【 koko の Valentine's Day 】 最終話 廊下を進むと、大きなガラス越しに手入れの行き届いた庭が少しのあかりでライトアップされ、和室の客間に通された。大きな座敷テーブルがおかれており、上(かみ)座から、八重、直穂子、こおことすわった。その前の席に、志乃、すなおと座り、華子は同席していない。ここでも、こお子が、「 いや~ お手入れの行き届いた奇麗なお庭どすなあ~koko ちゃんも一緒にきはったらよかったのに … 」すなおは、koko がこの場にいない事ばかり気になっていた。koko の事を、聞こうとしていた矢先に koko の名前がでた。すなおが聞く前に、祖母が「 今日は、 koko さんは? 」「 私達の急な申し入れで、 いったん帰りまして、お仕事の途中で帰宅しましたものですから、職場に戻りました。いんがなお仕事ですね。」すなおはおかしいと思った。今日、明日は少し早く切り上げると言っていた。今日は夕食も約束をしていた。そこからは、みなの話し声だけが耳に入るが話している内容はす通りしていく。koko の事が気になる。母華子がお茶をはこんできた。「 おかあさん。 お菓子は加賀美様からいただいたました。」こお子が、「 このお菓子。 今日のお茶会の為に作られました特別なお菓子どす。 評判よかったのどすえ~」「 今日、そんなに大切な行事がおありだったのですね。申し訳ございませんでした。」志乃が頭を下げた。「 志乃さん。 頭上げておくれやす。 よく、お知らせいただきました。この事だけは、いつの日も心残りどした。これで、安心していつでも旅立ち出来ます。」「 も~ おばあちゃん。 こんなお席で縁起でもない事を … 」「 そやけど … 」八重がまた涙した。「 すみません。 急用を思い出し、席を立たせていただきます。」すなおは、座がなごめばなごむほど、koko のことがますます気ががりだった。「 なお。 急に … 」すなおはガレージに直行し車のエンジンをかけた。信号待ちで、koko の携帯に電話を入れた。電源は切られていた。koko の職場につき誰もいない事を確認して、マンションに車を走らせた。インターフォンを鳴らしたが、応答がなかった。マンションンの扉の開閉の暗証番号をおし、最上階でエレベーターがとまっており、階段をかけ上がった。部屋の前で、呼吸を整えインターフォンを鳴らしたが応対がなかった。ドアをたたき 何度も 「 koko 」 と声をかけた。大きく溜息をつきドアノブに手をかけるとドアがあいた。ドアをあけ、「 koko いるのか?」 と 暗闇の中の部屋にむかって、声をかけた。無造作に靴をぬぎ、部屋に上がった。リビングのドアを荒々しくあけ、手探りであかりをつけた。ソファーに koko がすわっていた。すなおはつかつかと koko の前にたつと、koko がすなおの顔を仰ぎ、立った。涙で頬がぬれていた。「 koko … 」ちょくは声にならない声でひとこと …そして、 koko を引き寄せ抱きしめた。koko は、ちょく の胸で小さな子供のように泣きじゃくった。ちょく も涙があふれ出た。どれぐらい時間が流れたか? koko の肩をだき、ちょく の肩に koko の頭がもたれかけ、ソファーに座っていた。ときどき、ちょくが koko の髪の毛をなでた。ちょくが気がつくと、うっすら夜があけかけていた。ふたりして涙し、そのままうとうとしたのだろう。耳元で、規則正しく koko の寝息を聞きながら、寝顔を見ていた。koko が動いた。「 わたしったら! ねむっていたのね。」「 だいじょうぶ? 大丈夫のわけがないよな~ 」と、ちょく は小さく答えた。「 ねえ~ ちょくさん。 今日おやすみするわ。それから、少しいろいろ考えたいから、私の方から連絡を入れるまで … いいかな。 」聞きとりにくい小さな声で koko はやっと言葉にした。ちょくも、天井を仰ぎあふれる涙をおさえ 「 はあ~ 」と、溜息に吐息が入り混じり …しばらく言葉が見つからなかった。koko の肩が小さく揺れていた。引き寄せ、すなおの胸にすっぽりとおさまった koko は昨夜の koko より小さく感じた。ゆっくり、髪毛をなでながら …koko の耳元で …「 わかった。」この時は、この短い言葉が最後のひと言になるとは思いもしなかった。 あれから、ちょく は今日は …今日こそはと koko の連絡を待ち続けた。何度も何度 携帯を手に取り、眺め、ダイヤルボタンを …しかし、電話がつながり koko の声が聞けても何を話せばいいのだろ~ koko もちょくさんに逢いたい。 … 声が聞きたい …しかし、語り合う事など何もない …時間(とき)の流れにつれ、そう、思うようになっていた。koko は、実家から離れて住んでいてこれほどありがたいと思った事はなかった。あれから、こおこを軸に、加賀美家の祖母八重と母直穂子、園田家の祖母志乃、華子達は、いい関係でそれなりに過ごした。特に、華子は今まで祖母志乃の影でひっそりと過ごした日々が嘘のように、こお子が提案した、園田家の実父を 「パパ」 と呼び華子を 「ママ」 としたい、一転した生活に生きがいを見出しようだ。志乃と華子は事あるごとに京都に出向き、今は八重や直穂子、こお子の仕事を手伝うようにもなっていた。加賀美の父、良樹、と園田の父、光太郎も数回お酒の席をもうけ、時をすごしている。呼子 と 直 は、加賀美家と園田家とは
あの日の出来事から疎遠になっている。
直は、研修医の過程を終了と同時に誰にも告げる事無く心臓外科医としてハーバード大学へ留学をした。10年。時間(とき)が流れ、今なおも心臓外科医としてそれなりの地位を確立し在籍している。呼子はそのまま研究室で、母校の医学部の講師という役職につき勤しんでした。直の机の引き出しには、あの出来事の年のホワイトデーに呼子ために婚約指輪を用意したケースが、おさめられたままだった。呼子もあの日からバレンタインデーに父良樹にもチョコレートを渡す事もなく今年もその日を迎えた。
【 完 】
【 登場人物名 】
加賀美 呼子 … ここ ・ koko
加賀美 勝彦 … ここ ・ 光子の祖父加賀美 八重 … ここ ・ 光子の祖母加賀美 良樹 … ここの父 光子の義父加賀美 直穂子 … なほこ ・ ここの母加賀美 光子 … こおこ ・ ここの姉
園田 直 … ちょくさん ・ すなお ・ なお
園田 志乃 … すなお ・ こおこの祖母園田 光太郎 … すなおの父 光子の父園田 華子 … すなおの義母
筒井 … 料亭「 筒井 」オーナの父 おじたん
江藤 … 加賀美家の運転手
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