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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1353395/1890636
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遠距離恋愛
「抱きしめたい」の続編。                                                           甘くて切ない三角関係に また新しいメンバーが加わって…
No 24 HIT数 4372
日付 2010/01/05 ハンドルネーム aoi32
タイトル 永瀬の Merry Christmas
本文

 

永瀬の Merry Christmas







最近になって また煙草を吸い始めた

 

行きつけのピアノバーでカウンター席に着くと

ワインをオーダーし煙草に火をつけた

 

落ち着いた照明の中でのピアノ演奏


聞こえてきたのは… “White Christmas”  

 

そうか…今夜はクリスマスイヴだった…

 

街は赤と緑のクリスマスカラーで彩られ

煌びやかなクリスマスイルミネーションで溢れている

舗道を行く人々の足取りも軽やかで眩いくらい賑やかだ


表通りから一歩 路地を入った何気ないオフィスビルの地下にある

この店は そんな都会の喧騒を離れて静かに時が過ぎていく

 

煙草をくわえて静かに吸い込むと ゆっくりと燻らせる


紫がかった煙の行方を ぼんやりと眺める…


こうして何も考えずゆったりと過ごす時間は 何よりも贅沢な時間だ 

 



“お待たせしました”


馴染みのソムリエがカウンターの上にワイングラスを差し出した

 

グラスを手に取り まず香りを楽しんだ後 真紅の液体を口に含む

酸味と甘みが程好く溶け合い まろやかで芳しい香りが辺りに漂う

 




“今夜はお待ち合わせですか”

 

こんな夜に一人で来る客はいないだろうね

 

“そんなことはございません

 こちらの店はお一人でいらっしゃる方が多いですから” 

 

そんなところが気に入ってる

 

“恐れ入ります”

 


心得たソムリエは いつものように短い会話を済ませると

さり気なくカウンターの奥に消えていく


僕は小さく笑い 息を吐くと また煙草を取り出した


銀のライターをカチッと擦るとオレンジ色の火が灯り

グラスの中の繊細な紅が それに照らされてゆらゆらと揺れる 

 


紫煙が立ち込める中 しばらく僕は物思いに耽ることにした……

 

 

 


 


“人生は仮定の連続だ”と誰かが言っていた


もしもあの時…だったら 今頃は…

 


“ねえ お願いだから わたしの話を聞いて

 時々でいいの わたしを見て

 ……もう わたしは…必要ないの…?”    

 

もしもあの時 少しでも妻の話を聞いていたら

彼女の寂しさに気づいていたら… 

僕達は別れることはなかったのだろうか

 

 

 


そして……


もしもあの時 あなたに告白していたら

今頃 僕達は一緒に薔薇色のワインを傾けていたのだろうか

 

だが それは 今となってはただの仮想にすぎない

 

事実 今頃、あなたは 他の男の胸の中で

幸せそうに微笑んでいるに違いないのだから……

 

 

 


10年前の秋だった


僕は久しぶりに友人の深沢に会いに 横浜にあるK大学に向かった


高校、大学と同じだった彼は その頃、母校であるその大学で

講師として勤務していた


その2年前に 不慮の事故で最愛の女性を亡くした深沢は

ひどく傷つき 落ち込んで 傍目にも辛そうだった


元々、陽気な性格の深沢のあまりの変わりように心配になった僕は

彼と連絡を取るようにはしていたが 実際に会うのは久しぶりだった


というのも その頃僕は作家としては駆け出しの頃で

一日中 部屋にこもって小説を書き続けていた時だったからだ

 

黄金色の落ち葉が舞い落ちる構内を進み 数人の講師が使う研究室を訪ねて
 
ドアをノックしようとした時だった


いきなり 部屋のドアが開いて中から一人の女性が出てきた


危うくぶつかりそうになり 慌てて身をかわしたが

驚いた彼女の手からは 数枚の用紙が滑り落ちてしまった


“あっ すみません!”


彼女は慌ててその場でしゃがみこむと レポート用紙を拾い始めたので

僕も同じように屈んで拾い集めた


“ありがとうございます!”


やたら元気な声で礼を言って 明るい笑顔を向けた彼女はペコリと頭を下げた


ふと 拾い集めたレポート用紙を見ると ちょうど学年と氏名が記入されていた

 

そのあと 彼女は僕から用紙を受け取ると恥ずかしそうに笑い 

もう一度頭を下げるとくるっと背を向けて走り去った

 

後で 彼女はその大学の文学部の学生で レポート作成の助言を

受けに来たということを深沢から聞いた

 

ひらひらと そよ風のように立ち去った彼女…

 

眩いほど輝いていた黒目がちの大きな瞳… 


そして 決して忘れることのない印象的な…その名前

 

僕の中でそれは どこか懐かしく甘い記憶として残った

 

それが あなたとの出会いだった……

 

 

 


それは偶然だったのか それとも必然だったのか……

 

作家とその担当編集者として あなたに会ったのは

それから7年後のことだった

 

“わたし 先生の『硝子の雫』に出てくるヒロインと同じ名前なんです”


彼女は嬉しそうに そして どこか誇らしげに言った

 

…それは そうだ…


だって あなたの名前を使わせてもらったのだから…

 

学生だったあなたの名前を偶然知った あの日


僕はその美しい名前を心の奥に留めたのだった

 


“もし わたしが先生の小説の中に登場することになったら

 素敵な女性に描いてくださいね!”

 

…もうすでに登場してますよ…


そう言ったら あなたは驚いただろうか…
 

 

だが 僕はそのことには触れず

また違う立場で再会したことに 何か不思議な予感を感じていた

 

もし あの時 以前にも会っていたことを告げていたら

あなたと僕の関係は違うものになっていたのだろうか


今となっては もうどうでもいいことなのかもしれないが

 

 



 


二杯目のワインを飲み終えようとしていた時

それまでゆったりとしていた空間に不似合いな声が

賑やかに華やかに響き渡った

 


“ナガセー! はやいデスネ! オー、タバコの吸殻がこんなに?

 ワタシ、時間をまちがえマシタカ???”


真紅のドレスに白いコートを羽織った やたら目立つ姿のジェシカが

大袈裟に驚いた顔で僕の隣に立っていた

 

いや 僕が早めに来ただけだ…


そう 一人で考え事をしたかったし…それに…


この店では一人で飲みたかったから…

 


“ナガセったら まだ落ち込んでるんデスカ?

 クラいデスネーーー!

 みつきさんは結婚して、今頃はハネムーンでハワイですネ!

 ワタシたちも早く結婚式をしましょうネ!!!”

 


だから その“も”は使い方が違うだろう?

 
何度 言ったらわかるんだ…

 


“オオ、ワタシ ハーフですからそんな細かいニホンゴ よくわかりまセーン!

 それより、いつまでもくすぶってないで行きまショウ!

 クリスマスパーティーの会場で カレンたちが待ってマスヨ

 他のモデルさんたちもナガセが来るのを楽しみにしてマスネ!”

 

ジェシカは話を逸らして早口で捲し立てた


真冬に大輪のひまわりが咲いたような…華やかで陽気な笑顔が浮んだ


こんな賑やかでゴージャスな男女がどっと集まるパーティー


考えただけで閉口しそうだが……

 


……ま いいか…


今夜はイヴだし…少し羽目を外して遊ぶのもいいかもしれない

 


だが……


もしあの時 羽目を外さなかったら あんな事にはならなかったのだろうか…


いつか そんな事を思う時がくるのだろうか

 


僕がそんなことを考えてると 思いもしないジェシカは


僕の腕に手を回して立ち上がらせると強引に連れ出そうとする

 

“さ、行きまショ!

 せっかくのイヴなのデスカラ たのしまなくちゃイケマセンネ!”

 


わかった…わかったから そんなに強く引っ張るな…

 

僕は 目を丸くしているソムリエに軽く目配せすると


彼はニッコリ笑って頭を下げた

 

“またのお越しをお待ちしております”

 

ソムリエの穏やかな声が後ろで響いた

 

 

外に出ると すぐに夜の冷たい空気が頬に当たり 思わず 身震いをした


寒い…と立ち止まりそうになった僕の腕に ジェシカが両手を回してきた

 

“ナガセは寒がりデスネー!

 でも、こうやってくっつけますからラッキーですネ!”

 

チャンス!と言うばかりに ジェシカが嬉しそうに寄り添ってくる


優しくてやわらかな温もり……また彼女を思い出した


あの時…冬の鎌倉の海で あなたを抱きしめて その温かさを知った

 


二年前 もし 僕が日本を離れなかったら


あなたの傍に留まっていたら


今頃 あなたは 彼ではなく 僕のこの胸の中にいただろうか…

 

 

ぼんやりと…遥か彼方に思いを馳せている僕を見て 

遠慮がちに ジェシカが僕の顔を覗き込んできた

 

“…ナガセ? どうかシマシタカ?”

 

珍しく心配そうな様子のジェシカを見て 僕は気づく

 


いや…違う そうじゃない…


もし あの時 イタリアへ行かなければ…

僕は ジェシカ…君に逢えなかっただろう

 

暗い影を落とした世界で 一人過ごしていた僕を

目も眩むほど明るく陽気な太陽の下に

今夜のように 半ば強引に連れ出してくれたのは君だった

 

もし あの時 君に会わなかったら

今夜…僕はどんなふうに過ごしていただろうか……



 

“ナガセ? 大丈夫デスカ?

 …げんきだしてクダサイネ…”

 

しんみりと気遣うジェシカを見た僕は

たった今まで思っていたことを話そうと思ったが…

 

“デモ、いつまでもシツレンのイタデから立ち直れないナガセって

 ホントにネクラでしょうがないですネー!”

 

……やはり 一生黙っていよう 

 

突然 意地悪な思いに駆られて 足早に歩き出した僕に

ジェシカが慌てて追いかけて来る

 

気まぐれな僕は また立ち止まり夜空を見上げた


切ないほど美しい月が出ていた

 


今頃 遥か遠い常夏の島で あなたは


最愛の人の胸の中で安らかに眠って


この日を迎えようとしているのだろうか

 


そして 数時間後には 今の僕と同じように 


あなたも煌く星空を見上げるのだろうか

 

 

 

 

夜空に浮かぶ 僕の美しい月へ…


メリークリスマス そして…


いつまでも 幸せに… 

 


僕は それだけを願っている……









 

 

 

 

 

 

 












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