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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1354007/1891248
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遠距離恋愛
「抱きしめたい」の続編。                                                           甘くて切ない三角関係に また新しいメンバーが加わって…
No 18 HIT数 6074
日付 2010/01/05 ハンドルネーム aoi32
タイトル 遠距離恋愛 -17- 不実
本文





-17- 不実

 


 
「…航平! こっちよ!」


午後の日差しの中で、美月は溢れるような笑顔を浮かべながら
航平の手を引いて軽やかに歩いて行く。

元麻布の高台にひっそりと佇む教会の前まで来ると
二人は立ち止まり、同時に顔を見合わせて微笑んだ。

手を繋いだまま ゆっくりと階段を上り やわらかなイタリアンイエローの
教会の中に入っていくと そこは 全てを心安らかに包んでくれるような
礼拝堂や美しいステンドグラスが二人を迎えてくれた。

ひっそりとした静寂の中、一際目を引くクリスタルの十字架や天使のモニュメントが
荘厳な雰囲気を醸し出していた。

 

「…ね、素敵な教会でしょ?」

そう言った美月の顔は眩しいほど輝いている。


「うん、そうだね」

航平もそれに負けないくらいの笑顔を美月に向ける。


「前に夏目先生のお供で取材に来た事があって…
 こんな教会で結婚式を挙げたいなって思ってたの」


二日前には 熱を出して寝込んでいたとは思えないほど元気になった美月は
嬉しそうに航平に笑いかけた。


「…若い女の子みたいに 式場のことではしゃぐのも可笑しいと思うかもしれないけど
 お父さんとバージンロードを歩きたいなって、ずっと思ってて…」


「そうなんだ…」

美月の思いがけない話を聞いて 航平は目を丸くし、そして感心した。


「…昔、子供の頃ね 従姉の結婚式でそのシーンを見て
 …叔父さんがすごく嬉しそうなのに泣きそうな顔してて
 じ~んとしちゃったのよね」


「美月ちゃん…」


「だからね、わたしも いつかそうしたいって思ってたの。
 …や~ね、こんなこと言って…子供っぽいわね!」

ちょっと照れたように笑い、恥ずかしそうにうつむく美月を見て
そんなことない、と航平は美月を抱きしめた。


「ちょっ、ちょっと航平! こんな所で やめなさいってば…」


「嫌だ」


「ダメよ、航平ったら…」


「…だって…美月ちゃんが可愛すぎるから…」


「…航平…」


それまでジタバタしていた美月は その言葉を聞くと
諦めたようにおとなしくなった。

しょうがない子ね…しなやかに 美月の手が航平の背中に回る。

そして、航平の首筋に頬を寄せて うっとりと目を閉じる。

航平は美月をしっかりと抱きしめて耳元で囁く。


「…キスしてもいい?」


「…だめ…」


「どうして?」


「ここでキスするのは 結婚式の時よ…」


「…残念だな…」


あからさまに、がっかりした航平の声を聞いて
美月はクスクス笑い出した。

美月の涼やかな笑い声が 耳元で心地良く響いて航平も笑みを浮かべる。


…もう大丈夫  何も不安になることはないんだ…


だって…美月ちゃんは以前と変わらず元気だし、こんなに楽しそうなんだから…

 


「…航平…」

航平の腕の中でじっとしていた美月がぼそっと呟く。


「うん?」


「…お腹空いちゃったから、何か食べに行かない?」


美月の言葉に思わず航平は吹き出してしまった。


「うん、行こうか」


「デイジーのお礼に航平の好きなものをご馳走するわ。
 何がいい?」


「う~ん、そうだな」


「お寿司?それとも焼肉? 中華とかフレンチでも…
 何でもいいわよ」


「…美月ちゃんがいい」


「え?」


「いちばん好きなものは美月ちゃんだから」


「あのね、好きなものをご馳走するって言ってるの…
 ……航平が食べたいもの…  ……
 …え?  えー???」


「だから、美月ちゃん」


「ばっ、ばか! 神聖な教会で何てこと言うの!」
 

航平が言ってることを やっと理解した美月は真っ赤になって叫んだ。


「何でもいいって言ったじゃないか」


航平は笑いながら両手を挙げて降参する。

もうっ!と手を振り上げた美月の細い手首を掴んで引き寄せると
航平は顔を近づけて、素早く美月の唇にチュッと音を立ててキスをした。


「なっ…」


そして、驚いた美月が騒ぐ前に もう一度その唇を塞ぐ。


必死に抵抗して航平から離れようとするが、やはり身動きできない体勢の美月は

すぐに諦めて 航平と甘いキスを重ねていく。

 

…神様に叱られるかもしれないわ…


大丈夫だよ 僕が全て悪いって懺悔するから


航平ったら


美月ちゃん 大好きだよ


わたしも…大好きよ

 

航平の肩越しに十字架が見える。


美月は深く祈るような気持ちで目を閉じると

しなやかに航平の背中に手を回し、そっと抱きしめた。

 

 

 


赤と黒を基調とした店内に入り、カウンター席に座ると
美月は「おまかせコース」とスパークリングワインを頼んだ。


「…ここの串揚げ、すごく美味しいのよ。
 みんな味が違うから、たくさん食べても飽きないし…」


そう言って航平を見ると、航平はにこやかに笑みを浮かべる。


目の前で しそで巻いた海老、豚ヒレ肉、しいたけに玉ねぎを串で刺し
揚げてくれるのを見ながら 二人はワイングラスを軽く合わせた。

グラスの中で淡い金色のワインがキラキラと輝く。
 
美月が それを一口飲んで「さっぱりしてて美味しい」と呟いた後、
きめ細かな泡立ちをぼんやり見ていると、航平が美月をじっと
見ていることに気づいた。

 

「どうかした?」


「いや…何だかまだ信じられなくて」


「何が?」


「美月ちゃんと僕が結婚すること」


「え、どうして?」


「今でも時々思うんだ。これは夢に違いないって…」


「ばかね、航平は。
 今日だって 教会とか式場とか、いくつも見てきたじゃない?」


「…うん」


「…来年の春 航平が京都から戻ったら結婚しようね」


「僕は 今すぐにしたいな」


「航平…」


「早く一緒に暮らしたいよ」


「うん、わたしも航平と一緒に……」


美月も答えようとしたその時、カウンターの上に料理が運ばれてきた。。

熱々の串揚げから香ばしい香りがして食欲を誘う。


「あ、ほら 串揚げがきたわ。
 好きでしょ?アスパラ  …揚げたてだから気をつけて食べてね」


明るく言う美月を見て、航平はうん、と頷き 静かに笑った。
 

 

「…航平はほんとに美味しそうに食べるね」


次々と出てくる串揚げを食べまくる航平を 美月は感心したように見つめている。

ふわり…と女の子みたいに優しそうな顔をしてるのに、その食べ方は豪快で
それでいて品があって、見ているだけで微笑んでしまう。


「みんな味が違うからかな? 美味しいよ」


「ふふ、そんなふうに美味しそうに食べる航平が好きよ」


「うん、知ってる」


「…わたしも 航平に美味しいって言ってもらえるような料理を作れるように
 しないとね」


「…美月ちゃんが?」


「あら、何? その不安げな顔は…
 これでもね、最近は休みの日はお料理してるのよ。
 でも、手際が悪いから夕食作りに2時間はかかるけどね」


「…僕も美月ちゃんの手料理食べたいな」


「わかったわ、この休暇中に作ってみようかな。
 でも、あまり期待しないで…まずくてもちゃんと食べてね。
 …航平? ちょっとじっとしてて…… 」


美月がテーブルの上の紙ナプキンをを取り 航平の唇の端についてるソースを
拭い取ってあげると 航平はありがとう、と言ってきゅっと嬉しそうに笑った。


「………」


幸せそうな天使の微笑みに 美月はとても優しい気持ちになって
ふふっと笑いながら航平の方に体を寄せた。

 

…やっぱり、航平のことがとても好きだわ…

可愛くて、愛おしくて、大切にしてあげたいと思う

わたしは…航平と結婚すれば きっと幸せになれる…

 
穏やかでゆったりとした愛情を体中に感じて 美月は幸福だった。 

 





 

「…みつきサン?」

突然、名前を呼ばれて 美月は振り向いた。


「ジェシカさん!」

「やっぱり、みつきサンでしたネー!」


ジェシカは眩いばかりの笑顔を向けると、美月の方に近づいて来た。

明るいクリーム色のパンツスーツをさり気なく着こなし、胸元には綺麗な
パステルカラーのスカーフが結ばれている。


やっぱり目立つわよね…美月がジェシカの華やかな雰囲気にため息をついていると
彼女は振り返って右手を上げて、ひらひらと振った。


「…あ、ナガセー! こっちデス!」


ジェシカのはしゃぐような大声が店内に響き渡る中、永瀬がゆっくりと姿を現した。


思わず立ち上がってしまった美月は、やはり驚いた顔をしている永瀬と目が合った。


そして二人は同時に戸惑ったような笑顔を浮かべた。

 

 


「今日はナガセをムリヤリ連れ出して来たんデス。
 アンジェリカ…カレンのオネエサンなんですケド このお店を教えてもらって。
 そのおかげで、みつきサンのフィアンセにも会えマシタ!
 …コウヘイさんはとってもキュートな男性デスネ!
 会えてうれしいデス! ね?ナガセ?」


ジェシカは早口で捲し立てると、またいつものように永瀬の腕に両手を回して
嬉しそうに彼に同意を求めるように見上げた。


「…会うのは久し振りだね。元気でしたか?」

永瀬はふっと笑うと航平を見た。


「はい、先日は電話で失礼しました」

航平もまっすぐに永瀬を見つめ返す。


二人はどちらも視線を外すことなく、じっとお互いを見つめている。


「オー、二人は知り合いデシタカ?
 いいオトコに囲まれてみつきサンとワタシはラッキーですネ!」


「………」


そこにいる三人の複雑な事情などまったく知らないジェシカは
やたら明るくはしゃいでいる。

美月はジェシカのおかげで何とか平静を保てているが、今すぐにでも
その場を立ち去りたい気持ちだった。


「みつきサン、テーブル席に移って一緒に飲みまセンカ?
 ナガセとワタシもデートの途中で、これから食事するところナンデス」


「…ジェシカ、その“も”っていうのは何だ?
 日本語は正しく使いなさい」
 
永瀬は眉をしかめて細かい部分をついてくる。


「え? ワタシ、何か間違ってマシタカ?
 ハーフなのでニホンゴ、よくわかりまセーン!」

ジェシカはとぼけて大袈裟に両手を上げる。

そんなジェシカを見て、永瀬は呆れて何も言わないままふっと笑った。。


「デモ、そうですネー。
 みつきサンたちもデート中デスカラ、ジャマしてはいけまセンネ!
 フフ、ワタシもナガセと二人だけのほうがいいデスネ。
 じゃあ、みつきサンたちも 楽しんでクダサイネ」

ジェシカは早口で言うと、また永瀬の腕に手を回して奥のテーブルの方へ
歩き出した。

永瀬は何か言おうと口を開きかけるが、結局 何も言わずに
そのまま美月たちに背を向けた。


ひんやりと…周りの温度が下がったような気がした。


美月は目を伏せると、また前を向いてワイングラスを手に取った。

手が震えていた……。

航平に悟られないようにグラスをそっと置くと、美月は航平に笑いかけた。


「…航平、もっと食べる? 何か追加しようか?」


「いや、もう食べられないよ」


「じゃあ、もう出る?」


「うん」


美月と航平は互いに顔を見合わせ どことなくぎこちなく笑った。

 

 

夜の六本木の街を並んで歩いていた。

夜風がゆるやかに吹いて街路樹の葉をさわさわと揺らしている。

街は煌びやかなイルミネーションで彩られ、休日の歩道を歩く人々の足取りも軽い。


「…風が気持ちいいね」


航平の言葉に返事する代わりに、美月は手を繋いできた。

手のひらを合わせ、指を絡ませると美月の手はひんやりと冷たかった。


「…素敵な人でしょ?ジェシカさんって…」


「うん? そうだね」


「永瀬先生と並んでると本当にお似合いなの。
 ジェシカさんは先生のことが好きで…先生も楽しそうなのよ」


「……」


「航平…」


「うん?」


「…わたしたち… 明日、結婚しない?」


「え?」


突然の言葉に航平は足を止める。

手を繋いだまま、美月は航平を見上げる。…思い詰めたような目だった。


「…やっぱり、来年まで待てないわ。
 だから… 明日、家族だけで集まって…そのまま婚姻届を出して…
 ね?そうしよう!」


「…美月ちゃん…」


「そして、休暇が終わったら そのまま航平と一緒に京都へ行くわ」


「美月ちゃん、何言ってる…の?」


「仕事は辞めて…そう、仕事なんてもう辞める。
 ここから離れて 航平と一緒に暮らすの」


「美月ちゃん」


「ね? そうしよう?」


美月はすがるような瞳を向けて、航平の腕をぎゅっと掴んだ。

航平はそんな美月をじっと見つめ、困惑し、そして悲しげに笑う。


「…だめだよ、美月ちゃん」


「え?」


「仕事を辞める…なんて そんな軽々しく言ったら…
 それに…前から言ってるでしょ?
 美月ちゃんがつく嘘は すぐわかるって…」


「嘘じゃないわ…」


「…僕とすぐに結婚したいのは…永瀬さんのことを忘れたいから…
 そうだよね?」


「え……」


「ここから離れたいのは…永瀬さんに会わなくてすむから…」


「…航平…」


「本当は…永瀬さんを忘れられないくせに…
 美月ちゃんは あの人に会いたいんだよね?」


「違う…違うわ、そうじゃないの」


「…それでも… それでも、僕は良かったんだ。
 美月ちゃんが永瀬さんを忘れられないのなら…それでもいいと思ってた。
 いつかまた僕だけを見てくれるって信じてたから。
 今までだってずっと待ってたし…だから また待てばいいんだって…
 そんなこと、大したことじゃないって…」


「航平…やめて…そんなこと言わないで…」


「でも、美月ちゃんが無理するのは嫌なんだ。
 自分に嘘ついて、苦しんで…泣いてる美月ちゃんなんて見たくないし
 無理して笑ってる美月ちゃんはもっと嫌なんだ!」


「航平…航平… 違うのよ…」

美月の目から涙が溢れ出していた。


「…僕は…美月ちゃんが不幸になるのがいちばん辛いよ…」


「航平…」

たまらなくなって、美月は航平に抱きついた。

肩を震わせて 必死で航平にしがみつくように泣いている。


「…ごめん…ね でも、でも…違うの…!
 航平のことが好きなの…だから結婚してって言ったの…
 …航平のこと愛してるのよ…」


「…美月ちゃん…」


「だから…だめだなんて言わないで…
 わたしが結婚のことを軽々しく言ってるように見えるの?
 …それとも…わたしのこと嫌いになった…?」


「…ばかだな 美月ちゃんは」


「……」


「僕が美月ちゃんのこと嫌いになるなんて絶対にない…って
 何度も言ったでしょ?」
 

「航平……」


「美月ちゃんのこと…好きだよ…
 今までも… 今も …これからも…ずっと好きだよ」


美月を抱きしめている航平の腕の力がぐっと強くなる。

 

「…でも…僕が傍にいると美月ちゃんは無理して笑おうとする。
 だから… …今は 傍にいられない……」

 


航平は声を震わせながら言うと美月の体から腕を解いた。


だめ…… 美月は泣き腫らした目で 必死に首を振って航平を引き止める。


航平は悲しそうに美月をじっと見つめ、今にも泣き出しそうな顔で笑った。


そして、ゆっくりと後退りすると、くるっと背を向けてそのまま走り去った……。

 

 

 


 





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