「ん?」
「顔・・」
「何?」
「美男子が台無し」
「何で」
「にやけてる」
「余計なお世話だ・・・あ!」
「何?」
「ごめん・・・」
「だから何?」
「妬いたんでしょ?」
「何を?」
「サランと先に・・・こうしたから」
「・・う・う・・ド・・ドンヒョクssi!
危ないじゃない!・・ナイフ持ってるのよ!私」
「ちゃんと見てるよ・・心配ない・・」
「もう!あなたったら・・」
「ねぇ・・言ってみて・・妬いてた?」
「妬いてるわけないでしょ・・私達の子供よ」
「そう?・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「ダディ・・マム・・ようちえん、おくれる・・」
背後からサランが僕そっくりの冷静な声で水をさす
君・・まだ四つでしょ
「あ・・サ・・サラン・・ごめんね・・
直ぐに用意するわね・・」
僕はサランを小さく睨みながら彼女の隣に腰を下ろした
「・・・・・・サラン・・邪魔したな」
「ダディもこのまえ・・サランのじゃました」
「邪魔って?」
「ヨンミンがサランにキスしようとしたとき・・」
「・・・・・あ・・あれは・・
君達がいけないことをしようとしていたから・・
キスはね・・家族だけがするものだよ」
「ほっぺも?」
「ほっぺも」
「でもようちえんのみんなもしてる」
「そうなの?いけない子達だね・・・
でも・・シン家の人間はいけないことはしちゃいけない
約束は守らないとね・・・サランにキスできるのは
ダディとマミィだけ・・いい?わかった?
ダディとの約束だよ・・・いいね」
「うん・・わかった・・・」
「よし・・いい子だ・・・」
「何の話?」
「いや・・何でもない・・」
「・・・・・」
こんな無邪気なことを子供に真剣に約束させている
自分が可笑し過ぎて・・・
幸せが体中を深く深く侵食していく・・・
「マム・・むすんで?」
サランが可愛らしいピンクのリボンを突き出して
ジニョンにせがんだ
ピンポ~ン♪
「あ・・ジェニーだ・・マム・・はやく」
「オーケー・・ドンヒョクssi・・ジェニー・・」
「ん・・」
インターホーン画面のジェニーを確認して、ドアロックを外した
ジニョンが遅番の時は、ジェニーがソウルホテル近くの
幼稚園に先に連れて行ってくれる
「アニョ~ン・・サラン・・準備は・・おっと・・
シン家の中では英語だったわね・・・Are you ready? Saran・・」
「OK!」
「じゃあ・・姉さん・・連れて行くわね」
「宜しくね・・ジェニー」
ジェニーが慌しく、サランを連れて部屋を出て行った
「いつもながら、忙しい奴だな・・・兄貴に挨拶もしなかった」
「ふふ・・拗ねないで・・でも、助かってるの・・
ジェニーが私のシフトに合わせて
サランの送り迎えを手伝ってくれるんですもの
何も言ってないのに、気が利くのよ・・あの子」
「そう・・」
「ドンヒョクssi・・髪梳かす?」
「ん・・」
ジニョンが僕の後ろへ回って、さっきサランにしてくれたように
肩よりも長くなってしまった僕の髪を優しく梳いてくれる
「大分長くなったわね」
「ん・・」
「まだ・・切らないの?」
「ん・・まだ・・・」
「私より長くなってる」
「サムライみたいだって・・オガタが言ってた
気に入ってるんだ・・」
「ふふ・・そうなの?」
うそつきね・・・
あなたが髪を切らない理由・・
それは・・・
「何?」
「ううん・・何でもない・・
ところで・・ドンヒョクssi・・昨日話してた
オガタさんを探しに日本から来ているという女の子・・・
あなたがオガタさんを知ってること・・
伝えてあげたの?」
「いや・・」
「どうして?探してるんでしょ?彼女・・」
「・・・・考えてるんだ・・・
彼が彼女に会いたいだろうかって・・・」
「・・・会うべきだと思うわ」
「どうして?」
「彼が今の自分を彼女に見られたくなくて・・
会いたくないんじゃないか・・
そう思ってるんでしょ?」
「ん・・」
「愛する人に落ちぶれた姿を見られたら、
きっと自分の情けなさが鏡に映るように見えるはず・・
そこから前に進めるか・・後退するのか・・
その人次第・・・でも、彼があなたの言う通りの人なら
今のままでいいと思ってるはず無いわ
彼は立ち直るきっかけを探してると思う・・・
あ・・ごめんなさい・・余計なこと・・」
「いや・・・君の言う通りだよ・・・
僕はちょっと、気にし過ぎなんだ・・・
昔・・君に会うことが出来なかった自分と重ねてしまって・・
こんな時、男より女の方が度胸が据わってるらしい」
「ふふ・・・
私があなたを追いかけて・・プロポーズしたあの日のことね」
「あの頃・・自分が君に相応しい男に思えなくて・・
君から逃げてた」
「許せなかったわ・・・こんなに愛してるのに・・
私を置いていったあなたが・・許せなかった・・・
愛してたら・・・どんな状況にあっても手を放しちゃ駄目なのよ」
「ジニョン・・・・・・・・
今日、彼女に会ったら・・声を掛けてみよう・・
ホテルスタッフの話だと、寝る間も惜しんで探しているようだ
もしかしたら、もう彼を見つけたかもしれないけど・・・
僕も彼女と話してみたい」
「そうしてあげて・・」
「・・ジニョン・・」
「・・・・なあに?」
「ありがとう」
「私は何も・・・・でも、ドンヒョクssi・・」
「ん?」
「サランに変なこと教えないでね」
ジニョンがすましたようにさらりと言って僕を睨んだ
「聞いてたの?」
背中から僕の首に回したジニョンの腕が
笑いを堪えるように震えている
「笑うな」
僕は振り返ってジニョンの首を捕まえると
もうどんなことが起こっても離せない幸せを
まるで自分の奥深くに閉じ込めてしまうように・・・
彼女を強く強く抱きしめた
その日の夜・・・
彼女がホテルに戻って来たとフロントから連絡を受けて
そのまま「待たせておくように」と言付けた後、
急いでフロントへ向かった
昨日見かけた時よりも、彼女ははるかに疲れきった顔をしていた
「お帰りなさい・・・」
「・・・・」
「オガタには会えましたか?」
会えたんですね・・・
その顔はかなりショックだったようだ
「・・あの・・」
さあ・・教えてください・・・
「失礼・・・オガタの友人の・・
シン・ドンヒョクと申します」
あなたは本当にオガタの・・・
・・・救世主だろうか・・・