天窓を挟んで空高くひとつふたつと輝く星が現れる 「そう言えばドンヒョクssi・・・」ジニョンは薄紅に高揚した顔をドンヒョクの胸に埋めたまま少しだけ顎を上げて彼に尋ねた 「何?」 「このアパート・・・ 35階はプライベートフロアって言ってたでしょ」 「そうだよ」 「だったら、向かいにあるもうひとつのドアは何?」 「ああ・・・ジェニーの家」 「そうなの・・」 「君と結婚したら、君のアパートを引き払って 彼女をここに住まわせるつもりなんだ」 「へー、そうなんだ・・・ジェニーは知ってるの? そのこと・・」 「いや、まだ話してない」 「・・・・勝手に決めて大丈夫?」 「大丈夫だよ・・・君はジェニーがそばだと嫌?」 「そんなことあるわけ無いじゃない・・・ 私だって嬉しいわ」 「良かった」 「でも早めに言ってあげた方がいいわ」 「そうするよ」 「嫌よ」 「どうして」ジェニーがドンヒョクの用意した部屋に連れて来られてことの次第を聞かされたのは翌日のことだったその部屋は、ドンヒョク達の部屋より小さめではあるものの十分な設備を備えた立派な部屋だったジニョンは内心、この成り行きが想像出来たことだと思っていた ジェニーとの付き合いは残念ながら あなたよりも長いんですもの・・・ ジェニーの性格はあなたよりも良くわかるわ・・・しかしジニョンは彼らの初めての兄妹喧嘩を黙って観戦する覚悟を決めてふたりの間に立っていた 「私は自活したいの・・・今までだってオッパには 沢山してもらった。もう十分過ぎる位よ それにこんな立派なアパート私には勿体無いもの」 私にも勿体無いけど・・・・ 「僕は君が心配なんだよ・・・近くにいれば安心だし・・・」 「私は子供じゃないわ」 「まだ子供だよ」 あなたの方がきっと子供ね・・・ドンヒョクssi 「私を束縛するつもり?」 「束縛?・・・そんなに僕のそばにいるのが嫌なの?」 あなた達・・・恋人同志のような会話・・・止めて 「束縛じゃなければ、エゴだわ」 「今まで離れていた分 少しでもそばにいたいんだよ」 「それは・・・私だって・・・でもオッパのように 何でも買い与えていたら、私のためにならないわ」 ジェニーの方が大人ね・・彼女に一票 でもジェニー?・・・オッパの気持ちも考えてあげて 「今まで何にもしてあげられなかった・・・ やっと会えて・・やっと何かをしてあげられる・・ 君のために僕のできること何でもしてあげたい・・・ それって、エゴかい?・・・それに・・・」ドンヒョクは早口に言っていた言葉を少し速度を落として続けた 「それに・・・ これからジニョンをひとり置いて出張することも多いし ・・・そんな時君が近くにいてくれれば・・・ その・・・安心だし・・・」 えっ?私? 「じゃ、な~に、ジニョンオンニのことが心配で 私をお目付け役にするってこと?」 そうなの?・・・ドンヒョクssi 「・・・・・・・・・・・・・・・」 「それなら、そうと・・・それを早く言ってよ 仕方ないわね・・・そうよね・・・ ジニョンオンニ危なっかしいし・・・」妙に納得したジェニーが腕を組み、自分の結論をジニョンに見出していた 余計なお世話だわ・・・ジニョンは二人が自分のことを理由にしていることを不満げに口を少し尖らせながらも言葉は挟まなかった・・・ 「わかったわ・・・でもオッパ・・・ひとつお願いがある ここに、お父さんを時々呼んであげていい?」 「・・・・・・・・君の家だよ・・・君の自由だ」 「その時はオッパもいっしょに食事するのよ」 「えっ?」 さすがドンヒョクssiの妹・・・駆け引き上手いわね 「ね、いいでしょ・・だってオッパ、あれから一度も お父さんに会ってくれていない」 「・・・・・」 「一緒に食事して・・ね、オッパ・・」 「・・・わかったよ・・・」 ジェニーの勝ちね 「本当ね・・・約束よ、指切り・・・」 あ~指切りは私の・・・・マ・・妹だから許すわ 「じゃあ、早速引っ越そうかな・・・ 結婚式前にはオンニのご両親もいらっしゃるし 私はお邪魔だわ」 「ジェニー・・そんなことないわ・・・」 「ううん・・・いいの・・それに早くお父さん呼びたいし・・・ 私の荷物は後からでもいいし 生活できるものは揃えてくれてるようだし そうよ!オッパ、お父さんを明日にでも呼んじゃお」 「えっ?明日?」 「うん・・・いいでしょ・・・ね」 「あ・・・うん」心なしか不満げなドンヒョクssiを強気なジェニーが了解させる ・・・やっぱり、あなた間違いなく シン・ドンヒョクの妹ね、ジェニー・・・ ジェニーの宣言通り、翌日東海のお父さんがやって来た お父さんは腰を低くして、ドンヒョクssiに申し訳なさそうに 彼と目を合わせようとはしない ドンヒョクssiもまた同じで、ふたりの距離はなかなか縮まらなかったドンヒョクはジェニーに促されてやっと父の前に腰を掛けたもののふたりの沈黙がその部屋の空気を明るいものにはしてくれなかったジェニーとジニョンはできるだけ二人を向き合わせようと色々画策していたが上手く会話を探せない未熟な親子が何故か哀れだったそんなふたりの様子に痺れを切らせたジェニーが言葉を掛けた 「お父さん・・・ここね オッパが私のために用意してくれたアパートなの これから、いつでも気軽にソウルに来てね」 「ああ・・・ありがとう」 あの日・・・ 東海にこの人を訪ねた日 「もう、二度と会うことは無い」と突き放してしまった父 その父とこうして改めて対峙して 僕はいったい何を話したらいいんだろう・・・ よく見ると大分年を取ってしまった父は 僕より遥かに小さく・・・弱々しい・・・ この人をずっと憎んできた・・・でも本当は・・・ この人が恋しかったことを僕はとうにわかっている でも・・・ ジェニーに何度と無く一緒に東海に行って欲しいと言われても 理由をつけて行こうとしなかった・・・ 一緒に食事してと、ジェニーに懇願されても いつも言葉を濁した 何故会えなかったのか・・・今でも憎んでいるから? 僕はまだ・・・遠い日の・・・ 僕達を捨てたこの人の行為を許せていない 僕やドンヒを幸せにしてくれなかった 優しかった母を幸せにしてくれなかった・・・ その悔しさを背負った幼い僕が心の奥底で暴れている・・・ それは・・・どうしようもないことなんだ・・・ 「ジェニー・・・悪いけど、急な仕事が入ったんだ ・・・食事は三人で・・・」ドンヒョクは突然立ち上がるとジェニーに向かってわかりきった嘘をついた 「ジニョン・・・頼むね」ジニョンに申し訳なさそうに目で詫びた 「えっ?・・・ええ・・・」 「オッパ! どうして?!」玄関に向かうドンヒョクの背中にジェニーの涙混じりの声が投げつけられて、ドンヒョクは足を止めた 「わかってる!」 僕が一番・・わかってる・・・ 「あの・・・僕達の結婚式に来て下さって ありがとうございます・・・・ しばらく、ジェニーの所で・・・ ゆっくりしていって下さい」ドンヒョクは振り返り、父に向かって儀礼的に礼を述べると逃げるように部屋を出て行った父はその間ずっと俯いていたそしてドンヒョクが出て行ってしまった後で黙って寂しく頷いたあれが今のドンヒョクにとって父に対する精一杯の言葉だったことは父には痛いほど理解できていた ジェニー・・・・・ごめん・・・ 僕はまだ、君ほど大人じゃない・・・父は翌日、結婚式の前日に改めて来るからと言ってひとりで東海に帰って行ったジェニーも新居への引越しはお預けにするとジニョンのアパートに戻った すべて・・・ ・・・僕の・・・・せいだね・・・