『 恋愛天文学 』
いらっしゃいませ、ソウルホテルへようこそ・・・ふふっ・・・
あっ、えっと・・・・ソ支配人、今日はお世話になります。
もう!なに笑ってるんですかー
笑ってないわよって、ニヤニヤしちゃってるじゃないですかー
『そのワンピース、とっても似合ってるわよ』
そ、そうですか?なんかちょっとヒラヒラしてて可愛らしすぎませんか?
ほら、いつも制服のスーツだから・・・・
ちょっと落ち着かないっていうか・・・
そうですか?似合ってます?
えっと・・・ありがとうございます。
もぉーソ支配人、やっぱり笑ってるーーー
えっ、ここですか?
こんないいお席じゃなくっていいですよー
もっと入り口に近い隅っこでいいです。
そうですか・・・じゃ、あの・・ありがとうございます。
えーーー、そりゃー私だって自分の働いてるホテルでお見合いなんて、こっ恥ずかしいたら、ないですよー。
でも、相手の人が私の働いている場所も見てみたいし、どうせならソウルホテルのレストランでって言ってきて・・・
それならってことになったんですけど・・・
ま、お見合いっていっても、近所のおばさんの紹介ですから、そんな堅苦しいものじゃないですしね・・・
だってぇー、お見合いですよー
出会いとしては、超平凡って言うか・・ロマンティックじゃないっていうか・・・
それなのに、うちの親ったら、「お前ももういい歳なんだから・・・」って
いい歳って!!酷くないですかー
まだ25ですよ。これからもっと仕事もがんばらなくっちゃいけないし、それにこの先、運命の相手と出会って、宿命的な大恋愛するかもしれないのにー
『お見合いだって素敵な出会いじゃない?』
えーー、どこがですかー
そりゃ、ソ支配人はいいですよー
あーーんな素敵な理事と運命的な出会いをして、ドラマみたいな大恋愛をしてー
で、結婚して・・・
私なんか、近所のおばさんが、「これ、おたくの娘さんにどうかしら?年回りもいいし・・」って持ってきた話なんですよー
あまりにありきたりっていうか、平凡すぎるっていうか・・・
ロマンの欠片もないじゃないですかー
『あら、人と人が出会うって、ものすごい確率なのよ』
確率??
『そうよ。貴方と彼の出会いだって奇跡のようなものよ』
いや・・でも・・・近所のおばさんの甥っ子ですけど・・・
『考えてみて、この世に何億何千万という人がいるけど、彼と出会うには、まず男と女に生まれて・・・
同じ時代、同じ国に生まれて・・・これだけでもきっと何億分の一っていう確率よ。
えっと・・それから・・・貴方のご両親がそのおばさんのご近所に住むという確率、二人ともちょうどいい年回りに生まれるという確率・・・
おばさんがあなたのお家にお見合いを持ってくるという確率・・・
あれやこれやを考えたら、二人が出会う確率ってきっと天文学的数字になるわよ。』
天文学的数字・・・・
そう言うと、じゃ、楽しい時間をね・・・ってソ支配人はにっこり笑って仕事に戻って行ったけど・・・
私はレストランのテーブルでちょっと考え込んでしまった。
何億分の一の確率??
そんなような・・・・そうでもないような・・・
うーーん・・・・
でも、やっぱり・・・・
私は店内を制服姿で凛々しく立ち働くソ支配人の姿を見て、うらやましいため息をこぼした。
なにも、私だって仕事ひとすじって決めたわけじゃない。
年頃らしい恋愛願望だってあるし・・・
まだ25よ・・・・それとも・・もう25?
あっ・・・私7月生まれだから・・・・今月で26・・・・
・・・・・・・・
だけど、いくら7月はバーゲンの季節だからって、自分をsaleすることもないじゃない?
それに・・・・
私がソ支配人に憧れるのは、なにも素敵な理事と結婚したからってだけじゃない。
もちろん、それはそれで、とっても羨ましいけど・・・
でも、なにより、理事はホテリアーとしてのソ支配人を尊重して、丸ごと受け止めてくれている。
そこが、なにより素敵だと思うから・・・・
私だってせっかくソウルホテルのホテリアーになったんだもの。
やっぱり、この仕事を続けていきたい。
だから、私を愛してくれる人には、ホテリアーとしての私の生き方も認めてほしいの。
そんな思いもあって、自分の働いているホテルでお見合いもいいかもって同意した。
だって、理事とソ支配人のような関係が私の理想だから・・・・
時折見かける理事とソ支配人・・・
ホテルの屋上で、制服姿のソ支配人に寄り添う理事は本当に素敵
愛する女性のすべてを受け止めて、包み込んで・・・
そんなお二人を見てると、こっちまで胸が熱くなる。
二人の周りをロマンティックな星がきらきらと瞬いてるみたいで・・・
愛し合い、尊敬し合い、お互いの生き方を認め合い・・・・
本当幸せそう・・・・
どうせなら、私だってあんな幸せを願いたい。
それなのに、お見合いなんてなぁー
と、思ってたけど・・・・
さっきのソ支配人の言葉が甦ってくる。
天文学的確率・・・・
『♪happy birthday to you♪』
突然聞こえてきたバースディソング
声のしたほうを見てみると、10歳くらいの可愛らしい女の子が大きなケーキを前に嬉しそうに笑っている。
あらー、お誕生日会なのね
そっかBR>・ ・・・このレストランで私と同じ7月生まれの人に出会う確率は・・・
やだ!いつのまにかソ支配人の言葉に感化されちゃったわ。
でも・・・・
ふと窓の外に目をやると、薄い水色の空がどこまでも広がっていて・・・
その空の下で瞬く星々のすがたをうっすらと映している。
一期一会・・・・
どこからかそんな言葉が浮かんできた。
例えば・・・・私は今日ここに来るまでのことを思い出してみた。
私があのバスに乗る確率は?それから、ホテルの近くのコンビニに寄る確率は?
レストランのこの席に座る確率は?このワンピースを買う確率は?
くすっ・・・
すっかりソ支配人に感化されちゃたわ・・・
天文学的確率・・・ソ支配人の笑いを含んだ声が甦ってくる。
だとしたら、今日のお見合いも・・・奇跡のような出会いの可能性あり??
私は慌ててバッグにつっこんだ雑誌を引っ張り出した。
ここに来る前コンビニで、ふとこのタイトルが目に付いて買ってしまった。
『特集!貴方の恋愛運勢』
ぱらぱらとページを捲って・・・・
あったあった、『7月生まれの貴方』
えっと・・・
『7月生まれの貴方は、温和で広い心をもち、周囲によく気を使う一方で意志の強さも持ち合わせています。
温厚で人に好感を持たれやすいので、いろいろな人と交際します
ただ、広く浅くの関係になりがちで、一人の人と深い関係になることは案外少ないかも
早いうちに結婚すればすばらしい家庭を築くことができるでしょう。』
うーーん・・・・
果たして、今日のお見合いは??
悩む私の耳に、先ほどの女の子のテーブルから歓声が聞こえてきた。
目をやると、賑やかにプレゼントが贈られている。
その幸せな光景に私の頬も緩んでくるわ。
私は心の中で呟いた。 BR>おめでとう、お姉さんも7月生まれなのよ。
大きくなると、お誕生日ってちょっと・・なんだか・・切ない色も混じるけど・・
そうね・・・お姉さんくらいの歳になるまでには、きっといろんなことがあると思うけど・・・
辛いことや哀しい事や悔しい事や・・・
でも、きっとそれ以上に出会うはず・・・
素敵な出来事や素敵な人に・・・
そう、天文学的確率で・・・
くすって笑って、窓の外、空を見上げた。
よく晴れた薄い水色の空の向こうに、ほんの少しときめきが透けて見える。
このお見合いが恋愛に成就する確率は?
それはわからないけど、でも、そう考えるとなんだか偶然という奇跡に彩られているような私の日常
当たり前だと、平凡すぎる毎日だと思っていた出来事が、実はとても得がたいことだったのかも・・・
っと!!
感傷に浸っていた私の目に、レストランの入り口でこちらを窺うような人影が飛び込んできた。
気がついたソ支配人が、ちらっと私を見て、にこやかに応対して、こちらに案内しはじめた。
たちまち乱れ始める心臓の音
夏の嵐のように轟いて、目の前を吹き去ってゆく。
ああ・・・どうしよう・・・ドキドキするーーーー!!!
落ち着け!私ーーーーー!!!
ああ・・・何が起こるかわからない、7月って期待と憧れの季節
世界中にいる私と同じ7月生まれの皆さん!
天文学的数字になるかしら
happy birthday to you
素敵な1年にしましょうね!
7月生まれの皆様、お誕生日おめでとうございます。
今月のお祝い画像(お題は『幸せなドンヒョク)に答えてアップしてくださったものをモチーフに創作をさせていただきました。
ありがとうございました。
ささやかですがお祝いに代えて・・・
orionn222
(2007/07/21 Milky WayUP)