?」


何気なく呟いた声が 弱弱しく擦れていて美月は思わず胸を押さえた。

ベッドから下りて部屋のカーテンを開けると、そこにはラベンダー色の
朝焼けが広がっていた。

美月は窓も開けて 思いっきり朝のひんやりとした空気を吸い込んだ。



何があったのか 今すぐに会って確かめたい…


航平もそう思って京都から会いに来てくれたのね

あの時の航平も こんな気持ちだった?

寂しくて、不安で、どうしようもなかったの?

なのにわたしは…航平の気持ちを軽く受け止めていたのね


ごめんね、航平

わたし…あなたに謝りたいわ


だから 航平の声を聞かせて…  


そして いつものように“大丈夫だよ”って言って…

 

 

 

 


目を覚ました結衣は、しばらくの間ぼんやりしていたが
そこがホテルの部屋だということに気づいて慌てて起き上がった。


え……?


驚いた事にベッドの傍のソファにもたれるように航平が眠っていた。

その時になって 結衣は昨夜のことを思い出した。 


一週間前 父が航平と一緒に神戸の学会に行くと聞いて、自分も連れてってと
頼み込んだが 遊びじゃないんだと きっぱりと父に断られた。

だから結衣は父に内緒で一人で神戸までやって来た。

母には友人と大阪に遊びに行くと嘘をついて…。

父たちと同じホテルにチェックインし、航平が戻ってくるのを待っていた。

だが部屋で待っていると 思いがけず腹痛がしてきて不安になったが 父には連絡できず
次第にひどくなる痛みに我慢できなくなった結衣は ついに航平に助けを求めてしまった。

慌てて結衣がいる部屋まで駆けつけてくれた航平は、すぐに父に連絡しようとしたが
きっと叱られるから言わないでと頼んだ。


「明日の朝になったらちゃんと父に謝るから 今夜は黙っていて」


結衣の必死の頼みに困惑顔だった航平は 何とか了解してくれて
薬まで買いに行ってくれたのだった。

 

「………」


一晩寝て、すっかり良くなった結衣は ベッドから起き出して航平に近づき
そっと彼の顔を覗き込んで言葉を失ってしまった。


…なんて…キレイな寝顔なの…  


でも…眼鏡を外したら…  もっと可愛くて…天使みたいかも?


一度でいいから 眼鏡なしの航平の顔を見たいと思っていた結衣は
息を凝らしながら航平に近づいた。


そして、恐る恐る手を伸ばして眼鏡にさわろうとした時
航平の唇が微かに動いた。

やわらかそうで、ぶくっとした唇が艶やかに誘っているような気がして…

胸の奥に熱いものがこみ上げてくる。



…やっぱり、わたしは航平さんのことが好きなの…

諦める事なんてできない…

 

切なく、思い詰めた結衣は ゆっくりと航平に顔を近づけた。


そして目を閉じると その唇にそっと自分の唇を重ねていた……。

 

 

 

 

 

 

 


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