とはいえ、彼も非常に疲れていたため、多少気味悪かったけれど、仕方なく、エレベーターのボタンを押すことにしました。
ボタンを押して待っていると、途中8階で止まり、エレベーターは1階に戻ってきました。
扉が開くと、小学生くらいのちいさな少女とまだ若いお母さんらしき人がスゥっと出てきました。
彼はこのとき、この二人に対しても薄気味悪さを感じていたのですが、とにかく疲れていたため、エレベーターに急いで乗り込み、15階のボタンを押しました。
薄明かりのエレベーターの天井をしばらく見詰めながら、目的階到着の音と共に、彼はすぐさま目の前の家のドアに手を伸ばし、鍵を開けようとしました。
すると、足元に何か突っかかるものがあることに気付き、視線を落とすと、大小の赤い靴が二足並べて置いてありました。
吃驚して思わず、彼はその場にしりもちをついてしまいました。
恐らく、先ほど1階ですれ違った親子に相違ないですが、そんなことを深く考える暇もなく、急いでドアを閉めました。
「今日はこれ以上考えるのは止めよう」とベッドに横たわり、頭から毛布を被って眠ろうとしました。
それからしばらくして、ハッと目を覚ますと、まだ夜中で、布団の隙間からチラッと時計を見ると夜中の3時過ぎでした。ほとんど眠れていないことに苛立ちつつも、妙にはっきりとした意識の中で、エレベーターですれ違った親子のこと、15階に並べてあった二足の赤い靴のことなど考え始めました。
すると、「パタ、パタ」「パタ、パタ」と玄関の方で足音が聞こえてきました。
そして次第に足音は大きさと速さを増し、彼の方に近づいてきました―(つづく)
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