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OFFICE K&T IZM CLUB
OFFICE K&T IZM CLUB(https://club.brokore.com/izmclub)
Hotelierが好きで ドンヒョクに落ちて DONGHYUK  IZM が好きな方 一緒に遊ぼう\(^○^)/
サークルオーナー: tomtommama | サークルタイプ: 公開 | メンバー数: 335 | 開設:2006.11.13 | ランキング:30(12728)| 訪問者:3842558/4686184
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mirage
創作mirage-儚い夢- 2006.6より with BYJにて連載中
No 3 HIT数 5466
日付 2006/11/30 ハンドルネーム kurumi☆
タイトル mirage-儚い夢- 3.野望
本文



         





collage &music by tomtommama

story by kurumi

























フランク・・・

          フランク・・・

彼が残した声の響きが私の耳にいつまでもこだました。
私はしばらくの間、静かに目を閉じて彼の声を繰り返し心に戻していた。

昨日逢ったばかりの・・・何も知らない・・・いいえ・・・

   名前は・・・フランク・・・

私の心だけが、たった今彼が曲がって消えたその角を共に曲がり彼を追っていた。

   でも・・・現実には・・・

そうする理由が・・・見つけられない・・・

私はその場に佇んだまま、本当に動くことができなかった。

   何故?何故私はこんなに胸を締め付けられているの?

   名前を知ったところで・・・

   虚しいだけじゃない・・・

   何故・・・聞いてしまったの・・・

   “フランク”・・・

   たったそれだけ・・・

   それだけしか・・・残していってくれなかった・・・

   たった・・・それだけ?・・・  

私は自分でもわかるほどの大きなため息をひとつつくと、自分の気持ちに嗾けて
ジョルジュの部屋へと戻っていった。

部屋に戻ると、ジョルジュがベッドから下りて、窓際にもたれて佇んでいた。
フランクが壊してしまったドアをそっと戻しながら入って来た私を見つけて、
ジョルジュは少し怒ったような視線を向けた。

『名前も知らない奴だったんだ・・・』
ジョルジュは窓の外に一度視線を送り、そう言った。

『見てたの?だから・・・助けてもらったって、言ったでしょ?』
私は少しむくれたように言った。

『お前って・・・』
ジョルジュが視線を下げて、呆れたような冷たい笑みを浮かべた。
『お前って・・・本当に危ない奴だな』

『どういう意味?』 今度は本当に癪に障って言った。

『何でも無い!』 ジョルジュは私より遥かにムッとした様子だった。
彼の珍しくきつい口調に私は微かに動揺していた。

彼は窓際から離れると、私を無視して横を通り過ぎ、シンクの下から
工具箱のようなものを取り出すと無言でドアの蝶つがいを付け直し始めた。

『何怒ってるの?オッパ!あの人は・・・
 私が怖い思いをした時、助けてくれたの!

 私がここを見つけられないで迷ってた時、探してくれた!
 私が・・オッパがどうなっているか不安でひとりで訪ねられなかった時
 一緒に付いて来てくれた!

 私が・・死んだようにしてるオッパをひとりで見てられなくて・・・
 無理に引き止めたの!寒くて泣きそうな私を温めてくれた!

 オッパなんて!私を心配させて・・・連絡くれなくて・・・
 私を・・一人にしたくせに!・・不安にさせたくせに!』

私は何故だか無性に悲しくなって、悔しくなって・・・情けなかった。
ただ理由もなく、泣きながらジョルジュに当り散らすように叫んでいた。

『ジニョン・・・』
ジョルジュは私の癇癪に驚いて、手にしていた工具を放り投げて、私に走り寄った。

『オッパなんて!』 私はジョルジュの胸を激しく叩いた。

『ごめん・・・ごめん・・・泣くな・・・オッパが・・悪かったよ
 心配させて・・・ごめん・・・』

ジョルジュは私をそっと包むように抱きしめて、私の興奮を鎮めようとしていた。
私は顔を両手で覆って、しばらく彼の腕の中で泣きじゃくっていた。

   何故、こんなにも涙が出るの?

   何故、こんなにも辛いの?

   何故・・・何故・・・

   私が泣いていたのは・・・ジョルジュのせいなんかじゃない・・・

   だったら・・何のせい?・・・それは・・・あの人・・・

   あの人がいなくなったせい・・・

   私の体から・・・あの人の温もりが消えたせい・・・

   でも・・・説明できないわ・・・こんな気持ち・・・

   昨日初めて逢った人・・・そしてもう・・・

   二度と逢えない人・・・こんな・・・

   胸が今にも粉々に潰れるような・・・

   こんな想いなんて・・・

   自分でも・・・理解できないもの・・・





「ジニョン・・・」

ジニョン・・・最後に彼女が叫んだ名前が僕の頭から離れなかった。
別れる前の・・・あの潤んだ瞳が・・・忘れられなかった。

   行きずりの・・・たかが・・・子供・・・
   子供?・・・フッ・・・女・・・だった・・・

   二度と出逢うことの無い・・・行きずりの女・・・
   そう・・・もうきっと二度と逢うことは・・・無い

≪そうだ・・・≫
僕にはやらなければならないことが山ほどある。

学校にはもう形だけ行けばいい。
あとは僕がひとりで生きていくためにやらなければならないこと。

   金・・・そう・・・金を稼がねば・・・

『大学院を出たら、何の仕事に就く?』
教授たちが卒業間近になった時、ごぞって僕に尋ねてきた。

『そのまま大学に残って自分の研究に加わらないか・・』

『教鞭をとらないか』と言ってくる教授もいた。

ある教授はこう言った。
『どうしてその才能を有効に使おうとしないんだ』

≪はっ・・余計なお世話だ≫

僕はその申し出のどれも断った。人の下で働くのはごめんだ。
うるさい餓鬼どもの相手をさせられることにもうんざりだった。

しかしひとつ問題があった。僕がここまで奨学金を得て就学を成し得たことだ。
そのため、学校に対していくらかの義理がある。
今はその義理を返すべく、学校に赴いていると言ってもいいくらいだった。

どちらにしても、僕は学校などの狭い世界に留まるつもりは毛頭ない。

僕の狙いは世界・・・
いつの日か・・・世界を牛耳る男になる・・・

僕はその手段としてひとつの仕事に目をつけていた。
“M&A・・・企業買収の狩人・・・”

一匹狼の僕には打って付けの仕事だ・・・
  
しかし、その世界には法的なルールはともかく、新参者を寄せ付けない空気が
そこら中はびこっていた。

   ≪だから・・・何だというんだ?≫

僕は僕のやり方で、成功を収めてみせる。そして必ずや・・・

   ≪その頂点に立つ≫




大学院へは週に二日行けばいいと決めていた僕は水曜日の夕方に
マサチューセッツへと向かい、金曜日の夜にNYに戻るスタイルを始めた。
僕に期待を掛けた教授たちをことごとく裏切った僕は、今では大学院でも
ちょっとした変わり者扱いだ。

NYでは住居兼事務所用に古びた中層アパートを借りていた。
そこにパソコンを5台備え付け、サーバー、FAX、電話、机がひとつにベッドがひとつ。
そして仕事用に高級スーツを2着、取り敢えず必要最低限のものだけを
身の回りに置いた。

そして学校に通う日以外の日をM&Aについての研究に費やした。
株の取引は朝の9:00から1時間のデイトレ中心で利ざやを稼ぎ
今後の軍資金にとそれを根気よく蓄えた。


そして・・・
この業界で生きていくためには幾つか乗り越えなければならないことがある。
そのためにどうしても必要なものが・・・もうひとつ。

優秀な弁護士だ・・・

僕は業界紙を読みあさり、この世界で一番実力のあるフリー弁護士を探した。
そして、ひとりの男に行きあたった。

レオナルド・パク・・・韓国系アメリカ人・・・

写真で見る限り、さえない30男だったが実力は自他共に認められていた。

   ≪さあ、彼とどう接触する・・・≫

僕にはこの業界に何一つ“伝”と呼べるものが存在しなかった。
だから、どんな小さなことでも、自分でひとつひとつ調べなければならない。

ようやくレオナルド・パクの行きつけの小さな酒場を探し当て、
初めて彼に接触できたのはあの変な女の子と出会った日の
一週間後だった。

僕はカウンターでちびちびとグラスを傾けていたレオナルド・パクに向かって
開口一番こう言った。

「いくらで・・・俺と仕事をしてくれる?」

「坊や・・・誰かと間違えてるか?」 男の第一声はこうだった。

「・・・レオナルド・パク・・・M&A専門弁護士・・・ 
 その腕にかけては今、右に出るものはいない。
 俺が探してるのは・・・そういう男だが・・・違ったか?」
僕は決して怯むことなく返した。

「はは・・・生意気だな・・・
 いったい坊やとこの俺が・・・何の仕事をするんだ?」

「お前は・・・M&A専門弁護士じゃなかったのか?」

「言葉に気をつけろ・・・坊や」

「俺が雇うんだ・・・だから俺がボスだ。」

僕は彼に対して終始上から目線でものを言った。

「それで・・・いくらで仕事を?」 僕は再度言った。

「そうだな・・・fifty-fitty」
男はきっと、冗談半分で答えたのだろう、しかし僕は至って真面目に切り返した。

「・・・・・・・・これが今日、株で稼いだ半分だ」

僕はポケットから札を出して、そこから75ドルを抜くと男の前に置いた。
少し力を入れてしまったせいか、カウンターに置かれた彼のグラスが少し揺れて
音を立てた。

男は・・・目の前に置かれたよれよれの札をしばらく見つめた後、
僕の顔を見上げて軽く睨みつけた・・・そしてにやりと笑みを浮かべた。


「ひとつ・・・M&Aの仕事には金が掛かる・・・その資金は?」
男はさっきまでの含み笑いを、真剣な顔つきに変えてそう言った。

「そうだな・・・この小さな飲み屋を買収するくらいは・・・」
僕は多少はったりをきかせてそう答えた。

「ほう・・・若いのに・・・大したもんだな・・・
 ひとつ・・・俺はもちろん、お前の専任はできない。
 これでも売れっ子弁護士だ・・かなり、忙しいんでね。」

≪無論そうだろう。≫ もちろん、こちらとて、今は彼を専任弁護士として
雇うだけの地盤は持ち合わせていない。

「そのうち・・・俺だけの仕事をしてもらう。」
≪いずれは必ずそうしてみせる。≫

「生意気な・・餓鬼。・・・いや・・・ボス。」

男はクロコダイルの立派な名刺入れから、一枚の名刺を僕に差し出した。

「必要な時、ここへ連絡を。」 そして男は席を立って、僕に右手を差し伸べた。

   僕より、遥かに小さい・・・

   本当にさえないオヤジ・・・だが・・・

この男が・・・僕のこの世界での・・・今後の鍵を握る・・・

僕にはその確信があった。

これが僕とレオナルド・パクとの出会いだった。


「まあ、一杯どうだ・・・この75ドルで乾杯といこう」彼はそう言った。

僕は自分から仕掛けておきながら、ことの成り行きに正直呆然としていた。
本当は僕の申し出など、彼に一笑に付されるものと覚悟していた。

「どうした?」

「いや・・・」 

あのレオナルド・パクが本当に僕の仕事をしてくれるのか?・・・
この・・・たったの・・・75ドルで?


「どうして・・・僕と仕事をしてくれる気になった?」

レオが注文してくれたカクテルで唇を湿らせながら僕は彼に尋ねた。

「どうした・・・さっきまで、あんなに強気だったじゃないか・・・ボス」
レオは僕を“ボス”と呼んだ。僕は急にそれが無性に恥ずかしくなった。

「フランクだ・・・」 僕はグラスをカウンターに戻しながら、俯きがちに言った。

「フランクか・・・仕事のときはボスと呼ぶ。
 それがフリー弁護士としての俺の礼儀だ。 しかし今は・・・
 フランクでいいか?」

「ああ」

「どうして?・・・そう聞いたか?・・・どうしてだろうな。
 お前のその眼に惚れた。・・・そういうことかな」

「眼?」

「ああ、果てしない野望に満ちた鋭い眼。それでいて、言ったことを必ず
 実現させるだろうと思わせる・・・賢い眼・・・そして・・・」
レオはそう言い掛けて、僕の顔をまじまじと見た。

「そして?」 

「そして何より・・・鋭さの奥に見える・・・純粋な・・・
 綺麗な眼だ。」 


               
   ≪何処から、そんなに人を信用する心が生まれる?≫


   ≪あなたが・・・純粋な・・・綺麗な眼をしてるから・・・≫


一瞬、あの時のあの子の言葉と、そう言った時の彼女の笑顔が脳裏に蘇った。
そのことが僕を驚かせて、言葉を失わせた。

   ・・・私の名前はジニョン・・・

「どうした?フランク・・・」 
レオが僕の背中を叩いて、僕はやっと現実に戻った。

「いや・・何でもない」


   ≪何故今・・・彼女?≫

一瞬僕の頭をよぎったあの日のあの子の屈託のない笑顔を
僕は自嘲しながら首を振ってかき消した。


「そうだ、早速見てもらいたい、資料があるんだ
 帰ったら・・・このアドレスへ送ればいいか?」

そう言いながら、僕はさっき彼にもらった名刺を指で挟んで彼に示した。
「見てもらいたいもの?仕事か?」

「お前に仕事以外の話はない」 自分でも嫌な奴だと思った。
しかしレオは僕のその言葉に目を細めた。

「ああ・・構わん、送ってくれ」
 
   

僕は結局、レオへの分け前として渡した75ドル以上の酒を
彼の奢りで飲んだ。

彼もまた僕と機嫌よく酒を酌み交わし、「明日早いんだった」と
笑いながら千鳥足で帰って行った。


 

レオに渡した75ドルのせいでタクシー代すらなくなっていた僕は
アパートまでの10キロを、歩いて帰るしかなかった。


それでも僕が珍しく上機嫌だったのは・・・レオナルド・パクという優秀な弁護士を
得たことで、暗中模索状態が続いていた世界に突破口が開けた気がしていたからだろう。


   ≪いよいよだ・・・≫

いよいよ僕の未来を賭けたゲームが始まる。

   ≪駒は揃った・・・≫

あとは僕がスタートのフラッグを振り上げればいい。

僕の胸は希望と野望が入り混じった感情で高揚していた。


とうとう10キロの道を歩ききった時、アパート近くの鉄橋で少し足を止め、
欄干に寄りかかり、ポケットから煙草を出しくわえた。

そして火を点けてそれをゆっくりと吸い込み、宙を仰ぎながら白い煙を闇に放った。

その直後、その橋から見える自分の部屋に灯った明かりに気がついた。

僕は急いで吸っていた煙草を落とし火を踏み消すと、鉄橋を駆け降りた。


 


「フランク・・」

性急に鍵を開けて部屋に入った僕に、声の主が笑顔を向けた。


   ≪ソフィア・・・≫

僕は彼女に走って近寄ると、無言で彼女の手を掴み、乱暴に抱き寄せた。
そして、彼女の次の言葉を聞くより早く、微かに濡れたその唇を容赦なく塞いだ。


 

     ・・・遅かったじゃないか・・・




























   




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