私が来るのを待ち望んでおられると思った。おじたんさんの話も今の状況から長引くと判断し、連絡をいれておいた方が望ましいと …携帯には、ちょくさんのお母様の携帯の番号を登録をしておいた。「 koko です。 申し訳ございません。 30分ばかりおくれます。 今しばらく、お待ちいただけますでしょうか? 」おじたんさんは大変恐縮されながら、話をはじめられた。「 わたくしがひょっとして …皆様にご迷惑をおかけする事になり … 」と、あとの言葉が聞き取れなかったが、深々と頭を下げられた。電話の呼び出し音がなった。ふたこと みこと話され受話器は置かれた。ちょくさんのお母様から私が送れるという連絡だと思った。席につかれ話は続けられた。「 私共と園田様とは深いご縁がございまして、ながくごひいきにしていただいております。」「 おじたんさん、昨夜も気になっておりましたが、おじたんさんはこちらのお店 … 」と、そこまでいいかけると、おじたんさんが …「 数年前に長男にすべてを譲りまして、しばらく隠居しておりましたが、ありがたい事に古いごひいきのお客様からお声がかかりこうして、またお店の方に出させていただいております。」「 そうでしたか。 気になっていたものですから …お話の方を続けてください。」「 若奥様が園田様に嫁がれましたころより、わたくしが甘い物に目がないと言う事を知られまして、毎年、年あけにいただくようになっておりましたが、ここ数年前から、バレンタインの前後にいただくように … 今年もわざわざ、午前中にお届けいただきまして、ご一緒にお茶をいただきながら昨夜のお話になりました。わたくしが、 ご存知かと思いまして『 加賀美様、神戸の大学病院でお医者様でいらっしゃるのですね。昨夜、不思議な事に奥様からいつもいただきますてんとう虫のチョコレートをバレンタインだからと、加賀美様からおひとついただきました。素敵なお嬢さまで … 』 と、お話をしましたら、若奥様が 『 今、加賀美とおっしゃいました? てんとう虫のチョコを … 』『 はい。 お名刺をいただきましたから …? 』そのあと、若奥様は急用を思い出したからとお帰りになられました。その時は、お店の方の開店時間もせまっておりましたので、気にも止めませんでした。そして、夕刻に若奥様から、お電話をいただきまして『 5時過ぎからそちらのお部屋を使わせていただきたいの。私達は5時過ぎに参りますが、お客様は7時はすぎると思います。いつもながら、急なことでごめんなさいね。今日だけは特別に許してくださいね。 』と、いうことでした。5時過ぎに、若奥様と大奥様がお見えになりまして、お部屋にご案内させていただきました時、お客様が加賀美様で若奥様の携帯かわたくしに7時過ぎにご連絡がはいるとお話がございました。」私は、おじたんさんのお話を聞きながら、どうしてわざわざこのようなお話をおじたんさんがされるのかが読めないままに、すすめられた和菓子に手をつけ、お茶をいただいた。和菓子は実家のものだった。「 おじたんさん! 加賀美様ではなくkoko と呼んでいただいて結構ですので … すみません。 お話が途切れましたね。 どうぞ続けてください。」おじたんさんは、深々とお辞儀をされ話を続けられた。「 先ほどもお話いたしましたように、園田様とはながいお付き合いをさせていただいておりますので、お電話のお声がいつもと違い電話をおきりいたしました時から、わたくしも胸の辺りが重くすっきりいたしませんでした。お部屋で加賀美 … あっ! koko 様 の お名前をお聞きし、こちらにむかわれてるとご連絡がありました。ふと! 午前中の若奥様が急にご用事をと言われました時、詳しくは加賀美様と申しました時、それからチョコレートのお話をいたしました時に、お顔が蒼白気味に、ご態度もそわそわとなされたかのように …わたくしには計り知れませんが、もしや、わたくしが大変な事をよぶんごとを若奥様のお耳にいれてしまったのではと …もし、そうでありましたら、 koko 様 に なんてお詫びを申したらいいか? 」おじたんさんは、うつむいたまま、昨夜のおじたんさんより小さく見えた。私は、なにがなんだかわからないままに、「 今のお話が、今からお逢いすることと関係があるかどうかわかりませんが、一応胸におさめさせていただきます。」おじたんさんは静かに一礼され、添えつけられた電話でお話されたあと、「 それでは、お部屋の方にご案内させていただきます。」お部屋の前にひざまずかれ、ふすまの外から「 よろしいでしょうか? 」「 どうぞ … 」大きな立派な座敷テーブルを前にお二人がお庭を背に座られていた。おじたんさんに指示された席につき、私の方から「 こんばんわ。 遅くなりました。 申し訳ございません。」「 こんばんわ。 ごめんなさいね。 そうとうご無理をさせてしまったようですね。」10分位でつきますといいながら、10分後には30分遅れると連絡した事で、誤解を招いているようだ。「 失礼いたします。 お茶をお持ちいたしました。」ふすまの外から声がかかった。おじたんさんがふすまを開けられ、お茶とお茶菓子がテーブルに並べられた。「 筒井さんもごめんなさいね。 お忙しいこの時期にわたくし事で振りまわしてしまって … 」おじたんさんは 「 筒井さん 」 というのだ …「 とんでもございません。 それでは何かございましたら、そちらのお電話か携帯の方に … 」おじたんさんが部屋をあとにされたあと、なんとも言えない空気がながれ、どうした事か、昨夜の華やかなお二人の面影もなく一夜にして何があったと言うのか? 今から何をお話されるというのか?進められたお茶をひと口いただいた。そして、目線をお二人にむけた。