collage &
music by tomtommama
story
by kurumi
東京オーシャンホテルへ多額の資金を
融資した人間がドンヒョクの妻であるということは、
今回の案件が当初からドンヒョクの策略の中で
進められていたということになる
しかしその後、森本会長はドンヒョクに対して
詰め寄ることはしなかった
ドンヒョクから進言され、諭されたことに加え、
娘のあかねからも、オーシャンホテルを救うことを
懇願された森本の中で何かが変わりつつあった
これでもう・・・
明後日に開催される株主総会で・・・
彼が動議を求めることはないだろう
「ドンヒョク・・・
なんてお礼を言ったらいいか・・・」
「フッ・・・言ったはずだ・・・
礼なら、このホテルを・・」
「世界一にした暁に・・・」
緒方が、「そうだろ?」と言わんばかりに
顎を上げてそう言った
「出来るか・どうか・は別として・・
まあ、頑張れ・・」
ドンヒョクもそれに合わせて、憎まれ口を利いた
「ああ・・頑張るよ・・・それはそうと、
株主総会終了後に債権者やお得意様を
ご招待したレセプションパーティーがある」
「そうらしいな」
「もちろん、お前も出席してくれるよな・・」
「いや・・明日帰国する」
「明日?どうして・・やっと落ち着いて
話もできると思ったのに・・」
「一週間の滞在予定がもう三日過ぎてる・・
もう限界だ・・」
「限界?」
「妻に逢いたくて」
ドンヒョクは至って真面目にそう言った
「はは・・・相変わらずの愛妻家だな・・
しかし、どうしても駄目か?せめて・・
株主総会までいてくれると心強いんだが・・」
「甘えるな・・」
ドンヒョクは緒方を軽く睨んだ
「それにもう大丈夫だ・・・
森本会長が取得した債権の殆どを
水沢が買い取ったこと・・聞いただろ?」
「ああ・・個人資産を投げ売ってまで・・・」
「それが彼なりのお前達への誠意なんだろう・・」
「いや・・彼女への・・誠意だ、きっと・・・」
「手段はともかく、違法ではない・・・
安心しろ・・彼は信用できる
つまり、東京オーシャンホテルは
北野社長とご子息、君達幹部社員、水沢圭吾
そして僕サイドで握っている分を合わせると
軽く90は超えるはずだ・・・
もう何処からも脅かされる心配は無い」
「本当に・・・感謝してるよ・・・」
「しかし、気を緩めるなよ・・・
ホテルが生き残れるか
そうでないかは、これからが勝負だ・・・
そして、本当の結果を下すのは他の誰でもない
ここを利用するお客様自身だ」
「わかってる・・・」
「北野社長も回復なさるといいが・・」
「直接お礼を申し上げたいと言っていたが
このところの無理が祟ったようで調子が・・」
「そうか・・・大事にして差し上げてくれ」
「ああ・・」
「それで?」
「ん?」
「それでどうなった?」
ドンヒョクが言わんとしていることはもちろん
緒方にもわかっていた
「・・・ん・・話したよ・・彼女に・・」
「お前の気持ちを?」
「いや・・彼らの真実を・・」
「いいのか・・それで」
「フッ・・良いも何も、彼女は彼を愛してる・・
それが事実だ・・
彼女の幸せが・・・俺の願いでもある・・・」
「損な奴だな」
「ああ・・損な男だ」
そう言った緒方の笑顔に後悔の色は見えなかった
日本での最後の朝、走っていると、目の前に
こちらに向かって笑顔を向ける杏子が見えた
「おはよう・・早いね」
「おはようございます・・こちらで
お待ちすれば、お目に掛かれると思って・・」
「僕を?待ってたの?」
「はい・・・本当にありがとうございました
ホテルを助けて下さって・・」
杏子はドンヒョクに深々と頭を下げ礼を言った
「いや・・ホテルを救ったのは僕じゃない・・・」
「えっ?」
「ホテルを救ったのは君達だ・・
君達のホテルへの真摯な愛情が・・・
僕や水沢君の心を動かした
だから・・・本当に救ったのは君達・・」
「ドンヒョクssi・・・」
「ところで・・アメリカへはいつ?」
「えっ?」
「彼と・・」
杏子の笑顔がフッと影をさしたように沈んでいた
「・・・いいえ・・アメリカには行きません・・」
「どうして?・・
彼はそのつもりだと聞いたけど?」
「はい・・・でも・・
社長のお体の調子も悪いですし・・
ホテルもこれからが大変だと思います・・・
私は・・・ここに残らないと・・・
いいえ・・残りたいんです・・・」
「彼は納得したのかな?」
「何も・・いいませんでした」
「愛してないの?彼を・・」
「愛してます!・・・愛してます・・・でも・・・」
「でも・・・か・・」
「私、自分だけが幸せになることはできません
私に居場所を作ってくださった社長や
緒方さんにご恩返しもしないまま・・・
幸せにはなれません・・・」
「そう・・・」
「私・・間違っているでしょうか・・・」
杏子はまるで自問しているかのようにポツリと言った
ドンヒョクは少し考えて口を開いた
「・・・・・・・彼を愛していて・・・それでも君が
彼と一緒に行けないのだとしたら・・・
それは神が与えた試練なのだと思う・・・」
「試練?」
「君と彼が・・本当に愛し合っているか・・・
例え離れていても心が繋がっているのか・・・
試されているんだ・・きっと・・」
「・・・・・」
「君達が信じ合ってさえいれば・・・
彼は・・きっと君の所へ帰ってくる」
「えっ?」
「離れている間は・・・
身を掻き毟られるほど辛いだろうけど・・・」
「・・・・・」
「前にも言ったね・・・
前だけを見て・・信じればいい、と・・」
「はい・・・」
満面の笑顔を向けながら言ったドンヒョクの言葉が
杏子の心に穏やかな風を吹き込んだかのように
彼女は自然と笑顔になった
「ドンヒョク・・本当に帰ってしまうのか?」
「ああ・・」
「せめて、明日までいてくれないか・・」
「駄目だ・・」
「どうしてもか?・・本当に帰るんだな!」
「緒方・・さっきからしつこいぞ!」
部屋でいそいそと帰り支度をするドンヒョクの後を
緒方がうろうろと付いて回わっていた
「マユミ・・こいつを何とかしてくれ」
マユミは、ドンヒョクの身支度に加勢をしながら
ふたりのやりとりを笑顔で見つめていた
「ふふ・・緒方総支配人・・
諦めた方がよろしいかと・・・
ボスは一度お決めになったことは決して
曲げない主義です」
「ほら・・有能な秘書がそう言ってる」
「絶対に曲げない?・・・本当だな!」
「しつこい!」
「ドンヒョク・・できればパーティの席で
挨拶してもらいたいんだ」
部屋を出た後も、緒方はドンヒョクの横を歩きながら
彼の帰国を何とか止めようと食い下がった
「緒方・・お前いつから
そんなにしつこくなった?」
「これくらい粘り強くないと、
総支配人はできないんだよ」
「そうか・・それは良かった・・しかし、
悪いが僕にはそんなもの通用しない」
「どうしても会って欲しい人がいるんだよ」
「人に会うのは面倒だ」
エレベーターに先に乗ったマユミが一階のボタンを
押した所へドンヒョクと緒方が乗り込んだ
階下へと向かうその中で緒方の説得は続いていた
「お前もきっと会って良かったと思うような人だぞ」
「会いたい人はここにはいない」
エレベーターが一階に到着するや否や、ドンヒョクは
一番先に扉を抜け出し、足早に緒方から離れた
「そうか!?・・・」
緒方もまた、急いでドンヒョクを追いかけていた
「後悔しても知らないぞ!」
「するか!」
「あ!・・・良かった・・間に合った ・・ドンヒョク!」
エントランスまでもう少しというところに来て、
大きな声で叫ぶ緒方にドンヒョクは振り向いた
「何だ!いい加減に!」
「お前に会ってもらいたい人って・・・」
緒方はドンヒョクにそう言いながら、視線だけは
ロビーの向こうに見つけた待ち人に向かっていた
「あの人なんだけど・・・」
ドンヒョクは彼に促がされるようにその先に
視線を送った
そして、そこに見つけたのは・・・
「一度決めたことは曲げない主義・・
だったか?」
緒方がドンヒョクの顔を覗き込むように見上げた
「いや・・・」
しかしドンヒョクの視線は緒方に帰らなかった
「仕方ない諦めるよ・・いいぞ・・帰っても・・」
「ひとつだけ・・例外がある・・」
「例外って・・なん・・お・おい!」
ドンヒョクは緒方への答えもそぞろに視線を送った先へと
その足を一直線に進めていた
緒方は仕方なく、そのわかりきったような質問を
隣で苦笑するマユミに向けた
「マユミさん・・・
あいつの例外って何でしたっけ?」
「はい、ボスの例外は・・あの方の為だけです」
ドンヒョクは吸い寄せられるように、
その人の元へと歩み寄った
その人もまた・・・
近づいてくる彼を輝くような笑顔で待ち受けた
「ジニョン・・・」
「・・・・・」
「どうして・・ここへ?」
「あなたに逢いたくて・・・」
「四時間もすれば逢えたのに・・」
「一分でも早く逢いたかったの・・・」
「・・そう・・」
「ドンヒョクssi?・・」
「ん?」
「私を・・・待ってた?」
ジニョンは六年前のあの再会の日の・・・
ドンヒョクの最初のひと言を真似して言った
ドンヒョクは彼女のその言葉に笑みを浮かべながら
照れたように顔を逸らせた
六年前のあの時・・・僕は
本当に君が僕を待っていてくれているのか
不安な思いを抱きながら君を迎えていた
だから・・君の涙交じりの笑顔が
僕の不安を一瞬にして消し去ってくれた時
僕は抱えきれない君への想いを込めて
そう言った・・・
僕を・・待っていた?
あれからもう・・・六年の月日が流れた・・・
ジニョン・・・
それでも君は・・・未だに僕の心を・・・
こんなにも揺らすんだね・・・
そして、ドンヒョクは改めて・・・
姿勢を正すと手を差し伸べながらこう言った
「ああ・・待ってた」
ジニョンが差し出されたドンヒョクの掌に指を置くと
その大きな手がしっかりと彼女の手を掴んだ
そしてその手に力強く引き寄せられ
愛しい人の胸にふわりと体を預けた
ふたりは周りのことなどまったくお構いなく、
人の行き交うロビーの中央で互いを強く抱きしめた
ふたりのその姿がまるで美しい映画のように・・・
ホテルの大きなシャンデリアの下で輝いていた
ジニョン・・・
僕を待っていた?
僕も・・・待っていた
君にそう言ったあの頃と少しも変わらぬ・・・
・・・心のままに・・・