「ごめんなさい・・・・私・・・ジニョンssi、好きです・・・
侮辱するつもりなんてありません
でも、あなたに相応しい女性は、彼女ではありません」
「僕の好きな女性? 相応しい女性?それはどんな人なの?」
「あなたに相応しい女性は・・・・
いつも冷静で、賢くて・・・・気品があって・・・美しくて・・・
それでいて・・・」
「君みたいな人?・・・・」
ドンヒョクは俯いた口元に微かに笑みを浮かべた
「そうなろうと、努力しましたから・・」 ドンヒョクの皮肉を前にしても
アナベルは平然と肯定してみせた
「僕に相応しく?何故?・・・」
「もちろん、あなたに愛されるためです
私は、この5年間、あなたに愛されるためだけに
生きてきました」
「ははは・・・」 ドンヒョクは突然、声を高らかに笑ったかと思うと
瞬時に真顔に転じて吐き捨てるように言った
「冗談はもういい。出て行ってくれ・・悪ふざけには付き合えない・・」
ドンヒョクはアナベルから視線を外して、彼女との間を遮断しようとした
しかしアナベルは引かなかった
「冗談ではありません!ふざけてもいないわ!」
「・・・・・・」
「・・・16の誕生日の日でした・・・父が私に言いました
“この男が、お前の結婚する相手だよ”
父は一枚の写真を私に手渡すと、こう続けました
“フランク・シンという・・・。私はこの男を必ず手に入れる
・・必ず。・・だから・・お前は彼の好む女性になりなさい”
私は、幼い頃から、父の言うことに逆らったことは一度もありません
父には有無を言わせない強さと自信がありました
だから、父の言いつけを守ることは私にとっては当然のこと
今度もそう・・・その時はただ、そう思っていました
きっと俗に言う政略結婚なのだろうと・・・
はい・・・・、と父に答えました
でも・・・あなたのことが気にならないわけありません
私はそれから、父の仕事に関することを調べました
あなたを調べました・・沢山・・沢山・・
そして私は・・・
写真だけ・・書類だけの世界であなたに恋をしました
17になって・・・父はやっと私をあなたに引き合わせました
あなたに・・初めてお逢いして・・・・
私の恋は現実のものとなりました
父は・・・あなたのことを、こう言いました
“あの男は、バカな女が嫌いだ
賢く、美しく、上品で、自分をしっかり持っている
いつも啓発を怠らない女・・・
そんな女性を愛する男・・・・お前はそんな彼の愛する女になりなさい”
はい・・・と答えました
その時はもう、父の圧力とは関係なく
私自身が、自分の意志で、そう答えていました
あなたに直接出逢って・・・・私の毎日は全て変りました
懸命に勉強して、あなたと同じキャンパスを目指しました
あなたが踏んだ地面を私も歩きたかったから・・・・
語学やパソコン、ビジネスに関することを学びました
いずれ、あなたの仕事に役立ちたかったから・・・・
ピアノ・・バイオリン・・今までに加えて、あなたの好きな曲を
巧みに弾けるように練習しました
どんな時も・・あなたの疲れた心を癒したかったから・・・
一生懸命、料理も学びました
あなたの好みを調べて、あなたの口に合う味付けを・・・
あなたに心から喜んで欲しかったから・・・・
あなたの好きなもの・・・私、何でも言えます
好きな絵画は、ルーベンス
好きな音楽はクラシック・・その中でも、リスト・・ラフマニノフ・・
好きな色はブルー、青空を見上げる度にあなたを想いました
好きな花は薔薇ではありません・・・
ある時、あなたに直接お聞きしたんです
どんなお花が好きですか?やはり美しくゴージャスなお花?・・と・・
するとあなたは周りに人がいないことを確認して私にそっと教えてくれました」
その時ドンヒョクは遠い記憶を脳裏に浮かばせていた
あの・・・どんなお花が好きですか?
フランクさんはやっぱり・・ゴージャスなお花?
そう思う?・・本当はね・・野山に咲いている小さな花・・・
「名も無い花が好きだと・・・そんな花が好きだと・・・
笑っておっしゃいました
余りプライベートを語らないあなたがその時、
心を開いてくれたようで、嬉かった・・・」
アナベルはその日を回想しているかのように、笑みを浮かべた
恋人に贈る時はどうなさるの?
そうだね・・・一緒に野山に行くしかないか
「何故?」
「何故?・・いつか、いつの日か、あなたに愛され、
あなたのそばで生きるため・・・そのためです」
「僕のそばで?生きる?そこに、僕の意志はないの?」
この時、ドンヒョクの胸にアナベルへの哀れみに似た何かが芽生えていた
「仕事一筋で、女なんて、気にもかけていなかったあなたが
こんなにもあっさりと結婚してしまうなんて
思ってなかったんです・・・・父の誤算でした
私をあなたに相応しい女に育て
あなたに託す・・・・それが、父の目的だったのに・・・」
「ヤン氏・・・どうかしてる・・」
「ええ・・そうかもしれません・・きっと・・・でも・・・
その頃の父は既にあなたを自分の思い通りにする力を持ってました
それでも、そうしなかったんです・・・」
「僕はどんな時でも、他人の思い通りになどならない。」
ドンヒョクは拳を強く握り締めながらアナベルを見る目に力を入れた
「そうですね、だから父は待っていたのかもしれません
父はあなたに本気で心酔してましたから、あなたに敬意を
払ってるつもりだったと思います
あなたの元へ連れて行ってくれるを待っていたのに・・・
父は急がなかった・・・
私は待ちきれませんでした
覚えていませんか?
私が18の頃、あなたに勇気を振り絞って言いました
今思うと笑ってしまうほど、私、唐突過ぎました
結婚してください
そう言ったんです・・あなたに・・・」
「覚えてない」
「そうでしょうね・・・
あなたは冗談だと思ったらしくて笑ってました
そして、こう言ったんです・・・
“僕に相応しい女性に成長したらね・・お嬢さん?・・”
今・・・・あなたに相応しい女に・・・・
なってませんか?私・・・・・フランク・・・・」
「だから?・・・・・だから、どうしろと?
たとえ、君が僕に相応しい・・・
フッ・・・・何が僕に相応しいのか、わからないが・・・
そうなっていたからとして、今の僕にどうしろ、と?
僕には既にジニョンがいる・・」
「あなたは必ず私を愛してくれます」
「凄い自信だね・・・僕より僕のことがわかっている、というわけだ。」
「あなたは父を知らないから・・・父は・・・意志の強い人です
あなたが、お仕事で頭角を現した頃から
自分の後継ぎはあなただと決めていました
こうと決めたら、必ず実現する人です
でも、私は父のやり方であなたを自分のものにしたくなかった
私は・・・私を愛してくれることが、先であって欲しかった
・・・・だから、父よりも先にここへ来ました
あなたが結婚したと聞いた時
あなたに何か別の考えがあるのではないか、そう思っていました・・・
仕事の上で、結婚する必要があったからだと・・でも・・
思ったよりあなたはジニョンssiを愛してらした
あなたの瞳はいつもジニョンssiを追ってらっしゃる
心が騒ぎました・・・・私に早く気付いて欲しかった
あなたのために・・・あなたに愛されたくて・・・生きてきたのは
ジニョンssiではなく・・私なのだと・・気付いて欲しかった」
アナベルは目にいっぱい涙をためていた
しかし、それが零れないよう、自分の想いがきちんとドンヒョクに伝わるよう
興奮して震える自分の胸を押さえながら、ゆっくりと話した
ドンヒョクはアナベルを凝視していた
そして、彼女の言葉が終わるのを待った
「それで?」 ドンヒョクの声は冷たかった
「フランク・・・・私に・・・心動きませんでしたか?」
「動かない」
「・・・・・」
「アナベル、君はどうかしている
父上もどうかしている
他人の生活に割り込んで、他人の心を乱して
自分の思いを叶えるのか?・・それが幸せか?
はっきり、言う・・・・僕の心は・・・・
僕の苦しみも・・・・
僕の悲しみも・・・・
僕の喜びも・・・・
全て、ひとりの女によってしか、癒されないし、得られもしない
それがジニョンだ。」
「人間は自分の理想を追い求めるもの
理想に巡り会うために生きていると思います
昔、あなたはそうして我武者羅に頂点を目指してた。ジニョンssiが!
あなたの理想とは思えない。」 アナベルは早口にそう言った
「だとしたら。
君が見ていた僕は本来の僕ではなかった、ということだ
僕はジニョンによって、本来の自分を取り戻した
だから・・・・本来の僕の理想はジニョンだった
僕は我武者羅に理想を求めて、我武者羅にそれを手に入れた!、
それで解決だ!」
ドンヒョクは話はこれで終わりだ、と言わんばかりに声を荒げた
そして、自分を落ち着かせて、今度はゆっくりと言った
「アナベル・・・・
君は、父上との仕事が片付いたら、ホテルに戻りなさい
父上は、君にホテル事業を継がせることが目的なんだろ?
僕のところにいる必要は何一つ無い・・そう思わないか?」
「フランク・・・・・いいえ、ボス・・・・もう遅いです・・」
「・・・・・・。」
「父は既に動き始めました」
「どういうことだ」
「父に聞いて下さい・・・明日ソウルに・・・
そして、父はあなたと私を連れて、アメリカに戻ります」
「何を言ってる」
「ボス・・・帰らせて頂いていいですか・・・ごめんなさい
今日は仕事になりません、私・・・・
明日からは、きちんとやります・・・
どうか、あなたも、今までと同じように、私に仕事をさせてください
お願いします・・・」
そう言って深く頭を下げると、アナベルは部屋を出ていった
ドンヒョクは彼女が最後に言った言葉が心に引っかかった
そしてデスクの上の受話器を取った
「レオ・・・・今進めている案件・・・もし、僕が今降りたらどうなる
或いは他の人間に当らせたとしたら・・・・」
「ボス・・・・今更、何を言ってる・・・・
最初に言っただろ?・・・ボスが直接引き受けることが条件だと
もう、既に準備に一月近く費やした・・・それなりに資金も投じてる
ここで中止したら、損害は莫大・・・ボスひとりで補えないぞ
ソウルホテルの時とわけが違う・・・・・・・ボス?・・・・
どうした?・・ボ・・」
ドンヒョクは何も言わず、受話器を置いた
ヤン・ユソク・・・・
「お帰りなさい・・・・早かったのね、ドンヒョクssi」
今日は早番だったジニョンが珍しくエプロンを付けて僕を出迎えた
「今日は何のご馳走?」
「ふふ、あ・・と・・で・・ねぇ、ドンヒョクssi・・・・
アナベル、どうだった?今日、ホテルを急にお休みしたのよ
昨日、あんな形で帰しちゃったから、気になって・・・」
「そう?事務所の仕事はちゃんと片付けて帰ったよ
具合でも悪くなったんじゃない?」
「そう・・・・」
ドンヒョクは部屋着に着替え終わると、ベッドに腰掛けた
「ジニョン・・・・・来て」
「な~に・・・ちょっと待って・・・スーツ掛ける・・・」
「いいから、早く!」
そう言って、ドンヒョクは自分の膝を指差した
「はい、はい」
ジニョンはドンヒョクに促されるまま、彼の膝に座った
するとドンヒョクは思いきりジニョンを抱きしめた
「苦しい・・・苦しいわ・・・ドンヒョクssi」
「ジニョン・・・昨日のアナの言葉を気にしてるの?」
「えっ?」
「これ・・」 そう言ってドンヒョクは彼女のエプロンの紐をつまんだ
「まさか・・私だってたまには料理ぐらいするわ・・
ジェニーにだって教わってるんですからね」
「そう・・・あー僕を愛してるから?」
「ええ、愛してるから。」
「じゃ、僕を信じるよね」
「何を?」
「何でも・・・僕の言うこと、僕のすること・・・
何があっても、僕が君を愛してること・・・
・・・・・・・君は信じるよね」
「何か意味ありげ~」
「いいから、はい、は?」
「あ・・はい・・」
「いい子だ・・・・」
あなたは満面の笑顔で私の顔を覗き込みながら
私の頭をくしゃくしゃと撫でた・・・そうよ・・・
私はあなたにこうされると、まるで少女のようにときめくの
私はあなたを愛してる・・・心から愛してる・・・
あなたを信じてるわ、どんなことがあっても・・
大丈夫よ・・ドンヒョクssi・・・
・・・・ヤン氏に会おう・・それからだ・・・
ドンヒョクは夕飯の準備をするジニョンの笑顔を、カウンター越しに
優しい眼差しで追っていた
ジニョン・・・
僕達を引き離そうとする奴は・・・
君のその笑顔を消そうとする奴は・・・
どんな人間だろうと・・・絶対に・・・
・・・絶対に許さない・・・