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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1353556/1890797
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遠距離恋愛
「抱きしめたい」の続編。                                                           甘くて切ない三角関係に また新しいメンバーが加わって…
No 20 HIT数 5521
日付 2010/01/05 ハンドルネーム aoi32
タイトル 遠距離恋愛 -19- 交錯
本文




-19- 交錯

 

 

 


胸の中で震えている小さな体を押し退けることはできなかった。

航平は結衣の肩をそっと手で押さえたまま静かに言った。


「濡れたままだと風邪ひくから…中に入って」


航平の言葉に顔を上げた結衣の頬には 雨か涙かわからない透明な雫が
光っている。

航平は結衣の体を抱きかかえるようにして部屋の中に導いた。

 


「これを飲んで…温まるから」


ソファに座って、頭にタオルをかぶっていた結衣は
航平が差し出したマグカップを受け取ると、ゆっくりと一口飲んだ。

ミルクたっぷりのココアは甘くてほっとするような温かさだった。

冷え切っていた体も心もゆっくりとその温もりに包まれていく…

そんな感じだった。

しばらくぼんやりしていると 興奮していた結衣も次第に落ち着いてきて
やっと部屋の中を見回す余裕も出てきた。


初めて見る航平の部屋だった。

きちんと整理されて 無駄がなくシンプルなインテリア。

全体が温かみのあるグレーで統一されていて、航平のやわらかな雰囲気と
ぴったり合っているような気がした。

そして、やはり見つけてしまった。

窓際のデスクの上にあるノートパソコンの隣に置かれているフォトスタンド。

その中で微笑んでいるのが 彼の恋人の美月だということはすぐにわかった。

他にも何か美月を思い出させるような物があるのかもしれなかった。

だが、結衣はあえて探すことはせず、すぐに目を逸らし まるで何も
見なかったように平静を装ったまま航平を見た。

 

「あの…昼間はごめんなさい。
 わたし…航平さんに迷惑をかけていたんですね。
 父にも酷いことを言われて不愉快だったでしょう?」


結衣はそう言うとうつむいた。


「父はいつもそうなんです。
 穏やかで心が広いように見えるけど、本当は全てが自分の思い通りに
 ならないと気がすまない人なんです。
 航平さんのこともわたしのことも、少しでも反抗するようなことがあれば
 容赦なく断ち切ってしまうんだわ、きっと」


結衣が声を震わせながら父親への不満を露わにしたので
航平は驚いて彼女の隣に座った。


「結衣さん、教授はそんな人ではないと思うよ」


「いえ、そういう人なんです」


「あの時、教授が言ったことは 父親として心配だったから…
 大事な娘を思って言ったことで、僕はそれが当然だと思うし
 軽はずみな行動を取った僕にも責任があると思ってる」


「………」


「それに、あの後 教授はすぐに僕に謝ってくださったんだ。
 教授は君のことをすごく心配してた…
 …僕の気持ちを…教授は知ってるから…」


「…航平さんが 美月さん以外の人を受け入れるはずがないってことですか?」


「結衣さん」


「どうしてですか?
 …航平さん、いつも美月さんのことで悩んでるのに…
 あの人、航平さんのことを傷つけたんでしょ?
 それなのに…どうして美月さんなの?
 どうして、わたしじゃだめなの?
 わたしなら…あなたのことを絶対傷つけたりしないのに…」
 

自分の思いをストレートにぶつけてくる結衣の言葉を 航平は黙って聞いている。

そして、少し考えた後 言葉を選びながら話し始めた。


「…どうしてかな…
 僕もよく考えるんだ。  …どうして彼女なんだろうって」


航平の瞳は遥か遠くを見ている。


「結衣さんに言うのも変だけど、
 多分、僕が思ってるほど彼女は僕のことを思ってないし
 時々よそ見なんかして、本当に呆れちゃうんだけど…
 それでも、どうしても嫌いになれない…」


「………」


「子供の頃からずっと片思いで…もしかしたら今でも
 そうなのかもしれないって思うことがある…
 でも…好きなんだ、すごく…
 理由なんてわからないけど…やっぱり美月ちゃん…彼女だけなんだ…」


「…航平さん…」


「…ごめん、こんなこと言って  …聞きたくないよね」


悲しそうに見つめる航平を見て、結衣は黙ったまま首を振った。

 

「いいんです。
 多分、そんなことを言われるような気がしてたから…」


「結衣さん」


「航平さんは美月さんのこと以外には関心ないみたいだから…
 …あ、それじゃ もしかして……」


「え?」


「…もしかして、わたしの気持ちにも気づいてなかった?」


「あ……」


「嘘…」


「…ごめん」


「やだ、もう… 航平さんったら、鈍感すぎる…」


「ごめん、結衣さん」


「信じられない…」


結衣はそう呟くと呆れたようにクスクスと笑い出した。


「…やだ、もう……」


笑い声は止まらないのに、なぜか涙がこぼれてくる。


結衣は航平にわからないようにタオルで顔を覆うと涙をそっと拭った。
 
 

「…本当にごめん…」


航平は結衣の頭を優しく撫でながら静かに言った。

 




 


航平のマンションから外に出る頃には もうすでに雨は上がっていた。

辺りはすっかり暗くなり、深呼吸すると雨の匂いがした。

遅くなったから送っていくと言って、結衣の自宅に連絡までしてくれた航平に
そんなふうに優しいから誤解してしまうのよ、と結衣は憎まれ口をたたいたが
内心はやはり嬉しかった。


「…あ~あ、今度こそ本当に失恋かしら…」


結衣がぼそっと呟いていると、後から出てきた航平が
何か言った?と笑いかけた。


「い~え、何でもありません。
 …あ、そうだ! ねえ、航平さん、お願いがあるの!」


何か楽しい事を思いついたのか、結衣は航平の方を振り返り弾んだ声で言った。


「え、何?」


「…もう一度だけ、キスしてもいいですか?」


「え?」


「最後だから…いいでしょ?」


「え? あの……」


航平はかなり困惑して、固まってしまった。


「…それは…やっぱり…」


何と答えていいのかわからないというような顔で焦っている航平を見て
結衣はさも可笑しそうに笑い出した。


「冗談よ、ちょっとからかってみただけ」

結衣は明るい声で言うと航平の腕に手を回してぐっと寄り添った。

「あまりに憎らしいから 航平さんを困らせてみたかったの」

 

「キスは諦めるから、その代わり 腕を組んでもいいでしょ?」


結衣は嬉しそうに航平の腕に頬を寄せると目を閉じた。

小柄な結衣は航平にぶら下がっているようにも見えてしまう。


「あ~あ、この身長差は理想的だったんだけど…
 長身でイケメンで頭も良くて…こんなに優しい人なんて他にいないもの…」


うっとりと目を閉じたまま、寂しさの入り混じった表情で結衣は呟いた。

 

 

 


腕を組んで寄り添いながら歩いていく二人の後姿をぼんやりと見送っていた。

美月は身動きが取れず、言葉も失っていた。


航平のマンションから結衣が出て来た時、咄嗟に美月は近くの塀に身を隠した。

…何も隠れる事はないのに…

航平に会いたくて、会って謝りたくて、勇気を振り絞って京都まで来たのに…

航平を裏切ってしまった後ろめたさが美月をそうさせてしまった。


美月はよろめきながらマンションに近づくと、エントランスの外壁に手を当てて
うな垂れたままその場にしゃがみ込んだ。

 

―― もう一度だけ、キスしてもいいですか

 

確かに結衣はそう言った。


もう一度?  

それって、前にもキスしたことがあるってことよね…

嘘よね?

だって、そんなこと聞いたこともないし

航平が黙ってるわけないもの

でも…  航平は否定しなかった…?

……………

                                        

「…なーんだ、航平だって同じような事してるんじゃない…」

美月は弱弱しく呟いた。

可笑しさがこみ上げてきて、思わず美月は笑ってしまった。


「それなのに、わたしは一人で悩んで…ばかみたい…」

 


航平のばかーーー!!!!!

 

美月は大声で叫びたい気持ちを抑えながら立ち上がった。


そして、航平と結衣が一緒に消えて行った逆の方向へ駆け出していた。                                                                           

 

 

 


「美月、京都駅から高速夜行バスが出てるんだ。
 夜中に京都を出て 翌日の朝、東京駅に着くんだ」


美月はその夜行バスに乗って、窓から外を眺めていた。


「…秋山君の情報 早速、役に立ったわよ……」


美月はぼんやりと呟くとまた笑ってしまった。

数日前、編集部のデスクでノートパソコンの画面を見ながら
同僚の秋山が言っていた。


「京都から7時間半かあ。疲れそうだけど、なかなか便利だな。
 新幹線の最終に間に合わなくても帰れる。
 どうだ、美月 俺って気が利くだろ?
 だから、そんなうっとおしい顔をしてないで さっさと行って来いよ。
 …なぜ、わかったのかって? それは…美月とは長い付き合いだからな」

 

そうね…だけど…

深夜、一人で高速バスに乗る女…ってどうなの?

どこか訳ありって感じじゃない? …ま、実際そうなんだけど


どうしようもない気持ちをごまかして、茶化している自分が
情けなくて滑稽だった。


「…航平のばか、大嫌い!」


美月は自分のことは棚のずっと高い所に上げて呟く。


美月ちゃんのことばかり考えてる…そう言ったくせに

他の人とキスするなんて、嘘つきだわ!

 

数時間前、仕事を終えた美月は思い切って新幹線に乗った。


航平に拒まれたらどうしようという不安な思いを必死で抑えて
くじけそうな気持ちを奮い立たせて京都まで行ったのに…


きっと航平は驚いて そして呆れて でも、許してくれると思っていた


ばかだな、美月ちゃんは…そう言って 困ったように笑って…

でも、抱きしめてくれると思っていたの

 

「…甘かったのね、わたしは…」


そこで美月は初めて気がつく。


わたしが航平のキスのことで こんなにショックなんだから

航平も同じように、ううん もっとショックだったのよね…


美月は深いため息をつくとガラス窓にこつんと頭をぶつけた。


複雑な美月の思いを一緒に乗せて バスはゆるやかに揺れながら 

深夜の高速道路を走り続けた……。

 

 

 

翌朝、東京駅に着き 麻美のマンションに戻ったとたん
美月は疲れ果てて 床の上に力が抜けたように座り込んでしまった。

麻美が慌てて駆け寄ってきて美月の傍に屈みこんだ。


「美月、どうしたの?
 京都に行ったんじゃないの???」


「行ったわよ」


「じゃあ、どうして?」


「…航平が他の人とキスしてた(…のを知った)」


「え?」


「そして、その子と一緒にマンションから出てきた(…しかも夜遅くに)」


「え?」


「…浮気してたのよ、航平は…」


「まさか、嘘でしょ?あの航平君がそんなこと…」


「この目ではっきり見たもの」


「何かの間違いよ。航平君にちゃんと確かめたの?」


「…だって、二人で仲良さそうに夜の街に消えて行っちゃったもの」


「何で追いかけないのよ!」


「そんなことできないわ」


「どうしてよ?」


「嫉妬して取り乱してるところなんて見せたくない」


「ばかね、今さら格好つけてどうするのよ!」


「これ以上、惨めになりたくない」


「ばかじゃないの、美月は!
 どうしようもないプライドだけ守って、大切な航平君を失くしてもいいの?」


「そうよ! ばかなのよ、わたしは! 航平に嫌われても当然なのよ!
 …だから、もう…やめる!」


「やめるって…」


「もう結婚なんてしない!
 航平と結婚するのはやめるの!」


「美月!」


驚く麻美を後目に美月は立ち上がると、早を出て行こうと歩き出した。


「…ごめん、麻美。
 何だかすごく疲れて…これ以上は話したくないの。
 シャワー浴びて寝るから…」


美月は背を向けたままそう言うと浴室のドアを開けた。

 

 

 

 


少し前までは初夏の青空が眩しかったのに、いつの間にか灰色のヴェールが
空を覆うように薄い雲が広がっていた。

さわさわと木の葉が揺れる公園のベンチに座った美月は 
ぼんやりと曇り空を見上げた。


あれから、ついに航平からも電話がかかってきたが、今度は
美月の方から拒否するようになった。

メールも返信することなく、完全に連絡を断ち切ってしまった。

 

「ばかじゃないの、美月は…
 意地張ってないで電話に出なさいよ!
 このままだとますますこじれて修復できなくなるわよ!」

怒りの混じった顔で麻美が呆れたように言った。


…わかってるわ…

でも、わたしにだってプライドがあるの

それが どんなにつまらない事だとわかっていても…


美月は深くため息をつくとうつむいた。




 

「…大野さん?」


突然、声をかけられて美月ははっとして顔を上げた。


「こんな所で、何してるんですか?」


ジョギングの途中なのか 白いトレーニングウェアを着て
息を弾ませた永瀬が美月を見下ろしていた。


「先生!」

美月は慌てて立ち上がった。


「確か、打ち合わせの時間は10時からでは?」


「はい、そうです!
 あの…来るのが早過ぎたので、ここで時間をつぶそうと…」


「それならいいんです。
 僕が時間を間違えたのかと思いました」


永瀬はそう言うと安心したように微笑んだ。


「…そんな…先生が間違えるなんて…」


美月は沈んだ声で呟くとうつむいた。


「…何かありましたか?」


「先生…」


「最近、元気がないようだし…
 そんなあなたを見てると心配だな…」


「………」

 

思いがけない永瀬の言葉に 美月ははっとして顔を上げる。


眼鏡の奥の永瀬の優しくて穏やかな眼差しが 美月の注がれている。


そんな永瀬のやわらかな気持ちを感じた美月は 張り詰めていた糸がプツンと
切れたように その場で思わず、泣き出していた……。











 

 

 

 


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