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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1353253/1890494
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遠距離恋愛
「抱きしめたい」の続編。                                                           甘くて切ない三角関係に また新しいメンバーが加わって…
No 22 HIT数 5269
日付 2010/01/05 ハンドルネーム aoi32
タイトル 遠距離恋愛 -21(終)- 最愛 前編
本文




-21(終)- 最愛 前編

 




 

新幹線ホームを足早に駆け抜け 京都駅構内の人混みを掻き分けて進み
やっとタクシーに乗り込んだ。

気ばかり焦って、思うように足が動かない美月の手を掴んで
ここまで連れて来てくれたのは永瀬だった。


「すみません、急いでください!」


永瀬はオロオロしている美月を車に押し込んで叫んだ。


タクシードライバーが 永瀬の迫力と行き先が救急病院と聞いて
すぐに納得したのか 車を急発進させた。

タクシーが走り出すと 永瀬はほっと一息つき 
美月は大きく深呼吸し顔を両手で覆った。


ラジオで爆発事故のニュースを聞いて、最初は訳がわからずぼうっとしてた
美月の異変に気づき、永瀬は急いで航平の自宅に確認するように言った。


航平の母親に電話したところまではよかったが 爆発事故の現場に航平がいて
病院に運ばれたという最悪の事態を聞いた美月は 
気が動転して声が出なくなってしまった。


永瀬は 美月の携帯電話を奪うようにして代わりに出ると何か話していたが
美月にはそれさえも聞こえないほどショックを受けていた。


その様子を見た永瀬は 美月を一人で京都の、しかも病院という緊迫感をともなう
場所へ行かせるのは危ういと判断して、一緒についていく事に決めた。


動揺している美月に何度か「しっかりしなさい!」と叱咤激励しながら
とにかく美月を病院まで送り届けようとしたのだった。

 

救急病院に着くと、また永瀬は美月の手を掴み病院の長い廊下を走った。


受付で案内された救急センターへ進み、中に入ると そこにはいくつかのベッドが並び
その中の数台に患者が横たわっていた。


白衣を着た医師や看護師達がテキパキと動き回り、点滴や医療器具が溢れた部屋を見て
美月は いつか見た救命救急病院のドラマのようだわ…とぼんやりと思った。


緊張感も極限までくると、頭がぼうっとしてしまうようだったが
それでも、無意識のうちに 美月はその部屋の一番奥のベッドに目を留めた。


 
「…航平!」


思わず叫んでしまった美月の声は部屋中に響き渡り、そのベッドに横になっていた
航平がえっ?という顔で美月の方を見た。


「航平ーーー!」


美月は確認するようにまた名前を呼びながら駆け寄った。


「…美月ちゃん……」


眼鏡を外した航平は驚いて美月を見上げた。


その頭には痛々しいほど真っ白な包帯が巻かれ 頬にもガーゼが当てられていた。


「…航平…」


美月はまたショックで目眩がしそうだった。


「美月ちゃん、来てくれたんだ」


航平は包帯とガーゼの間から笑いかけてくる。


よく見ると、その微笑む口元にも顎にも小さな傷があり
綺麗な顔が傷だらけになっている。


「航平、大丈夫なの? 頭…怪我したの? 大丈夫なの…?」


気が動転している美月を見て、航平は困ったようにまた笑った。


「大丈夫だよ。大袈裟なんだ、この包帯は…
 ビーカーの破片で額と顔をちょっとだけ切って…大したことないよ」

そう言って自分の額に手を当てようと上げた右手にもガーゼが当てられている。

「あ…これはちょっと液体がかかって…火傷して…でも、大丈夫なんだ」


航平は平気な顔で喋っているが 美月の顔はますます青ざめていく。


「やっぱり…危険な液体…窒素とか水素とか爆弾みたいなのが爆発して…
 赤と青の線を間違えて切ったりして…実験室がふっ、吹っ飛んだ…」


美月は小刻みに震えながら訳のわからないことを捲し立てた。


「…美月ちゃん、ドラマの見すぎだよ。
 何?その爆弾とか赤と青の線…って…誤解されるじゃないか…」

航平は呆れたように美月を見ている。

「爆発といってもそんな凄いものじゃなくて
 実験台と器具は多少、焼けたけど 実験室は残ってるし
 …美月ちゃん、大丈夫?顔が真っ青だよ」


航平は怪我をしてない左手をすっと伸ばし、美月の頬にそっと触れた。


「…美月ちゃんの方が重症みたいだ」


「航平…」


美月は頬に当てられた航平の手に自分の手を重ね、そのままぎゅっと握り締めた。


航平の手の温もりを感じて、やっと落ち着き始めていた。


その途端、体中の力が抜けて張り詰めていた糸が切れたかのように
見る見るうちに美月の瞳に涙が溢れ出し、青白い頬を伝わった。


「美月ちゃん…」


「ごめ…ん …でも良かった…大したことなくて…
 航平…もしかして重症だったらどうしようって…
 し、死んじゃったらどうしようって…ずっと…ずっと
 ここに来るまで、ずっと思ってて…」


「ひどいなあ、勝手に僕を死なせないでよ…
 僕が美月ちゃんを置いて先にいくわけないでしょ?
 美月ちゃんを一人にするなんて心配でたまらないよ」


航平は涙でぐっしょり濡れている美月の頬を指で拭いながら言った。

自分のことを心配して 子供のように泣きじゃくっている美月が
愛おしくてしかたがない。


「…心配かけてごめん…美月ちゃん」


「うん」


「来てくれてありがとう」


「うん」


「美月ちゃんの顔を見たから すぐ元気になれそうな気がする」


「うん」


「…この怪我が治ったら結婚してくれる?」


「うん…  え…?」


「やった!」


「もう、どさくさに紛れて言わないでよ!」


「でも、うんって言ってくれないと怪我が治らないかもしれないよ」


「またそんな駄々っ子みたいなことを言って 本当にしょうがない子ね。
 …でも、いいわ」


「え?」


「航平と結婚する。
 …だから、早く元気になるのよ」


「うん!」


体中から溢れ出す喜びを笑顔でいっぱいにして、航平は元気よく返事をした。


…かわいい! 航平は何て可愛いの! 美月も思わず笑ってしまう。

 

航平がいればいい


他には何もいらない


そんな簡単な事…でも、いちばん大切な事に なぜ気づかなかったの?

 

「…航平…」


こつん…と 美月が航平の胸に頬を当てると航平の手が優しく美月の頭に触れた。


そして、何度も何度も優しく撫でると美月は気持ち良さそうに目を閉じた。


頬に感じる航平の体の温もりと規則正しくてやわらかな呼吸…


しばらく航平に浸っていた美月はゆっくりと顔を上げ、今度は航平の方に
手を伸ばし、頭の包帯の無い部分にそっと触れた。


そして航平がしてくれたように、美月も航平の頭を何度も撫で始めた。


「ああ、気持ちいいな…」


航平は幸せそうに目を閉じる。


長い睫毛が微かに震えている。


「航平…?」


「…何だか眠くなってきた…」


「じゃあ、少し休んで…
 おばさんと洋平ちゃんももうすぐ来るはずだから。
 おじさんは主張中だから来られないみたい」


「うん…  美月ちゃん、傍にいてくれる?」


「うん、ここにいる。
 だから、安心して眠って…」


美月は航平の手を両手で包み込みながら耳元で囁いた。


航平は目を閉じたまま安心したように微笑むと、間もなく すうっと眠りに落ちていく。


白いガーゼと傷がある顔はとても痛々しいのに、切ないほど繊細で美しい。


長い睫毛を伏せて、静かに寝息をたてながら眠っているあどけない寝顔を見つめ
やわらかな前髪にそっと触れてみる。


良かった… また美月の目から涙がこぼれ落ちた……。

 

 

 

二人のそんな様子を黙って見ていた永瀬はふっと静かに微笑み
そのまま何も言わずに部屋を出て行った。


病院から出ると、外はすっかり暗くなっていた。


永瀬はふと立ち止まり空を見上げた。

満天の星空に三日月が浮んでいる。

 

「…先生!」


振り向くと美月が駆け寄って来た。


美月は息を弾ませながら永瀬の前に立ち 彼を見上げた。


「あの…ありがとうございました。
 …先生がいなかったら…わたし、こんなに早く来られなかったかもしれません…
 ありがとう…先生……」


「いえ、大事に至らなくて良かったです」


「…はい  …あの…」


「もう何も言わないで…あなたの言いたいことはわかっています」


「先生…」


「僕の惨敗ですね… 彼にはどうしても勝てない」


「…ごめんなさい」


「謝らないでください… それより、彼が心配しますから 早く戻って…」


「はい… 先生は東京にお帰りになりますか?
 もし、京都にお泊りになるのでしたらホテルを手配しますが…」


「大丈夫ですから、そんな気を使わないで。
 でも、そうですね…せっかく京都に来たのだから
 知人に紹介してもらって 祇園あたりで少し遊んでから帰りましょうか」


「え?」


「冗談です。さあ、もう行ってください」


「あ、はい。 じゃあ、お気をつけて…ありがとうございました!」


美月は頭を下げるとくるっと背を向けて病院の中へ入って行った。


その後姿を見ていた永瀬は また静かに微笑み夜空を見上げる。


美しい月明かりが永瀬を優しく照らしていた……。




 

 

「実験中にシリコンオイルから火が出まして、慌てた一年生が間違えて
 液体窒素を注入してしまったんです。
 本当に初歩的なミスなんですが、その後どうなるか すぐに察知した
 桜庭君が咄嗟にその学生をかばって代わりに負傷してしまいました」


後から駆けつけた航平の母親と兄の洋平とともに、美月は教授の相沢から
事故の経緯を聞いていた。


穏やかな雰囲気の相沢はかなり憔悴しているようだった。
 

救急車で運ばれた航平の容体を見届けた後、事故現場に戻り警察に事情を説明し
また病院に戻ってきたのだった。


事故が起きた時、相沢は別室で講義中で 実験の指導教官である准教授は
電話に出るため席を外しており たまたまその准教授に用があって実験室に
いた航平が事故に巻き込まれてしまったのだった。


「本当に申し訳ないことをしました。
 今回の事故は教授である私の責任です」


相沢は謝罪すると頭を下げた。


「まあ、そんなことなさらないでください。
 こちらこそご迷惑をかけてしまって申し訳ありませんでした。
 息子の怪我も大したことありませんでしたし…他の学生さんも無事で
 良かったですわ」


「ありがとうございます。
 そうおっしゃっていただけるとほっとします」


「どうぞ、あまりご負担に思わないでください」


航平の母親の言葉に 隣にいた美月も相槌を打った。

そんな美月を見て、相沢は目を細めながら微笑んだ。

 

「…前々から 桜庭君の婚約者にお会いしたいと思っていたんですが
 まさか、こんな形でお会いするとは…」


「あ、はい…わたしも驚いてます。
 でも、航平…彼からいつもお話を聞いてましたのでお会いできて嬉しいです」


「私もお会いできて嬉しい。
 今度、婚約のお祝いをさせてください」


「ありがとうございます」


美月はにっこり笑って相沢を見つめた。


その時、美月には結衣へのわだかまりも消えて、結衣の父親である相沢の
穏やかな人柄に親しみを感じていた。








 






 

 

 




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