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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1353411/1890652
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遠距離恋愛
「抱きしめたい」の続編。                                                           甘くて切ない三角関係に また新しいメンバーが加わって…
No 16 HIT数 6578
日付 2010/01/05 ハンドルネーム aoi32
タイトル 遠距離恋愛 -15- 小悪魔
本文





-15- 小悪魔

 


 

 

「じゃあ、今日はこれで…。
 次回は連休明けにお伺いしますね」

美月はそう言うとテーブルの上にあった原稿と携帯電話をバックに入れた。


「ご苦労様でした」

永瀬も軽く頷いてノートパソコンを閉じると ほっと一息ついたようだった。

 

…まるで何事も無かったように、永瀬は平然としていた。

一昨日の、あの…目も眩むような出来事は もしかしたら夢だったのかもしれないと
思えるほど 二人はお互いにそんな素振りを見せなかった。


だが、美月自身は 永瀬の近くにいて その逞しい腕や
やわらかそうな唇を見るだけで あの日の口づけを思い出していた。


美月の唇や首筋に触れた 永瀬の熱い唇…甘い吐息… 



未だにそんなことを思い出してしまう自分に 美月は腹立たしささえ感じていた。


もう、全て 忘れなければいけないのに…そう決心したはずなのに…

そうよ、全部忘れてしまおう…

 

美月が気を取り直して立ち上がろうとした時、インターホンが来客を告げた。


永瀬がモニターを覗くと、明るくて元気な声が聞こえてきた。


「あ、ナガセー! ジェシカデース!
 ナガセが喜ぶようなイイモノを持ってきまシタ!
 あけてクダサーイ!」


不審な顔で出迎えた永瀬を見て、ジェシカはまたこの前のように
満面の笑顔を向けた。

今日は大きな紙袋を抱えているので、永瀬に抱きつく事はできなかったが
それでもジェシカは彼の近くに擦り寄ってきた。

紙袋から見事に突き出した長いバケットが永瀬の顔に当たりそうになって
思わず彼は顔をしかめた。


「…何だ、これは」

「あ、もしかしてナガセはフォカッチャの方が良かったデスカ?
 イタリアのパンはもう食べ飽きたと思って…。
 イセコシに寄ったら美味しそうなのがあったので買ってきマシタ!」

「……」

「ニホンのデパ地下は何でもあってスゴイデスネ!
 カレンに教えてもらって行ったのデスガ…
 サルバトーのモッツァレラを売ってたのにはオドロキマシタ!
 バジルとルッコラを散らして食べましょうネ。
 あとビネガーと生ハム…ポルチーニ…
 これで美味しいパスタが作れますネ!」

「…作るって…誰が?」

「それはもちろんナガセが…あ、うそでーす!ワタシが作ります。
 マンマ直伝ですから美味しいデスネ。
 あ、みつきさんもいたんですネ?
 一緒にランチをいかがデスカ?」


それまで喋り捲っていたジェシカはやっと美月に気づいて
目を輝かせた。

「美味しいワインも持ってきたので
 一緒にのみまショ!」


「あ、いえ まだ仕事中だし…
 それに これからすぐに社に戻らないといけないので」


美月が慌てて返事をすると、永瀬は頷いた。


「その方がいいですよ。
 何しろジェシカの料理ときたら…
 食べないで済むのならそのほうがいいと思います」

「あ、ナガセったらひどいデス!
 ワタシの料理、そんなにマズくはないですよ!
 …それは、マンマの手料理には負けますケド…」

「そんなこと言って、また途中で出来ないとか言って
 人にやらせるつもりだろう」

「フフ、そうデース!
 だって、ナガセは料理も得意で…やっぱりカンペキですネ!
 …大好きデース、ナガセー  …Ti amo~!」


ジェシカは嬉しそうに笑うと永瀬の腕に両手を回して
うっとりと彼に寄り添った。


美月はドキンとした。

…ティ・アーモ  それなら知ってるわ

去年、流行った曲のタイトルだもの…


“愛してる”って意味よね?

 

美月は唇を噛んで、バッグを抱え直すと背筋を真直ぐに伸ばした。


「…では、わたしは失礼します。
 先生、次は来週の木曜日あたりにお伺いします。
 …ジェシカさん、がんばってね」


美月は精一杯、平静を装って 二人ににっこりと笑いかけた。


そして、永瀬の部屋から出ると まるで逃げ出すように足早に
エレベーターに乗った。


これ以上、二人が並んでいる姿を見たくなかった。

ストレートに永瀬への愛情を表現するジェシカに対して 素っ気ない態度で接する
永瀬だったが そんな彼もジェシカのことをどこかで認めているように思えた。

考えてみれば、永瀬とジェシカの付き合いは美月のそれよりはずっと長いはずだった。

だからこそ、ジェシカに対する永瀬の言葉遣いと態度は美月といる時よりも
親しみやすく気安い感じで 美月にはそれが羨ましい気がした。

 

お似合いの二人……


美月ははっとして顔を上げる。

 

…もしかして…わたし、嫉妬してるの?


美月は自分が信じられなかった。

 

…ばかだわ、わたしは…何を考えてるの?  

…今日は航平が帰ってくる日なのに…

 

ゆっくりと下降して行くエレベーターの中で 美月は虚ろな表情で
カウントダウンしながら点滅していくフロアーランプを見ていた……。

 

 

 

 

 

夕闇が迫る東京駅のプラットホームに 新幹線が静かに滑り込んだ。

停車した新幹線のドアがゆっくりと開いて 中から数人の乗客に混じって
航平が降り立った。

辺りを見回す視線の先に彼女はいた。

乗降口から少し離れた場所に美月が立っている。

明るいラベンダー色のツインニットとクリーム色の小花模様のフレアースカート。

すらりと美しい姿で静かに佇む美月を見て、航平は 彼女が自分の恋人なんだと
声を上げて自慢したい気持ちになった。


迎えに行くから車両ナンバーを教えて…新幹線の中で
美月からそんなメールを受け取った。

珍しい事もあるな…航平は不思議に思いながらも嬉しくて仕方がなかった。

ただ、美月に教えなくても 航平にはどんな人混みの中でも
彼女を見つけられる自信があったが…。

 

「美月ちゃん!」


航平が美月を呼ぶと、彼女はふわりと微笑んだ。


「…お帰りなさい、航平」


「ホントに迎えに来てくれたんだ!」


「うん、たまにはいいでしょ?」


「初めてだよね? 迎えに来てくれたのは」


「…そうね…」


「見送りは何度もしてくれた… えっ?…」


突然、航平が声を上げたのは 美月がいきなり抱きついてきたからだった。

美月は両手を航平の背中に回して、ぎゅっと抱きしめ
顔を彼の胸に押し当てた。


「…美月ちゃん?」

航平は驚いて美月に呼びかけるが、彼女は黙ったまま航平を抱きしめている。


「どうしたの? 美月ちゃん」


「………」


「何かあった?」


「…何も…ないわ。
 ただ…航平を抱きしめたかったの…」

弱弱しい美月の声が航平の胸の中から聞こえてきた。


「…そうなんだ」


航平はそっと美月の髪に顔を埋めて、その細い肩に腕を回して抱きしめた。

黒く艶やかな髪から甘い香りが漂ってくる。


美月は目を閉じたまま囁く。


「…会いたかった」


「僕も…会いたかった」


「…航平…」


「うん?」


「今夜は…帰りたくない」


「え…?」


「航平と…ずっと 一緒にいたいの…」


美月はそう言うと また航平をぎゅっと抱きしめた。


ホームの反対側にまた新幹線が滑り込んできた。


驚いていた航平の顔は ゆっくりと穏やかな表情に変わっていく。


航平は腕の中に包まっている美月の耳元で囁いた。

 

「…うん…今夜はずっと一緒にいようね…」

 

 

 

 

 

ホテルの部屋に入ると、いきなり美月は航平の首に手を回して
唇を塞いできた。

いつもの愛情たっぷりの笑顔も、濡れた瞳も航平に向けることなく
優しさよりも激しい感情をぶつけてくるようなキス…


…美月ちゃん  …どうした…の?


戸惑い、どこか不安げな航平が美月を見ている。


「…航平が…欲しいの…」


え…?


「今すぐ…航平が欲しいの  …いけない?」

 

キスの合間に囁く美月の言葉を聞いて 
思わず航平の唇から幸せな吐息が零れる。


やわらかな笑みを浮かべたまま首を横に振る航平を見た美月は
ゆっくりと航平の上着を脱がせ 傍にあった椅子にそれを掛けた。


同じように…航平の手で美月のニットのカーディガンも脱がされと
ほっそりと、白く滑らかな肩が現れて、思わずため息がこぼれてしまう。


美月は航平の眼鏡を外しテーブルに置くと 彼の顔を両手で包み込んだ。

航平の素肌に触れたくて、美月は彼のシャツのボタンを外していく。

するりとシャツを脱がせると、目の前にしなやかで若々しい体が現れた。

美月の細い指が 少年のようにすっとした首筋から均整の取れた綺麗な胸へ、
更に下の方へゆっくりとなぞっていく。

そして、美月の指がベルトにさしかかった時 航平の手が美月の手を
ぎゅっと握り締めた。

美月がはっとして顔を上げると悪戯っぽく微笑む航平と目が合った。


交錯する視線と絡み合う指…


二人はそのまま傾れ込むようにベッドに倒れて行った…。

 

 


薄暗い部屋の窓から煌く夜景が広がっている。

静寂の中、聞こえてくるのはシーツの擦れる音と二人の吐息だけ…

 

航平の素肌の温もりが欲しかった

眼鏡を外した優しい瞳が欲しかった

やわらかくて甘い唇が欲しかった

そして…何よりも欲しかったのは航平の気持ちだった


愛されている…航平に愛されている …

航平の身も心も全て、美月に向けられていると確かめたかった…

 


…航平も…欲しい?  …わたしが欲しい?


欲しいよ …一日中、美月ちゃんのことを考えてる…


本当に? …本当にわたしのことだけ考えてる?

 


返事をする代わりに、航平は美月の唇を塞いでくる。

ぴったりと唇を重ね合わせ、やわらかな舌が入り込んでくる。

熱っぽく、しっとりと絡み合うと 身も心も溶けてしまいそうになる。

 


考えてるよ…僕が欲しいのは美月ちゃんだけ


わたしも…わたしも欲しいのは航平だけよ…

 


航平の…切ないほど優しい愛撫と甘く濃密なキスは
次第に美月の体を熱く駆り立てていく。


航平に抱かれる度に 優しくて幸せな気持ちになる


航平のキスは美月を甘く熱く震えさせる

 


航平…  航平… うわ言のように名前を呼ぶ。

 

他のことを考える暇もないくらい わたしを愛して


誰もこの胸の中に入り込めないように 航平でいっぱいにして…


もっとキスして、抱きしめて …気が遠くなるくらい強く抱いて…

 

熱く激しい思いに駆られるように、美月は狂おしいほどに航平を求めていった……。

 

 

 

息を弾ませながら 汗ばんだ額を航平の肩に乗せると
航平は髪を撫でつけてくれた。

愛おしそうに何度も何度も優しく撫でて、髪に指を入れて撫で付けると
額の汗を拭い、そっと唇を押し当てる。


ふふ… くすぐったい感触に 美月は口元をほころばせた。


ほんの少し前の激情が まるで引き潮のように穏やかに静まっていく。

航平の甘く優しい愛の行為は 天使の羽に包まれているように
美月の体と心をふんわりと軽く幸福にする。

 

「…大丈夫? 美月ちゃん」


「…うん…」


「今日は激しかったから、疲れたでしょ?」

からかうような航平の声が頭の上で響く。


「…幻滅した?」

今になって恥ずかしさがこみ上げてきた美月は
航平の胸に顔を押し付けるように隠した。


「幻滅? どうして?」

航平は声を上げると 体を下にずらして美月の顔を覗き込んだ。

 

いつものように美月の大きな黒い瞳がしっとりと潤んでいる。

優しく穏やかに航平を見つめる美月の瞳だった。


航平はほっとして、嬉しくなって美月とおでこをぴったりと合わせた。

美月の長い睫毛が恥ずかしそうにぱちぱちと震える。

 

「…だって…わたし…まるでケダモノみたいだったでしょ?」


「え???」


美月にはまるで似つかわしくない言葉が その口から出てきたので
航平はびっくりして声を上げてしまった。

そして、その後には笑いがこみ上げてきた。

肩も震えて、航平の胸に乗せている美月の頬にも笑い声が伝わってくる。


「何よ、そんなに笑わなくたって…」

美月は恥ずかしさで顔が熱くなっていく。


「だって…美月ちゃんがケダモノなんて…ありえないでしょ?
 何でそんなことを…」


「だって…」


「…そうだな…美月ちゃんは可愛くて情熱的な小悪魔…かな」


「小悪魔?」

美月は不思議そうな顔で航平を見て首を傾げる。

「そんなこと言われたの初めてだけど…」

 

…そうだよ、美月ちゃん

いつも明るくて元気なのに、時々しおらしく…頼りなげに見えるから
守ってあげたくなる
 
そうかと思うと、今日みたいに大胆になって僕を惑わせる  

 

「わたしが小悪魔なら、航平はやっぱり天使ね…」


そう言って、ちょっと悲しげに微笑む美月を見て
思わず航平は美月の白い肩を抱き寄せて腕の中に包み込んだ。

驚くほど滑らかで 豊かな美月の胸の膨らみが航平の体に触れて
この世にこんなにやわらかなものは他にはないと思う。


また体中が燃えるように熱くなってきた。


「…航平…」

甘く切なげな美月の声が、航平を誘ってくる。


もう一度、きつく抱きしめると 美月のしなやかな腕が航平の背中に伸びてきた。

細い指が航平の肌をゆっくりとなぞっていく。

 

愛してる…その言葉を美月の唇に伝えると そのまま口づける。

愛してるわ…美月の甘い吐息がそう囁いている。

 

………


ふと気づくと、美月の瞳から涙が溢れ出し すーっと白い頬を伝わっていた。

 


…どうして泣いてるの?


…わからないの …でも…


でも?


たぶん …きっと 幸せだから… 

 

 

美月の言葉が航平の体を温かくやわらかく包み込んでいく…

 


その時 航平は 何の疑いもなく 

この穏やかな幸せが ずっと永遠に続いていくのだと信じていた……。

 

 

 

  

 

 

 


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