翌日僕はソウルホテルをチェックアウトした
行き交うホテルマンたちが口々に僕のチェックアウトに
“寂しくなります”と言ってくれた
確かに形はチェックアウト・・・
しかし僕の心はこのホテルがここに存在する限り
生涯チェックインしたままなのだと思う
そして・・・
その心のホテルのフロントには・・・たったひとり・・・
必ず存在しなければならない人がいる
その人は今、あの場所で僕を待ちわびているはず・・・
はやる気持ちで僕はエレベーターに駆け乗った
君へと向かう心が子供のように軽やかに弾む・・・
そんな自分が可笑しくて・・・とても愛しかった・・・
でも玄関を入り声を掛けてもその人の返事が無い
リビングに入って周りを見渡しても・・・
・・・いない・・・
ん?・・・
・・・見つけた・・・
ジニョンはテラスでうたた寝をしていた
ここは暖かいからね・・・居眠りには丁度いい・・・
でも風邪引くよ・・・
僕は自分の上着を脱ぎそっと彼女の肩に掛けた
そして彼女の隣に座り 右手で頬杖をつくと
彼女を黙ってみつめていた
左手で彼女の髪をすいて
毛先を自分の指に絡めてはしばし遊んでいた
僕が甘い香りに誘われて君の髪に顔を近づけた時
君が目を覚まし、眠そうなまま僕を見た
「う~ん・・・ドンヒョクssi?・・・帰ったの?」
君はそのままの姿勢で言った
ドンヒョクは声を出さず “うん”という表情を彼女に見せる
二人はテーブルの上に頭を乗せたまま並ぶように向き合い
互いの顔を見つめながら静かに言葉を交わした・・・
「ドンヒョクssi・・・何してるの?」
「見てるの・・」
「何を?」
「言わなきゃわからない?」
「見てるだけ?・・・」
「見てるだけじゃダメ?・・・」
「ダメじゃないけど・・・」
「じゃあ 僕のしたいことしてもいい?」
「そんなこと・・・聞かないで・・・」
そして白いテーブルの上でふたりの黒髪がひとつになった・・・
しばらくして、ふたりの甘いひとときに水を差すような音が鳴り響いた
電話の着信音だった
誰だ! いったい・・・
しかしドンヒョクは一向に出ようとしない
気にして離れようとするジニョンの頭をドンヒョクの大きな手が
執拗に押さえ込んでいた
鳴り止まない電話が気になったジニョンがもがきながら
やっとドンヒョクの力を解いた
「ドンヒョクssi 出なきゃ・・電話・・」
“仕方ない・・”と言わんばかりに唇を尖らせながら
ドンヒョクはポケットから携帯を出した
「Hello!」
「ボス 俺だ」
「レオ!一週間は電話も掛けるなと言ったはずだろ!」
「分かってるよ どうしてもボスの判断を
仰がなきゃならないことが出来たんだよ」
「ちょっと待て!場所を移る」
ドンヒョクはジニョンに掌を見せ断ると立ち上がり書斎に移動した
「ジニョンssi と一緒か・・・邪魔したか?」
「・・・・・・・・・」
「そんなに怒るなよ・・・・・それよりボス、お前こっちで
いったい何人の女と付き合っていたんだ?」
「何の話だ」
「一人や二人じゃないぞ 電話・・・
中にゃ 事務所に押しかけてきた女もいた
会わせろ!ってな
聞けば、一年前ソウルから帰ってから電話しても
会ってくれなくなった、とか
今度は電話も繋がらなくなった、とか
それで、どうしようもなくて事務所探して来たんだ、と
吠えられたぞ
お前、ちゃんと精算したのか?」
「精算するような関係の女なんて 一人もいない!
レオ! そんなつまらないことで?」
「いや そうじゃない 実は・・・」
レオはやっと本題を切り出した・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・という訳だ・・ボス・・
悪いが休暇を二日繰り上げてくれないか・・・」
「そういうことなら仕方ないな・・・」
「それから ソウルの事務所にも早めに顔出してくれよ
もう既に従業員入れて始動させてる
後はボスが行くだけだ
そこでアメリカ行きのチケット受け取ってくれ」
「ああ、わかった・・・」
「ボス・・・年の功で言わせてもらうが、
お前にそのつもりが無くても
相手は どっぷりつかってることあるぞ
たかが女と・・あなどるなよ」
「余計なことを言うな」
レオに対して捨て台詞放って電話を切り振り向くと
真後ろにジニョンがいた
「ワァッ!・・・い・・たの?」
「ええ・・・」
「いつから?」
「最初から・・・」
「話・・聞いてた?」
「ええ・・・それでドンヒョクssiに少し注意しようかと思って」
「な・・何を?」
「ドンヒョクssi !」
「はい」
「あなた レオssiに少し厳し過ぎない?」
「えっ?・・・」 ・・・そんなこと・・・?
「前から思っていたのよね!あなたって仕事になると
本当に怖い目するし、言葉もキツイし
すべてが人を威圧するのよ
ホテルの子もあなたに睨まれてどんなに怯えたことか・・・
こーんな目しちゃって!」
ジニョンは両手で自分の目尻を吊り上げて見せた
「プッ・・・」 ドンヒョクはジニョンの顔に噴出した
「笑い事じゃないわ ドンヒョクssi !
自分が頭いいからって少し人を見下してない?」
そこまで言うかジニョン・・・
「そんなこと無いよ」
そう言いながらドンヒョクはジニョンの後ろに回ると
彼女をきつく抱きしめた
「僕が・・・どんな風に怖いって?」
抱きしめた腕に更に力を込めた
「だか・・ら・・もう少し・・・やさ・・しく・・・」
「わかったよ」
ドンヒョクはジニョンの髪を優しく掻き揚げると
耳の後ろにそっとくちづけた
そして・・・
そこから首の付け根までゆっくり唇を這わせた
「あっ・・・」
ジニョンから甘い吐息が漏れた瞬間、
彼女は自分自身の反応に驚いたかのように
慌ててドンヒョクから離れた・・・
「そ・・そうだわ!ドンヒョクssi !
お部屋・・カーテン用意するの忘れてない?
ここも・・それからリビングも・・」
そう言いながら、ジニョンはごまかすように
部屋を出てリビングに向かった
「・・いいや、忘れてないよ」
ドンヒョクは少し呆れたような顔を彼女に隠して
彼女の後に続いた
「だって・・ついてない・・」
「いらないんだ」
「えーどうして?」
「どうしても!」
・・・まだ・・・だめ?・・・