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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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遠距離恋愛
「抱きしめたい」の続編。                                                           甘くて切ない三角関係に また新しいメンバーが加わって…
No 7 HIT数 7586
日付 2009/10/07 ハンドルネーム aoi32
タイトル 遠距離恋愛 -6- 面影
本文










-6- 面影

 

 

 

“僕はもう美月ちゃんを離さない

 だから よそ見なんて許さない

 美月ちゃんは僕のものだ”

 

思わず言ってしまった…

永瀬聡が帰国したことは 航平にとって衝撃的な出来事だった。

彼が旅立ってから1年が過ぎて…

やっと…美月から永瀬の面影が消えたと感じ始めていたのに


美月ちゃん… 航平の胸にまた不安がこみ上げてくる。

いつも手の届かない所にいて やっと掴まえた、と思ったら
いつの間にか飛んで逃げてしまう小鳥。

その小鳥は僕の手の中に戻ってきたはずなのに…

 


“今のわたしには航平だけよ”


美月の言葉を思い出した。


“うん、僕も美月ちゃんのことを信じてる”


そう思ってたはずなのに

なぜ、あんな事を言ってしまったんだろう

 

「…美月ちゃん…かなり引いてたような気がする…
 ああ、どうしようーーー!」

航平は後悔で頭を抱えた。

 

 

 


―― 国立K大学 ナノエレクトロニクス研究室

 

マウスを握っていた手の動きが止まる。

航平はPCのモニターをぼんやり見ている。

そのうちに航平の指先は自分の唇をなぞり、瞬きもしない目は
そのままじっと一点だけを見つめていた。

そして 深いため息をひとつをついたかと思えば
見る見るうちに航平の顔は物憂げな表情に変わっていた。


そんな航平に声をかけてきたのは結衣だった。


「こんにちは 桜庭さん」

「え? ああ、結衣さん」」

「レポート進んでますか?」

「え? ああ、何とか間に合いそうです」

航平はそう言うとPCの画面を切り替えた。


「やだ、わたしにまで隠さなくてもいいのに。 
 どうせ読んでもわからないし」

拗ねたように睨んだ結衣を見て 航平は軽く笑いながらPCを閉じた。


「部外者には見せてはいけない規則なので」

「桜庭さんってホントに真面目だわ。
 でも、そういう所が父のお気に入りなのかも。
 …ところで、一緒にカフェでお茶しませんか?」

結衣は航平の腕を取ると、にっこり笑いかけた。

「ね、いいでしょ?
 今日はお友達に桜庭さんを紹介するって約束しちゃったの。
 T大の優秀な研究生で 福山ガリレオより若くて
 かっこいいのよ、って言ってあるの!」

「……」

明るく笑う結衣に航平は驚いて目を丸くする。

「さ、行きましょ!
 たまには息抜きしないと」

「悪いけど 今、そんな気分じゃないんだ」

「何か心配事でも?
 だったらよけいに気分転換しなくちゃ!」


珍しく沈んだ顔をした航平の様子を見て 結衣はますます強引に誘ってくる。

航平は困ったように笑いながらも、ゆっくりと立ち上がった。

 

 

 

「…まつげ長ーい!」

「お肌が艶々ー!」

「足長ーい!」

「キレイな手!」


賑やかな女子大生にぐるっと囲まれて たくさんの賛辞を浴びて
矢のような質問攻めからやっと逃れた時には もうすでに周辺は
夕焼け色に染まっていた。


「…ある意味、気分転換になったでしょ?」

結衣は悪戯っぽい笑みを浮かべながら航平の顔を覗き込む。
 

「そうだね」

航平はくすっと笑い、そして思う。

でも、やはり美月以外の女性には 航平は関心を抱く事はない。

いつも不思議に思う…どうして美月ちゃんじゃなきゃだめなんだろう

ずっと傍にいて 飽きるくらい見てきたのに

それこそ どうひいき目に見ても可愛いとは言えないような
寝起きのボサボサ頭にすっぴんの彼女を何度も見てきた


それでも  やっぱり美月ちゃんが一番なんだ

 

「桜庭さん、また考え事してます?」

結衣に呼ばれて、航平はっと顔を上げる。


「…もしかして、美月さんのこと?」

「え?」

「何だか変です。 今日はずっとぼんやりしてるみたい。
 何か心配事ですか?」

「いや、何もないよ」

「悩みが多そうですね」

「え?」

「遠距離恋愛って大変そう。
 わたしには出来そうもないです」

「どうして?」

「だって …わたしなら 好きな人の傍にいたいもの。
 遠く離れていたら その人の本当の気持ちなんてわからないから」

「……」

「きっと、すぐに会いに行くだろうな」

「え?」


航平はまるで何か発見したような驚きの表情を見せた。

そしてゆっくりと空を見上げた。

切ないほど美しい茜色の空が目に沁みて 思わず目を細めた。

 

「…だから…ね、桜庭さん 遠くにいる人より近くにいる…」


「ありがとう、結衣さん!」

結衣の言葉を最後まで聞くことなく 航平は叫んだ。


「え?」

「そうだよね! 会いたいと思ったら会いに行けばいいんだよ!」

「はい?」

「ごめん、急用が出来たから ここで失礼するよ」

「え?」

「じゃあ」


航平はそう言ってにっこり笑うと すぐに駆け出した。

真直ぐに背筋を伸ばした綺麗な背中が 若々しさと喜びで満ちている。


「え……?」

後に残された結衣は唖然としていた。

そして 両手で顔を押さえたまま声を上げた。


「…わたし、もしかして余計な事言ったーーー???」


その時は もうすでに航平の姿は跡形もなく消えていた……。

 

 

 

 

 

― 私立K大学 三田キャンパス

 

「おー! やっぱり今どきの学生は違うわね!
 華やかでキャピキャピしてるじゃない?」


はるか遠い昔に女子大を卒業した 夏目小枝子は声を上げて喜んだ。

彼女は作家で 現在、S出版の月刊誌に小説を連載中である。


「大野さんもあんな感じだった?」

ゆるふわヘアを風になびかせて、鮮やかな色のミニスカートをはいた女子大生を見て
小枝子は美月の方を振り返った。


「そんな、違いますよ!
 わたしは勉学に励む地味な学生でした」

美月は笑いながら否定すると構内を懐かしそうに見渡した。

「…子供の頃から小説家になりたくて、学生の時は何度も出版社に投稿なんかして…
 結局、才能が無いのだと諦めて…でも、本が好きだったから 
 その関係の仕事がしたくて 頑張って出版社に入ったんです」


「あらあら、随分、あっさりと諦めちゃったのねえ。
 わたしなんて、雑誌に自分の小説が載ったのが35歳の時だったのよ。
 それまで何度、原稿をボツにされたか!
 おたくの編集長にも数え切れないほどダメ出しされたわ」


「そうなんですか…」


「いつか作家になって見返してやるんだと まあ、負けず嫌いだったからね わたしは」


「編集長とは長いお付き合いなんですね」


「そうね、作家の卵と編集者 いわゆる相棒って関係かな」


「相棒…」


その時、美月の脳裏には永瀬の顔が浮かんでいた。

以前、永瀬先生の担当だった頃 わたしは彼の相棒だと言えるほど
熱心な編集者だったかしら?

永瀬先生の書く小説が好きで、憧れて、もっと素敵な小説を書いて欲しいと
一生懸命やってたつもりだったけど
先生が書くことに悩んで行き詰ってた事には気づきもしなかった。

結局、わたしは先生の表面的な部分だけしか見ていなかった。

わたしは編集者として失格だわ。


「…大野さん? どうかした?」

「あ、いえ なんでもありません、
 では、先生 早速 構内の視察にいらっしゃいますか?
 講義室とか研究室も大学の許可を取ってありますから大丈夫ですよ。
 あと、図書館、談話室、学食とかも」

「学生や教授の話も聞けるかしら」

「あ、はい。聞いてみますね。
 わたしは文学部だったので そちらなら知ってる先生もいらっしゃいますから」
 
「助かるわあ、何しろわたしが大学に在籍していたのは遠い昔のことだから。
 今のキャンパスの雰囲気を直に感じたいのよ」

「はい」


美月はにっこり微笑んだ。

思えば、この夏目小枝子も もう一人 美月が担当している新人作家の川島えり子も
そして あの永瀬聡も 小説の舞台となる場所は必ず自分の目で確かめていた。

プロなら当然のことなのかもしれないが、その細やかな作業が
物語にリアリティと臨場感を与えているのは確かだった。 
 
豊富な知識と経験、そして物事を探求する好奇心
作家はいつも小説を読んでくれる読者のことを考えて過ごしている。

自分はそんな作家達のアシストをするのが仕事なのだと思う。


「夏目先生」

「うん?」

「わたし、これから もっと頑張りますから
 先生もたくさん小説を書いてくださいね」

「はいはい。わかってるわよ」


小枝子は面白そうに笑うと 美月の顔を覗き込んだ。

「どうしてかしらね、あなたの顔を見ると何だか元気になるの。
 それって天性の才能なのかも。不思議な魅力があるわ」


「え…」

思いがけない小枝子の言葉に美月は驚いて見つめ返した。


「今まであなたが担当した作家も 同じように感じていたかもしれないわね」


「……」

美月は何と答えていいのかわからなかった。


「さっ、行くわよ!
 まずは、構内をぐるぐる回って…教授棟にも行ってみたいわ」


小枝子は張り切って声を上げた後、スタスタと歩き始めた。

はっと我に返った美月は 彼女の後を追いかけるように足早に動き出した。

 

 

 


「はい、結婚式の招待状よ。
 可愛い航平君と一緒に来てね」

待ち合わせしたカフェに着くなり 友人の麻美は美月に白い封筒を手渡した。


「わあ、もう出来たのね!」

美月はぱっと顔を輝かせると封筒の中からカードを取り出した。


「“Special Announcement”…麻美ってば本当に結婚するんだ…
 何だか信じられないわ」

美月は クラシカルな薔薇模様が装飾されたカードを開きながら呟いた。


「ふっふっ、お先にね~、美月!」

「ジューンブライドなのよね。…でも、なぜ 航平も?」

「可愛くて若い男の子がいると みんな喜ぶでしょ?
 何たって招待客の多くは ほとんどがアラサーの独身女性なんだもの」

「……」

「そこに航平君をぶち込んだら…ちょっと恐ろしい気もするけど
 でも、結婚式に天使の彼がいるだけで その場が和むのよ~!」

「天使の航平…」

「いつもニコニコしてて、穏やかで 癒し系なのよね、彼は。
 あ~ん、もう可愛いーーー!
 美月一筋じゃなかったら押し倒してたかも~!」

「そんなこと言っていいの?
 フィアンセの高城さんが嘆くわよーー!」

「大丈夫よ。
 彼には航平君は美月の婚約者だって言ってあるもの」

「まだ婚約してないわ」

「そうよ! だから、早く婚約して結婚しなさい!」

「…そうね」

「まったく、いつまで焦らすつもりなの!
 いくら航平君が優しいからって 待たせてばかりじゃ…
 ……え? あれ? 美月、今 何て言った?」

「…うん、そろそろ…航平に言ってみようかな
 わたしと結婚してって…」

「え?やだっ、ついに美月もその気になったの?」

「麻美があまりにも幸せそうだから羨ましくなったのかも」

穏やかに笑う美月を見て 麻美は目を丸くした。


「本当に? だって今まで 周りが結婚しても平然としてたじゃない」

「それは…きっと心のどこかで安心してたからかもしれない。
 わたしには航平がいるって…
 いざとなったら わたしを助けてくれる強い味方だって…」

「美月ったら」

「航平は優しくて、わたしが何をしても許してくれるって思ってた。
 でも、違うの。 航平は天使みたいに可愛いけど それだけじゃない…」
 

美月はそこで言葉を止めると紅茶を一口飲んだ。


「…航平も男なのよ…」

「…もしかして、何かあった?」

「うん…実は…」


美月は麻美に顔を近づけると 永瀬が帰国したことから話し始めた……。

 

 

 

 


“まあー、あの航平君がそんなこと言ったの?
 あんな顔して…意外と熱くて激しいのね!
 …でもっ、可愛いーー! 本当に一途なんだわ!”


興奮して顔を輝かせながら麻美は叫んだ。

 

「…そうよ、航平はごまかしてたけど
 あの言葉は本心だったのよ」

美月はそう呟くと顔を上げた。

カフェで麻美と別れた後 自宅に帰って来た美月は隣の桜庭家を眺めた。

当然ながら 航平の部屋は明かりも点いてなくて真っ暗なままだった。

今にも航平がベランダに出てきて “美月ちゃん!”と呼んでくれるような
気がした。


…そんな事 あるわけないのに…


美月は諦めたように笑うと 小さくため息をついた。


…わたしは 仕事も航平のことも中途半端なままなのに…


でも… 航平に会いたい…

 

 

美月は どうしようもなく寂しくなってしまった。

そして、沈んだ気持ちのまま自宅の玄関の扉を開けた。


「ただいま…」



「お帰りー! 美月ちゃん!!!」

 


突然、明るく弾むような声とともに 美月は大きな胸の中に閉じ込められた……。

 

 

 

 

 

 

 


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