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aoiルーム
aoiルーム(https://club.brokore.com/hollyhock)
aoi32の創作ストーリーを集めたお部屋です。 どなたでもご覧いただけます。 どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。
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君が好き
いつも思っていた  映画やドラマのような恋がしたい…                                                     そんな莉子の甘く切ないラブストーリー
No 17 HIT数 4671
日付 2010/07/20 ハンドルネーム aoi32
タイトル 君が好き -17(終)- アクアマリンの夏 前編
本文

君が好き -17(終)- アクアマリンの夏 前編

 

 




“雨は自分が大切だと思う人を どこかに連れて行ってしまう”


悲しそうな顔をした崇史が莉子を見つめていた。

 


そんなことない… 誰も崇史さんから離れたりしない


わたしも ここにいるわ


だから 早く帰って来て 


ずっとここで待ってるから


だから… 早く わたしの元に帰って来てね… …

 

 

 


「莉子… 莉子… …」

 


ぼんやりした意識の中で 名前を呼びながら誰かが体を揺り動かしていた。


重い瞼を開くと そこには心配そうに覗き込んでいる崇史の顔があった。

 


「…崇史さ…ん? 帰って来たの?」


莉子は弱弱しい声で訊くとほんの少しだけ微笑んだ。


「うん、遅くなってごめん」


「ううん、良かった… 帰って来てきてくれて…」


莉子は控え目に微笑むと手を伸ばして 崇史の首に手を回して抱きついた。


そんな甘えるような莉子の仕草に 崇史も口元をほころばせながら 
彼女の華奢な背中に手を当てて、その体をゆっくりと起こした。

 


「莉子?」


触れ合った莉子の頬が いつもより熱いような気がしたが
莉子は崇史の肩を抱きしめたまま話を続けてくる。


「生徒さんは見つかったの?」


「うん、何とかね。 同じクラスの友人の家にこっそり隠れていて…
 その生徒の親は気づかなかったらしい。
 学校の期末テストと塾の模擬試験の結果が悪くて、親に叱られるのが嫌で
 帰れなかったと言ってた。
 いろいろ話をしてるうちに落ち着いてきたから 自宅まで送り届けてきた。
 ご両親とも話し合いをするように勧めたから もう大丈夫だと…」


崇史は莉子を胸の中で抱き留めながら それまでのことを話した。

 


「良かった…」


莉子は安心したように言うと深く息を吐いた。


「うん、それは良かったんだけど… 
 …莉子は? もしかして、どこか具合が悪いんじゃないか?」


「え…」


「いま、帰って来たら 莉子がぐったりしてたから…
 熱があるんじゃないか?」


崇史はそう言うと、抱いていた手を解いて 莉子の額に手を当てた。


外から帰って来た崇史の手はひんやりとしてて 莉子は気持ち良さそうに
目を閉じた。


「…やっぱり熱がある。 
 莉子、とにかく横になって… 少し休んで」


崇史はゆっくりと莉子をベッドに寝かせると その体にダウンケットを掛けた。


「…えっと、体温計はどこだったっけ…
 それと…薬  莉子、アレルギーは? 莉子? 大丈夫?…」

 


…大丈夫よ… 


でもね… 少し眠いから… ちょっとだけ寝かせて…ね…

 


次第に薄れていく意識の中で 莉子は崇史の声を聞いていた。


以前、どこかで聞いた声と同じ… 

 


“大丈夫ですか?”

 


…そうだわ… あの結婚式の夜…


酔ったわたしを送ってくれた崇史さんが 何度もわたしに声をかけてくれた…

 


あの時から… 初めて会った時から わたし… あなたに迷惑ばかりかけてる


ごめんなさい 崇史さん 


わたしを許して…   


しょうがないな… そう言って 笑って許してね… …

 

 

 

 

 


再び莉子が目を覚ました時には すでに部屋の中は明るくなっていた。


窓越しに眩しい光が差し込み 昨夜から降り続けていた雨も止んで
すっかり晴れ渡っていた。


目を開けた莉子の頭はまだぼんやりしていたが、気だるい感じは
さっきよりも軽くなったような気がした。


「…そうだわ… 会社…」


その時になってやっと仕事のことを思い出した莉子は 慌てて起き上がったが
ふらっと目眩がして頭を押さえた。

 


「あら、目が覚めた?」


突然、声がしたので見上げると 崇史の母 早智子が部屋の中に入ってきた。


「え?…おば様…?」


「もう少し寝てたほうがいいわ」


「あの、どうして…」


「崇史にね、頼まれたの。あなたが熱を出して寝てるから様子を見に来てくれって」


「え?あの…」


「本当はね、あの子 自分で看病しようかと思ったらしいんだけど
 今日はどうしても休めないからって…
 …良かった、熱は下がったみたいね。 …何か飲む?喉が渇いたでしょ?」


早智子は莉子の額に手を当てると優しく微笑んだ。


「いえっ… あの、わたし すぐに会社に行かないと… 何の連絡もしてないので!」


「大丈夫よ。それなら崇史が俊に連絡して、由希さんから上司の方に伝えてもらえるように
 頼んでたから。 こんな時、親戚に同僚がいると安心だわね。
 だから今日はゆっくりお休みなさいね」


「崇史さんがそんなことまで…」


「ふふっ… 崇史ったら、なかなか頼りになるでしょ? 
 細かいところにもよく気がつくし…」


「はい…」


「普段はぼ~っとしてるのに、莉子さんのこととなると別人みたいにしっかりして
 行動的になるのよね。 そうでしょ?」


「え? あの…」


「あ、いけない。こんなこと言ったらまた熱が上がっちゃうわね」


「い、いえ そんなことは…
 あの… それより、すみません。またご迷惑をかけてしまって…
 お店のほうは大丈夫ですか?」


「大丈夫よ、いつも手伝ってくれてる人と 今日はアルバイトの子もいるから」


「あの、わたし…もう大丈夫ですから、おば様もお店に戻ってください。
 わたしも…自分の部屋に帰ります」


考えてみれば、自分の息子の部屋で寝込んでいる莉子を看病するなんて
崇史の母親にしてみれば複雑な気分だったろうと、莉子は申し訳なく思った。


そして、初めて会った時も 今回も迷惑をかけてしまったことに
莉子は自分が情けなくて、次第に気分が落ち込んできた。

 

「…ほんとうに… すみません…
 わたし… おば様にも崇史さんにも迷惑かけてばかりで… ごめんなさい」


莉子は今にも泣きそうな顔で言うと そのまま、うつむいてしまった。


「あらあら… そんなことないわ。 わたしはね、莉子さんに感謝してるの。
 あなたのおかげで 今までよりずっと崇史に近づけたような気がするの。
 今日みたいにわたしのことを頼ってくれるようになったし…
 だから嬉しくてしかたがないのよ」


崇史の母はそう言うと、慰めるように莉子の方に手を置いた。


「…おば様…」


「きっと、崇史もあなたに頼られて嬉しいと思ってるはずだわ。
 莉子さんのことも頼りにしてるし…
 そんな風に信頼し合ってる二人はステキだと思うわ」


早智子の優しい言葉に 莉子は胸がいっぱいになって何も言えなくなってしまった。

 


…本当に そんなふうに、わたしは崇史さんの役に立っているのかしら?


自分の気持ちばかり押し付けて あなたの負担になってないかしら?

 


そんなことを思いながら 莉子は窓際のテーブルの上に目を留める。

 


そこには 多分、崇史の母が持って来たに違いない 明るく軽やかな
レモンイエローのひまわりの花がキラキラと輝きながら咲いていた……。

 

 

 

 












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