【 I'm loving you. 最終話 】両手を白衣のポケットに入れ 頭を垂れ 早足でその場を去った。そのままあの場所に行き腰をおろした。初めてかもしれない。コーヒーも手になく 手術後のいっぷくでなく 煙草に火をつけたのは …何か言葉をかけ 小袋を手渡せばいいものをあらためて不器用な自分に苦笑した。白衣のポケットの携帯が振動し 医局に戻った。夕刻から 緊急手術 …
3時間程度で終了し足は彼女の部屋に足がむかったがすでに面会の時間帯は終わっており 1時間ほどで消灯時間になる。思いとどめ あの場所に …遠目にベンチが確認できる程度のところで目を疑った。人の気配があった。まさかこんな時間に …駆け足になっていた。彼女の後ろ姿があった。彼女は駆け足で近づくいてくる私に気がつき席を立った。彼女の前に立つなり「 こんな時間に何をしているんだ! 」と、 少しあら声で怒鳴っていた。彼女の話によると面会の時間 7時30分が終わったころからここへきていたらしい。お昼の差し入れのお礼をいいたくて と もしやと思いこの場所で私を待っていたという。私がここに来なかったらなどと まだあら声をあげながら気まずそうにしている彼女を引きよせ胸に収めた。急がないと消灯時間前の巡視で姿がないと大変なことになる。他の病棟と違い彼女の病棟は大半の患者が心に傷を抱えているため巡視には慎重だ。部屋まで送り届けた。10時前に手術の患者の術後回診をおえあとは当直医に任せ、帰り自宅をしかけたがまた白衣をはおり彼女の部屋に …エレベーターから彼女の部屋までの道のりは息をひそめあたりを気をきにしながら部屋に入りドアを閉める時も廊下を確認した。のちのちわかったのだか私のこのような行動はすべてこの病棟に席を置く看護師や医師は黙認していた。彼女は、ベットに腰をおろし窓の外を眺めていた。私の訪問に少し驚いた様子だったが笑みで私を迎えた。彼女の横に腰を下ろすとお昼に差し入れしたCDの曲耳を澄まさないと聞こえない音量で流れていた。あれからず~っとかけぱなしだと話した。あめ玉の瓶のふたをあけ私に差し出した。私はひとつとりだし 十数年ぶり口にほおりこんだ。
彼女に食べないの? と聞くと口をあけ舌を少し出した。舌の上に小さくなったあ目玉がのっていた。二人は笑みを交わした。私はあめ玉にまつわる 遠い思い出を思い起こしながら話った。この話が 私ごとで語った唯一の話だった。しばらく時を過ごし部屋をあとにした。部屋を出る前に千代紙で折った鶴を一羽手渡した。それ以後 彼女の部屋から帰る時は いつも手渡された。また、辺りを気にしながらエレベーターに乗り医局に戻り帰宅した。数日後から彼女は日ごとに弱っていった。もうあの場所へ行くことも 治療も今の彼女の状態では化学療法の副作用には耐えきれないということで行われなかった。消灯時間の巡視を待ちいつの日にか忍び込み夜明けに引き上げるという日が増えた。いつのころからかソファーに枕と薄めの掛け布団がおかれていた。これも後日知ったが病棟関係者からの私への心配りだった。心配りというと知らない間に私の職場の皆にもあたたかく見守られていたようだ。最初は私の様子、 行動が日ごとにおかしくまわりの者もどうしたのかと必要以上に聞かれたがいつのころからいろいろな配慮がされていた。そんな日々が1ヶ月余り続き いつになく彼女のことが気になり早く目がさめ コーヒーを立て飲みかけると携帯が鳴り緊急手術の呼び出しを受け 病院へ …手術は難航し夕刻までかかった。この頃は自動販売機で購入するコーヒーを手に持ち 行先はあの場所ではなく彼女の部屋へと変わっていた。この日も彼女の部屋のドアをノックし部屋を開けると …呆然と …立ちすくんだ …部屋の中は夕暮れのうっすら日が差し込み 部屋は片付き 私は一瞬部屋を間違えたのかと部屋をでて部屋番号を確かめた。ネイムプレイとはなかった。頭の中は …部屋の中央に立ちすくんでいると 遠くで何度も私の名前が聞こえているような感じがした。背中に誰かが触れた。肩を強くたたかれ我に返りふりかえった。後ろにこの病棟の看護師長が立っていた。看護師長から 早朝彼女が安らかに片道の旅に旅立ったと …手に持ったコーヒーカップが手から離れ床にコーヒーがとび散った。看護師長が意識がもうろうの彼女に私に連絡をしようかと言ったらしいが彼女は首を横に振ったという。彼女の意を重視したが今に思うと連絡をしなかったことが悔やまれると話し 彼女から数日前にもしもの事があった時にはこの袋を私に渡してほしいと頼まれていたと手渡し部屋を出て行った。身体の力が抜け 床に膝をつきしばらく動くことができなかった。涙は出てこなかった …そのまま駐車場に …どうして部屋にたどりついたか我に返り彼女から渡すようにといわれた紙袋の中の物を取り出した。白い毛糸で編まれた手編みの帽子が …ひとつだけ入ったあ目玉の瓶が …残り少なくなった千代紙が …それとは別に一枚おりかけの千代紙がはいっていた。何気なく千代紙を広げ 裏を見た。 弱弱しい文字で …ありがとうI'm loving you.と 記されていた。私はあなたを愛しています。の文字を目にした時 …一気にこみあげ声をあげ号泣 …気がつくとその場で目が覚めた。数日 職場にも連絡を入れることなく部屋に …千代紙に残された文字に目が行くと涙が …ふと帰り際に渡され机の上に並べられた数十羽の鶴を手に取り一羽を開けてみた。千代紙の裏には日々の思いが記されていた。一羽ずつ開けた。ぬぐってもぬぐっても頬を濡らし文字が読み取れない。職場に復帰した時には事情は皆が理解していたのだろ~半年が過ぎた頃 まわりまわり母の耳にも入っていた。ある日部屋に帰るとなつかしい匂いが漂っていた。母の作った料理はどれぐらい食べていなかっただろう~はるか自分より大きくなった息子を抱きしめ背中をなでた。胸から離れ目をそらす私に一言 「 大丈夫? 会いにいったの~ 」会いに行ったのの一言にハッとした。彼女の死をまだ受け止めることがでない自分がいることをその時 感じた。だまって窓辺に立っていると後ろから 「 まだだったら母さんも一緒に … 」そのあとの言葉は聞き取れなかった。母が帰り あのままの手提げの紙袋久しぶりに…はじめて白い毛糸の帽子をかぶりひとつだけ残されたあ目玉を瓶からだし口に頬張った。その後 月日が流れたが今だ彼女のもとへは …彼女が残したありがとうI'm loving you.私はあなたを愛しています。を、 いつの日にか彼女のもとへ行き私から彼女へ … .......... I'm loving you. …… 完