collage & music by tomtommama
story by kurumi
ジニョンは、今日からサファイアヴィラに滞在している客からの要請で その部屋を訪ねた
客の名はアメリカの実業家ヤン・ユソク、彼がアナベルの父であることは 事前に聞かされていた
「失礼致します。当ホテル支配人、ソ・ジニョンと申します ご挨拶に伺いました」
「どうぞ・・・」
ジニョンを部屋の玄関に出迎えたのは三十そこそこの若い男だった
「会長、ソ支配人がみえました」 ジニョンが部屋に案内されて中へ入ると、 ヤン・ユソクは椅子に腰をかけたまま、彼女が部屋に入るのを待っていた そして彼は、彼女と視線が合った瞬間、少し驚いた様子で立ち上がったが、 直ぐに笑顔に変えて彼女に近づき、手を差し伸べた
「いやー・・あなたが、ソ支配人ですか・・・・ 娘が・・アナベルが大変、お世話になっております」
「いいえ、こちらこそ・・・この度は、当ホテルに 多大なご尽力を頂き、ありがとうございます」
「いや、何も・・私は大したことはしていません」
ヤン・ユソクは笑顔が素敵な、とても穏やかな紳士で、 ジニョンは一瞬にして彼に好感を持った
「ソ支配人・・・ジニョンさんとおっしゃいましたね・・・」 ユソクは、ジニョンに椅子に掛けるよう手で示しながら言った
「はい、ソ・ジニョンと申します」 ジニョンは彼に一礼して椅子に腰掛け、答えた
「実は、私の古い知り合いに、ソ・ジニョンという、 女性がいたんです」
「まあ、それは奇遇ですね」
「ええ、初めてあなたのお名前を伺った時 懐かしくなりました」
「そうでしたか・・・それでその方は今・・」
「亡くなりました・・・」 そう言って彼は視線を落とした
「・・・」 ジニョンは聞いてはいけないことを聞いてしまったかと 気まずさに言葉を詰まらせた
「もう29年になりますかな」 しかしユソクがその続きを話し始めたことで、 ジニョンは少し救われた気持ちになった
「29年・・・あの・・・もしかして、その方・・・ サムチョクの・・ソ・ジニョン・・ですか?」
「えっ?」
「あ、いえ、実は私の叔母もソ・ジニョンといいましたので・・・ それに亡くなって丁度29年だったものですから・・ 余計に・・もしかして・・と・・でも、そんなはずは・・・ きっと偶然ですね」
「そうですか・・あなたの叔母さんも・・ソ・ジニョンさん・・」
「はい・・叔母が亡くなって直ぐに私が生まれたものですから、 父が私に、ジニョンとつけました・・・」
「そう・・・・失礼だが、あなたのお父様のお名前は?」
「ソ・ヨンスと申します」
「ソ・ヨンス?」 ヤン・ユソクの目に少しばかりの衝撃が走ったように見えた
「あの・・父を・・ご存知でらっしゃるんですか?」
「あ、いや・・やはり人違いのようだ・・・ 私の知ってるジニョンさんとは・・・・」
「そうですか・・・そうですよね・・・申し訳ございません 私、叔母のことをよく知らなくて・・・ お客様が叔母のお知り合いだったら・・・なんて 少し期待してしまいました・・・それでつい余計なお話を・・・」
「いいえ・・・ところで、今夜あなたのご主人と お会いすることになっています」
「そうですか・・・お仕事ですね・・・主人は、仕事のことは 家ではあまり話しませんので・・・」
「ご主人は立派な方です・・ 今、お仕事をお手伝い頂いてます・・・・ 今度、娘と4人でお食事でもいかがですかな・・・」
「はい、ありがとうございます では、また後程・・・何かご用がございましたら、 フロントの方へご連絡下さいませ。何なりとお申し付け下さい」 ジニョンはそう言って一礼をすると、椅子から腰を上げ、再度彼に一礼をした
「ありがとう」 ユソクが席を立ち上がるのを見て、ジニョンは“どうぞそのままで”と 手振りを付けた 「では、失礼致します・・・お客様」
ドンヒョクは事務所からテジュンに電話をかけた
「テジュンssi・・・今夜、時間有るかな」
「俺か?・・ああ・・・10時ごろには仕事もひと段落付いてる」
「今夜そっちに寄る予定が有るから、その帰りに寄ってもいいか」
「こっち寄るのか?」
「ああ、ヤン・ユソク氏に8時に会うことになってる これから、一度家に戻って、それから・・・」
「ああ、いいぞ・・・それで用って?」
「そっちに行ってから話すよ」
「わかった・・・部屋で待ってる」
「ジニョンはそろそろ退勤時間だよね」
「ああ、ヤン・ユソク氏の部屋に挨拶に行ってる」
「ジニョンが?何故!」
「おい、何をそんなに驚いてるんだ・・・ジニョンはVIP担当だぞ しかも、先方がジニョンを担当に指名した」
「指名?」
何考えてる・・・ヤン・ユソク・・・
「どうした?」
「いや、何でも無い・・・じゃ、後で・・・」
「ああ」
ソ・ジニョン・・・・・私が初めて愛した人・・・
君がいなくなって・・・・もう29年か
ジニョン・・・・ 君のことは一度も忘れたことは無い
君はあの日、目に涙をいっぱいためて 私を送ってくれたね
私の幸せだけを祈って・・・
逢いたかった・・・
死ぬほど逢いたかった・・・なのに 私にはどうすることもできなかったんだ
戻ろうと思ったんだ・・何度も・・何度も・・・ 戻りたかったんだ、本当に・・・君のところへ
でももう、遅かった・・・・
君が亡くなったと人づてに聞いて その時私の人生は終わったと思った 私はあのまま、父の薦める結婚をして・・ その後は何も考えず、事業を大きくすることだけに全力を注いだ そして必死に、君を忘れようとした
しかし・・・何と不思議な縁もあるものだ・・
あの子が・・君の姪だったとは 道理で似ているはずだ・・・ 初めて彼女を見た時、思わず君が現れたのかと驚いたよ
君によく似て、ひまわりのような笑顔の女性だ フランク・シンの妻・・・・ソ・ジニョン・・・・
何かの巡り合わせなのか?
それともこれは・・私への君の復讐なのか?
しかし私は、ここで、怯むわけにはいかない
ジニョン・・・・私がこれからすることを・・・
君の姪の幸せを奪ってしまうことを・・・
どうか許して欲しい
フランクが玄関のドアを開けると、ジニョンも戻っているようだった 「ジニョン?帰ってるの?」
「オモッ・・お帰りなさい、早かったのね」 ジニョンは部屋着に着替えながら、玄関の方へ声を張った
「ああ、これからまた直ぐに出掛けるんだ・・・ ホテルに行ってくる」 ドンヒョクも玄関から彼女に声が届くように言った
「ええ、アナベルのお父様のところね」
「ヤン氏、君に何か言ったの!」 ドンヒョクが突然部屋に入ってくると、ジニョンに問い質すように言った
「どうしたの?急にびっくりした・・・ 今夜あなたに会うことになってるって」
「それで?」
「それでって・・・今度、アナベルと4人でお食事でもって・・・」
「それで?」
「それから、あっ・・・あの方の古いお知り合いに、ソ・ジニョンさん とおっしゃる方がいらっしゃるんだって・・・・ほら、私の叔母も 同じ名前じゃない?・・・亡くなったのも同じ29年前っておっしゃるから もしかしたらって、お尋ねしたらね・・・人違いだったわ」
「ジニョン・・・お客様と余計な話するんじゃないよ・・・・」 そう言ってドンヒョクは呆れたように溜息をついた
「あら、ホテルのお客様とは、世間話もするわよ・・・ あなただって・・・お客様だった時、色んな話したじゃない」
「僕は特別。」
「へーそうなんだ・・・私にとっては、その他大勢のお客様 と同じだったけど?」
「・・・・・!」
「それに、ヤン氏ね、とても素敵な紳士よ・・・ あなたもあのくらいの年齢になったら、きっとあんな感じに なるわね・・・・とても素敵だったもの」
素敵な紳士?
ふん・・奴はどんな仮面かぶってるんだ?
ドンヒョクは沈黙のまま、寝室のソファーに腰を下ろした
「あら、ドンヒョクssi・・・・・黙っちゃって、どうしたの? もちろん、あなたの方がずっと素敵になるわ・・・・ 私がヤン氏のこと褒めたからって、拗ねないで」
「拗ねないよ。」 ドンヒョクはわざと拗ねたように言った
「本当?」 ジニョンはソファーに腰掛けているドンヒョクの顔を覗きこんだ ドンヒョクはそのジニョンの頭を突然捕まえて自分の膝の上に ジニョンの頭を下ろした 「どうだ! これで動けないだろ!」
「ビックリするじゃない!ドンヒョクssi!」
「うるさい!僕を子供扱いするからだ」
「だって、子供じゃない・・・気に入らないことが あると、直ぐ拗ね・ウッ・・・・」 ドンヒョクはジニョンの言葉を唇で遮った
そうだよ・・僕はどうしようもない子供だ
君がいないと・・・・必死で君を探しまわり
君がいないと・・・・声をあげて泣き叫ぶ
情けない・・・・子供
「ねぇ・・・ジニョン」
「何?」
「今度、アメリカに行くことになる・・・大きな仕事なんだ 一週間くらいで、戻る予定だけど・・・ まだ予測が立たない・・・待っててくれる?」
「何言ってるの?・・・一週間位の出張今までだってあったじゃない そりゃあ寂しいけど、私は大丈夫。 ジェニーもいるし・・・それで、いつから?」
「一週間後くらいかな」
「そうわかったわ・・・気をつけてね」
「ジニョン?・・・昨日・・・言ったよね」 ドンヒョクはジニョンから、 目を逸らしながらそう言った
「えっ?」
「何が有っても・・・ 僕が君を愛してること・・・信じるって・・・」
「ええ、もちろんよ・・・信じてるわ」
「僕もだよ・・・何があっても君を愛してるし 君が僕を愛してること・・・信じてる・・・」
ジニョンが向こうを向いていたドンヒョクの顔を両手で挟むと 彼の顔を無理やり自分の方に向けて言った
「そういうことは、ちゃんと私の顔を見て言って」
「ごめん・・・最近ちょっと忙しくて・・・珍しく少し疲れた」 そう言いながら、ドンヒョクはジニョンの胸に顔を伏せた
「どうしたの?・・」
「いいから・・明日から、また僕が君の為に頑張れるように・・・ こうやって・・抱きしめて・・」
「しょうがないわね・・・そんな目をして あなた、本当に甘えん坊の子供みたい」
そう言いながらも、ジニョンはドンヒョクを思い切り強く抱きしめた
ドンヒョクssi・・・
大丈夫よ・・・・私はあなたを信じてる
何かは分からないけど でも、何かが始まるのね
私はただ、あなたを信じて待っていればいいのね
ドンヒョクはジニョンの胸に黙って顔を埋めたまま目を閉じた
ジニョン・・・・愛してる 君は子供のようだと笑うけど・・・
許されるなら、こうしていつまでも抱かれていたい
このままずっと・・・君に抱かれていたい
「久しぶりだね・・・フランク」
「ええ・・・・こんな形であなたとお目に掛かるとは 思ってもおりませんでした」
「そうか・・しかし私はわかっていたよ・・・必ずこの日が来ると・・・」
ドンヒョクはヤンを前にして、この男がどう出るのかを待っていた
僕達を・・・どうする気だ
・・・ヤン・ユソク・・・
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