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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
サークルオーナー: aoi32 | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 297 | 開設:2008.03.05 | ランキング:100(3927)| 訪問者:1353944/1891185
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遠距離恋愛
「抱きしめたい」の続編。                                                           甘くて切ない三角関係に また新しいメンバーが加わって…
No 9 HIT数 7690
日付 2009/10/07 ハンドルネーム aoi32
タイトル 遠距離恋愛 -8- 約束
本文







-8- 約束

 

 

 


え……?


パッチリと…航平は目を開けると、一瞬 美月を見上げたが
すぐに ふっと息を漏らしてまた目を閉じた。


「航平?」


「…何かすごい聞き違いをしてしまった」

航平はぼそっと呟くと苦笑した。

「…おかしいな、まだ疲れてるのかな。
 ああ、そうか。美月ちゃんの膝の上で寝てるから…これは幻聴だね」


こんなこと絶対にありえないと否定しながら なぜか…体も心も震えてくる。


「…聞き違いじゃないわ」

美月の細い指が震える航平の瞼にそっと触れる。


「わたしを航平の奥さんにして…って 言ったのよ」


「え!」

航平は慌てて飛び起きると 美月の目の前に座り彼女の顔を覗き込んだ。


「航平」


「はっ、はい!」


「前に言ったでしょ? わたしがプロポーズしたら
 航平はすぐに“YES”って答えなきゃいけないって」


「え?」


「返事は?」


「え?あ、あの!」


「…航平ったら かなり焦ってるわね…」


「え?だっ、だって…」


「可愛いね、航平は」


「美月ちゃん、本当に…本気?」


「うん」

美月はにっこり笑うと航平の首に両手を回しぎゅっと抱きしめた。

 

「…美月ちゃん?」

戸惑う航平の手が美月の背中をそっと押さえる。

 

「わたしのお願いを聞いてくれるわよね?」


「…うん」


「良かった…」


「…でも、美月ちゃん…」


「なあに?」


「…本当に、本当に…僕と結婚してくれるの?」


「わたしがプロポーズしてるのよ」


「…美月ちゃん」


今、目の前で起こっている事…航平の胸の中にいる美月のやわらかな体の感触や
耳元で囁く涼やかな声が 夢でも幻聴でもなく現実の出来事なのだと
航平はやっと実感し始めていた。


…どうしよう、泣きそうだ…


思わず航平は 美月をきつく抱きしめた。

今まで何度も何度も美月を抱きしめてきた。

自分でも呆れるくらい美月を抱きしめて、愛の告白をして、キスをして…

でも、まだ足りなかった

いつも美月を求めていた

 

「…航平…」

背中に回した美月の細い指が 航平のシャツをぎゅっと掴んだ。

 


…愛してるわ 航平…


目を閉じたまま…航平は美月のやわらかな求愛の言葉を聞いていた…。

 

 

 

 


「…本当なの?航平君」

母の美沙子は目を丸くして二人を見ている。

その隣にいる父の亮一も口をぽかんと開けている。


「はい! ついに美月ちゃんが承諾してくれましたー!
 そうだよね? 美月ちゃん」

航平は元気に言うと美月ににっこりと笑いかけた。


「うん」

美月は照れ笑いをすると恥ずかしそうにうつむいた。


「まあ、まあーー! おめでとう~!
 良かったわね、航平君!
 おばさんも嬉しいわあ!!!」


「はい! おじさんとおばさんの応援のおかげです!
 ありがとうございました!」


「まあ、航平君ったら~」

「良かった、良かった」

美月の両親は航平の素直な言葉にじ~んと感動している。

相変わらず彼らには受けが良い好青年、航平なのだ。

だが、そのうちに母の美沙子がふと思いついたように呟く。


「…でも、美月 どうして突然、その気になったの?
 だって今までひと言も…  …あ…  まさか…?」

美沙子は驚きのあまり声を上げそうになったが 慌てて口を押さえた。


「…お母さん?」

美月はきょとんとして母親を見る。


「みっ、美月、あなたまさか…おめでた…じゃないわよね?」

「はあ?」

「赤ちゃんができたから結婚するとか?」

「何だって!そうなのか? 美月!」

「みっ、美月ちゃん そっ、そうなのーー?」

「ちょっ、ちょっと! 何言ってるのーー???」

「できちゃった結婚、いえ 最近はおめでた婚っていうのよねー!」

「どうなんだ、美月! 本当なのか?」

「違うわよ! にっ、妊娠なんてしてないったら!」

「美月ちゃん?」

「本当なの、美月?」

「本当よ!そんなんじゃないわ!」

「美月?」

「…その、この前 京都に行ってから そんなことを考えるようになって
 …だって 航平ったら本当に一途で可愛くて…でも頼れるところもあって
 一緒に幸せになれたらいいなって…」

「美月ちゃーん!」

今度は航平が感動して、夢中で美月を抱きすくめた。


「こっ、航平、やめなさいっ!」

「美月ちゃん、大好きだよーー!」

「はっ、離しなさいってば!」

「美月ちゃーん!」


じたばた暴れて抵抗している美月を 航平はがしっと掴まえて抱きしめている。

 

「まあまあ、仲良いわねえーー!
 そうだわ、お隣にも知らせないと!
 孝子さんもきっと喜ぶわあ!」


美沙子は手を合わせて興奮したように言った。

 

 


……………


   ……………

 

 

美月と航平は駅までの道を歩いていた。

朝の通勤時間帯のせいか 歩道を急いで歩く人々が多い中、
航平は美月と手を繋いだまま離さない。

美月が気恥ずかしさで困ったように航平を見上げると
彼はふわりとやわらかな笑みを浮かべて見つめ返してくる。

嬉しさと喜びでいっぱいの天使の笑顔が眩しくて 美月もつい笑ってしまう。

 

「…すごい騒ぎだったわね」

美月はさっきまでの出来事を思い出してくすっと笑った。


「うん、このままだと 今度帰って来た時には結婚式になるかもね」


美月の手を握る航平の手にぎゅっと力が入る。

このままだと航平にまた抱きしめられてしまうかも…

こんな公衆の面前でーーー???

そんなことを考えるだけで顔が火照ってくる。


「ね、航平 どこかでお茶しない?」

美月は自分の妄想で勝手にドキドキしている気持ちを抑えようと
航平を見上げた。


「え? でも仕事は?」

「遅くなるって連絡するから大丈夫。
 あ、でも 航平は急いで戻らないとダメ?」

「いや、まだ少し時間はあるよ」

「良かった」


もう少し一緒にいたいのよ…美月は声を出さずに唇を動かした。

航平は照れたように笑うと 静かに頷いた。

 

 

 

美月の両親への報告の後、母の美沙子が隣の航平の家へ駆け込むと
その話を聞いた航平の両親は歓喜とともに興奮しながら大野家へやって来た。

美月ちゃん、本当に航平のお嫁さんになってくれるの???
航平の母、孝子は信じられないように叫んだ。

良かったな、航平。美月ちゃん、ありがとう!
いつも温和な父、洋も珍しく気分が高揚しているようだった。


大喜びの親たちに囲まれて 皆一緒に朝食を取りながら
結婚式の具体的な話になったのは言うまでもない。

 

「やっぱり お式は航平君が帰ってきてからよね」

「そうね。でも、その間に美月ちゃんの気が変わったらどうしましょう。
 それが心配なのよね」
 
「そうだわ、すぐお式だけ挙げて、少しの間だけ別居するっていうのはどう?
 週末になったらどっちかが会いに行けばいいんじゃない?」

「それじゃ航平君が気の毒だ。
 美月が仕事を辞めて京都に行けばいいんじゃないか?」

「おじさん、美月ちゃんが仕事を辞めることはないです」

「航平…」

「それに美月ちゃんが結婚するって言ってくれただけで
 今は充分です」

「航平君ったら…何てけな気なの。
 でも、ね 美月はいまいち信用できないから
 さっさと婚約、入籍しないとだめよ!」

「お母さん! それが実の娘に言うことなの???」

「だって美月ったら航平君の優しさにつけ込んで、きっとやりたい放題に…」

「やだ、わたしそんなことしないわよ。
 航平を立てて、尽くして、優しくしてあげるもの」

「…美月ちゃん…」

「美月ちゃん、素敵! 
 綺麗なうえに性格も良くて…航平は幸せ者ね!
 …やだ、航平ったら感動して固まってるわ」

「孝子さんったら、美月のことを買い被り過ぎよ。
 この子の言う事をそんなに信用しちゃだめよ」

「お母さん!
 もしかして、この結婚をぶち壊そうとしてるのー???」

「あ、あら そんなことは…
 お母さんはただ 薄情な美月が航平君に愛想を尽かされないかと…」

「おばさん、そんなことは絶対にありませんから!」

「航平君ったら本当に良い子ね~」

「ちょっと、お母さんったら態度が違い過ぎー!」

「だって、美月はもうすぐ30なのにそんな気配すらなくて
 それが航平君と結婚するなんて…こんな可愛い息子ができるのよ!
 お母さんはもう嬉しくて嬉しくて…
 ありがとね、航平君!  …うっ…」

 

 


「…何も泣くことはないのに…」
 
美月は興奮して嬉し涙を流していた母を思い出してぼそっと呟いた。

そして、温かいミルクティーを一口飲んで、ほっと小さく息を吐いた。

お節介で、うるさくて、賑やか過ぎて、うっとおしい気もしないではないけど
皆が喜んで、祝福してくれて…こんな幸せなことはないわよね…


「…美月ちゃん?」

ずっとうつむいたまま黙っている美月に航平が声をかけると
美月は顔を上げて航平を見つめた。

 

「…航平…」

「うん?」

「これからのことは二人で考えて決めていこうね」

「うん」

「お父さんが言うとおり わたしが仕事を辞めて京都に行けば
 一番良いのかもしれないけど…でも、わたしは仕事を続けたいの。
 結婚してって言ったのは わたしなのに…我儘よね。
 ごめんね 航平」

「わかってる。
 さっきも言ったけど、僕は美月ちゃんがその気になってくれただけで
 すごく嬉しいんだ。
 今までの不安がどこかに飛んで行ってしまったみたいで
 何だか安心して…幸せな気分なんだ」

「航平…」

「単純なのかな、僕は」

「…そんなに嬉しいの?」

「うん」


航平はそう言うと照れたようにうつむいた。

 

…………


かっ、かわいい、かわいい、可愛いわー、航平ったら!

そんなに喜んでくれるなんて…

そうよね、航平は昔からわたしのことを…

本当に素直で可愛くて一途で…


「…まずいわ」

美月ははっとして両手で口を押さえた。


わたしったら、昨日からずっと航平のこと可愛いって思ってる

これじゃ、まるで…母親みたいじゃない?

あれ、いつだったか誰かに同じ事を言われた…?

…思い出せない…

いえ、そんな事より わたしってこんなに母性本能が強かった?

 

 

「美月ちゃん、どうしたの?」


戸惑い、慌てる美月をよそに航平はにっこり微笑みかけてくる。


「あのね、航平。
 その…わたし 一生懸命な航平を見て すごく感動して
 それで結婚したいと思ったの。
 でも、まだその後のことは何も考えてなくて」


「だから、これから二人で考えるんでしょ?」


「え?」


「さっき美月ちゃんもそう言ったじゃないか」


「あ、うん」


「結婚の時期とか、美月ちゃんの仕事のこととか…
 僕もこっちに戻って来てからのことを考えるし
 今のままじゃ生活していけないのはわかってるから」


「それは、大丈夫よ。
 わたしが仕事してお金を稼いで、航平の一人や二人養ってあげる。
 だから航平は研究に励むのよ」


「そんなの嫌だ」


「その代わり、いつか凄い研究をしてお金持ちになったら
 セレブな暮らしをさせてね」


「美月ちゃん…」


「だって、ほら 住む所はうちの実家でいいんだし
 何たって家賃はタダなのよーー。
 …あ、でも 航平が窮屈な思いをするのはかわいそうかも…」

美月は一瞬、気の毒そうな顔をするが すぐに明るく笑う。


「でも、航平はわたしより大事にされるに決まってるから
 大丈夫よね?」


根っからお気楽な性格の美月は楽しそうに頷いている。

その明るい笑顔につられて航平も笑い出した。


「…美月ちゃんて、ホントに…」


「え?何か言った?」


「いや、何でもない」


「そう? じゃあ、そろそろ行きましょ。
 東京駅まで送って行くからね」


「え、本当に?」


「さっき、編集部には遅れるって連絡しておいたから大丈夫よ」


「そうなんだ」


「でも、新幹線のホームで見送りするのは寂しいかも…」


「美月ちゃん!」


またまた感動した航平はイスから立ち上がると
美月の手を引いて抱き寄せた。

そして、ぎゅっと抱きしめた。


「こっ、航平?」


「美月ちゃん、大好きだよ」


「……」


やっぱり…こうなるのよね


抵抗する気もない美月は 航平の大きな胸の中でゆっくりと目を閉じた。

安心して身を委ねることができる場所。

それは今までも、そして これからもずっと…


美月は幸せそうに微笑むと 航平の背中にそっと手を回した……。

 

 


東京駅の新幹線ホームで また航平に抱きしめられた美月は
じゃあ またね、と耳元で囁いた。

一瞬、寂しそうな表情を浮かべたが すぐにぱっと花が開いたような笑顔を向ける航平に
美月は思わず胸が熱くなった。

そして、名残惜しそうに見る航平に 5月の連休までもうすぐでしょ?と言い聞かせて
美月は航平を見送った。

 

 


「わあ、もう一時間も過ぎてるーー!」

美月は腕時計を見ながら急いで会社に駆け込んだ。

一階のエントランスホールに入り、途中で足を止める。


「え……?」


美月が声を上げると、受付の所にいた人物がゆっくりと振り向いた。


すらりと長身で その端正な立ち姿だけで すぐ誰かとわかる人物…

 


「…永瀬先生…」

 

あまりにも驚いた美月は その場から動く事ができなかった……。

 

 

 

 



* * * * * *

読んでいただいて ありがとうございました。
次回はちょっと遅れます m(__)m


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