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reason-夢の痕 |
mirageからpassionまでの空白の日々
ドンヒョク(フランク)とジニョン、そしてレイモンドは・・・ |
No |
3 |
HIT数 |
3749 |
日付 |
2014/10/04 |
ハンドルネーム |
kurumi☆ |
タイトル |
reason-夢の痕- 3話.二番目の夢 |
本文 |
第3話 二番目の夢 フランク-25歳-
-NY-
「フランク・・頼まれていたものだ」 レオが部屋に入るなり、そう言いながら、USBを差し出した。
「ん」 フランクは、まるでそれが何か解っているかのように、顔も上げず、 左手を差し出し、それを受け取った。
レオは、それをフランクの指に移しながら、彼の言葉を待った。 しかし、構わず仕事を続ける彼に呆れたように両肩を上げると、 諦めて部屋を出ようとした。
「気になるのか?」 レオは、どうしてもフランクことが気になって仕方なかった。 結局、ドアの前で立ち止まり振り返りざま、そう聞いた。
「別に?」 フランクは相変わらず視線を上げなかった。
「ならどうして」 レオはフランクに、つかつかと近づき、問質すように尋ねた。
「お前に頼むことに!理由が必要か?」 フランクは突然声を荒げ、レオを睨み上げた。
「・・・いいや、必要ない」 レオは溜息混じりにそう答えた。
「だったら!余計なことを聞くな。」 フランクは、その時のレオの表情に、自分への憐れみが見えて、 余計に腹立たしかった。≪見透かすのは止めろ・・・≫
フランクは、持っていた万年筆を書類の上に乱暴に放り投げると、 レオから視線を逸らし、代わりに窓の外を睨み付けた。
レオは、あからさまなフランクの動揺を、それ以上見るに忍びなく、 黙って部屋を後にした。
フランクはレオが出て行ってから、充分な時を数えてやっと、 先程レオに渡されたUSBをパソコンに繋いだ。
そこには或るパーティー会場の様子が映し出されていた。 ほんの一時間前の映像のはずだった。
会場内をゆっくりと流れる映像の中のメインステージの頭上には、 ≪ソウルホテル新入社員歓迎パーティー≫と表示された垂れ幕が 掲げられていた。 ホテル社長や、要人の挨拶が長々と繰り広げられている中、 その映像は、中心から少しずれた方向に、不自然にズームしていた。 そして、それを見つめるフランクの視線もまた、その後方に立つ ひとりの女に注がれていた。 黒髪を後ろに撫で上げ、黒の制服を身にまとった、大きな瞳の女。
フランクは、ほんのわずかなその女の映像だけを丁寧に切り出し、 コマ送りに何度も何度も繰り返し見ていた。 いつしか、暖かいものが頬を伝ったのには戸惑いを覚えたが、 自嘲にも似た苦笑いでそれを拭き取った。
≪望みが叶ったんだね・・・≫
フランクは画像の中の、自分が知るより、少し大人びたその人に 小さく微笑み掛けて、安堵するかのように溜息を吐いた。
≪・・・君の・・・幼い頃からの夢だ≫
≪私の望みは・・・あなただわ≫ いつかのその声が胸に響いた。
少し照れたように上目遣いをする映像の中の、その声の持ち主は とっくに自分とは掛け離れた、違う世界で生きている。 生き生きと、元気に、そして泣きたいほど・・可憐に・・・。
≪僕の知っている黒く大きな瞳・・・
僕の知っている薄紅の柔らかい唇・・・
僕の・・知っている・・無防備な笑顔・・・≫
フランクは心の中の言葉に添って、自分の指を映像に重ねていた。
≪でも・・・君のその瞳に映るものすべて・・・
・・・僕は知らない≫・・・
-ソウル-
ジニョンは胸を高鳴らせていた。
今日はソウルホテルの入社式。そして歓迎パーティーも開かれる。 今日一日はジニョン達新入社員は、ソウルホテルのお客様扱いだ。
ジニョンはまだ朝の五時だというのに、制服を身にまとってみていた。 八時からの式には無論早過ぎる。 鏡の前で、真新しい制服のリボンを何度も結び直してみたり、 髪形を幾通りも作り直していた。 試行錯誤の末、結局、シンプルに後ろにまとめ上げた。 ≪ちょっと老けて見えるかしら・・・≫
「でも、ホテリアーですもの、落ち着きが大切よね」 独りごとを言いながら、鏡の前で口角を上げて笑顔を作ってみた。
そうやってジニョンは、朝の数時間を落ち着きなく費やしていた。
そして、待ちに待ったその時がやって来た。 広い会場に並べられた円卓を囲む先輩従業員や各界からの招待客が 拍手で迎える中、ジニョンは同期となる二十名近くの同僚達と共に、 緊張の面持ちで入場し、そのまま、先輩支配人に誘導されて、 正面中央に設えた壇上に上った。
心臓が高鳴り、目の前で交互に祝辞を述べる要人達の背中に、 圧迫感を覚えた。
特に会場の様子を撮影しているカメラのレンズが後方に移動すると、 余計に緊張を煽っていた。 気のせいかそのカメラが、何度も自分の方向で停止しているように思え、 その都度、表情がぎこちなくなるようで、ジニョンは戸惑った。
≪あっちへ行って≫ 思わず、カメラに向かって目で訴えた。
その後カメラは何事もなかったように会場全体の撮影をしていたので、 思い違いをしたのだと、ジニョンは自意識過剰を恥ずかしく思った。
「あのカメラマン、知り合いか?」 やっと緊張が溶けたジニョンが空腹に耐えかね、取り皿を手にした時、 誰かが後方から声を掛けてきた。
キム・テジュンだった。 彼は新入社員の研修期間の数か月、苦楽を共に過ごした同期だ。 年齢は少し離れているものの、話していると不思議とリラックスできる、 数少ない親しい友人と言えた。
「えっ?」
「レンズがお前ばっかり追ってた」 彼はそう言いながら、怪訝な眼差しを例のカメラマンに向けていた。
「やっぱり?気のせいかと思ってたんだけど・・・ そうよね、やっぱり私を撮ってたわよね。思った通りだったんだわ!」 ジニョンは、自分が正しかったとばかりに、カメラマンの方を睨んだ。 ふたりのただならぬ視線を感じたらしいカメラマンはというと、 それに動じる様子も見せず、会場の袖に移動した。 そして、カメラを傍らに置き、バックからパソコンを取り出したかと思うと、 手早い操作で撮影データを落とし込んでいた。
「俺が話しつけるか?」 テジュンがジニョンに肩を持つように言った。
「いいえ、大丈夫よ」 ジニョンは、任せてと言わんばかりに腕をまくった。 そして、カメラマンに向かって、つかつかと近づいて行った。 「あの!」
カメラマンはジニョンの声に、一瞬彼女を見上げたかと思うと、 手早くパソコンを閉じながら、改めて視線を彼女に向けた。 「何か」
「あなた、私をご存じなの?」 ジニョンはその声に、問い詰める色合いを隠さなかった。
「あ-確か・・・ソウルホテルの新入社員さん?」 カメラマンは至って冷静に答えた。
「・・・さっき、あなた・・私を」 「何か問題でもありましたか?」 カメラマンはジニョンの言葉を最後まで聞かず、寧ろ遮るように言った。 彼は終始無表情で、決してジニョンに興味を持っているようにも 思えなかった。
ジニョンは急に、自分の興奮が馬鹿らしく、無意味に思えて、 さっきまでの勢いを、一瞬にして失ってしまった。
「な、何でもないわ」 ジニョンは顔を赤らめて、ツンと鼻先を上げ言った。
「そうですか・・では、急いでいるので・・いいですか?」 カメラマンはテーブルの上のパソコンを指さして言った。
「あ、・・ええ、ごめんなさい、お邪魔しました」 ジニョンはそう言いながら、慌てて仲間の待つ場所へ戻っていった。
カメラマンはジニョンが自分から離れるのを確認して、改めて パソコンを開き、作業を急いだ。
ジニョンは新入社員に向けた一日掛かりの行事と、各部署への 挨拶回りを終えると、人目を忍んでひとりその場を抜け出した。 既に時は七時を回り、周囲は薄暗くなっていた。
ホテルを出たジニョンは、ゆっくりと山間に添った坂道を上がった。 坂の上には大きな洋館風の建物が見えてくる。 ダイヤモンドヴィラと称するその建物の庭から眺める景色は、 ジニョンのお気に入りだった。 ジニョンは、美しく手入れされた広々とした芝生の上に立ち、 目の前に広がる景色をぐるりと見渡すと、大きく深呼吸してみた。
次第に暮れゆく眼下に輝く街並みは、まるで宝石のようだった。
≪私ね・・・ホテリアーになったわ・・・
夢が叶ったの・・・私の小さい頃からの夢・・
一緒に乾杯したいでしょ?・・・教えてあげたいのに・・・
馬鹿ね・・・そばにいないあなたが悪いのよ・・・
でも・・・知ってるでしょ?・・・本当はこれが・・
一番の夢じゃないってこと・・・私の一番じゃないってこと・・・
・・・ねぇ、言って・・・知ってるって・・・・
・・・わかってるって・・・・・・・・言って・・・≫
・・・「フランク・・・」・・・
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