ブロコリ サイトマップ | ご利用ガイド | 会員登録 | メルマガ登録 | 有料会員のご案内 | ログイン
トップ ニュース コンテンツ ショッピング サークル ブログ マイページ
aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1353700/1890941
開設サークル数: 1238
[お知らせ] 更新のお知らせ
容量 : 30M/100M
メンバー Total :297
Today : 0
書き込み Total : 957
Today : 0
遠距離恋愛
「抱きしめたい」の続編。                                                           甘くて切ない三角関係に また新しいメンバーが加わって…
No 17 HIT数 6406
日付 2010/01/05 ハンドルネーム aoi32
タイトル 遠距離恋愛 -16- 微熱
本文





-16- 微熱

 

 

 

その日、航平と一緒に朝帰りした翌日の夜 美月は熱を出した。

心配する母の美沙子に美月は、多分 風邪だから一晩寝れば大丈夫よ、と
言って とりあえず風邪薬を飲んで早めに休んだ。

ところが、夜中になって熱が徐々に上がっていき、美月は苦しくなって
目を覚ました。

体中にぐっしょりと汗を掻いていたので タオルを取ろうと体を起こしたとたん
くらっと目眩がして激しい頭痛が襲ってきた。

美月は力が抜けたようにまたベッドに倒れこんだ。

そして 額に手を当てて目を閉じ、苦しげに息を吐いた。

 

「…天罰だわ…」


擦れて力のない声が部屋の中に響き渡った。


…どうしても航平に言えなかった…あのこと

結果的にわたしは航平を騙してる…


でも、それよりももっと酷いのは…

時々、ふとした瞬間に永瀬先生のことを思い出していること

 

昨日からずっと一緒だったわたし達…

航平とキスをして、抱き合って、体を重ねている時には
他のことは何も考えられなかった


でも、一人でいる時の ふとした合間に

わたしの脳裏にはあの人の面影がぼんやりと浮んでくる…


ばかなわたし…最低なわたし…

わたしは…優しい航平を裏切っている…


たとえ最初は衝動的だったとしても…

あの時のあの人とのキスは…本気だった…

 

胸が痛くなるほどの後悔と深い罪悪感…

そして自分への嫌悪感が美月を包む。

 

「…うっ……」


虚ろな目から涙が溢れ出して 頬を伝わり落ちていく。


身体の芯はたぎるほど熱いのに、肌は悪寒で震え始める。

激しい頭痛で頭が重くて動かす事もできない。

 

色々な感情が入り混じって、熱に浮かされて

ついに、美月は嗚咽を上げて泣き出していた……。

 

 

 

 

 

朝の光が窓から差し込んできて、部屋の中にはやわらかな空気が漂っていた。


朦朧とした意識の中で、美月は優しく髪を撫でられるのを感じていた。

美月ちゃん…と囁くような声が聞こえてくる。

髪の中に差し入れられた指は力強くて優しい。

そのうちに額にひんやりとした手が当てられて、美月はうっすらと目を開ける。

ぼんやりとした視界の中に航平の顔が見えた。

ひどく心配そうな表情を浮かべて美月を見ている。


「…こう…へい?」


「うん、…美月ちゃん、大丈夫?」


航平の長い指が美月の頬を撫でる。

やわらかく滑るような感触が心地良かった。


「昨夜、熱出したんだって? …大丈夫?」


「…航平…」


「僕がずっと美月ちゃんを連れ回したからだね…ごめん、美月ちゃん」


「ちがう…わ  …航平のせいじゃ…ない…」


掠れた声でやっと答える美月を見て、航平はとても悲しそうな表情を浮かべた。

 

…ほんとうに…違うのよ…


そう言おうとしても声が出ない


…わたしが悪いの…全部 わたしが…


唇が微かに動いたが、力が出なくてすぐに閉じてしまう。


薄れていく意識の中で 自分の手が大きな手のひらに包まれるのを感じた。


温かくてやわらかくて…それは美月がこの世でいちばんよく知っている

航平の手だった……。

 

 

 


その日、二度目に美月の部屋を訪れたのは午後になってからだった。

静かに部屋のドアを開けると、美月はぼんやりとベッドの中に座っていた。

淡いピンクのパジャマを着て、髪を片側でシュシュで束ねた美月は
航平を見とめると儚げに微笑んだ。


「…航平…来てくれたの」


「うん」


航平はベッドの傍まで来ると、少し屈んで美月の額に手をあてがった。

航平の指の下で美月の長い睫毛がパチパチと震える。


「…まだ微熱がある…」


航平は美月の額に当てた手で そのまま自分の額に触った。

そして、もう一度 美月の額に触れた。


「うん、7度6分ってとこかな…」


真剣に言う航平を見て、美月はくすっと笑ってしまった。


「…その6分…って、どこでわかるの?」


「勘だよ、毎日 実験ばかりしてるからね。
 温度と湿度には敏感なんだ」

 

美月はやわらかく笑みを浮かべながら航平を見ている。

微熱があるせいか、いつもより儚げで頼りなげで 肌が透き通るように白い。

大きな黒い瞳は澄んだ泉のように潤んでいる。

…思わず、航平は見とれてしまった。


「…航平?」


航平が何も言わずにぼんやりしてたので、美月が声をかけると 航平は
はっとして、手に持っていた花束を差し出した。

薄茶色のクラフト紙にラッピングされた白く可憐なデイジー…
空色のリボンがひらひらと揺れている。


「…わたしに?」


「うん」


航平はそう言うと照れたように笑った。


「ありがとう…すごく綺麗ね」


美月は嬉しそうに笑うと花に顔を近づけた。


「美月ちゃんに似合うと思って…」


「え…?」

 

…わたし…こんなに可愛くないわ…


美月は航平に聞こえないような小さな声で呟くと
そのままうつむいて黙ってしまった。


「美月ちゃん、苦しいの?」

航平の心配そうな声が聞こえてきて、美月は顔を上げる。


「ううん、大丈夫よ。
 それより…ごめんね、せっかくの休みなのに一緒に出かけられなくて…
 わたしは大丈夫だから、誰かと遊びに行けば?
 久しぶりに お友達とかに会いたいでしょ?」


申し訳なさそうに言う美月を見て、航平はベッドに腰掛けると
美月の肩を抱き寄せる。


「いいんだ、友達にはいつでも会えるし…
 それに、こうして美月ちゃんと一緒にいられるから…
 どこにも行かなくても、美月ちゃんを独り占めできるから嬉しい」


「…航平…」


美月はたまらなくなって手を伸ばすと航平に抱きついた。


「美月ちゃん?」


「ごめんね、航平 …ごめんね…」


「何を謝ってるの?」


「…今までの事…いろいろ…」


「何だか…最近の美月ちゃんは弱気だね…」


「…うん」


「どうしたの?」


「航平に嫌われたくないの」


「ばかだな…美月ちゃんは…」


「航平…」


「僕が美月ちゃんを嫌いになるなんて…
 絶対ないって、いつも言ってるでしょ?」


「う…ん」


「珍しく病気になって気が弱くなったのかな」


航平は胸の中にいる美月の髪を何度も撫でた。

やわらかくて弱弱しさえ感じるほどの細い体。
 

ふと、航平の頭を過ぎる微かな不安…


なぜだろう…美月ちゃんはすっぽりと胸の中におさまっているのに…

何も心配することなどないのに…


…いつか美月ちゃんはこの腕の中をすり抜けていってしまう…


何の根拠もないのに そんなことを考えている自分に

航平は呆れて笑っていた……。

 

 

 

 

「あら、航平君 もう帰るの?」


二階から降りてきた航平に、美月の母 美沙子が声をかけた。


「あ、はい。 …美月ちゃん、何だか疲れたみたいだから」


「そう? でも、これでまたゆっくり寝れば、明日には元気になるわね」

美沙子は安心したように航平に笑いかけた。

「航平君、ありがとね。 あなたが来てくれると美月は元気になるから助かるわ」


「いえ …美月ちゃん、何かあったんですか?」


「それがね、あの子何も言わないのよ。
 ここ最近、元気がなくて ぼんやりしてることがあるの」


「そうなんですか」


「何だか様子が変なのよね…
 昨日なんて、夜中に熱が上がってしまって…
 心配になって部屋を覗いたら、泣きじゃくってるの。
 まるで子供みたいに声を上げて泣いてて…驚いちゃったわ」


「え…」


「熱にうなされて苦しかったのかも…
 でも、今朝にはだいぶ熱も下がったから…良かったわ」

美沙子はため息をついた。

「航平君と喧嘩したわけでもないし、きっと仕事で何かあったのね。
 でも大丈夫よ、あの子 立ち直りが早いから。
 こんな時、のん気でお気楽な性格だと助かるわよね」


美沙子が明るく言ったので、航平もつられて笑った。

美月のその性格は母親譲りだと、航平は思う。


だが、のん気で明るい性格の美月が、何か思い詰めているような感じがして
航平にはそれがかえって心配だった。


美沙子にそのことは悟られないように、航平は
また夜に来ることを告げてにっこり笑った。

 

 

 

 

「美月、大丈夫?」


「麻美? 来てくれたの」


美月がベッドから起きて本を読んでいると、ひょっこりと麻美が顔を出した。


「だって、美月が寝込んでるなんて高校以来じゃない?
 おとなしくしてるか見に来たのよ。
 少しは元気になった?」


「あ、うん。 もう熱も下がったし…大丈夫よ」


「それは良かったわ。
 それでね、お見舞いはお花にしようかと思ったけど…
 ああ、良かった フルーツにして正解だったわね」


麻美はそう言うと ベッドの傍のテーブルに置いてあるガラスの花瓶に目を向けた。


「…可愛い花ね。デイジーかな?
 持ってきたのは航平君でしょ?」


「うん…」


「優しいな~、彼は。
 でも、航平君から見た美月のイメージって、こんな感じなのかしら?
 …可愛すぎるような気もする。
 そうね、美月はどちらかと言うと 棘のあるバラって感じ?
 ああでも、バラじゃ美し過ぎるかしら~」


「………」


「やだっ、美月ったら 何で言い返さないの?」


いつもは、麻美の毒舌にすぐに反応してくる美月が黙っているので
麻美は不審そうに美月の顔を覗き込んだ。


「そうか、まだ本調子じゃないのね。
 ごめんね、美月 わたし、喋りすぎだわね」


「ううん、…麻美のお喋りを聞いてると少し元気になる」


「…どうしたの?  また何かあった?」


「う…ん」


本当は誰にも話すべきではないと思っていた。

でも、一人で抱えているのが辛くて、重くて、耐え切れなくなった美月は
気づくと ここ数日間の出来事を話し始めていた……。

 

 

 


「…これは、知恵熱みたいなものだったのね」

麻美はそう言うと納得したように頷いた。


「知恵熱って子供が出すんでしょ?」

美月はベッドに座ったまま麻美を見た。


「そう、美月はまだ子供なのよ。
 今まで体験したことのない複雑な三角関係に陥って…
 うぶな美月はどうしていいのかわからなくて 頭の中は爆発寸前!
 オロオロして、ストレスもたまってそれで熱が出たのよ」


「………」


「今まで何の悩みもなく、お気楽に過ごしてきた美月には
 その嵐をうまくかわせなかったのね…」


「失礼ね、わたしだって悩みくらいあったし
 全てお気楽に過ごしてきたわけじゃないわ」


不満げに言う美月をちらっと見た麻美は ふふんと笑った。


「そういうことにしてあげてもいいわ。
 …それで? これからどうするの?」

「え?」


「…永瀬先生とキスしたこと…
 美月ったら、かなり思い詰めているみたいだけど?」


「…うん…  航平に…悪くて…
 黙ってるのが辛くて…どうしようもないの」


「まさか、話すつもり?」


「………」


「やめておきなさい。 …ちょっとした気の迷いなんでしょ?
 この世には 言わなくていいことがたくさんあるんだから」


「でも、航平に黙ってるのが悪くて…」


「航平君に悪いからじゃなく、美月が黙ってるのが辛いんでしょ?
 自分が楽になりたいからって、それは違うんじゃない?
 あんたが悪いことしたんだから、その罰は自分だけ受けるべきよ」


「麻美…」


「あー、もう! しっかりしなさいよ、美月!
 航平君と結婚するって決めたんでしょ?
 だったら迷わないでよ!」


「そうね… …そうよね…」


「来月の結婚式の時、わたしが何の迷いもなく
 美月にブーケトスできるように スッキリしてよ!」


「…うん …うん、そうなんだけど…」


「…ちょっと、泣いてるの? 
 どうしちゃったの? もうっ、美月らしくないってば!」


「う…ん、わかってるんだけど…
 どうしてかな…最近、涙もろくて…変よね…やだ…」


「ばかね、美月は…」


はらはらと涙をこぼす美月を見て、つい麻美ももらい泣きをしそうになるが
それを振り払うように美月の肩をぽんぽんと叩いた。

美月はうつむいて、声を出せないまま うんうん、と頷いてばかりいる。


涙で目の奥が痛くなってくる。興奮してまた熱が出てきそうだった。 
 


航平のことを考えると苦しくて…

そしてまた 永瀬のことを思うと寂しさで胸がいっぱいになる。

 


航平が傍にいるだけで まるでやわらかな羽に包まれているように
 
温かくて穏やかな気持ちになるの…

 

永瀬先生と一緒にいると 緊張して、落ち着かなくて

でも…どこか寂しげな彼をそっと抱きしめたくなるの…

 

…わたしは …どうしたらいいの…?

 


大きな瞳からまた涙が溢れ出し、白い頬を伝わって落ちていく。

美月はベッドの上で膝を抱えたまま顔を埋めると
肩を小刻みに震わせて泣き出していた……。

 

 

 


「…あら、航平君 どうしたの?」


美月の部屋に行ったとばかり思っていた航平が階段を降りてきたので
美沙子は不思議そうに言った。


「あ、…あの、今 麻美さんと話しこんでるみたいなので
 また、明日…来ます…」


航平は力のない声でそう言うと 悲しげに微笑んだ……。

 

 

 


 


前の書き込み 遠距離恋愛 -17- 不実
次の書き込み 遠距離恋愛 -15- 小悪魔
 
 
 

IMX