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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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遠距離恋愛
「抱きしめたい」の続編。                                                           甘くて切ない三角関係に また新しいメンバーが加わって…
No 19 HIT数 5775
日付 2010/01/05 ハンドルネーム aoi32
タイトル 遠距離恋愛 -18- 迷路
本文




-18- 迷路

 


 

 

航平がいなくなってから一週間が過ぎた。


あの夜、航平は家に帰らず 翌朝、荷物を取りに来て
そのまま京都に戻ってしまった。

…美月には何も告げずに…


航平の休暇はあと半分は残っていたにもかかわらず、京都に
戻ってしまったことは 航平の家族はもちろん美月の両親をも困惑させた。


母の美沙子が何を聞いても、美月はただ首を横に振り
自分が全て悪いのだと言うだけだった。


そして、美月の両親をもっと驚かせたのは 美月もしばらく友人の麻美の
マンションに行くと言って家を出て行ったことだった。


美月は頑なにその理由も言うことなく 大丈夫だから安心して、とだけ
連絡してきた。


航平が京都に戻ったことと、美月が初めて家を出たこと…


二人の家族は 美月と航平の間に何かあったに違いないと心配したが
落ち着くまで様子を見よう、ということで話がついた。

 

 

 


「…だって…わたしがあの家にいたら
 航平は気兼ねして自分の家に帰って来れないじゃない…」


麻美のマンションの部屋で 美月はそう言うと膝を抱えてうつむいた。


「わたしと顔を合わせたくないのよ、航平は」


美月は沈んだ顔で呟いた。


「…そうかなー。
 あの航平君が美月に会いたくないなんて、ありえないと思うけど」


麻美は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、美月に渡した。

 

「でも、電話しても留守電になってるし、メールも返ってこないのよ」


「あらら…美月ったら、航平君に嫌われちゃったのね。
 ま、自業自得ってとこね」


「そうよ、わたしが悪いのよ。航平の両親にも合わせる顔がないわ
 結婚のこと、すごく喜んでくれたのに…ああ、もう! また自己嫌悪!」


「それも家を出た理由の一つなのね。
 こんな時、お隣同士っていうのは辛いわね。
 …それで、美月は京都に行かないの?」


「…行かない…というか 行けないの。
 航平はわたしの傍にいられないって言ったんだもの」


「…美月…」


「…航平に拒絶されるのが怖いの。
 今までそんなこと一度もなかったから…
 航平はいつだって優しくて、わたしのこと何でも受け止めてくれて
 包容力があって…年下なのにわたしよりずっと大人だったの…

 だから…これ以上 突き放されたら、わたしきっと立ち直れない…
 航平が好きなの。 だから嫌われたくない」


「…それが本音? …美月の正直な気持ちなのね?」


「ばかよね、わたし…気づくのが遅いって」


「そんなことないわ。
 美月、すぐに航平君のところにいって 自分の気持ちを伝えてきたら?」


「ううん、…今はまだ駄目なの。
 わたしがもっとしっかりしなくちゃ…もっと大人になって
 航平に負けないくらい強くならないと…
 そうしないと、わたし 堂々と航平に会えない」
 
 
美月はそこまで話すとため息をついて麻美の方を見た。 


「…なんて偉そうなこと言ってるけど
 本当はね、不安でたまらないの。
 航平に会いたいけど その勇気がなくて…
 …航平はわたしのことを もう許してくれないかもしれない」


「美月」


「わたしが熱出して 麻美がお見舞いに来てくれたことがあったでしょ?
 あの時のわたしたちの話を航平は聞いてしまったみたい」


「え!」


「この前、お母さんが聞いてきたの。
 今回のことと何か関係あるんじゃないかって…」


「うわあ、航平君 あのことを知ってしまったのね?
 …ショックだったろうね。…かわいそうに…」


「航平がまた後で来るって言ってたのに来なかったから
 おかしいと思ってたの」


「そうよね、あの航平君が美月の様子を見に来ないなんて
 ありえないもの」


「だからね…フラフラしてるわたしは航平に見捨てられた」


「そうよ、この浮気者! 美月なんて嫌われて当然よ!」


「うん…」


また何も言い返せずに しゅんと落ち込んでしまった美月を見て
麻美は まったくこの子は…とぼやき深いため息をついた。

美月の生まれ持った性格、お調子者で軽くて…でも素直で裏表がなく
一緒にいて気を使わない気楽さが周囲から愛される理由なのだろう。


高校の時からの付き合いで、喧嘩もよくしたけど なぜか憎めないのよね…

 

「…しょうがないな、美月は」


「麻美ーー!」


「わかったから、しばらくここにいなさい」


「…いいの?」


「でも、わたしは来月の初めには新居に引っ越すから
 その後は家に戻りなさいよ?
 航平君だって、美月が家を出たなんて知ったら
 きっと心配するから」

 

麻美の言葉に一応、美月は頷くが もしかしたら次の部屋を探して 
このまま一人で暮らしていくべきかもしれないと思っていた。

 


 

 

 


―― 京都K大学 ナノエレクトロニクス研究室

 


白衣を着た航平がたくさんのファイルを抱えて戻って来た。

研究室の前に佇んでいる結衣に気づいて、航平は足を止める。


「結衣さん」


「こんにちは、航平さん」


結衣はにっこりと笑って、鍵を開けて研究室に入る航平の後に続いた。


「教授はもうすぐ戻ってらっしゃるはずだよ」


航平はデスクの上にファイルを置くと、上にあった一冊を取って
パラパラとページを捲った。


「ううん、今日は航平さんを誘いに来たの。
 これからどこか行きませんか?
 あ、見たい映画もあるし…その後はお食事して…
 白川の南通りにイタリアンレストランがオープンして
 すごく美味しいんですって!」


航平は顔を上げて結衣を見た。


「あ、見たい映画はね、切ない恋愛ものなんだけど
 航平さんはコメディーの方がいいかしら?
 お食事も航平さんが好きなものを食べに行きましょう!」


早口で捲し立てる結衣を見て、航平は力なく笑い返すと

「…悪いけど、今日は気が進まないんだ」と申し訳なさそうに言った。


「そんなこと言わないで行きましょう!」

結衣は慌てて航平の前に回りこむと必死な顔で見上げた。


「…ごめん、結衣さん」

航平は静かに目を逸らすとファイルを閉じて背を向けた。


「どうして? 何かあったんですか?
 最近の航平さん、変だわ!」


「そんなことないよ」


「連休明けから何だか元気ないし…東京で何かあったんでしょう?」


「何もないよ」


「うそ! 隠さないで。
 もしかして、また美月さんのことなんでしょう?」


「だから、何もないって…!!!」


つい大声で叫んでしまった航平に、結衣は驚いてびくっと体を震わせた。

いつも穏やかで優しい航平のそんな姿を見たのは初めてだった。


「…航平さん…」

ショックで呆然としている結衣を見て、航平は我に返った。


「…ごめ…ん、つい…」

航平はくぐもった声で謝るとまた視線を外しうつむいた。

結衣よりももっと傷ついたような横顔が痛々しくて、結衣は思わず叫ぶ。


「…わたし、平気です!
 それで航平さんの怒りが少しでも治まるのなら…わたしが代わりに受け止めます」


「結衣さん」


「…航平さんのことが好きだから…航平さんの力になりたいの…」


「………」


「ホントは気づいてるんでしょう?わたしの気持ち…
 気づいてて知らない振りをしてるんですよね?」


「結衣さん」


「わたしがあなたのことを 桜庭さん、じゃなくて 航平さんって呼ぶようになったのも
 ちゃんと気づいてるんでしょう?」
 

結衣の一途な告白を航平は黙って聞いている。 


「…神戸のホテルでキスした時もわたしは本気だったの。
 挨拶なんかじゃないわ。
 航平さんが好きだったからキスしたの!」


意志の強そうな視線で航平をじっと見つめ、結衣は自分の思いを激しくぶつけてくる。

航平は息を呑んでそんな結衣を見ている。

 


「…結衣、もう止めなさい」


その時、研究室のドアが開いて 結衣の父で教授の相沢が入って来た。


「そんな大声を出して…廊下にいても聞こえてきたよ」


「教授…」
「パパ!」

航平と結衣は同時に声を上げる。


「…神戸でそんな事があったとは…
 まったく、お前には呆れて何も言えない」


「パパ…」


「桜庭君、君もだ。なぜ、私に黙ってたんだ?」


いつもと違って険しい表情を浮かべた相沢が航平に問い質す。


「娘が一方的にしたのだということは察しがつくが…
 君のほうにもどこかに隙があったんじゃないのかね?」


相沢に言われて航平ははっとし…小さく頷いた。


「…そうかもしれません。
 僕の考えが足りなかったのだと…
 申し訳ありません」


航平はそう謝罪すると頭を下げた。


「違うわ! 航平さんは何も悪くない!わたしが勝手にしただけよ。
 航平さんが謝ることはないの。わたしが一方的に好きになっただけ!」


結衣は慌てて相沢の前に立ち、必死に弁解する。


「黙りなさい、結衣。
 お前のそんな態度が 桜庭君を困らせてるってことがわからないのか?
 このままでは彼の立場が悪くなってしまうかもしれないよ」


「え……」


「わかったら、結衣はもう帰りなさい。
 …それから、もうここに来るのは止めなさい」


「パパ」


「私の娘だということで甘やかし過ぎたようだ。
 他の研究員にも迷惑をかけてしまった」


「嫌よ!」


「結衣」


「ひどいわ、そんな言い方するなんて!
 パパなんて嫌いよ!」


「結衣」


「パパはいつだってわたしより研究の方が大事なのよね。
 だから大切な研究員に近づくなってことなんでしょう?」


「落ち着きなさい、結衣。
 わたしはそんなこと言ってないよ」


「わたし…航平さんのこと諦めないから!
 パパの言う事なんて聞かない。
 優しい航平さんのことを傷つける…あの人のことも認めない…」


結衣は目にいっぱい涙をためながら叫ぶと部屋から出て行った。

 

「結衣さん、待って!」


航平は慌てて後を追おうとしたが、相沢に止められる。


「いいんだ、放っておきなさい。
 少し頭を冷やして考えればわかってくれるだろう」


「でも、教授」


「いいんだよ、桜庭君。
 …それより、さっきはすまなかったね。
 つい、きつく言ってしまって…」


「いえ、僕のほうこそ申し訳ありませんでした。
 考えてみれば、僕が軽率でした」


「いや、君の性格からすると娘にきつく言えなかったのだろう」


「……」


「ただ…優しさも度合いが過ぎると残酷になることもある…」


「教授…」


「思い込みの激しい娘が勘違いしないように
 これからは冷たく突き放してほしい。
 …君のその優しさと何でも受け入れる寛容さは 君が思う人にだけ
 向ければいいんだよ」


「……」


「これは大きなお世話だったかな?
 …こんなこと言わなくても 君の婚約者はわかってるはずだな」
 

相沢は目を細めながらそう言うと、明るく笑い出した。


航平は黙ったまま首を傾げ、少しだけ悲しげに微笑んだ……。

 

 

 

夕方から雨が降り出していた。

マンションに帰った航平はカーテンを開けて外を眺めた。

雨粒が窓に吹きつけ、雫となってすべり落ちていく。


航平は携帯電話を取り出し画面を見た。

数件の美月からの電話とメールの着信記録があった。


美月と連絡を取らなくなってから何日経っただろう。

航平から返信しない、なんて…今までにはおよそ考えられなかったことだった。

いつだって航平は美月一筋で、彼女のためなら何をするのも苦痛ではなかった。

美月のことなら何でも受け止める自信があった。

 


―― 君のその優しさと何でも受け入れる寛容さは 

    君が思う人にだけ向ければいいんだよ


さっきの相沢の言葉を思い出した。

 

…胸が痛んだ。


違うんです、教授

僕はそんなに優しくないし、寛容でもない

 

―― 美月ちゃんが苦しむ顔を見たくない…だから、今は傍にいられない…

 

あの夜、僕はそう言って

まるで美月ちゃんから逃げるように京都に戻った

 

…そんなのは嘘だ

本当は…僕が苦しいから…辛いから…

美月ちゃんの心の中にあの人がいることが どうしても許せなくて

なぜ、僕だけを見てくれないのかって…辛くて、苦しくて

そんな美月ちゃんが憎くて…彼女に酷い事をしてしまうんじゃないかって


だから…怖かった


美月ちゃんのことを何でも受け入れるつもりだった

ずっと信じていけるはずだったのに


…結局、それができなくて 美月ちゃんから逃げてしまった…


僕は…弱くて卑怯で、情けない男だ…

 

航平は ずっと握り締めていた携帯電話をまた開いた。

ふたつのキーを押せば美月に繋がる…

たったそれだけのことなのに、航平の指も心も迷っている。

一度、深呼吸をした後 ついにキーを押そうとした時だった。

部屋のチャイムが鳴った。

 

ドアを開けると、結衣が立っていた。

しっとりと雨に濡れた髪と ひどく思い詰めたような顔…


「…結衣さん?」


航平が驚いて声を掛けると、結衣はなだれ込むように
彼の胸に体ごとぶつかるように抱きついてきた。


「結衣さん…」


「…お願い…」


「え?」


「わたしを拒まないで…」


「……」


「わたしを嫌いにならないで…
 航平さんが好きなの…  諦めることなんてできない」

 


子犬のように航平の胸に身を寄せる結衣の声も体も震えている。


まっすぐに自分の思いをぶつけてくる結衣…

それはまるで航平の美月への一途な思いと同じだった。

 

だから航平は… 

そんな結衣を冷たく突き放すことはできなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 


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