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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1353659/1890900
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遠距離恋愛
「抱きしめたい」の続編。                                                           甘くて切ない三角関係に また新しいメンバーが加わって…
No 21 HIT数 5350
日付 2010/01/05 ハンドルネーム aoi32
タイトル 遠距離恋愛 -20- 恋心
本文



-20- 恋心

 

 


 

それまで人目を気にすることなく泣きじゃくっていた美月は
やっと落ち着きを取り戻してきたのか、頬に光る涙をハンカチで拭うと
ベンチで隣に座っている永瀬をそっと見た。

永瀬は黙ったまま 美月が泣き止むのを待っていた。


「…あの…先生…」


美月はハンカチをぎゅっと握り締めると 決まり悪そうにぼそっと言った。

恥ずかしくて、そのままどこかに消えたい気持ちだった。


「…大丈夫ですか?」

永瀬は顔だけ美月の方に向けると静かに訊いた。


「はい…すみませんでした」


「もう気が済みましたか?」


「はい、何だかすっきりしました」


「それは良かった」


「はい」


「じゃあ、そろそろ行きますか?」


「え?」


「打ち合わせの時間でしょう?」


「あの、先生」


「はい?」


「…何も聞かないんですか?」


「聞いて欲しいですか?」


「え、あの…」


「…多分、僕にとっては あまり聞きたくない内容だと思うので
 やめておきます」


「先生…」


「ただ…ひとつだけ、いいですか?」


「はい」


「あなたにとっていちばん大切なことを見つけてください」


「え?」


「自分に嘘をつかないで、今までのあなたがそうだったように
 自分に素直になって…
 あなたが不幸だと辛いですから…」


「先生…」


「僕の言いたいことはそれだけです」


「…はい…」


美月は頷くと永瀬を見た。

今まで永瀬が美月に注いできた情熱的な視線は影を潜め、代わりに
穏やかでやわらかな眼差しが美月を静かに包み込む。

 

…どうして…?  目の奥がつんと熱くなる…。

 

―― 僕は美月ちゃんが不幸になるのがいちばん辛いよ…

 


以前にも同じ言葉を聞いた。

航平も永瀬も美月のことを深く思っているのが伝わってくる。


どうして二人は…こんなふうに迷ってばかりのどうしようもないわたしを
大切に思ってくれるのだろう…

つまらないプライドも捨てられずに意地を張って、周りの人を傷つけて…

本当なら非難されても仕方がないことをしてきたのに…

 

 

「…ありがとう…ございます」


美月は涙がこぼれそうなのを我慢して、声を震わせながら言うと

永瀬は黙ったまま寂しげに微笑んだだけだった……。

 

 

 


6月の晴れ渡ったある日、美月の友人 麻美の結婚式が行われた。

花嫁の控え室で 純白のウェディングドレスを着てゆったりと座っている
麻美を見て、美月は感嘆の声を上げた。


「麻美ー、すごく綺麗よ! おめでとう!」


「ふふ、ありがと。次は美月の番ね」

麻美はにっこり笑うと美月を見上げた。

純白のウェディングヴェールが揺れている。


「…どうかな、わたしは…一生、無理かも…」


「何言ってるの。 
 今日、航平君に会ったら ちゃんと話をするのよ」


「え? だって、航平は来ないんじゃ…
 欠席の返事が来たって…」


「来なかったら、美月を失うわよって 脅かしてやったの」


「え?」


「意地張ってないで、美月から謝っちゃいなさい。
 誰が見たって美月の方が悪いんだから!
 そうすれば、航平君のキスのことは誤解で やっぱり彼は
 美月一筋なんだから すぐに仲直りできるはずよ!」


「航平に聞いたの?」


「そうよ、詳しくは聞いてないけどね。
 でも、わたしは 美月のために涙ぐましいほど尽くしてきた航平君を
 ずっと見てきたの。
 だから、彼は美月を裏切るようなことはしないって信じてる」


「麻美…」


「本当は美月だってわかってるんでしょ?」


「…うん」


「美月と航平君の間には他の人にはわからない絆みたいなものが
 あるような気がする」


「麻美……」
 

「そろそろ来るはずだから、迎えに行って来なさい」


「う…ん、ありがと 麻美!」


美月は明るい声で言うと足早に部屋を出て行った。


「まったく、手のかかる二人ね…」


麻美はため息とともに、呆れたように笑った。

 

 


花嫁の控え室を出て、招待客の待合室に行く途中のロビーで
美月ははっとして足を止めた。


そこには一人で佇んでいる航平がいた。


後姿で顔は見えなかったが、すらりと伸びた背筋が清清しく綺麗で
美月には それがすぐに航平だとわかった。


美月が言葉を失ったまま、背中を見つめていると
何か気配を感じたのか航平がゆっくりと振り向いた。


すぐに美月を見とめた航平の顔に どこかぎこちない中にも
甘やかな懐かしさの入り混じった笑みが浮かぶ。


それを見た瞬間、美月の胸がドキンと高鳴り 息が止まりそうになった。


初めて見るフォーマルスーツ姿の航平は 長身で端正な顔立ちの彼には
ぴったりと似合ってて 洗練されたその姿はひどく大人びて見えた。


美月は航平に対して初めて抱いた感情に戸惑い、息苦しさで胸が痛くなった。


美月はその場から一歩も動けなかった。

 


ピンクベージュのフェミニンなドレスに淡いグレーのボレロを重ね
艶やかな髪を綺麗にまとめて、いつも以上に華やかで美しい美月が
佇んだまま航平の方を見ていた。


ずっと会わなかった日々の間に 美月は少し翳りを帯びて、艶やかに
綺麗になったような気がした。


美月から離れて、京都に戻ってから今日まで ずっと美月のことを
考えていた。


会いたくてたまらなかった美月がすぐそこにいる。 


美月ちゃん! …思わず航平は足早に歩き出した。

 


「…航平…」

やっと声が出て、最初に出た言葉は航平の名前だった。


「美月ちゃん」

もう一度、航平も美月を呼ぶ。

 

どうしても一歩を踏み出せない美月の代わりに、航平は美月の前に現れた。


そして…二人は どちらからともなく手を差し伸べると 静かに抱き合った……。

 

 

 


結婚式の披露宴の後、二次会はホテルの近くにある
カフェバーで行われ、新郎新婦の同僚や友人達が集まっていた。


麻美たちをひやかす賑やかなグループから離れ、美月と航平は
バーカウンターに並んで座っていた。

二人の前には 瑞々しいグリーンのライムを添えたカクテルと
綺麗なオレンジのカクテルが並んでいる。

 

「…まさか、今日 航平に会えるとは思ってなかった…」


美月はそう言うとカシスオレンジのグラスにそっと唇を寄せた。

甘くフルーティーな香りが広がって、躊躇う美月に優しい勇気を
与えてくれるような気がした。


「…うん…本当は来ないつもりだったんだけど
 麻美さんから電話をもらって…」


航平は美月の顔を見ないままうつむいた。


「麻美からの電話なら出るのね…」


美月はちらっと航平を見ながら呟いた。


「え? あ…それは…」


思わず口ごもってしまった航平を見て、美月はくすっと笑った。


「いいのよ…わたしだって航平からの電話に出なかったもの…」


「僕のこと…怒ってる?」


「……」


「結衣さんとのことは誤解なんだ。
 …その、つい眠ってしまった僕も悪いんだけど…
 本当に一瞬の出来事で…」


「…もしかして、神戸に行った時のこと?
 結衣さんの具合が悪くなって航平が看病したことがあったわ…
 その時に 寝てる間に唇を奪われたってこと?」


「…うん」


「もう、航平ったら…何て無防備なの?
 大体、結衣さんの部屋で寝ちゃうなんて信じられないわ…」


「…ごめん」


「…なんて、わたしには航平を責める資格がないけど…」


「美月ちゃん」


「ごめんね、航平。
 …航平のこと、いっぱい傷つけて…嫌な思いさせて…
 わたし、謝るから…謝ってすむことじゃないけど
 今のわたしには謝るしか出来なくて…」


「………」


「わたし、もう揺れたりしない。
 しっかりするから…だから、許して欲しいの」


「…美月ちゃん… 僕…美月ちゃんと離れていた間
 ずっと考えてたんだ…」


「え…」


「もしかしたら、美月ちゃんは今でも僕のことを弟のように…家族のように
 思ってるんじゃないかって…」


「そんなこと…」


「美月ちゃんは僕のことを愛してるって何度も言ってくれたけど
 きっとそれは違うんだって…美月ちゃんが勘違いしてるんじゃないかって」


「何言ってるの…」


「美月ちゃんは僕のことを好きだって言ってくれる…
 でも…恋してるのは永瀬さんなんだよね…」


「違う…違うわ、航平…」


「美月ちゃん…」


「…今日ね… 久しぶりに航平に会って…
 その時ね…胸がきゅっと掴まれたように痛くなって
 ドキドキして…すごく熱くなったの」


美月はそう言うと自分の胸を押さえた。


「…まるで初恋の人に会った時みたいに胸が苦しくなって
 息が止まりそうだった…」


「………」


「その時、思ったの。
 わたし…恋してるんだなって…。
 航平のことが好きで、大好きで…切なくなるくらい恋してるんだなって…」


「美月ちゃん…」


「航平は弟なんかじゃないわ。
 航平がいなくなったら寂しくて生きていけない…
 毎日、航平の声を聞かないと眠れない…
 航平が一緒じゃないと幸せになれない…」


「…本当に…?」


「うん…」


「それが美月ちゃんの…」


「そうよ、これがわたしの本当の気持ち…」


航平は信じられないような顔で美月を見つめている。


美月もゆっくりと見つめ返し、恥ずかしそうに笑った。


「…やだ… 何だかすごい告白をしてしまった…」


そう言っている美月の大きな瞳から涙が零れ落ちた。


「やだ、もう… 最近、泣いてばかりで…」


美月は慌ててうつむくと、頬の涙を指で拭った。


「…美月ちゃん!」


突然、航平は美月の手首を掴むと、そのままスツールから立ち上がった。


「え?」


涙で目を潤ませた美月が驚いて航平を見た。


「行こう、美月ちゃん」


「行こう…ってどこに?」


「二人きりになれる所…」


「え?」


「そうしないと もう我慢できないんだ」


「我慢できないって…」


「だから…行こう!」


航平は美月の手を引っ張ると、そのまま足早に店内を通り抜けていく。


「がんばるのよ、航平君!」


背中越しに麻美の歓声が聞こえた。


「あ、麻美ーーー!」


航平に引きずられるように連れて行かれる美月を見て
麻美は笑いながらひらひらと手を振った。 
 
 
 
 

夜の街を二人は手を繋いだまま駆け抜けていく。

 

待って 航平 そんなに速く走れない!

パンプスの踵が高くて

ドレスの裾が邪魔をして…

だから、待って…  ねえ、航平ったら!

 

大丈夫だよ、美月ちゃん!

僕について来て…

ちゃんと手を繋いでるから…

…もう、二度と離さないから!

 

前を走る航平の背中に羽が生えてるように見えた。


…天使?  …航平はやっぱり天使なの?

どんなことがあっても わたしを優しく受け止めてくれるの?

 

体が軽くなってふわふわと飛んでいけそうな気がした。

航平と一緒なら この夜空も飛べるかもしれない


月に乗って…星を数えて… 

 

…大好きだよ 美月ちゃん…

 

ずっと聞きたかった……それは航平の魔法の言葉…


そして わたしは また恋に落ちる…

 

 

 

  

「…美月ちゃん」


ホテルの部屋のベッドの中で眠りこけている美月の白い肩を揺する。


「う…ん」


「朝だよ、起きて」


「ん…」


「今日は仕事でしょ? 早く起きないと遅刻するよ」


「!!!」


美月は飛び起きると、慌てて周りを見渡した。


「そうだった! え? 今、何時?」


「7時過ぎたよ」


「…なーんだ、まだ大丈夫…」


「でも、一度帰って 着替えるんでしょ?」


「あー! そうだった! 大変、間に合わない???」


「………」


「航平? どうかした?」


「いや、いい眺めだな…と思って…」


航平はくすくす笑いながら斜め下方向を見ている。


「え??? きゃあ!!!」

自分が何も身に着けていないことに やっと気づいた美月は 
慌てて裸の胸をシーツで隠すと 顔を真っ赤にして航平を見上げた。

 

「今さら恥ずかしがらなくても…」


「そんなに見ないで…」


「もう遅いよ」


航平はにっこり笑うと、シーツを掴んでいる美月の両手を取って胸から離した。

はらり…とシーツが落ちて、美月の胸が露わになる。


「こっ、こうへい…」


ますます恥らう美月の体を抱き寄せ、航平はそっと唇を重ねる。


「だめよ 航平…」


「何が?」


「遅刻しちゃう…」


「大丈夫だよ…」


「何が大丈夫な…」


美月の言葉が続かないのは、また前のように航平がその唇を塞いだからだ。

航平とキスをしながら、美月はその日のスケジュールを思い浮かべる。


えっと…今朝は編集会議はないから…

午前中に夏目先生の所に行って…  その後は…

 

…何とかなりそう…  


自分に都合の良い結論を出した美月は ふふっと悪戯っぽい笑みを浮かべると
そっと航平の背中に手を回して抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

その日、編集長の森田とともに打ち合わせを兼ねた食事会を終えた
永瀬と美月は 同じタクシーに乗って帰宅するところだった。

タクシーの中では音量を下げたラジオが流れている。

 

「先生、本当によろしいんですか?」

美月は隣に座っている永瀬を遠慮がちに見上げた。


「何のことですか?」

永瀬は思い当たらない様子で首を傾げる。


「サイン会のことです。
 本当に承諾してくださるんですか?」


「もちろんです。
 …TV出演は遠慮しますが、サイン会なら何とかできると思います」


「すごい! 先生が人前に出るなんて…
 それだけでも話題になりますよね」


「本が売れるように宣伝しないと…」


「謙虚ですね? どうしたんでしょう」


「元々僕は謙虚で控え目な性格なんです」

 

真面目な顔で言う永瀬に 思わずぷっと噴き出した。

そんな美月をちらっと横目で見た永瀬はため息をつく。


「先生? どうかしましたか」


「もう、すっかり元気になったようなので…」


「え?」


「また僕は損な役回りだったようですね」


「先生」


「こうやっていつも後悔するんです」


「…すみません」


「謝らないで…」


「先生……」

 

そこまで話して二人はお互いに黙り込んだ。

美月は永瀬の横顔を見た。

何か言葉を選んでいるるようにも見えるが、唇は固く結ばれたままだ。

美月は何も言えないまま前を向いた。


タクシーの中で会話が途切れると、ラジオの音声が耳に入ってきた。

女性アナウンサーが最新のニュースを伝えているところだった。

 

 


『本日、午後4時頃 京都K大学理工学部の実験室で爆発があり

 同大学の研究科大学院生の男性と男子学生の3名が負傷しました。

 3名は病院に運ばれましたが、詳しい容態はまだわかっておらず

 爆発の原因については 警察が関係者に事情を聴いて………』

 

 


 

 


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