数日後、 検査結果は、 呼子 に 届けられた。
直 は
空の上の人となっていたので、
すぐには連絡はできなかったが、 関西空港に迎えに行き、
隣接するホテルに席を設け、 鑑定結果表を
直 に 手渡した。
直 は、 数ページの検査結果表を見終わり、
テーブルを挟み座っていたが、
呼子
の 横に移動し 肩を引きよせ髪の毛をなでながら、
「 大丈夫? 」
しばらく沈黙が続いたが
…
「 直 さん。 光子ちゃんに
直さんから話してくれるかな?
光子ちゃん 気にはしていると思うけれど、
帰国したあと、 このことにはまったく触れてこないの。
明日の49日。 初七日のように身内だというわけには
いかなかったらしいのよ。
1ヶ月半しかたつていないのに、 園田のお母様も随分
やつれられて、 加賀美の父も初7日のあと体調を崩し、
49日には欠席らしいわ。
法要が終わり、 アメリカに帰る前に一緒に京都に行ってくれる。」
呼子
は、 たどたどしい話し方に 直はうなずきながら、
携帯を取り出した。
光子の携帯番号を
…
アメリカから電話を入れた際、 光子の家族には、
どのような結果であっても 呼子
の 出生にまつわる話は、
話すつもりがないということだった。
3人が … もしくは直穂子 ・
華子が加わり席を設け
話し込んでいると 光子
の 意に反すると思いから、
検査結果の報告は、 内心誰よりも気にしている光子には、
この場から電話でと思った。
直
からの電話で感の鋭い光子は電話の内容は予測でき、
動揺しながら席をを移動し、かけ直すといったん電話は切られた。
数分後。 光子から電話が入った。
忙しく走り回っている姿を想像した
直は、
加賀美の父 良樹 と 呼子 の DNA
の親子鑑定の結果は、
親子であると認定されたと事務的に要点のみをはなし、切った。
直は、 しばらく携帯を眺めていた。
携帯をテーブルに置き、
呼子
を引きよせ、
しばらく沈黙のまま抱きしめていた。
不思議なぐらいに二人は取り乱すこともなく冷静だった。
呼子
が 直 の 腕の中で …
「 … ちょくさん … 」
「 うん … 」
「 ありがと~
… 」
「 … 何があ~ 」
「 いろいろ
… 」
短い会話の中に、 二人の心中は、 大きな仕事をなしとげ、
驚くほど安堵したというか久しぶりに落ちついた穏やかな世界が
…
… 事実だけを冷静に受けとめていた。
呼子 が 運転してきた車に乗り込み、 直が運転をし、
次々流れる景色を新鮮に感じながら、
園田家に到着するまでほとんど会話はされなかった。
無事に 直 が 空港についたという連絡だけは、 光子から
直穂子と華子には話されていたので、 園田家に着き、
車を止めると、 3人が飛び出してきた。
直穂子は変わりなかったが、 呼子 から聞かされていたが、
かなり華子はやつれていた。
光子がいろいろの思いを込めた
「 おかえり … 」
の一言が、 直 も 呼子 も 胸に突き上げる物を感じていた。
光子も同様であった。
光子は、 直 の 後ろにいた 呼子 の 背中に手をまわし、
無言で何度も ポンポン と、 玄関をはいるまで軽く叩いていた。
光子の家族は、 前夜から泊まり込むはずだったが、
加賀美の 父 良樹が体調不良で欠席と決まり、
良樹がさみしがるからと、 法要の当日。
早朝に京都を出てこちらにむかうことになっていた。
明日に控え、 園田家は夜遅くまで人の出はいりがあわただしく続いた。
8時を過ぎた頃にやっと落ちつき、 遅い夕食を済ませ、
葬儀の日とまったく同じ状態のなか、 直
から鑑定結果を
あらためて報告され、 その後、 日が変わるまで話しこんだ。
この日は、 園田家の父 光太郎が過ごす最後の日となるからと、
遺骨等がまつられている祭壇が置かれている客間に、
全員の布団を敷き、 それぞれが、それぞれの思いを胸に床を並べた。
法要は、 200数名が参加し無事に事無く納められ、
その後場所を移動し、 有志の方々の主催で、
「
園田光太郎先生 お疲れ様でした。
ありがとうございました。」
という会が、 ホテルの一室で盛大に行われた。
夕方には、 みなで園田家に帰宅。
葬儀の後から遺骨等が置かれた祭壇が、 業者の手で片付けられ、
がらんとした客間にみなが集ったがあらためて違ったさみしさが
居心地も悪く、 それぞれの会話も少なく、 落ちつかなかった。
光子が …
「
どうしはったん! みんな変どすえ~ さあ~ 元気出して … 」
一斉に 光子 を 見た。
「
…… まあ~ 無理どすなあ~ 」
ひと呼吸し
…
そうや~ ほら! みんな 立つて! たつて!
お荷物まとめて、 お家の戸じまりしなさい。」
光子の2代目とまで言われている行動
・ 物言いがそっくりの
光子 の 長女が、 「
ほらほら! 始まりだしましたえ~
いっつも、 おかあはんの言動は、 先がぜんぜん見えまへん。
どういうことどすかあ~
みなで、 夜逃げどすか~? 」
と、
光子 の 長女の言葉にみながくすくすと笑いだした。
「
夜逃げでも何でもよろしい。 」
光子は、 携帯を取り出し、 お抱えの運転手に
店のマイクロバスで 迎えに来るように指示した。
「
この時間でしたら、1時間ぐらいで車が到着するはずです。
このまま皆で京都の家に移動しましょ~
京都のおじいちゃんも、 おひとりでさみしい長い1日でしたでしょうし
…
ほらほら、 手分けしてかたづけて、火のもとだけは気をつけてね。
それから、 とじまりもね。」
光子
の 子供たちが口々に
「 いつもこの調子なんですえ~ 思いつきも、 ええとこですわ~
呼子
おばちゃま。 私たちの苦労わかります。」
「 何言ううてはんのん。 呼子
おばちゃまは、
おかあはんとは、 私たちよりお付き合い長いのですえ~ 」
「
ほらほら! よぶん事、 言うてんとお荷物は
すぐに車に乗せられるようにお玄関にまとめておきなさい。
おかあさんと、 ママはママのお部屋で、 車が来るまで
少し横になっていたら
… おつかれですやろ~ 」
と、 二人を立たせ誘導した。
その際、 呼子
と 直 と 目があい二人に 光子 が ヴィサインを
…
光子の急な思いつきと二人も思い、 少し驚いていたが、
その時に初めて、 直
からの電話のあと、 多分 どうすればと
いろいろ考えた結果がこの大移動作戦を計画したのだ
光子の細やかな思いを察した。
明日。 呼子
と 直 は 二人で良樹のもとへ訪問を予定していただけに、
光子 の 計らいで見事に
みなを巻き込んでの大移動。
呼子 と 直 は あらためて
光子 に 感謝した。