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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1353618/1890859
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遠距離恋愛
「抱きしめたい」の続編。                                                           甘くて切ない三角関係に また新しいメンバーが加わって…
No 14 HIT数 7215
日付 2010/01/05 ハンドルネーム aoi32
タイトル 遠距離恋愛 -13- 抱擁
本文






-13- 抱擁

 

 

 

…唇にやわらかなものが触れたことに気づいて 航平はゆっくりと目を開けた。

ぼんやりとした視界に入ってきたのは 間近から覗き込んでいる結衣の顔だった。


「…?…」


一瞬、航平はとても不思議な顔をして、長い睫毛をパチパチ動かすと
慌てて回りを見渡した。

 

「…結衣さん…?」

「…すごい!」

結衣は目を丸くして両手で頬を押さえた。


「え?」

「キスしたら目を覚ましたわ!」

「え?」

「これって眠りの森の美女…違う、イケメンだった!
 やっぱり航平さんは王子様なのね!」

「え?」

「可愛いーーー!」


何が何だかわからない航平は きょとんとした目で
楽しそうにはしゃいでいる結衣を見ている。


「…あの、結衣さん…」

「ごめんなさい。
 航平さんの寝顔があまりにも可愛かったので…キスしてしまいました!」

「え…」


結衣は爽快に言ってのけると おどけたように笑った。


「………」

航平はただ驚いてまじまじと結衣を見ている。


「やだ、航平さんったら そんなに驚かないでください。
 ちょっと触れただけの挨拶みたいなキスですから!」

結衣は精一杯明るく言って航平の顔を覗き込んだ。


ほんの少し前の思い詰めたような表情は消えていた。

航平には気づかれないように 結衣は無邪気な笑顔を浮かべている。


「…しょうがない人だな」

航平は呆れて、そしてほっとしたように微笑んだ。

「もう、こんなことしちゃダメだよ」

まるで悪戯をした妹を軽く注意するような感じで言った。


「はい、ごめんなさい」

結衣は素直に謝ると甘えるような上目遣いで航平を見た。


「もうお腹は痛くない?」
 

「はい、もう大丈夫です。
 ぐっすり眠ったから治ったみたいです」


「良かったね」


「はい。 …あの、ありがとう、航平さん。
 ずっと付いててくれたんですね」


「うん、心配だったからね。
 でも途中で寝ちゃったから何の役にも立たなかったけど」


「そんな…朝まで傍にいてくれただけで すごく安心できました」


「…そろそろお父さんに知らせないと…」


「…そうですね」


「会ったらすぐに謝れば大丈夫だよ。
 教授は結衣さんに甘いから」


沈んだ顔をしている結衣を見た航平は きっと父親に叱られると
不安になってるのだと思い込んで 結衣を慰めるように言った。


「…はい…」


結衣は微かに笑うと、たまらなくなってうつむいた。


何も疑わず、どこまでも優しい航平を騙している…


そんな罪悪感が胸を過ったが、結衣はそれを振り払うように顔を上げると
明るい笑顔を向けた。

 

 

 


「…美月? どうしたの、ぼんやりして」


朝のテーブルで 箸を休めたままぼうっとしてる美月を見て
母の美沙子は声をかけた。


「え? あ、ううん 何でもない」

美月はそのまま箸を置くとご馳走さま、と言って立ち上がった。


「あ、美月? 来週の連休には航平君 帰って来るんでしょ?」

「…うん、一週間ぐらいこっちにいられるんだって」

「そう、良かったわ!
 そろそろ決めなきゃいけないこともあるものね」

「わかってるわ。
 ちゃんと二人で決めていくから大丈夫よ」

「そうね。 あー、楽しみだわ。
 できたら 美月が30になる前にお式を挙げてほしいけど…」

「お母さんったら…気が早すぎるわ。
 航平にも都合があるんだし…急かさないでよ」

「それはわかってるけど…心配なのよ。
 美月がまたフラフラして航平君が嫌になっちゃうんじゃないかと…」

「何言ってるの、お母さんったら!変な心配しないで
 航平もわたしも大丈夫なんだから」

「そうね、二人は結婚するんだものね」

「うん、そうよ。
 わたしは航平と結婚するって決めたんだもの」


そうよ、何も心配することなんてないわ!


美月は自分に言い聞かせるように呟くと、そっと自分の胸に手を当てた。

 
 

 

 

「…まったく、しょうがない娘だ。
 お母さんに嘘ついてまで ここに来るなんて」


相沢は呆れたように言うと大きなため息をついた。

3人はホテルのダイニングで朝食を取っていた。


「…ごめんなさい、パパ。
 でも、どうしても来たかったの」

結衣は両手を合わせて相沢を見上げながら謝った。


「桜庭君にまで迷惑をかけて。
 朝食が済んだらすぐに京都に帰りなさい」

「えーー!
 せっかくだから元町に行ってもいいでしょ?」

「遊びに来たんじゃないんだ。
 今日もこれからセミナーに出席する予定だし
 お前に付き合ってる暇はないんだよ」

「いいわ、終わるまで一人で観光してる。
 でも、その後なら付き合ってくれるでしょ?
 ね、航平さん」

「え?」

「またそんな我儘を言うんじゃないよ。
 桜庭君だって迷惑だろう」

「そんなことないですよね?」

「あ、うん…」

「ほら、迷惑とは思ってないって。
 …それより、航平さんは昨夜からずっと わたしについててくれたのよ。
 若い男女が一晩、同じ部屋で過ごして…パパは心配じゃないの?」


結衣は悪戯っぽく笑うと 父親の顔を覗き込んだ。

彼女の思わせぶりな言葉に 航平は戸惑い、結衣を見た。

相沢は呆れた様子で娘を見返している。


「…親に嘘をついてまで 追いかけて来た我儘な娘と
 学会に発表する論文のために寝る間も惜しんで準備してくれた誠実な研究員と
 お前だったらどっちを信用する?
 私は多くの学生達と接してきたから、人を見る目はあると自負してるがね」

「…パパは航平さんを信用してるのね」

「そうだ。 だから、結衣 お前ももう大人なんだから
 もっと分別のある行動を取れるように努力しなさい」

「はあい、パパ」

「…それから 結衣 お前にも話しておいた方が良いかもしれない。
 桜庭君は結婚が決まったそうだよ」

「え?」

「だから これからは、今回のように彼に迷惑をかけてはいけないよ」

「本当に …本当に結婚するんですか?」

「うん、実は 先週帰った時にそんな話になって…」

航平はそう言うと照れたように笑った。

ひどくショックを受けた結衣は言葉を失った。


「…どうして、どうして…そんな急に?」

気が動転した結衣はうわ言のように呟いた。


「今まで何度もプロポーズしてきたんだけど、その度に断られてたんだ。
 でも、やっとその気になってくれて…」


航平の嬉しそうな笑顔が胸に突き刺さった。


「…そうなんですか…美月さんと結婚するんですね…」


結衣は力なくそう言うとイスの後ろに置いたバッグに触れた。

その中には 航平に返そうと思って持って来た物が入っている。

昨夜、どうしようもない嫉妬に駆られて 思わず枕の下に隠してしまった
航平の携帯電話だった。

 

もし、これを渡さない事で 航平と美月の繋がった糸を断ち切れるのなら…

たかが携帯電話一つでそんな事になるわけないとわかっていても

少しでも二人の間に波風を立てることができるのなら

結衣は このまま返さずにどこかに捨ててしまいたいとさえ思っていた……。

 

 

 


「…はい、そのようにお願いします。
 またご連絡しますね」

美月は携帯電話を切ると、安堵してふっと小さく息を吐いた。


「先生、装丁のデザイナーは篠崎さんに依頼しました。
 よろしいですよね?」

自宅マンションのガラスウォール側にあるデスクに座って ノートパソコンの
キーボードを叩いていた永瀬は ふと顔を向けると軽く頷いた。


「…彼には以前も担当してもらいました。
 変わりありませんか?」

「はい、ずっとご活躍されています。
 今回は永瀬先生の本ということでとても喜んでらっしゃいます。
 早速、原稿を読んで なるべく早く原案をお持ちしてくださるとのことでした。
 …打ち合わせには先生も同席なさいますよね?」

「そうですね。
 久しぶりだから一緒に食事でもしましょう」

「はい、わかりました。
 日程を決めてお知らせしますね」
 

美月がにっこり笑うと、永瀬は満足したようにまたキーボードを叩き始めた。

 

帰国してからの永瀬は 以前にも増して精力的に仕事をしていた。

近々、3作続けて書き下ろし作品を発表することが決定した他に
美月の出版社で発行している月刊誌への連載も決まり、
連日 執筆活動に励んでいた。


…先生ったら絶好調ね。 …良かった!


美月は安心し、自然と口元が綻んでくる。


永瀬に告白されたあの時から、もしかしたら仕事にも微妙な影響が
出てくるのではないかと気がかりだったが、そんな懸念など必要なかったと
思えるほど 永瀬の態度は以前とさほど変わりは無かった。

 

そんなことを考えてると、美月の携帯が着信を告げた。

画面を見て、航平からだと気づいた美月は慌てて立ち上がると
部屋の隅まで行き 声を落として電話に出た。

 

「…もしもし、航平なの?」

『うん、美月ちゃん、今 大丈夫?』

「ごめん、仕事中だから後でかけ直すわ。
 今日はセミナーに出てるんでしょ?
 何時頃に終わるの?」

『5時には終わる予定なんだ』

「わかったわ、その頃電話するね」

『うん、  …美月ちゃん?』

「なあに?」

『僕の言い訳を聞いてくれるよね?』

「うん、たくさん聞いてあげる」

『良かった』

「じゃあね、セミナー頑張ってね」

『うん』


安心したような航平の明るい声を聞いて、それまでどこかでモヤモヤしてた
気分が あっという間に消えていくようだった。


…ふふ、やっぱり 航平はわたしの知ってる航平なのよね…


自然と口元に笑みが浮かんでくる。

携帯を閉じて振り向くと パソコン越しに永瀬と目が合ってしまい
美月は決まり悪そうにうつむいた。


「…電話を続けてもいいですよ」

相手が誰だか察知したのか、永瀬はどことなく不機嫌そうに言った。


「いいえ、いいんです」


「そうですか?」


「はい。 …だって、ここでラブラブの会話をしていたら
 先生に申し訳ないでしょう?」


「…確かに…」


悪戯っぽく笑う美月を見て、思わず永瀬もふっと静かに微笑んだ。


永瀬は気づいていた。

さっきまで、ふとした合間に見せていた美月の表情の中に少し物憂げな印象を
感じ取っていたが、今の電話でそれが全て消えたことを…

打ち合わせしている時にはそんな様子は決して見せない美月だが
永瀬には それまでの彼女の微妙な感情の変化が伝わってくるような気がしていた。

 

「…何だかつまらないな」

永瀬は顎に手を当てたままぼそっと呟いた。


「はい?」

美月が怪訝な顔で永瀬を見た。


「…あなたの憂鬱の原因…それが無事に解決したようだから…
 もう少しトラブルが続いて あなたが気落ちしている隙に
 僕が入り込めたかもしれないと思うと残念で…」


「冗談はやめてください」


「冗談ではありません。…僕は本気です」
 言ったはずです。…じわじわと攻めていくと…」


「先生、もうそんなことはおっしゃらないでください。
 そうでないと わたし、困ってしまいます」


「困る? どうしてですか。
 気持ちが揺れてしまいそうで不安ですか?」


「違います。
 このままでは仕事がやりにくくなって…
 わたし、担当を降りなければなりません。
 先生はそれでもいいとおっしゃるんですか?
 …編集者としてのわたしはもう必要ではないのですか?」


「………」


真剣な表情で必死に言う美月の言葉を 永瀬は黙って聞いている。

そして少し考えた後、永瀬は立ち上がりゆっくりと美月の方に近づいて来た。

動揺する美月の前に立った永瀬は彼女を見つめ、告げる。


「…必要です。
 編集者としてのあなたも…生涯のパートナーとしてのあなたも…
 どちらかを失うなんて考えられない」


「…先生…」


「答えてください。
 …あなたにとって僕は 担当する作家の一人に過ぎないのですか?
 二年前も今も変わっていないのですか?」


「…あ…」


「…一度でも僕の事を 一人の男として見たことはないのですか?」


「…先生…」


「どうですか?」

 

永瀬の真剣な眼差しに心臓が射抜かれそうだった。

彼のどんな問いかけにも 美月は即座に明確な答えが出せるはずだった。

なのに、美月の口から出る言葉は震えて…擦れていた。

 

「…わかりません…」


「大野さん」


「わたし…わたしは…」


体が震え、睫毛も小刻みにふるふると震えて…心も揺れる。


美月が堪えきれずにうつむいてしまった時だった。


すっと…永瀬の手が伸びてきて 美月の腕を掴みそのまま引き寄せた。

あっと声を上げる暇もなく、美月の体は永瀬の胸の中に抱き寄せられ
その両腕でぎゅっと閉じ込められた。

美月の頭と背中が永瀬の腕に包み込まれて…もう逃げられない。

 

「…せんせ…い」


「もう…そんな風に呼ばないで…」
 

抱きしめられた腕の中で永瀬が囁きかけてくる。

低く深く、切ないほど心地良い声が美月の耳元で響く。

 


…本当は… こんな近くでこの声を聞きたかった…?

 

「…せん…  …永瀬…さん…」

 

…本当は… ずっとそう呼びたかった…? 

 

美月は心の中で自分に問いかけている。

 

答えは出ない。

 

 


そして いつの間にか美月は…ゆっくりと目を閉じて 


永瀬の大きな胸に抱かれたまま その熱い唇を受け止めていた……。

 

 

 





 


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