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Milky Way Library
Milky Way Library(https://club.brokore.com/sunjyon)
「Hotelier」にインスパイアされた創作(written by orionn222)の世界です
サークルオーナー: Library Staff | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 732 | 開設:2008.11.22 | ランキング:51(8198)| 訪問者:141276/418687
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Imagination
Cottage
Private
Congratulations
Gratitude
容量 : 39M/100M
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Happy Birthday


こちらは1月から12月まで、それぞれの月生まれの方へ、お誕生日のお祝いとして創作したお話のお部屋です。
季節ごとのシンファミリーのお話やら、ソウルホテルへいらしたお客様のお話やら、なにやらいろんな色をした
ビー玉がころころあちこちに転がっているようなお部屋ですが、よろしければ、お付き合いくださいませ。
No 12 HIT数 987
日付 2009/03/06 ハンドルネーム Library Staff
タイトル 2007 3月生まれの人へ 「サ・ヨ・ナ・ラ」
本文
麗らかに降りそそぐ、穏やかな春の陽射し

柔らかに吹きわたる春風の中で

ゆらゆらとたおやかに菜の花がそよぐ。

招くように、手を振るように・・・

耳を澄ませば感じる、確かな命の芽吹き

咲く花、散る花

たくさんの出会いと別れを見守る、優しくて強い春の眼差し

どこか決然と季節のけじめも感じられて・・・・

そんな3月生まれの人へ・・・・





『 サ・ヨ・ナ・ラ 』







じいちゃん
久しぶり
ジェイだよ。

うん、元気でやってるよ・・・・


穏やかな3月のある日。

俺は父さんと二人で東海のじいちゃんの墓参りに来た。

無事高校を卒業したことを、ちゃんと報告に行ってきなさい。

ジェイの事を一番心配しておられたのは、お祖父ちゃまなんだから
姉貴や母さんにそうせかされて、ちょっと照れくさいけれど父さんと二人でやってきた。

確かに、かなりやんちゃな馬鹿もやらかした高校生の俺を、いつも心配そうに、でもちょっと誇らしそうに見守ってくれていたのは、ほかならぬ東海のじいちゃんだ。


もっともっと・・・いや、せめて、あともう少し長生きしてもらって、じいちゃんの自慢の孫になりたかったけど・・・

まぁ、そっち方面は、姉貴の担当か・・・

それでも、こんな俺でも、じいちゃんは、いっつも「ジェイは本当に素直でまっすぐだ。なによりだ、なによりだ。」

そういって、目を細めてくれていた。

まぁ、姉貴にいわせれば、単純な馬鹿だということらしいが・・・



郊外の小高い丘の上にじいちゃんは眠っている。

まだ新しい墓の周りには、春の息吹を感じて草がちらほらと生えかけている。

俺は、ぐるりと辺りを掃除してから雑草を引っこ抜くと、持ってきた茣蓙を敷いた。

まず父さんが、跪いて挨拶をする。

へぇ・・・アメリカ育ちだけど、結構様になってるじゃん。
父さんの姿を見て、俺は不謹慎にもそんな事を考えていた。

父さんとアメリカ・・・

それが、今ここに眠るじいちゃんの一番の悔恨なんだろうけど、韓国系アメリカ人として生きてきた父さんの半生は、俺達子供に、二つの文化を授けてくれた。

Double

そんな家庭に育った俺が感じるのは、二つの文化が交わり合ったdoubleという空気だ。

決して、halfではなく・・・・

そして、その事は、俺や姉貴をより豊かにしてくれたはずだ。

少なくとも、俺はそう思っているよ。


父さんに促されて、俺も跪いてお辞儀をする。

じいちゃん、これからも、ここで俺を見守っていてくれよな

それだけで、俺の心が安らぐから・・・・

お墓にじいちゃんの好きだった焼酎を供える。

ちゃんとスルメも忘れてないぜ。


静かな時間が流れる中、じっと黙って墓の前に立つ父さんの背中を見つめる。

大きくて、広くて・・そして、ずっとずっと超えられないと思ってきたこの背中でも、今は、ちょっと何かが違う。

上手く言えないけど・・・・

いつか、肩を並べて歩けたらいいな。

今は、そんな風にも思える。

俺も大人になったって事だ。

だろ?


父さんの背中に、俺は胸の中でそう語りかける。

なんて、偉そうな事言ってるが、実はまだ進路もはっきりしていない。

ハーバードにだって、行けるのかどうか・・・

でも、いいさ

目標があるだけで、俺はもう大丈夫だからさ。


そんな俺の気持ちが伝わったのか、父さんが、俺をちらっと見て、いつものようにふっと微笑んだ。

言葉はないけど、それだけで伝わってくる何かを、俺はもう感じる事ができるようになったから・・・


そんな俺たちの周りを拭く風は、まだ少し冷たいけれど、確かに春の匂いだ。


桜はまだ蕾だけれど、でも、いつかきっと花開くんだろう?

今は、まだ、ただじっとその刻を待っている。

でも、きっと咲き誇るその時を、桜は知っている。



穏やかな春風の中に、日の光がきらきらと舞って、まるで桃源郷に迷い込んだように朧で、幽玄の世界へと、俺をいざなう。


ああ・・・・綺麗だな・・・

カメラを持ってくればよかった。

俺はその瞬間、そう思った。


そういえば・・・

父さんは、よく写真を撮っていたな。

俺たちが小さい頃は、頻繁にシャッターを切っていた。

最近は、ちょっと減ったけど・・・

それでも、最新のデジタルカメラから、もの凄い年代物の奴まで・・・

あれこれと、写真を撮っている。

たぶん・・・・


父さんには、なかったのだろう。

ずっとずっと残しておきたいような想い出と呼べる瞬間が・・・


カシャ・・・

俺は心でシャッターを切った。

俺の瞼の裏に写し撮られたこの風景・・・


春の日と、とうさんと、じいちゃんと・・・・・

きっとこの切り取られた瞬間は永遠に色褪せる事無く、見えない力となって俺を明日へと導いてくれるのだろう。


だから・・・・


俺は心の中で別れを告げた。

バイバイ、じいちゃん
俺、行って来るよ。

この先に、何があるのか分らないけど・・・
まだ、はっきりと道も見えてないけれど・・・

それでも、俺、やってみるよ。

だから、じいちゃん

しばらく、お別れだ。

次に踏み出すためには、別れなきゃならない時がある。


でも、また、いつか・・・・
そう、きっと、また、いつか・・・


俺は澄み渡った穏やかな春空を見上げ、その眩しさに目を細めた。



じいちゃんととうさんと俺と・・・
三人で酒でも飲みたかったけど・・・

それは、また・・・今度・・・・

いつの日か、この墓の中で、ゆっくりと飲もう


くだらない昔話をしたり、若い頃の過ちを謝ったりしながら

いつか、ゆっくりと飲もうぜ。

その時、ちょっとでも胸を張れるように、俺はこれからを生きていくからさ


見上げた柔らかな空が俄かに掻き曇り、急に陽が翳って、はらはらと淡雪が舞った。

ひとひらの雪が広い父さんの肩にふわりと舞い落ちて、さらさらと儚く消えた。

名残雪か・・・

じいちゃん、名残を惜しんでくれているのか?

そんなに心配しなくても、俺は大丈夫

これから先・・・

変わりやすい春の今日の天気のように、晴れたり曇ったり・・・たまに雪も降るかもしれないけれど・・


父さんと並びながら、じいちゃんの墓にそっと誓う。


ここに眠るじいちゃんと、俺の隣に立つ父さん

これでも、二人の血を引いてるんだからさ。

ずっとずっと、家族なんだからさ・・・


俺は、くるりと踵を返すと、俄かに強くなった風に背中を押されて、前に歩き出した。


じゃあ、またね

じいちゃん

新しい何かに出会うために、俺はここから旅立つよ。

でも、帰ってこれる故郷があるから、出発できるんだ。

俺みたいな、あまちゃんは・・・・


ゆっくりと父さんと歩き出す。


ぐるりと回って、またいつの日かここに戻ってくるために、俺はここから旅立つよ。


背中にはらはらと名残雪を受けながら、俺は一瞬立ち止まって、じいちゃんの墓を振り返った。

父さんも、一緒に足を止めた。


しばらくは、俺の分まで父さんや母さんや姉貴で、じいちゃんを頼むね

たまには父さん一人でも逢いに来てやってよ

じいちゃんが寂しくないように・・・・


俺は心の中で父さんにそう話しかけた。

わかったというように、父さんが小さく頷いた。


一呼吸置いて、俺たちはまた歩き出した。



サヨナラ、じいちゃん

また逢えるその日まで・・・・

行って来ます。





3月生まれの方々へ・・・・
お誕生日おめでとうございます。
ささやかですが、お祝いに代えさせてください。
              orionn222





1年間、創作を通してお誕生会のお祝いに参加させていただくことができて
とっても嬉しかったです。お付き合いありがとうございました。
            感謝を込めて   orionn222




(2007/03/15 Milky WayUP)


 
 
 

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