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『 ラマダーン 』
「あ、ドンヒョクssi、デザートはいいわ」 「?」
ジニョンは、今話題の『創作イタリアン』と名打たれたコースを終えると、支配人から手渡された「パティシエお勧めのデザートメニュー」をぱたん・・・と名残惜しげに閉じると、小声でオーダーをした。
「あの・・・エスプレッソを・・・」 「・・・じゃ、僕も」 「かしこまりました。」
メニューを手に、支配人が下がると、ドンヒョクは微かに掠めた目でジニョンに問いかけた。
「どうかした?ここのドルチェが食べたいんじゃなかった?」 「・・そうだったんだけど・・・」
ジニョンは、椅子の上で居心地悪そうにもじもじと体を動かした。
そうね。まさにドンヒョクssiの言うとおりよ。
ジニョンは、どこかぎこちなく微笑みながら、テーブルの上のワイングラスを手にすると、ドンヒョクのいぶかしげな視線から、そっと目をそらした。
あれは・・・・確か・・・
「ドンヒョクssi―――ここ!ここに行きたいのーーー!!!」
『予約の取れない話題のレストラン』という雑誌を片手にドンヒョクssiにねだったのは自分のほうだ。
「これ!このドルチェが今一番人気なのよーー!ね、見て、見て!!まるで夢のようなドルチェでしょーー!!」
そう騒いで、甘いものが苦手なドンヒョクssiを・・・それも、出張続きの忙しいドンヒョクssiに予約をお願いした。 案の定、なかなか予約が取れない上に、ドンヒョクssiの出張や、自分の夜勤もあって、結局このレストランに行けたのは(あらゆるコネを動員しても)一ヶ月半後の今日だった。
それなのに・・・デザートは食べない・・っていうのは、ありえないわよねぇ・・ そうよね・・・あんなに大騒ぎしてねだったのに・・・
ジニョンは、微かにレモンの香りのするグラスウォーターをこくり・・と飲み干した。
そう・・・確かに・・・確かに、ここのあの夢のようなドルチェの数々には心が奪われる。 特にあのチョコレートを使った芸術的ともいえるデザートの数々・・・・ チョコレートケーキに、ティラミスに、タルトに、カプリにプロフィットロール・・・ ああ・・・ずっとずっと楽しみにしていたのに・・
でも・・・でも・・・ 我慢よ!ジニョン!
ジニョンは、心の中でそう言い聞かせると、程なく運ばれてきた薫り高いエスプレッソに決然と手を伸ばした。 ふと、ドンヒョクの視線を感じる。
「あの・・・えっと・・・ほら、やっぱり食欲の秋っていうか・・最近食べすぎちゃって・・・それで・・なんていうか・・・ちょっと甘いものを控えようかなって・・・」
ドンヒョクの瞳がきらり・・と光った。 何かを秘めたようなドンヒョクの視線にさらされながら、言い訳する声がだんだん小さくしどろもどろになってくるのが自分でも分かる。
「だから・・・その・・・残念だけど・・・ダイエットのために・・・」 「へぇ・・・」
ドンヒョクは、珈琲カップの淵からジニョンをじっと見つめて言った。
「ジニョンのbody sizeに変わりはないよ。僕が保証する。」 「ごほっ!」
ドンヒョクのきっぱりとした宣言に、ジニョンは思わず飲んでいる珈琲にむせてしまった。 ドンヒョクは、ジニョンにハンカチを手渡しながら、そっと耳元に唇を近づけた。
「ジニョンの体のことなら、僕のほうが詳しいからね。隅から隅まで知ってる・・・あそこも、ここも・・どこも問題ないよ・・・」 「えっと・・・だから・・・その・・」
少し熱を帯びたようなドンヒョクの視線に見つめられると、ジニョンは、赤ワインよりも頬を染めて、ドンヒョクを見つめ返した。
「ダイエットは必要ないよ。」
ドンヒョクはそう言い放つと、椅子にゆったりと背を預けて、ジニョンをじっと見つめた。 どこかもの問いたげな視線で見つめられると、釘付けされたように、ジニョンはドンヒョクから目をそらせずにいた。
「ふぅーん」 「・・・な、なに?」 「別に・・・」
そう言いながらも、ドンヒョクはジニョンから目を離さずに、珈琲をごくり・・と飲み干した。
「なにか、願い事でも?」
ぎくっ!!!!!!
「な、なんで?」 「確か・・・かれんの受験のときだったかな。かれんが合格するまでジニョンの大好物のシュークリームを我慢してなかった?」
うっ!!
「そ、そうだったかしら・・・」
ジニョンは、内心の動揺を押し隠しながら、そ知らぬふりを装い、珈琲を口にしたが・・・ すでに、カップは空だった。
「あ、あの時はねーーー受験するのはかれんだから、何もできないけど、なにか、力になれることはないかって・・ま、まぁ・・・私がシュークリームを我慢したところで、なにが変わるっていうわけじゃないのはわかってたんだけど・・・自己満足かもしれないけど、なにかせずには、いられなかったというか・・」
どこか、そわそわと饒舌になりながらも、ジニョンはちょっと強張った笑みを浮かべた。
「そういうこともあったわねーー。ドンヒョクssiったら、よく覚えてるわね。そんなことー」
ちらり・・とドンヒョクを盗み見ながら、ジニョンは快活に話を続けた。
「そうねーー、かれんの時は、シュークリーム断ちだったけど・・・ジェイのときは、これくらいじゃすまないわね。いっそのこと、山寺にこもって修行でもしようかしら。」 「断食でもするつもり?」
ドンヒョクが、柔らかな笑みを浮かべて、聞き返してきた。 その少し少年めいた悪戯っぽい瞳に思わずジニョンの胸が波打つ。
・・・・ごめんなさい・・・ドンヒョクssi・・・
「ほんとよね・・・合格のためなら、全ての煩悩を絶って山寺で荒行したい心境だわ・・・最も肝心のご本人があれじゃぁ、本当に私が断食でもしないと、効果ないかもしれないわね。でも、断食ならジェイの合格っていう大願成就と私のダイエットの成功とで、一石二鳥かしらね」 「それは、すごいご利益だね。」 「でしょう?」
なんて、ドンヒョクと笑いながら、ジニョンは内心話題の核心がそれたことにほっとしていた。
「でも、ジニョンには、ダイエットは必要ないと思うけど・・・」
ドンヒョクが柔らかに微笑みながら、そう言うが・・・ 優しい笑顔の中にも、どこか探るようなドンヒョクの視線が痛い。
「と、とにかく、見た目はあまり変わらなくても、体脂肪率とか、内臓脂肪とか・・・そういったのが、ちょっとずつ増加傾向にあるというか・・・だから、まぁ・・・ちょっと節制というか・・ダイエットでもって・・・」 「ふぅーん」
ドンヒョクが、さして、気にする風もなく相槌を打った。
・・・・ドンヒョクssi、納得してくれた?でも、こういう時のドンヒョクssiが、一番危険なんだから・・・・
「で、でも、ダイエットなんていいながら、こんなイタリアンなんか食べてちゃ駄目ね。なんていうか、もっと脂肪を燃焼させるものじゃなくっちゃ」
いつになく饒舌になりながら、ジニョンは、巧みに話題を変えた。
「そうね、なにがいいかしらね。まぁ、普段食べている韓国料理はもちろんだけど、なにかちょっと変わったもの・・・えーっと、エスニック系とか・・・、あ、インド料理もいいわね」 「インド料理?たとえば?」
ドンヒョクが淡々と聞き返してきた。
「たとえば?えっと・・・カレーとか、タンドリーチキンとか・・・・」
話題を変えたいがためのほんの思いつきで口にしたジニョンは、言いながら、だんだん声が小さくなる。
「それももいいね。それじゃ、今度のディナーはそういったものにしようか?」 「え、ええ・・・いいわね。それにインド料理なら、デザートに誘惑されることも少なそうよ。ダイエットに最適よ。」 「別に必要ないとは思うけど・・・」
ドンヒョクの淡々とした言葉に、ジニョンは戦法を変えた。
「そりゃぁ、ドンヒョクssiはいいわよねー結婚したときから全然体型が変わらないもの。でも、油断してるとこの先、分からないわよ。年々、お互い代謝が悪くなってるんだからー」 「分かったよ。それじゃ、僕もメタボになって嫌われないように、ジニョンのダイエットに協力しようかな。」 「そうよ。そうよー、お互い励ましあって頑張らなくっちゃー」
楽しげに笑って相槌を打ちながら、ジニョンの胸がまたちくり・・と痛んだ。
・・・でも、別に嘘はついてないから・・・ ・・・ダイエットは一生の課題よ。
なんとか和やかにディナーを終えてほっと胸をなでおろしたジニョンは、支払いを済ませるために、軽く手を上げて支配人を呼ぶドンヒョクの横顔にそう心の中で言い訳をした。
帰宅する車の中で、軽く目を閉じながら、「なにか、願い事でも?」、そう聞いてきたドンヒョクの言葉を反芻する。
なにか・・・願い事・・・・
「ソヨンssi―――――、見たーーー?これーーー」
ジニョンが、悲痛な声を上げて、ソヨンに電話したのは一月ほど前のことだ。
「ええ、先ほど・・・」
ソヨンも同じように、受話器越しに心配そうな声で返事した。 二人はそれぞれのオフィスでPCのニュースに釘付けになっていた。
「入院ですってーーーどうしちゃったのかしらーーーー」 「ええ・・・・心配ですよね・・・」 「これから日本でイベントがなかった?」 「その予定でしたよね・・・」
「大丈夫かしらーーーー」 「そうですよね・・・・でも『彼』のことだから、きっと無理をしてでもイベントには出席すると思います。」 「そうよねーーー絶対行くわよねーーー」
そんな会話を続けながら、言い出したのはジニョンの方だった。
「ね、ソヨンssi、『彼』の体調が万全に回復することを願って、私当分チョコレートを断つわ!!」 「えっ?チョコレートをですか?」
驚いて、ソヨンが聞き返すのも当然だ。 ジニョンはスイーツが大好きで、特にチョコレートには目がない。 これまで、数々の話題になったチョコレート系のスイーツは、あらゆるツテを行使して逃したことがなかった。 そのジニョンが、なんとチョコレートを断つと宣言したのだ。
「そうよ。だーーーい好きなものを我慢することによって、お願い事が叶うのを祈るのよーー」
ジニョンの覚悟を決めた宣言に、思わずソヨンも反応した。
「わかりました。それでは、わたしは・・・・紅茶を我慢します。」 「ソヨンssi―――我が同士よーーーー。頑張りましょうねーーーそれで、お願いするのーーー、一日も早く『彼』が元気になりますようにってーーーー」 「ええ・・・・毎日お祈りします。」
二人は、電話を通して、固い約束を交わした。
とにかく、そういった経緯で、ジニョンのチョコレート断ちの日々は始まったのだった。 とはいえ・・固い決意をしたものの、日々、誘惑は多く、ジニョンは幾度も苦難にさらされていた。 そう、オフィスで・・・家庭で・・・街中で・・・
「ジニョンssi――、ほら、社長のお土産のこのゴディバのチョコレート、とーーっても美味しいわよーー。」
「今度の出張のお土産は何がいい?確か、ジニョンの好きなショップでベルギーチョコレートのフェアをしているらしいけど・・・買ってこようか?」
『期間限定!!話題の生チョコ、先着100個』
・・・・くっ・・・つ、辛い・・・
ジニョンの背中を冷たい汗が流れ落ち、思わず決意が揺らぐ。
でも・・・でも・・・ ジニョンは、甘い誘惑にぐらつく自分に言い聞かした。 確かに辛い・・・でも、同じように『彼』も辛い日々を送っているのかもしれない。 そうよ。きっと、『彼』のほうが、何百倍も辛いはず・・・ それに・・・なんていうか・・・この前TVで見たけれど、ちょっとやつれた感の『彼』も、素敵じゃない? って、不謹慎よね。こんなときに・・・ でも、憂いを帯びた姿っていうのもなかなか・・・ うふっ・・・恋に溺れたときも、あんな風になるのかしら・・・ って、いえ、だから、そうじゃなくって・・・ えっと・・・そうよ!何もできないけれど・・・せめて少しでも辛さを分け合えるように・・・ 私も我慢の日々を送るわ! そうよ!ファイトよ!!ジニョンーーー
ジニョンは、目を閉じ、眠ったふりをしながら、心の中で熱いエールを自分に送った。
そして・・・・
あれから、家に帰りついた後、ジニョンは、そそくさとシャワールームに消えた。 こういった小さな秘密を抱えているときほど、ドンヒョクの勘のよさが恨めしい。 遠まわしな誘導尋問にひっかかって、あっさり「秘密」を突き止められそうだ。
・・・やっぱり、こういうお願い事は、成就するまで自分の胸の中にひっそりとしまっておくべきだ。 というより、万が一、事の詳細がドンヒョクに知れでもしたら、ジニョンがチョコレートを食べるまで、連日「スイーツバイキング」に連れ回されそうだ。 人知れず、そんな決意を胸に、ジニョンは寝室のドレッサーの前に座った。 髪を乾かし、お肌の手入れをしていると、さっとシャワーを浴びたらしいドンヒョクが入ってきた。 バスローブを羽織り、まだ少し濡れた髪を、ベッドに座ってごしごしと拭いている。 見慣れた一連のその仕草を見て、ジニョンの胸は先ほどとは違ったときめきに震えた。
・・・・そうよ、確かに、今、私は『彼』のために、チョコレート断ちをしてるけど、私ったら、やっぱりドンヒョクssiが大好きなのよ。もう何万回見ているはずのドンヒョクssiのこんな仕草にさえ、まだときめくんですもの。
ジニョンは、ほんのりと火照った頬に手を当てた。
そう、愛しているのは、ドンヒョクssiただ一人。それだけは金輪際変わらない。 だから・・・なんていうか・・・今回のちょっとした・・・救援活動?を大目に見てね。
そう、心の中で、ドンヒョクにお願いする。 とはいえ・・・口に出しては絶対にお願いできないジニョンだった。
その時、ジニョンは、寝室のベッドの上で片腕を枕に横たわりながら、ドレッサーに向かう自分をじっと見つめるドンヒョクの視線に気がついた。 鏡の中で、視線が交わる。 どきっ・・・ 波打つ胸を押さえつつ、さりげなく声をかける。
「・・・どうかした?」 「・・・別に・・・」
鏡の中のジニョンから視線をはずすことなく、ドンヒョクが深い声で答えた。 こんな風にじっと見つめられると、心の奥底まで見透かされそうで落ち着かない。
「ジニョンは、いつまでたっても、出会った時と同じで綺麗だなって・・・」 「・・・・あ、ありがとう・・・」
なんとなく、いたたまれず、鏡の中のドンヒョクから視線をはずして、背中で返事をする。
すると、ドンヒョクがベッドから立ち上がる音がした。
「おいで・・・」
ドンヒョクは、いつまでも鏡の前で、ぐずぐずとしているジニョンを背後からそっと抱きしめると、立ち上がらせ、ベッドへといざなった。 二人して、シーツの海に溺れこむ。
「こんなこと、しちゃいけないのかな」 「えっ?」
ベッドの上で、逞しい自分の体の上にジニョンを乗せると、下からドンヒョクが少し悪戯っぽい目をして囁いた。
「だって、ジニョンは断食中だから・・・」 「はっ?どういう意味?」
ジニョンから、目を離さずに、そっと指先でジニョンの腕をさすり上げる。 その微かな刺激に、ジニョンの背中がぞくり・・・と震えた。
「断食の期間、ムスリムたちは、日の出から日没まで一切の飲食をやめる・・・そして、夜は・・・」
ドンヒョクの指が、するりとジニョンのパジャマのボタンの隙間から侵入する。
「・・ぁっ・・・」
高まりだした欲望の兆しに、思わず甘い声が零れた。
「こういう事も禁止だそうだ。」 「そ、そうなの?」
ジニョンをじっと見据えたまま、ドンヒョクの指先が固く尖ったピンク色の蕾をゆっくりと愛しだす。
「・・・んんん・・・」
甘い刺激が、ひたひたと体中を満たしてゆき、ジニョンは目を閉じて感覚の海に漕ぎ出した。
「でもおかしいね。」
ドンヒョクはひらり・・と体を返すと、ジニョンをその厚い胸の下にしまいこむ。
「ぁっ・・・なにが?」
ドンヒョクが、ジニョンの首筋に唇を埋めて囁いた。
「断食の間は返って太るそうだよ。」 「そ・・そうなの?」 「日没後は、毎晩宴会だそうだ。日中我慢した分余計に食べてしまうのかな」 「あぁ・・・反動・・・で・・・」
ドンヒョクの熱い唇が、ジニョンの胸元を彷徨いだし、ジニョンの背中に小さな震えが走った。
「なんだか・・・僕もちょっとそんな気分だよ。」 「えっ?ど・・・ういう・・意・・味?」
ドンヒョクの指先が奏で出した愛の旋律に、ジニョンの唇から甘い吐息が零れ落ちた。
「ジニョンは、わからなくていいよ・・・」
ちょっと乱暴にジニョンの耳を甘噛みすると、ドンヒョクの唇がピンク色の蕾を含んだ。 そっと、舌先で転がされると、ジニョンはもうなにも考えられず、逞しい背中につかまるしかなかった。 ドンヒョクのしなやかな指が、ジニョンの秘密の泉を深く浅く探り出し、ジニョンを愛の忘我へといざなった。
「ド・・ドンヒョクssi・・・ドンヒョクssi・・・」 たっぷりと愛の雫で満たされたジニョンが、喘ぎながら何度もドンヒョクの名前を呼び始めると、やっとドンヒョクが、満足げなため息を洩らした。
・・・・そう、そんなジニョンの姿か見たかったんだ・・・
ドンヒョクの長い脚が、ジニョンの膝をそっと割った。
「あっ・・・んん・・・」
ジニョンの甘い喘ぎを合図に、深く深くジニョンの全てを満たしながら、ドンヒョクがゆっくりと動き出した。 しなやかに・・・誘うように・・・焦らすように・・・ 唇で、指先で、全身で、余すことなく奪いながら、与えつくす・・・
ジニョンの膝裏を両手で抱えながら、ドンヒョクは、ただひたすらに官能のリズムを刻んだ。
「あっ・・・ドンヒョクssi・・・んん・・・あ・・ぁん・・」
やがて、全身を震わせ昇りつめたジニョンの甘い叫びを受け止めると、ドンヒョクは、激しく熱く自分の全てをジニョンの最奥に注ぎ込んだ。 迸るような溢れる愛の記し・・・ 決して、枯れることのない、ジニョンへの愛を・・・
「ああ・・ドンヒョクssi・・・」
「・・・・ジニョン・・・」
少し掠れた声で、ドンヒョクがジニョンの名前を囁くと、二人して時間を手放し愛の忘我に身を任せた。
やがて、ほんのりと桜色に染まったジニョンを胸に抱き寄せると、ドンヒョクは密やかな吐息を洩らした。 その愛らしい寝顔から、少し汗ばんだ前髪を優しく払う。 半身を起こしてそっと額に口づけると、ジニョンを胸にどさり・・とベッドに沈み込んだ。
ここ数日・・・いや・・・僕が出張に行った数週間前ごろから・・・
どこか浮ついていた、君を取り巻く怪しい雰囲気・・・ ころころとその色を変えながら・・・ 時にピンクになったり、ブルーになったり・・・
ねぇ、ジニョン・・・
穏やかな寝顔に語りかける。
君のheartの中心にいるのは、間違いなく僕だけだけど・・・ 時として、君のheartはピンクのレースや真っ白なフリルに彩られている。 いつだって、ほんの少しだけ、掴み取れない君の心の小さな欠片・・・ なにかが・・・誰かが・・・君のheartの周りを彩っている。 そう、まるで、ジニョンというチョコレートを縁取るアイシングみたいに・・・
満ち足りて、穏やかな寝息を立てているジニョンの頬をちょん・・とつつく。
だから、ジニョン、僕はいつだって、ほんの少し欲求不満だ。 だけど・・・君は知っているのかな
「雄」という生き物は、全て満たされると、狩りの本能も萎えてしまうものらしい。 でも、僕は・・・微かなフラストレーションのおかげで、君の前では、いつだって野生の雄で生粋のハンターでいられる。
まるで、ラマダーンの長い夜みたいだ・・・ 断食明けの飢えた体で君を貪る・・・
「んん・・・・」
ジニョンが、小さく寝言を囁いた。
ふっ・・・ドンヒョクの頬に、笑みが浮かんだ。 一体・・・どんな夢を見ていることやら・・・
微かに微笑んで、胸元に頬を摺り寄せてくるジニョンを、ドンヒョクは優しく抱きしめた。
全く、誰の夢を見ているんだろう・・・・ 残念ながら、僕はジニョンの夢の中までは、手が届かない
ドンヒョクは、少し苦笑を洩らすと、満ち足りてぐったりと自分の胸の中でまどろむジニョンの寝顔に、そっとキスを落とした。
そうだ、ジニョン・・ 明日は僕がディナーを作ろうか 大学時代の一人暮らしのおかげで、これでも一通りものは作れるんだよ。 ラマダーン明けみたいに、豪奢なディナーを用意して、君のダイエットなんかきとばそうか? なにがいいかな・・・そうだな・・・ まぁ、一応、ダイエットをしているらしい君のために、脂肪燃焼を促すエスニック料理でも・・・ カレーはどうかな そういえば、昔バイトしたインド料理店で、シェフから秘伝の隠し味を教わった。
ほんの少し開いているジニョンの唇を、そっと舌でなぞると、ドンヒョクは薄闇の中で、ひっそりと微笑んだ。
Curry Made byシン・ドンヒョク そこには、僕の秘密の隠し味 カレーには、ほんのひとかけらのチョコレート
(2009/10/31 MilkyWay@Yahoo UP)
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