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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1353613/1890854
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遠距離恋愛
「抱きしめたい」の続編。                                                           甘くて切ない三角関係に また新しいメンバーが加わって…
No 6 HIT数 7503
日付 2009/10/07 ハンドルネーム aoi32
タイトル 遠距離恋愛 -5- 再会
本文






-5- 再会 

 

 


鎌倉 由比ヶ浜の海岸を背にして少し歩くと
カフェ・レストラン「小椋亭」がある。

カリフォルニアスタイルの店内には 今でもサザンの曲が流れている。

桑田佳祐を敬愛するオーナー 小椋のこだわりであって
夏はもちろん真冬でさえもサザンの曲だけがBGMとして使われているのだ。

実は店の名前も「桑田亭」か「サザン」にしたかったが、あまりにもそれは図々しいと
残念ながら諦めたという経験さえあるほどだった。


「美月さん、久しぶりだね。
 最後に来たのはいつだったっけ?」

小椋は相変わらず日焼けした顔で人懐っこい笑顔を浮かべている。


「確か去年の夏です。8月の終わり頃だったかしら」

美月は目を細めて思い出すように答えた。


「そうそう、思い出したわ。
 あの時、美月さんは素敵な彼氏を連れて来たのよね?」

小椋の妻 葉子がうっとりしながら言った。

「…永瀬君とはまた違ったタイプで、笑顔が可愛い青年だったわね~。
 で、その後どうなの?結婚とかは考えてないの?」

「あ、ええ まだ具体的には…
 彼はまだ京都にいますし…」

照れたように答えながらも、久しぶりに懐かしい名前を聞いて美月の胸が高鳴る。

ここに来る、ということは 胸のずっと奥にしまったその人のことを思い出し
よみがえる甘く切ない思いに ほんの少しの胸の痛みを感じることなのだ。


「ふ~ん、遠距離恋愛ってことね?」

「ということは まだ結婚は決まってないんだよね?」

「はい?」


葉子と小椋が笑いながら美月を見ているのに気づいた美月が
何ですか?と不思議そうな顔をしていると、チリンとドアベルが鳴って店の扉が開いた。


「お、いらっしゃーい!」

「小椋さーん、葉子さん、お久しぶりでーす!
 あ、美月さん? ホントに?」

店内を見渡していた青山優は驚いて声を上げると
嬉しそうに駆け寄ってきた。

ストレートのロングヘアが揺れてきらめくような笑顔を見せる優は
さすが女優だけあって、一瞬にしてその場を華やかな雰囲気に変えてしまう。


「わあ、優さん お久しぶりー!
 もしかして、あなたもお祝いに来たの?」

美月も優に微笑み返した。


「はい、お祝いにきました!
 でも、すごいですよね、
 “小椋亭 開店10周年”と永瀬さんの帰国が重なるなんて!
 Wお祝いなんて最高ですー!」

「…え?」

「今ね、ちょうど外で永瀬さんに会って…潤先生と話してるんです」

「え…?」

 

ガタン!と音を立てながら 美月は思わず立ち上がった。


「はは…実は美月さんに今回の連絡した後、永瀬の帰国を知って
 まあいいいかって思ったんだけど…まずかったかな?」

「あら、大丈夫よ。
 だって ここに美月さんを連れてきたのは永瀬君だもの」

「そうだよな。 ま、これも何かの縁ということで」

「え?あの!え、どうしましょう…」

動揺を隠し切れない美月は、小椋と葉子の顔を交互に見ながら
慌てている。


そんな美月の混乱をよそに、店の扉は開いて その男はゆっくりと姿を現した。

すらりと長身でクールな瞳をしたちょっと近寄りがたい雰囲気の男。

まさしく彼は二年ぶりに再会した 永瀬聡 その人だった。



「…永瀬先生…」



美月が呟いたのと同時だった。

彼女の存在に気づいた永瀬は驚いたように立ち止まり、じっと美月を見る。

そして、ふっとやわらかな笑顔を浮かべたかと思うと
すぐに美月の方へ歩み寄って来た。

永瀬が近づいて来ただけで美月は胸の鼓動が激しくなる。


「…先生…あの……」

声が震え、何を言えばいいのかわからない。


「…久しぶりですね…」

聞き覚えのある懐かしい声が響く。


ああこの声だ…


涙が溢れそうになった時 永瀬の手が伸びて美月の肩を引き寄せる。

えっ?と声を上げると同時に 美月は永瀬の逞しい胸の中に包まれていた……。

 

 

 


さっきから美月は何度も見ている。

楕円形テーブルの隣に座っている永瀬の横顔は以前と少しも変わらない。

いえ、違う。 やっぱり少し痩せてシャープなカンジになったかも…

でも綺麗な顎のラインとサラサラの短い髪は変わらない。

それに…チェロのような重低音で響く魅力的な声は聞くだけで胸が高鳴る。

低くて甘くて深い声が静かに響いて心地良い…

 

はっ! 美月は我に返って首をぶんぶんと振った。


ううっ、ごめん 航平ー!

つい、魅力的なものには惹かれてしまうのよ~!

でもっ、浮気はしないから…大丈夫だから!


美月は胸に手を当てるとふ~っと深呼吸をした。

…とにかく落ち着かなきゃね そう、平常心、平常心…

 

「どうかしましたか?」

「うわぁ!…って、いえ! なっ、何でもありません!」


突然、永瀬に声をかけられて 美月は飛び上がりそうなほど驚いてしまった。


「………」

怪訝な顔で見る永瀬に気づいて、美月はますます慌ててしまう。

「あのっ ただ、びっくりしてしまって…
 まさか今日、永瀬先生に会えるとは思ってなかったので
 だって、帰国したことも知らなかったですし…本当に何も知らなくて…」

「…知らせて欲しかった?」

「え?」

「僕に会いたかったですか?」

「まっ、まさか!
 せっ、先生のことなんてずっと忘れてましたから!」

「本当に?」

「本当です!」

「残念だな、僕はずっとあなたに会いたかったのに…」

「なっ…!」


涼しそうな顔で平然と言った永瀬の言葉に 美月は動揺して声を上げた。

 


「何だ、永瀬。 帰国して早々に振られたか?」

テーブルの向かい側にいた小椋が目を丸くしている。


「ああ、そうらしい」

永瀬は面白そうに笑っている。


「二年もいなかったのだから当然だ」

永瀬を挟んで隣にいる深沢潤もくすくす笑う。


「そうよ、二年も音沙汰無しなんて…美月さんに愛想尽かされても当然よ」

葉子は怒ったように永瀬を軽く睨む。


「あ、あの 葉子さん、先生とわたしは別にそんな関係じゃ…」

美月は引きつったように笑う。

「わたしは、ただの編集者ですし…」


「…冷たいな。あの時は僕が帰ってくるのを待ってると言ってくれたのに…」

永瀬はそう言うと大袈裟にため息をついた。


「それは! 先生が復帰なさったら最初の一作目は ぜひうちの出版社で
 書いていただけるようにお待ちしてますって意味で…」

「そんな打算から言っただけなのか…」

「打算なんて!違います、そうじゃありません!
 わたし…わたしはただ 先生に無事に帰って来てほしかったんです!」

美月が興奮して叫ぶと 永瀬はふっと笑った。

「わかってます。ちょっとからかっただけです」

「なっ…!」

「あなたは変らないですね」

「はい?」

「からかうとすぐムキになって面白い」

「ひどい!
 先生こそ変わりませんね!
 相変わらず意地悪で皮肉屋だわ!」

「また怒ってる…」

「先生が怒らせるような事ばかり言うからです!」

「そんなに興奮しないで」

「もう知りません!」

美月はぷいっと横を向くとそのまま立ち上がに席を外した。
そして足早に店から出て行ってしまった。

なぜこんなに苛立っているのか自分でもわからないまま外に出ると
少し歩いて立ち止まった。

夜風はまだ少し肌寒い。

潮風を思い切り吸い込んで、またふ~っと息を吐いた。

胸に手を当てて気持ちを整理し始めた。



…わたしったら…何を動揺してるの

この二年間で先生のことを少しずつ忘れていたはずなのに

久しぶりに先生に会えて嬉しくて…こんなに胸が熱くなった…

どうして、わたしは また…



「大野さん」

その時、背後から名前を呼ばれて 美月はゆっくりと振り向いた。

店の前にあるイルミネーション・ツリーに照らされて 永瀬が佇んでいた。


「…先生…」

「怒って帰ってしまったかと思いました」

「……」

「相変わらず気が短いし思い込みが激しい」

「…またケンカ売ってるんですか?」

「とんでもない。あなたとはまた親しく付き合いたいと思ってますから…」

「え…」

「また以前と同じように 何でも言い合えるような関係に戻りたいと」

「先生…」

「駄目ですか?」

「…先生はやっぱりずるいです」

「え?」

「…そんな風に言われたら…怒れなくなります」

「そうですか?」

「そうです。 
 それから…わたし、間違えてました。
 さっき、先生は以前と変わりないと言いましたけど
 やっぱり…変わったかも…」

「え?」

「…何だか…女性の扱い方がお上手になったみたい」

「そうかな」

「ほら、そんなところ。
 以前の先生なら そんな風にはおっしゃいませんでした。
 それに…」

「それに?」

「さっきは…いきなり抱きしめ、いえ ハグなんかしたりして…」

「ああ…」

「何だかとっても慣れた様子だったわ」

「ああ、すみません。 つい、習慣になってしまって…」

「………」

「ただの挨拶みたいなものですから」


軽く応える永瀬に 美月は言葉をなくしてしまった。

やっ、やっぱり性格が変わったかも…


会話が途切れて辺りが静かになった途端、美月は頬にひやりと冷たい
夜風を感じて、思わずぶるっと震えた。


「…寒いですか?」

永瀬はそう言いながら自分の着ていたジャケットを脱ぐと 
さり気なく美月の肩を包むように掛けた。

「だ、大丈夫です。
 先生のほうこそ寒がりなんですから…」

美月が慌ててジャケットを脱ごうとすると 永瀬は半ば強引に
肩を抱いて彼女を引き寄せた。


「じゃあ、中に入りましょう」

「あ、あの」

「ずっと二人で外にいると勘違いされますよ」

「え?」

「僕はそれでも構わないけど」

「先生!」


永瀬は美月の肩を抱いたまま歩き出したので
美月も一緒に動き出した。

永瀬の逞しい腕と胸が美月の体に触れて、思わず胸が熱くなる。

強い力で引き寄せられて そのまま導かれるように連れて行かれる。

だが、決して不快ではなく このまま身を預けてしまいたいような錯覚に陥る。


…はっ、いけない! 

このままだと先生のペースに巻き込まれてしまう!

もう以前のわたしとは違うの


美月は何とか態勢を立て直そうと思いを巡らせた。

 

「…大野さん」

永瀬は美月の肩を抱いたまま声を掛けてきた。


「また会えて嬉しいです」

「え…?」


美月は驚いて永瀬の方を見上げたが 夜の暗闇に隠れてその横顔は見えない。

なのに美月には永瀬が笑っているような気がした。


美月の抵抗は空しく 永瀬のその言葉や仕草は確実に彼女を惑わせる。



わたしも…先生に会えて嬉しいです ――



美月は何とかその言葉を呑み込んだが 永瀬が無事に帰って来たことが嬉しくて 
口元に笑みが浮かぶを抑える事はできない。


…不意に…いつかのことを思い出した。

真冬のこの海岸で 永瀬に抱きしめられたことを…

 

あの時、美月を包んだ 逞しくて大きな胸とやわらかな温もり…


わたし…まだ覚えてるの?

ううん、そんなことない 


こんな気持ちになるのは きっと この潮風のせいよ……


美月の小さな呟きは 波の音に消されて夜の闇の中に溶け込んでいった……。


 










 

その日の深夜に自宅に戻った美月は 部屋に入るとベッドの上にどさっと寝転んだ。

目を閉じて、顔を両手で押さえて大きく息を吐いた。


「…疲れた…」

しんとした部屋に美月のため息が響く。

その時 バッグの中の携帯電話がバイブで着信を告げる。

こんな時間にかけてくるのは…美月はゆっくりと起き上がり画面を見て
ふふっと笑みを浮かべながら電話に出た。


「…もしもし、航平?」

『うん、美月ちゃん 寝てた?』

「ううん、ちょうど今家に帰って来たところよ。
 航平は? まだ勉強中?」

『うん、実験のレポートをまとめてたところ。
 来週には教授のお供で神戸の学会に行くから、それまでに仕上げないと』

「神戸? 忙しいのね」

『美月ちゃんは? 今日は鎌倉に行って来たんでしょ?
 皆、元気だった?』

「うん、葉子さんと優さんが航平によろしくって。
 また会いたいって言ってたわ。航平は女の人にモテモテね。
 あ、でも 二人とも人妻だからね。わかってる?」

「何言ってるんだか…」


他愛もない話が続く。

だが、美月の脳裏に浮かぶ“あのこと”は 中々言い出せない。


『そうだ、GWはそっちに帰れるかもしれないんだ』

「そうなの? じゃあ、わたしも休めるように頑張らなくちゃね」

航平の嬉しそうな笑い声が耳元で響く。

さっきまでの疲労感がなくなって、やわらかく穏やかに時が過ぎていく。


『早く美月ちゃんに会いたいな』

「航平ったら、一週間前に会ったばかりじゃない」

『それでも会いたい』

「…航平」

『美月ちゃんに会いたいよ』


自分の正直な気持ちを切なそうに言う航平の顔が浮かんで 
美月の胸がきゅっと痛んだ。

もう、隠してはいられない…美月は思わず口を開いた。
 

「あのね、航平」

『うん?』

「…今日ね、 …鎌倉で …その 永瀬先生に会ったの」

『え?』

「一昨日、帰国したんですって。
 今日、小椋さんのお店にちょうど来て…それで…」

『そうなんだ』

「航平が気にするかと思ったけど…その、やっぱり
 黙ってるのも何だか…」

『うん、話してくれて良かったよ』

「え?」

『他の人からじゃなくて、美月ちゃんの口から聞けてよかった』

「航平…」

『…大丈夫だよね?』

「え?」

『永瀬さんのことで、もう揺れたりしないよね?』

「もっ、もちろんよ!
 だって、わたしには航平がいるもの!」

『ホントにそう思ってる?』

「もちろんよ。
 …今のわたしには…航平だけよ」

『うん』

「航平」

『…僕はもう美月ちゃんを離さないから』

「え…」

『やっと僕のものになった美月ちゃんを他の男には渡さない』

「航平?」

『だから よそ見なんて許さない』

「…こう…へい?」

『美月ちゃんは僕のものだ』

「………」


美月は思わず息を止めて携帯を握り締めた。

何か言おうとしても言葉が出てこない。

 


…なんて…ね


突然、沈黙を破るように航平がくすくす笑い出した。


「こっ、航平!」

『ごめん、冗談だよ。 …驚いた?』

「やだっ! もう、そうなの???」

『うん、冗談冗談…』

「もう、酷いわ! 航平ったら怖いんだもの」

『ごめん。
 …でも 信じてるから』

「航平…」

『美月ちゃんのこと信じてるから…』

「うん、わかってる」

『じゃあ、今夜はこれで…』

「うん、レポートがんばってね」

『うん、お休み』

「お休み、航平。…わたしも 信じてるから」

『わかってる…』


航平の屈託のない笑い声が耳元で響く。

いつもの天使の航平が戻ってきた! …のよね?

 


携帯を切った後、美月は は~っとため息をついた。

そして、それを握っていた掌を開くと ぐっしょりと汗で濡れている事に気づく。


…ほんの一瞬の沈黙だった。


なのに…ピンと空気が張りつめたような気がした。


その時、美月は 生まれて初めて航平に対して 言葉では言い表せないような

微かな不安が入り混じった緊張感のようなものを感じていた……。

 

 

 

 

 

 

 


【追記】
お知らせです。
申し訳ありませんが 第6話は来週9/1(火)頃UPの予定です。
今週は29日までに お誕生日創作として短編を一つ
お届けしたいと思います^^
よろしくお願いします。   8/25 aoi 
 


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