「今日はね、お洗濯して、お掃除して、お庭のプランターに花の種をまこうかと思って。
…それから、報告書の作成、もう少しで終わるのよ」
ジニョンは一つひとつ、思い出すように言った。
「じゃあ、ひとつ提案があるんだけど」
ドンヒョクは真剣な顔をして言った。
「え?」
「洗濯と掃除はハウスキーパーに頼んで、
花の種をまくのは、今度二人が休みの時に一緒に。
だから君は、報告書の作成を午前中に終わらせる」
「え?」
「そして、今日のランチは僕と一緒にどう?」
ドンヒョクはにこやかに言う。
「…また、そうやってわたしを甘やかすのね?」
「だめかな?」
「……」
「ひさしぶりにジニョンとランチデートしたいな」
「……」
「だめ?」
ドンヒョクはジニョンの顔を覗き込むように言った。
「…わかったわ」
ジニョンはすぐに負けてしまう。
…そんな目で見つめられたら、嫌なんて言えないじゃない
ああ、もう少しこの人に負けないくらいの強さが欲しい
「ジニョン?」
「あ、はい」
「じゃあ、正確な時間はわからないから、お昼ごろオフィスに来て」
「…オフィス…」
ジニョンは一瞬、緊張した。
「…ジニョン、言っておくけど、この前みたいに
僕が忙しそうにしてても、途中で帰らないで」
「…あ」
「絶対に帰らないで」
「ええ、わかったわ。
…でも、ドンヒョクさんが すごく怖い顔してたら帰っちゃうかも」
「……」
「嘘よ。怖い顔してても素敵よ、ドンヒョクさん」
ジニョンはにっこり微笑んだ。
ドンヒョクも一瞬にして顔がほころんだ。
ジニョンは立ち上がると、椅子に座っているドンヒョクを後ろから抱きしめる。
「仕事の時のクールでポーカーフェイスのあなたも好き。
わたしといる時の優しくて甘いあなたも好き」
ジニョンは彼の耳元で囁き、彼の頬にそっとキスをした。
「……」
ドンヒョクはすっと立ち上がると、ジニョンをぎゅっと抱きしめた。
「ドンヒョクさん?」
「ジニョン、どうしよう。仕事なんか行かないで
ずっとこうしていたいよ」
「…だめよ、そんな事…」
「ジニョンがいけないんだ」
「わたし…?」
「僕を誘惑するから」
「え?」
ドンヒョクはジニョンの唇をふさぐ。
いつものキスより激しく情熱的なキス。
「…ドンヒョクさ…」
ジニョンに何も言わせないようにまたキスをするドンヒョク。
「…ん…」
ジニョンもそれに応えるように彼の首に両手をまわす。
ドンヒョクはそれがサインだと気づいたかのように
ジニョンのTシャツの裾から手を滑り込ませた。
そして 彼の大きな手が彼女の胸のふくらみを包み込む。
「あっ…」
ジニョンの体が一瞬びくっとする。
「だめ、ドンヒョクさん」
ジニョンは真っ赤になって抗議する。
「何が?」
ドンヒョクはまたキスをする。
「…だって…」
キスの合い間にジニョンがつぶやく。
「だって…?」
彼は彼女の首筋にキスを重ねていく。
彼の熱い唇にジニョンは痺れたような感覚におちいる。
「…だって、もう出かける時間…」
ジニョンの声がだんだん小さくなる。
「それで…?」
「…遅刻しちゃうわ…」
ドンヒョクはまた彼女の唇をふさぐ。
あふれる情熱のままに激しく求めるようなキス。
ジニョンは体が震え、もう立っていられないような気がした。
何も考えられないほど頭がくらくらする。
ドンヒョクは、すっかり抵抗力がなくなったジニョンを軽々と抱き上げると
寝室に向かった。
ジニョンの瞳はもう少しで涙がこぼれ落ちそうなほど潤んでいた。
ドンヒョクはそんな彼女の顔を覗き込み、ふっと笑い
彼女のおでこにキスをした……。
―
…何もなかったようにシャツを着るドンヒョク。
しなやかな手でブルーグレーのネクタイをすっと締め、ジャケットを着る。
そして、ベッドにうつ伏せで寝ているジニョンの白い肩にキスをする。
「じゃあ、行ってくるよ」
「…行ってらっしゃい…」
ジニョンは恥ずかしさで目を合わせられない。
「オフィスで待っているから、ちゃんと来るんだよ」
「…そんなにわたしと一緒にいて飽きない?」
ジニョンはうつ伏せたまま、顔を反対側に向けて言う。
「飽きない」
即答するドンヒョク。
「…本当に?」
「一年365日、一緒にいてもぜんぜん飽きない」
きっぱり言うドンヒョク。
「……」
「ジニョンは? …もう飽きちゃった?」
ジニョンはすぐに首を横に何度も振った。
そして、やっとドンヒョクの方を見た。
二人は見つめあって微笑んだ。
「…今日は遅刻ね? ドンヒョクさん」
ジニョンは悪戯っぽく笑った。
「…仕事に遅刻したのは、今日が初めてだ」
ドンヒョクは、シャワーでまだ少し濡れている髪をかきあげ
やわらかく微笑んだ……。