(1)からの続きでごじゃいます~
スジニは御座の後ろで背もたれに寄りかかって酒をごくりと飲んだ。一日の政務が終わった大殿は扉の外で薄暗く照らす灯火の明かり以外は何一つ光はなかった。スジニは持ってきた酒を一気に飲み干した後、気を失いたかった。そうすれば、全てのことを忘れることができるだろうから。しかし、そうはならなかった。万に一つ、本当にそうなって夜が明けたら、騒動になること明らかだった。もちろん、だれも探せない宮殿の一角とか、でなければ城外の屋根の窪んだところを一つ掴んで登って思いっきり酒をがぶ飲みすることも出来た。しかし、どこかタムドクの匂いが残る場所が必要だった。直接、凭れて泣けないが、タムドクがいつも席についているところ。そして、探しだした場所が大殿の御座の後ろだった。
ところが外で人の気配がした。スジニはばれないように大殿の入り口から見えない場所に隠れた。大殿に入ってきた人間は鼻を2~3回くんくんさせてまっすぐにスジニに近づいた。 「出てこい」 その声がタムドクのものであると分かるやスジニの小さい目にたちまち涙が溢れた。 「酒のにおいがすごく漂っているぞ。大殿で酒を飲む奴はお前以外に誰がいる?」 スジニはすぐに涙を拭った。そして、タムドクの前に出てきた。涙を少しでも乾かすためにわざと力強く礼をした。 「死罪を犯してしまいました! 次はやりません!」 スジニは眠たいように目をこすりタムドクをかすめた。泣いたことがばれたくなかった。 万が一、その理由を分かっても変わることはなかったし、もし何故泣いたのか見当つかなかったら、それも又悲しいことだった。
「養女の話しを断ったとか」 スジニが歩きを止めた。 「高句麗部族中でチョルロの酒蔵が一番大きいという話しは聞いていないのか?」 スジニはとぼけるタムドクが憎らしく癇癪を起こした。 「私が子供ですか?もう、量よりも質を求めるんですよ」 「チョルロ部族長の養女になれば、私の妻にならねばならない話しは聞いたのか?」 スジニは答えなかった。 「それがそんなに嫌なことなのか、、、酒となれば大事にしている弓も売ってしまうような奴が酒蔵を断るほど?」 今回もスジニは顔を上げただけで口を開かなかった。タムドクは御座のすぐ横に段差のある所に行きぺたりと座った。
そして、横の席をぽんぽんと叩いた。「酒、残っているだろう?一緒に飲もう」 スジニは少し躊躇ったがタムドクの横に座った。そして、酒瓶を差し出した。タムドクは唇をぬらす程度だけ飲んで、御座の下端に凭れた。 「最後に眠られたのは何時ですか?」 タムドクはスジニが突飛な話題に持っていこうとする事が気に入らなかった。 「嫌か?」 スジニは嫌ではないと言いたかった。そうしたいと言いたかった。今、その一言だけ言えば、タムドクの側に残ることが出来た。
しかし、スジニはわざと聞こえないふりをせねばならなかった。 「一言、、、、お訊きしてもよろしいでしょうか」 「駄目だと言っても訊くじゃないか」 「フッケおじさんが私を養女にすると言った時、だから、王妃として連れて行くように言われた時、、、お困りだったでしょう?」 タムドクは答えなかった。スジニはその沈黙が実は否定しているのだと取った。しかし、自分も心が痛むようでタムドクも口を開かなかった。心の中で何かが込み上げてきて喉が詰まった。スジニはタムドクの手からさっと酒瓶を奪いとってごくごく飲んで喉を潤した。 「あの、おべんちゃらでも、違うとは言えませんか?そんなことがあるのか、実はお前が私の妻に成れば、すごい、、、すごい、、、」
タムドクが代わりに次の言葉を選んでやった。 「有り難いと?」 「何、、、感謝までとは言いませんが」 「正直に答えても良いか?」 「駄目だと言っても言いたいことは仰るじゃないですか」 「申し訳ないと」 もう一口、飲もうとしたスジニの手が止まった。 「そして、、、ひょっとして寂しくなるかも知れない。最高の友達を無くすことになるから」 スジニはタムドクに目を合わそうとした。しかし、タムドクはわざとそうしたのか、想いに耽っているのか他の方を見ていた。
スジニはここがのっぴきならない状態である事に気がついた。タムドクは心を隠して、差し出そうとした手を引っ込めるところだった。そして、その事実を確認させるかのように言った。 「今もとても済まないと、分かってくれるかな」 スジニは今どうすべきかよく分かった。この席をぽんぽんと叩いて立ち上がって大殿を出ねばならなかった。しかし、そうしたくなかった。仮にお互いが望む事を本当に打ち明けなくても、これ以上近づくことが出来なくても、今だけはここにいたかった。
「、、、、私の名前の意味をご存じですか?飼い慣らしても本来は空を飛ぶのだから、無理矢理掴んでおくと、長患いの末に死ぬそうです」 スジニはにこりと笑って残った酒を飲み干した。酒が喉を過ぎるや涙が又頬を伝わって流れた。スジニはタムドクにその姿を見せたくなかったので、わざと大きくひゃっと言う声をだし手の甲で口元についた酒と涙を拭いた。
タムドクはそんなスジニを見て腕を上げてスジニの肩に置いた。女というよりは友達に対する態度だった。だから、酒を奪って飲みスジニと全く同じ声を出した。 スジニは一緒に腕を巻き付けるふりをしてタムドクに凭れた。全身を任せられなかったが、酒瓶を奪いほんのちょっとタムドクの懐を感じた。そして、タムドクの腕を降ろした後に自分の心のように空になっていく酒瓶を唇につけた。
ここまでがサブタイトル 「スジニ、涙を隠して酒を飲む」の全文でした!
後は気になった箇所を書き出してみました。
*タムドクがヒョンゴ、コ・ウチュン、フッケ達とキハの処遇について言い争っているシーンで、スジニがその様子を執務室の外で聞いていますよね、そこの部分の描写です。
スジニは執務室の中で起きている論争を全て聞いた。中に入って加わることは出来なかったが、だからといってタムドクの苦悩を知らないふりは出来なかった。神堂の女人、キハという人物は今のタムドクに最も大きく気に掛かる石だった。高句麗に供給せねばならない新鮮な川の水をせき止める岩だった。自分の気持ちをヒョンゴの言葉に続けて訊きてみたかった。私を受け入れてくれない事もその女人のためですかと訊きたかった。だが、いくら気性の荒い放言するスジニといえどそれだけは出来なかった。
スジニは宮殿を出た。手を伸ばせば触れる距離にいるタムドクに近づけない王宮は嫌だったし、師匠も嫌だった。全ての理由が分かるとはいえ、むやみに受け入れられないのが道理というものだ。宮殿の門を出たスジニは遠くで通り過ぎるチョロを目にするや大きな声で呼んだ。 「おい~クァンミ城主~」 チョロはどっしりとした歩きで近づいた。 「行こう、市場に美味しい酒を飲ませてくれる店があるんだ。腹が立つ時、美味しい酒を一度飲んでみようと。私1人じゃ又、もめ事を起こすと王様が騒ぐだろうから、横に来て警備の役割をちょっとしてくれる、うん?」
チョロは厚かましく笑うスジニの口元に悲しみが込められているのが分かった。だが、何も訊かなかった。 「何も言わないところを見ると良いということだね、じゃあ、行こう」
*この後、店に入りスジニが話すセリフはドラマの橋のたもとで言うセリフとほぼ同じなので割愛しますが、原作では店を出たスジニの後をついていくチョロの気持ちが少し書かれています。
スジニはどこにいくのか、なぜ行くのか話さなかった。チョロも又訊かなかった。だが、チョロはスジニが頼む事なら自分はそれがどんなことでも受け入れると確信していた。
*そして、スジニとチョロが神堂にキハを訪れて対峙する場面ですが、ドラマでは一瞬のチョロの表情でしたが、原作にはチョロがサリャンを見て昔の事を思い出します、そのシーンです。
サリャンが殺気だつや、今まで漠然としていた記憶をたぐるのに努めていたチョロはハッキリとした顔が一つ浮かんだ。忘れられないあの日、父が青龍の神器を胸に突き刺したその日、襲撃者の一味を率いていた男が今、この祭壇にいたのだった。(原作ではチョロが最初にサリャンを見たときに何処かで見覚えがあると書かれています)
又長くなってしまいましたが、楽しんで頂けましたでしょうか?
追記:大長老がサリャンに渡した鉄の器について
原作では음연강(ウムヨンガン)ですがヨンガンは鉄の一種の軟鋼だと思いますが、ウムは"陰”or ”音”の漢字語?となれば {陰軟鋼}?{音軟鋼}?変ですよね(爆) どこで調べても分からなかったので大長老のセリフから想像してください^^ (どなたかお分かりの方いらっしゃれば教えてくださいね)
本来、洞窟はじめじめしている場所なのですが、大長老が負った傷を快復させたり、気を入れるために乾燥させてあります。そんな洞窟の中で更に冷気が漂っている場所にその鉄の器を保管してあります。
大長老のセリフから: 世の中の終わりを覆い隠す万年雪の中で数千年の間、凍らしていた軟鋼だけが天孫の心臓をそのまま保存できる。男の子の心臓を手に入れたら十分に注意して私に持ってきなさい。チュシンの血が傷んだり乾いたりしないように。
映像でも鉄らしき器でしたし、 中にドライアイスが入っているような気体が出ていましたね^^
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