collage ＆ music by tomtommama

　　　　　　　　　　　　story by kurumi

　　　　　　









　　　　　　　「ミンアさん・・・
　　　　　　　　お聞きにならないんですね・・・」

ホテルへの帰り道、ジニョンは少し照れたようにミンアに尋ねた

　　　　　　　「何をですか？」

　　　　　　　「・・・・・・」

　　　　　　　「涙の理由ですか？・・・お聞きしたいです・・・でも・・・」

　　　　　　　「でも？」

　　　　　　　「ジニョンさんにとって、何だかとても
　　　　　　　　大切なことのような気がして・・・
　　　　　　　　触れてはいけないことのような気がしました
　　　　　　　　もし・・・もしいつの日か・・・
　　　　　　　　聞かせていただける時が来たら・・・
　　　　　　　　客とホテルの方としてではなく・・・
　　　　　　　　是非、お友達として・・・聞かせて下さい・・・」

　　　　　　　「・・・何だか不思議だわ・・・」

　　　　　　　「何がですか？」

　　　　　　　「まだ、お知り合いになったばかりなのに・・・
　　　　　　　　あんな醜態を晒してしまって・・・
　　　　　　　　でも、そんなに恥ずかしくなかった・・・
　　　　　　　　不思議・・・」

　　　　　　　「本当に？・・・嬉しい・・・
　　　　　　　　私、ジニョンさんのお友達になれそうですか？」


　　　本当に・・・あなたとお友達になりたい・・・


　　　　　　　「ええ、もちろん！」

　　　　　　　「じゃあ、ジニョンさん・・・ひとつだけ・・・
　　　　　　　　聞かせて？」

　　　　　　　「何ですか？」　　　　　　

　　　　　　　「・・・指輪・・・婚約・・・なさってる？」

　　　　　　　「あ・・・これ？・・・」

ジニョンは薬指の指輪を愛しそうに触れて少しだけ微笑んだ


　　　綺麗な人・・・


ミンアはジニョンのその表情を見て素直にそう思った

　　　　　　　「ホテルの方もそう言ってらしたから・・・」

　　　　　　　「誰が言ったかわかるわ・・・フフ・・・
　　　　　　　　これね・・・私のお守りなんです・・・
　　　　　　　　だから、なかなか外せなくて・・・」

　　　　　　　「外す？」

　　　　　　　「・・・・・・・・」

ジニョンの笑顔が少し消えたような気がした

　　　　　　　「ごめんなさい・・・余計なこと聞きましたね・・・」

　　　　　　　「いえ・・・いいのよ・・・・」

ジニョンは少しだけ考えるように空を仰いで
一度目を閉じると、笑みを作ってミンアを見た

　　　　　　　「解消したの・・・婚約・・・」

　　　　　　　「・・・・・・・・」

　　　　　　　「わかってるの・・・外さないと・・・
　　　　　　　　お返ししないといけない・・・
　　　　　　　　でも・・・外せないの・・・どうしても・・・」

それきり、ジニョンは指輪のことに触れず、話題を変えた
ミンアもまた、それ以上深く聞こうとはしなかった


　　　　　　　「ジニョンさん・・・これからも、ご迷惑でなければ
　　　　　　　　ジニョンさんのご都合のよろしい時は、
　　　　　　　　食事ご一緒して頂けませんか？」

　　　　　　　「えっ？・・・あ、はい・・・私でよろしければ・・・」

　　　　　　　「あ～良かった・・・
　　　　　　　　今ちょっとホームシックに掛かってて
　　　　　　　　少しブルーでした・・・
　　　　　　　　ジニョンさんがそばにいてくだされば
　　　　　　　　気分が紛れます・・・ありがとう・・・」

　　　　　　　「いえ、私の方こそ・・・ミンアさん・・・
　　　　　　　　今日は・・・ありがとう・・・」







　　　　　　　『ミンア・・・初めての祖国の印象はどうだい？」

　　　　　　　「はい、ボス・・・不思議と初めてのような気がしません」

　　　　　　　『君の親戚筋は？」

　　　ボス・・・
　　　お聞きになりたいことはそんなことではありませんよね

　　　　　　「縁続きは誰もおりませんわ・・・
　　　　　　　ボス・・・」

　　　　　　『ん？』

             「彼女の周辺では特に変わったことは　　
　　　　　　　ございませんでした・・・」

　　　　　　　『・・・・・・』

　　　　　　　「とても明るく・・・楽しそうにお仕事をしておいでです」


　　　彼女が泣いていること・・・

　　　きっとあなたを想って・・・泣いていること・・・

　　　お伝えするべきですか？・・・ボス・・・

　　　　　　　『そう・・・・』
　　　　　　　
ドンヒョクの声は本当にホッとしているようだった
ジニョンが明るく生きていてくれることが
心からの救いであるかのように・・・


　　　そんなにもあの方がご心配ですか？ボス・・・

　　　それなら・・・どうしてお別れに？

　　　あの方の心もあなたでいっぱいなのに・・・


　　　今日のことをあなたに話したら・・・

　　　あなたはどんなお気持ちになるのでしょう

　　　
　　　　　　「ボス・・・・」


　　　　《ボスは彼女のためなら、分別が付かなくなる

　　　　　ボスへの報告は良く考えて・・・》



今の仕事が彼の将来にどれほどの利益をもたらすのか、
レオに言われるまでもなく承知していた

そして今・・・ジニョンの心を伝えることが、
ドンヒョクにどのような影響を及ぼすのか・・・
ミンアにはまだ計り知りえなかった


　　　ジニョンさんという女性が、あなたにとって、
　　　どれほどの方なのか・・・

　　　あの人があなたの為になる方なのか・・・

　　　ただ・・・ボス・・・
　　　あなたがあの人を愛した理由・・・それは

　　　少しわかったような気がします・・・
　　　　　　

　　　　　　　『何？』

　　　　　　　「あ・・いいえ・・・何でもございません・・・
　　　　　　　　何か他に・・・お知りになりたいことは
　　　　　　　　ございませんか」


　　　彼女の様子をもっと・・・お聞きになりたくは・・・

　　　　　　　『いや、何も無い・・・
　　　　　　　　そのまま、続けて・・・よろしく頼む
　　　　　　　　それから・・・何か問題が起こらない限り・・・
　　　　　　　　報告はいらない』

　　　　　　　「はい・・かしこまりました・・・」

　　　　　　　『それじゃ・・』

　　　　　　　「あの、ボス・・・
　　　　　　　　余計なことでしたら申し訳ございません・・・」

　　　　　　　『何?』

　　　　　　　「彼女・・・指輪を外してません」

　　　　　　　『指輪?』

　　　　　　　「どなたからのものかは存じませんが・・・
                とても大切そうにしておいでです」


　　　きっと・・・あなたからのものですよね・・・


　　　　　　　「お守りなのだそうです・・・だから、外せないのだと・・・
　　　　　　　　そうおっしゃってました」

　　　　　　　『・・・・・・そう・・・』

ミンアは今自分が口にしたことが、ドンヒョクの心に
どれほどの影響があるのかわからなかった
それでも・・・伝えずにはいられなかった・・・

　　　私の判断は・・・

　　　間違っていましたか？・・・ボス・・・



ドンヒョクは受話器を置いて、椅子の背もたれを背中で押した

それに頭を預けると、一度目を閉じ、ゆっくりとまぶたを上げ
しばらくの間身じろぎすることなく、宙を仰いでいた

何を考えているわけではない・・・ただ・・・ただ、そうしていた・・・

そしてまた目を閉じると彼の口が微かに動いた・・・


　　　
　　　　　　　　　・・・そう・・・・











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【副題】　keep (人を）守る・（秘密を）守る・こらえる・続ける