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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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遠距離恋愛
「抱きしめたい」の続編。                                                           甘くて切ない三角関係に また新しいメンバーが加わって…
No 5 HIT数 7111
日付 2009/10/07 ハンドルネーム aoi32
タイトル 遠距離恋愛 -4- 意地悪
本文




-4- 意地悪

 



 
「桜庭さんにそんな人がいたんだー、残念!」

 

航平が教授である父に招かれ、一緒に食事をした時に知った事実。

それでも結衣は 航平のことをすぐに諦める事はできなかった。

東京にいる彼の恋人。

…遠距離恋愛じゃない? だったら、わたしにもまだチャンスがあるかも

だって、あと2年近くはここにいるんだもの。

どんなに思い合っていても、傍にいないということが二人の気持ちを
離れさせてしまった…よく聞く話でしょ?

だから、わざとおどけてそう言った。

彼がここにいる間に、わたしはその心を掴んでみせるわ!

我儘で気が強い結衣は決心した。

でも、航平が警戒するようなことはしない。

結衣はあからさまに航平に迫ることはせずに
可愛く明るく振舞って しばらくの間は妹のような存在でいようと思った。

その甲斐があってか、結衣が何度か航平を誘うと ごくたまには一緒に映画を見たり
食事にも付き合ってくれるようになった。

例えそれが、教授である父に対しての義理や遠慮だとしても、結衣は構わなかった。

いつかきっと 彼は本当の笑顔を向けてくれる…結衣は確信していた。


だから…突然“彼の恋人”を目の当たりにして愕然としてしまった。

 

 

 
「あの、ご一緒してもいいですか?」

まるで張り合うように、結衣は ややきつい視線を向けながら言った。


「ええ、どうぞ」

その人はそう言うとにっこり微笑んだ。

「じゃあ、ここにどうぞ」

航平はさり気なく立ち上がると美月の隣の席に移動した。

そして、この上なく優しく美月に微笑みかけた。

胸の中がざわつき…そして、決して好意的ではない好奇心から
結衣は店に一緒に来た友人と別れて二人の向かい側に腰を下ろした。

ずっと思い続けて来た彼の恋人はどんな人なんだろう…

まじまじと、結衣は目の前にいる美月の顔を見た。

“美しい月”という名前のその人は その名のとおり美しい人だった。

すでにお酒が入ってほろ酔い加減の美月は、目を潤ませて頬もほんのり染めて
そこはかとない色香まで感じさせる。


「結衣さんっておっしゃるの?
 今、人気の女優さんと同じ字を書くのね。
 可愛いところも同じだわ~! ね、航平」


美月は隣の航平に笑いかけながら言った。

ふわり…と艶やかな微笑みを浮かべたかと思うと 美月はゆっくりと目を閉じた。

彼女の長く黒い睫毛が桜色の頬に美しい影を落とす。

 

「…美月ちゃん?」

「ふふ、今になって少し酔ってきたみたい…」

「大丈夫?」

「大丈夫よ」

 

美月はゆっくりと目を開けると また幸福そうに信頼しきった眼差しを航平に向けた。

すると彼は少し体をずらして、美月の方に近づいた。

寄り掛かっていいよ…航平は目で語っている。


「………」


ごく自然に、しかもそれが当然のように彼女の隣に寄り添うように座った航平の態度が
よけいに結衣を苛立たせていた。

そんな結衣の気持ちなど気づかないのか 美月は陽気にお酒を勧めてくる。


「国立K大文学部の3年生? 優秀なんですね すごいわあー!」

美月はそう言うと両手を合わせながら明るく笑った。


「美月さんはどんなお仕事をなさってるんですか?」

やっぱり年上よね… 明らかに学生には見えない美月に尋ねると 
彼女は顔をぱっと輝かせた。


「東京のS社で編集の仕事をしています。
 今、二人の作家の方を担当してて…忙しいけど楽しいです」

美月が嬉しそうに言うと、航平は隣で頷く。


「二人とも女性なんだよね?」

「ええ、そうよ」

「良かった」

「航平ったら」


美月が軽く睨むと、航平はくすくす笑い出した。

そして、そのまま顔を上げると 黙ったままじっと見ていた結衣と視線が合った。

動揺した結衣はすっと視線を外す。


…彼は何て幸福で穏やかな微笑みを浮かべているんだろう
 こんな笑顔、見たことない…

 

「航平、結衣さんにお酒を注いであげて。
 それから、わたしもお代わりね」

「美月ちゃん、飲み過ぎだよ」

「あら、まだそんなに飲んでないわよ」

「おばさんに怒られるよ」

「やだ、お母さんには内緒よ?」

「しょうがないな」


航平は半ば呆れたように笑いながら言った。


…何なの、この二人の会話は。 まるで 親公認の仲ってカンジ?
 


「航平がお世話になってる教授のお嬢さんなんですね」

「うん、ここにも相沢教授に連れてきてもらったんだ」

「そうでしたね!
 父がいない時には二人だけで来たこともありました」

「まあ、それじゃ 結衣さんにもお世話になってるのね。
 これからも航平の事 よろしくお願いしますね」


…あなたに言われたくないわ、と結衣は内心思ったが
航平の前では一応、はい、と愛想良く返事をする。

それにしても 今 わたしが言ったことは気にならないの?

結衣の中に意地悪な感情が膨らんでいく。


「でも、美月さんったら まるで桜庭さんのお母さんみたいですね!」

「え?」

「やっぱり年上の恋人って頼りになるんでしょうね」

「え、あの…」


お母さん…って? 

美月は少なからずショックを受けて何も言えなくなってしまった。

そんな美月の様子に気づいて 航平が何気なく答える。


「珍しい事を言われたね。
 いつもは僕の方が美月ちゃんの保護者みたいなのに」


面白そうに言う航平の言葉に しぼみかけた風船が
また輝きながら、まあるくふわふわと膨らんでいく。

 

「…そうでもないけど…」


美月はちょっぴり不服そうな顔をするが すぐに嬉しそうな笑顔に変わっていく。

航平は満足そうに笑いながら そっと美月の手を握り締めた…。

 

 

 
「美月ちゃん、そろそろ帰ろうか」

「え、もう?」

「もう…って、もうかなり飲んだでしょ?」

「え、そうかしら~」

「うん、酔ってるよ美月ちゃん」

「わかった、帰りましょう
 航平は結衣さんを送ってあげて。わたしは先に帰ってるから」

「だめだよ、そんなに酔ってるのに…一人で帰れるわけないよ」

「大丈夫よ。 それより若いお嬢さんを一人で帰すわけにいかないわ」


美月はきゅっと口を尖らせると航平を見上げる。

二人の間ではいつものことなのかもしれないが、美月のその甘えるような仕草が
結衣の気持ちを苛立たせ白々しいとさえ思わせる。


「わたしは大丈夫です。タクシーで帰りますから
 せっかくお二人でいた所に割り込んできたのはわたしですから」

結衣はこみ上げる不快感を必死に押さえながらやっと言った。

 


「じゃあ、気をつけて」

店の前で航平が拾ってくれたタクシーに乗った結衣は
車がゆっくりと動き出すと同時に後ろを振り返った。

一緒に歩き出した二人の後姿が見える。

航平が美月の腰に手を回し抱き寄せたのを見て、結衣はまた
胸の中にざわざわとさざ波が立ち始めた。

結衣は振り切るように前を向くと、タクシーのシートに身を沈めた。


この後、あの二人は…


航平の部屋に一緒に帰って、そして彼女が東京に帰るその時まで
できるだけ寄り添って 束の間の恋人との甘い時間を過ごすのだろう…

また会えなくなる…だからこそ激しく情熱的に…


…目眩がした…

 

「…止めて! …すみません、止めてください。ここで降ります…」

結衣は力なくそう言うと、唇をぎゅっと噛み締めた。

外の空気を吸って…頭を冷やそう……

 

タクシーが走り去り、後に残された結衣は空を見上げる。

街路樹の桜は満開の花をつけていた。


胸がぎゅっと掴まれたように痛くて苦しい…

なんて嫌な気分なの…


結衣は今まで経験したことがないような
美月に対する嫉妬や憎悪のようなものを感じている自分に戸惑っていた。

 

 

 
青白い月明かりが照らす部屋の中で、美月の白い肌が艶かしく浮かび上がる。

帰り道、二人で寄り添いながら見上げた夜空に浮かぶ桜のように…

航平は美月という花を手折って自分だけのものにする。

後ろから抱きしめられ、首筋に熱い唇を押し当てられて
思わず美月は体を震わせる。

そんな美月の反応に胸をときめかせながら 航平は美月の首筋から唇を這わせ始め
彼女の髪をかき上げると優しく耳朶を噛んだ。


あ…声を漏らした美月の耳元で航平が囁く。


「美月ちゃん 愛してる」

「…航平…」

「でも、明日は東京に帰るんだね」

「……」

「時間が止まってしまえばいいのに…」

「航平…」

「そうすれば 美月ちゃんのことをもっと優しく大切にできるのに」

「これ以上優しくしてくれるの?
 …わたしにはそんな価値はないのに…」

「どうしてそんなこと言うの?」

「…だって」

「美月ちゃん?」

「…わたし…わかってたの」

「え?」

「さっきのこと。
 航平はわたしを一人で帰したりしないって
 …だから あんなこと言ったの」

「……」

「きっと航平はわたしを選んでくれるってわかってたから
 結衣さんを送ってあげて、なんて言ったのよ。
 余裕がある大人の女を気取って 心にもない事を言って…本当は嫌でたまらなかった。
 若々しい結衣さんに嫉妬して…意地悪したの…」


体を震わせながら切々と告白する美月を 航平は黙ったまま聞いていたが
美月の言葉が途切れると一段と腕に力を込めて、その華奢な体を抱きしめた。

航平の肌の温もりを背中に感じて 美月は泣きそうになった。


「…呆れたでしょ?」

「……」

「…わたしのこと嫌いになった?」

「そんなことないよ」

「嘘よ」

「嘘じゃないよ。
 美月ちゃんが嫉妬してくれたなんて
 そんな風に我儘で気が強くて真直ぐな美月ちゃんが好きなんだ」

「え?」

「黙ってればわからないのに…
 呆れるくらい正直で純粋で…昔からずっと変わらない」

「……」

「僕はそんな美月ちゃんを変わらずに愛してる」

「…航平…」


美月は航平の腕をそっと外し、体の向きを変え、両腕を伸ばし
しなやかに航平の首に回した。

美月の滑らかでやわらかな胸のふくらみが航平の肌に触れる。


「…わたしも…愛してる…」


耳元で囁く甘い声…


そのひと言で 航平の身も心も美月のものになる。


「愛してるわ 航平」


愛の言葉と一緒に重ねられる美月の甘い唇に頭の芯が痺れて
体の奥が熱くなって何も考えられなくなる。


…僕が美月ちゃんを嫌いになるなんて…ありえないよ…

そのことを 美月ちゃんはわかっているの?


その濡れた瞳で見つめられるだけで 僕の理性は跡形も消えてなくなるのに…

僕は…決して美月ちゃんを手放したりしない

 

桜色の美月をもっと薄紅色に染めたくて 航平はゆっくりと彼女を押し倒し

そして ほのかな月明かりの下で 気が遠くなるような濃密な夜に溶け込んでいった……。

 

 

 

 

 

― 二日後 ―

東京 S社編集部

 

「やばい!明日は入稿だ…」

「でも、もう夜7時になっちまったよ…」

「阿川先生のコメント入りきらない!」

「ここんとこカットしても大丈夫か?」

「ぎゃああああ!もう10時だ」


「がーん、11時ー」


「ああ、11時半!もうすぐ終電……」


「もうっ、何で今回はこんなにギリギリなの?」

「そりゃ、誰かが週末に休みを取って、のんびりしてきたからさ」

「何よ、わたしのせいだって言うの?」

「美月さん、お肌艶々ですねー!」

「温泉にでも浸かってきたか」

「やだ、違いますよ。美月さんは彼氏のいる京都に…」

「きゃー、やめて、やめて唯ちゃん!
 ……唯ちゃんっていくつだっけ?」

「え、21ですけど?と言っても もうすぐ22になりまーす」

「ふ~ん…やっぱり若いよね」

「何だ、美月。バイトの唯ちゃんの若さに嫉妬してるのか?
 お前、今年30だもんな」

「うるさいわよ、秋山君!
 …ゆい、って聞くとね 何だか胸がきゅっとしてね…
 自己嫌悪に陥るのよ…」

「何だ、そりゃ」

「人生には色々あるのよ、単純な秋山君にはわからないわ」

「そりゃ、女も30年も生きてれば複雑だよな」

「秋山君!」

「あの~、早く終わらせないと終電が…」

「はっ、そうだった! うっ、もう間に合わない?」

「唯ちゃんは俺が送るから安心して。
 …美月は一人でも大丈夫だよな」

「はいはい大丈夫よ。長く生きてるからね」

「何だよ、今日はやけに突っ掛かるな」

「ふん」

「大野は俺が送ってやるよ」

「石田さん、美月にそんな気を使わなくても大丈夫ですよ」

「大野は美人だからな。気をつけないと」

「きゃー、さすが石田さん、大人の男性だわー!
 ありがとうございます。
 でも、慣れてるから大丈夫。一人で帰れます」

「そうか?」

「はい。
 それに石田さんとは方向も違うし…
 でも嬉しいです、誰かと違って女性扱いしてくれて」


美月はそう言うと秋山を軽く睨んだ後、石田に笑いかけた。


「じゃあ、さっさと終わらせよう。
 でないと朝になっちまうぞ!」


編集長 森田の言葉にそこにいた数人は同時に返事をした。

 

 


何とか校了を終えて、美月が自宅に着く頃には 午前1時を過ぎていた。

タクシーを降りた所で、美月は隣の桜庭洋平に会った。

「美月ちゃん? 今まで仕事か?」

「うん、洋平ちゃんも?」

「俺は取引先との接待で…。
 大変だな、編集の仕事はこんなに遅くなるのか?」

「ううん、今日は特に忙しかったの
 いつもはもっと早いのよ」

美月の言葉に洋平は安心したように笑う。

航平と10歳離れた兄の洋平の笑顔は 温かくて人の気持ちをほっとさせて
それは航平と同じだ。


「航平は元気にしてたかい?」

「うん、すごく元気よ。
 研究のほうも頑張ってるみたい」

「それなら良かった。
 あいつ、最初 京都に行く時は迷っていたからな」

「え?」

「自分がいない間に美月ちゃんが心変わりしないかって、ものすごく焦ってたんだ」

「…心変わり…」

思わず繰り返した美月を見て 洋平は笑いながら付け加えた。


「美月ちゃんがそんな子じゃないってわかってるけど
 …あいつ、美月ちゃんのことになると周りが見えなくなるから」

「……あのね、洋平ちゃん」

「うん?」

「心変わりしないかって不安に思ってるのはわたしのほうなの」

「え?」

「…わたしは航平より年上だし、航平の周りには若くて魅力的な子がたくさんいるし…
 だから不安でたまらなくて、変な嫉妬までして
 週末に航平と一緒に過ごして…そしたら、仕事なんて辞めて 
 このままここに住んじゃおうかな、なんて思ったりして…」

「美月ちゃん?」

「わたし…航平が東京に帰って来るまで待てないかも。
 おしかけて結婚を迫っちゃうかもね。
 …そしたらどうする?皆、びっくりするよね」

「そうだな。 皆、待ってました!とばかりに大喜びして大宴会になるだろうな。
 両家はめでたく親戚同士になって、美月ちゃんは俺の義妹になるのか。
 大歓迎だな」

「洋平ちゃんったら」

「まあ、もう少し考えて結論を出したほうがいいよ」

「え?」

「編集の仕事、好きなんだろう?」

「え」

「航平もわかってるさ。
 そう簡単に美月ちゃんは仕事を辞められないって…
 だから一人で京都で頑張ってるんだ」

「うん」

「でも美月ちゃんの気持ちがわかって 俺は安心したよ」

「え?」

「美月ちゃんも同じくらい 航平のことを思ってるんだってわかったから」

「うん…」


そう、わたしは航平のことを愛してるの…


美月はゆっくりと空を見上げた。

春の夜空にぼんやりとした朧月が浮かんでいる。


航平もこの月を見ているのかしら…


美月はそんな事を考えながら 切なくて甘い風を頬に感じていた……。

 

 

 

 

 


その日の午後 成田空国のターミナルには人々のざわめきが溢れていた。


到着ロビーを すらりと長身の男が直進して行く。

大股で堂々と歩いていく姿は無駄がなく端正だった。

そして 彼はふと立ち止まり ゆっくりと周囲を見回した。

黒いサングラスをかけた目の表情は読み取れないが
その口元には微かな笑みが浮かんでいる。


二年ぶりの日本だった。


彼はタクシーに乗り込むと ひと言行き先を告げた。


「…鎌倉まで」

 

 

 

 


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