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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1354199/1891440
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遠距離恋愛
「抱きしめたい」の続編。                                                           甘くて切ない三角関係に また新しいメンバーが加わって…
No 15 HIT数 7001
日付 2010/01/05 ハンドルネーム aoi32
タイトル 遠距離恋愛 -14- 携帯電話
本文







-14- 携帯電話

 

 

 


やわらかく触れるだけの口づけは  
何度か重ねるうちに次第に深くなって しっとりと濡れていく。


美月の体は永瀬の胸の中でしっかりと抱きとめられてるはずなのに
まるで緩やかな波に漂いながら ゆらゆらと揺れているような気がした。


心が揺れている…


もう何も考えられない…


熱い唇と甘い吐息が美月の思考をストップさせ
無意識のうちに 彼女の両手は永瀬の背中に回っていた。


それが合図だったかのように 永瀬の手は美月の頭と背中を押さえて
きつく抱きしめる。

 

ほんの少しの隙間もないほど濃密な抱擁…

そして、交わされる 長く激しい口づけ…

 

そうしているうちに、永瀬の熱い唇が美月の唇から顎や首へ降りていく。


その瞬間、美月は夢から覚めたようにはっとして身を固くすると
慌てて永瀬の腕の中から抜け出した。


そして、恐る恐る永瀬を見上げ 大きく目を見開いたまま彼を見つめた。


「…わたし……」


美月は両手で顔を押さえると声を震わせながら後退りをした。


「わたしったら…何てことを…!」


気が動転した美月はソファに置いてあったバッグを掴み、叫んだ。


「…すみません! 今日は…失礼します!」

 

永瀬の返事も待たずに、美月は部屋を飛び出した。

 

 

 

 


― 5時には終わる予定なんだ ―

― わかったわ、その頃電話するね ―

 

セミナー会場を出た所で、航平は腕時計を見た。

もう少しで5時になるところだと確認した航平は
携帯電話を取り出してキーを押す。


早く美月の声が聞きたかった。

話したいことがたくさんあった。

 

…待ちきれないんだ…


携帯の呼び出し音を聞きながら、航平はそんな自分に呆れていた。

昨夜、電話ができなかった理由…その言い訳を聞いてくれると言っていた美月。


僕の事を信じてくれているんだよね?


満ち足りた気分の航平は穏やかで、愛しい人の声を待っているだけだ。

なのに…美月は電話に出ない。

念のためもう一度電話すると、何度かの呼び出しの後 やっと繋がった。

 


『…もしもし…』

 


え? 航平は思わず息を呑む。

受話器の向こうから聞こえてきたのは…低い男の声。


「…あの…」

『桜庭…航平君だよね?』

「え?」

『永瀬です。覚えていますか?』

「永瀬さん? え?  あの…」

『彼女…大野さん、携帯を忘れていったらしくて』

「え…」

『…打ち合わせが終わって帰ったんだけどね』

「あ、そうだったんですか」

『そのうち取りに戻って来るだろうから預かっておきます』

「あ、はい。よろしくお願いします。
 じゃあ、美月ちゃん…彼女からそちらに連絡がくるといけないから
 …もう切ります。  …… あのっ、永瀬さん!」


航平は電話を切ろうとしたが 思わず指を止め、叫ぶように永瀬を呼んた。


「…美月ちゃんと僕…  結婚することになりました」

航平はぐっと携帯を握り締め、話を続けていく。


「彼女も結婚するって言ってくれて…」


航平は次第に興奮していく自分を抑えようと胸に手を当てる。

 

『…彼女から聞きました』


「そうですか」


『おめでとう、と言うべきかな?』


「……」


『…悪いが、今の僕にはそんなことを言う気はない…』


「………」

 

航平の胸はぎゅっと掴まれたように痛くなった。


ああ、そうなんだ この人は美月ちゃんのことがまだ好きなんだ…

 

「…わかってます。
 でも、言わずにはいられなかったんです…」


『………』


「僕の美月ちゃんへの思いは負けていません。
 …もう彼女を誰にも渡しません」

 

この人だけには負けたくない…


航平は生まれて初めて抱いた感情に興奮しながら

痛いほどの緊張感で胸が締め付けられるような気がした…。

 

 

 

美月からの電話があったのは それから数時間も後のことだった。

航平はホテルの部屋のベッドに座り
窓から外の夜景に目を向けながら美月の声を聞いた。

 

『遅くなってごめんね、航平…
 …その…いろいろあって…』


「うん、美月ちゃん どこから電話してるの?」


『あ、うん 編集部の電話で掛けてるの。
 だから、その あまり長くは話せないの。
 …ごめんね …携帯をどこかに落としたみたいで…』


「え…?」

 

航平は思いを巡らせる…美月は 永瀬のところに置き忘れたと気づいてないのか

それとも…?

 

「…美月ちゃんの携帯なら 永瀬さんが預かってるよ」


『え?』


思いがけない航平の言葉を聞いたのか、受話器の向こうで美月が声を上げた。


「さっき…5時過ぎに美月ちゃんの携帯に掛けたんだ。
 …待ちきれなくて…  そしたら永瀬さんが出て…」


『…そうだったの』


「美月ちゃん、自分の携帯に掛けなかったの?
 そうすればどこに置き忘れたかわかったのに…」


『うん、そうなんだけど…ずっと忙しくて…できなくて。
 航平に連絡するのも遅くなって』


「そうだったんだ」


『うん、ごめんね 航平』


「…何だか今日は謝ってばかりいるね」


『え? そう?
 …そんなことない …ううん、そうかも。
 ごめんね、航平 …あ…』


「また言ってる…」


『やーね、わたしったら。
 うん、じゃあ、また後で…家に帰ったら電話するね』


「携帯は取りに行かないの?」


『あ、うん。…今日は遅くなりそうだから
 明日の朝…行って来るわ』


何となく元気のない美月の声が聞こえてくる。

いつもの明るく弾むような声でなく、暗く沈んだような声の美月。

何かを隠している。

何かあったに違いない。

 

だが…何も聞けない、聞いてはいけないような気がした航平は 

“じゃあ、また”と言って電話を切ることしかできなかった……。

 

 

 

編集部で、美月は受話器を置くとそのままデスクの上に突っ伏した。


「ああ、もう…わたしったら最低ーーー!」

そう叫んで頭を抱えていると、ちょうど外から戻ってきた秋山に声を掛けられた。


「何だ、美月…やっと自分のことがわかったか!」

「……」

「今度は何をやらかしたんだ?
 また仕事をサボって永瀬聡を追っかけて来たのか?」


秋山の冗談交じりの言葉に美月はムクッと体を起こし振り向いた。


「なっ、何だよ…」

「…秋山君」

「じょっ、冗談だよ美月!怒るなよ」

「…永瀬先生の担当を代わって!」

「え?」

「その代わり わたしが阿川先生を担当するから!」

「はあ?」

「編集長と阿川先生には わたしから頼んでみるから」

「何言ってるんだ」

「お願い」

「…嫌だね」

「どうして?」

「そんな勝手な事言うな。
 俺は阿川先生の担当から外れる気はない
 崇拝してるからな」

「……」

「どうしたんだよ、美月。
 お前だってあんなに張り切っていたじゃないか。
 作家 永瀬聡が復活したって喜んでいただろう?」

「そうよ。
 また先生の担当になって 飛び上がるほど嬉しかったわ。
 …でも、だめなのよ。
 二年前とは違うの。
 …わたしはもう先生の担当ではいられない」

「何があったか知らないが、公私混同するな」

「してないわ」

「…ならいい …なあ、美月」

「ん?」

「お前、この仕事 好きなんだろう?」

「好きよ」

「だったら、どんな事があっても途中で止めるなよ」

「わかってるわよ」

「美月は危なっかしい所があるけど、根性だけはあると思ってるからさ」

「…そう見える?」

「うん、図太くなったと言うか…ふてぶてしくなった」

「ひどいわね。…でも、まだまだ危なっかしいのは認めるわ」

「…でも、お前は最低な奴じゃないよ」

「え?」

「だからっ、弱音を吐かずにちゃんと仕事しろ!」

「わかってるわよ。あなたもね、ちゃんと仕事しなさいよ」

「ふん、お前に言われたくないね」

「ふふ……」


やっと笑った美月を見て、秋山は安心したように頷いた。



…そうね、このまま逃げても 何の解決にもならない… 



美月は視線を元に戻すと またデスクの受話器を取り上げ
自分の携帯の番号をプッシュした。

 

『…はい』

「あの…大野です」

『ああ…やっと掛けてきましたね』

「…すみません、携帯は明日の朝 取りに行きますので…」

『…今、編集部からですね? そちらまで届けましょうか』

「いっ、いいえ! わたしが行きますから」

『いいですよ、これから外出するつもりだったので…そのついでです』

「そんな…先生に届けてもらうなんて…」

『少しでも早くあなたに返さないと…彼が心配しますよ』

「……」

『じゃあ、そちらに着いたら電話します』

「え?あの!」


慌てる美月をよそに電話は切れた。


美月は大きなため息をついた。

 

…どうしよう…どんな顔して先生に会えばいいの?

 

 


エレベーターを降りた美月は急いで出版社のエントランスから外に出た。

オフィス街はすでに退社時間を過ぎて、辺りは人影もまばらだった。

通りを走る車も少なめで、時々ライトが緩い速さで行き交っている。

そんな中、道路脇に停めた車の傍に永瀬は静かに佇んでいた。

足早に駆け寄って来る美月に気づいた永瀬の表情は 
それまでのひんやりとした印象から 一瞬で、やわらいだものに変わる。

そんな彼を見た美月は 泣きたくなるような衝動に駆られた。


昼間の…美月の唇や首筋に押し当てられた熱く濃密な口づけの感触を
思い出して、体が震えてきそうだった。


美月は何度か瞬きするとぎこちない笑みを浮かべて永瀬の前に立った。

永瀬が携帯電話を差し出すと、美月は遠慮がちにそれを受け取った。


「…あの…すみませんでした。わざわざ届けていただいて…
 ありがとうございました」

美月は頭を下げて、そのままうつむいた。


「いえ…これはちょっとしたお詫びの気持ちです」


「え…?」


永瀬の言葉に美月は顔を上げる。


「…昼間のこと…僕が急ぎ過ぎました。
 どうやら、またあなたを困らせてしまったようです」


永瀬はそう言うと、小さく息を吐いて腕を組んだ。

そして、視線を宙に泳がせ 言葉を探しながらゆっくりと話していく。


「じわじわと攻めるはずだったのに…つい感情が高ぶってしまって…
 …まだ修行が足りませんね」


「…先生…」


「僕の担当をやめるなんて言わないですよね?」


「え?…あの…」


美月はまた違った意味で混乱してきた。

冷静で感情を表に出さない永瀬が、困惑した顔でどことなく頼りなげに見えてくる。

美月に拒絶されることを恐れているような…そんな気さえもしてくる。

それと同時に、美月の中に溜まっていたモヤモヤしていたものが
少しだけ消えていくようだった。


「…はい、これからもよろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしく」


素直な永瀬の言葉に美月は和んで思わず笑ってしまうと
永瀬は面白そうにふっと微笑んだ。

 

「…と、油断させておいて一気に攻めていくのが手なんですよ」


「先生!」


「冗談です。
 当分はおとなしくしていますから」


「え?」


「彼…桜庭君には大人げないことをしてしまったから…
 これは彼への罪滅ぼしです」


「航平と何かお話になったんですか?」


「…彼は…純粋で良い青年ですね」


「はい」


永瀬の言葉に美月は素直にうなずく。


それを見た永瀬は ほんの少しだけ首を傾げて、寂しそうに微笑んだ…。

 

 

 

 

「…そうだったの。 航平も携帯を置き忘れたのね?
 だからずっと電話できなかったんだ」

その夜、家に帰った美月は やっと航平とゆっくり話せることができ、
航平の言い訳を聞いて納得し始めていた。

美月の携帯も永瀬が届けてくれたことを知って、航平も安心したようだった。


『うん、昨夜 結衣さんの部屋に置き忘れたらしくて
 彼女が見つけてくれたんだ』


「そう…」


美月はふと思った。


航平が置き忘れた? だって、昨夜 わたしは結衣さんと航平の携帯で話したのよ

だとしたら、その後 航平は携帯を見ないままどこかに置き忘れたってことなの?

 

『結衣さんは具合が悪くて 美月ちゃんが電話くれたことも言えないまま
 寝てしまって。
 美月ちゃんに謝っておいてって言われたよ』


「うん、そう言えば何だか元気がなかったもの。
 具合が悪かったのなら仕方ないわ。
 結衣さんに気にしないでって伝えておいてね」


『うん。
 …でも、美月ちゃん 驚いたでしょ?
 僕の携帯に結衣さんが出たから… 』


「そうね。
 一瞬、航平は結衣さんと一緒に神戸に行ったのかと思った」


『心配した?』


「うん、すごく心配した。
 航平が不安になる気持ちがよくわかったわ」


『へえ、美月ちゃんもそんな風に心配してくれたんだ』


「そうよ。
 でも、信じてるから。
 航平はそんなことしないって信じられるから…大丈夫よ」


『僕も美月ちゃんのこと信じてるよ』


「…うん。 ありがとう、航平」


『…どうしたの? …ありがとう、なんて』


「ちょっとね、そう言いたくなったの」


…本当は…ごめんね…って言いたいの…

わたしには…航平を心配する資格さえないのかもしれない


目の奥がつんと痛くなって…また心がゆらゆらと小舟のように揺れる…

 


『…何だか、しおらしいね』


「え?」


『今夜の美月ちゃんは何だか可愛いね』


「…航平…」


『明後日になったら そんな美月ちゃんに会えるんだ』


「うん、待ってるからね」


『早く会いたいな』


「わたしも…会いたい …航平に会いたい…」

 
切なげな航平の声を聞き、同じ言葉を繰り返す。



…ごめんね、航平…


美月は声に出さずに謝りながら いつの間にか涙ぐんでいた……。 

 

 

 

 

 

  

 


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