「ごめんなさい、ドンヒョクssi・・・その・・・今進めているプロジェクト
ほら、あなたがやっとGOサイン出してくれた私の企画・・・
進行が遅れてしまって・・・
私がいないと、先に進まないし・・・その・・・」
ジニョンの弁解がドンヒョクの周囲をぐるぐると回る中、
彼は終始無言だった
「ドンヒョクssi・・・怒ってる?」
「別に・・・」
「あ、それって、絶対怒ってる」
「そう思ったら、聞かないで」
「ドンヒョクssi・・・」
「せっかくのおふたりの記念日を家族で祝おうって
やっと、お父さんたちの休暇と君の休暇調整したのに・・・」
「だって・・・急な計画なんだもの・・・
調整って言ったって、あなたがテジュンssiに先に手を回したんじゃない
私の都合も聞かないで・・・
強引過ぎるのよ、あなた。
それに、いくら父たちが、アナベルに会いたいからって、
来春の記念日を少し早めてプレゼントなんて、何か変じゃない?・・・」
先日、父と母が、アナベルに会いたいと言って来た
ジニョンの実の妹であるアナベルに、一度でもいい、会ってみたいと
そしてジニョンには自分達のその気持ちを内緒にして欲しいと・・・
だが、もちろんそのことはジニョンも承知済みのことだった
「隠し事をしない」それが、僕達ふたりの約束だったからだ
ジニョンが両親に、自分が知ってしまった秘密を
逆に知らないことにする、秘密・・・
何とも、ややこしい秘密だった
しかし、今回はジニョンの思うようにしてあげたい
・・そう思った
そして、僕がアナベルとの出会いを彼らに作ってあげられるのは、
彼女がソウルに滞在している今、
自分とヤン氏に仕事の繋がりがある今しか無い、
そう考えていた
そこで、セヨンssiが口実として持ち出したのが、
「結婚記念日」と、いうことだったのだ
「それで?」
「え?」
「いつまで?」
「三日間の内、最後の日は何とか、父たちと過ごせると思うわ」
「・・・・・・」
「本当にごめんなさい・・・
あなたが、せっかく父と母の為にしてくれたことなのに・・・」
「仕事・・・なってないね・・・準備も悪い。
・・・計画通りに進めないのには、何らかの原因があるんだ。
それは、君のミス?テジュンssiのミス?・・・
僕は今回のプロジェクトを立ち上げた時、完成の期日も告げていたはず・・・
それに無理があったとはとうてい思えない。
大体仕事に対して無責任過ぎる、何事も期日を過ぎれば、
それだけの損益が出て、その企画そのものが危うくなるんだ
考えが甘いんだよ、君達は・・・
何なら、今すぐそのプロジェクト事体を解散させることだって、できるよ。」
いつもの、仕事場で見せるドンヒョクの厳しい表情と、言葉だった
これ以上ドンヒョクを怒らせたら、本当に解散させられる・・・
ジニョンは内心それを恐れていた≪それだけは避けなければ≫
「そんな・・・こと・・・お願い、止めて・・・もう私一人の仕事じゃないの
みんなの努力がふいになる・・・」
「テジュンssiに・・・」
ドンヒョクの怒りが、その表情から、テジュンに向けられたことを
ジニョンは察した
「あ、止めて!テジュンssiは関係無いの・・・」
「どうして!」
「今回の仕事、私どうしても、やり遂げたいの・・・お願い!
きっと、父も母も分かってくれるわ
それに、仕事の合間にちゃんと覗きに行くから・・・ね、お願い!」
また・・・そういう目をする・・・
「・・・・・」
ジニョンはドンヒョクの背後に回って、ソファー越しに彼の首に腕を回した
そして、彼の頬に自分の頬を摺り寄せて優しくキスをした
ドンヒョクの頬が微かに緩むのをジニョンは感じて、すかさず甘えた声を出す
「ね、最後の一日はちゃんと親孝行するから・・・ね、ドンヒョクssi」
「・・・・・・」
ドンヒョクは怒っている時と同じように言葉が無い
でも、それもOKの意味であることをジニョンは知っていた
「・・・アナベルとの会食はどうする?君は参加しないの?」
「う~ん、明後日の夜よね、無理かも・・・
父たちは、私が知らないと思って、会うつもりなんでしょ?
だったら、却って私がいない方がいいかも・・・
アナにはそのこと、伝えてあるんでしょ?」
「ああ・・・」
翌日父と母は予定通り、ソウルホテルにチェックインした
「お客様、ようこそ、ソウルホテルへ・・・
私、担当をさせて頂きます、ソ・ジニョンと申します
精一杯のおもてなしをさせて頂きますので、
何なりとお申し付け下さいませ」
ジニョンは満面の笑顔でふたりを迎えた
「ヨロシクね、ソ支配人」 セヨンが笑顔で返した
「一緒に過ごせないのは残念だが、こうして、お前の仕事振りを
見ながら、ホテルに滞在するのもいい記念になるよ」
ヨンスが優しい笑顔で言葉を繋げた
「ありがとう・・・パパはきっと、そう言ってくれると思ってた
ドンヒョクssiは怒ってるけど・・・」
ジニョンはふたりに小声で言った
「それはしょうがないわ・・・ドンヒョクも思い出の部屋を予約して
あなたとゆっくり過ごすつもりでいたんだもの
私たちへのプレゼントなんて、ついでよきっと・・・」
セヨンが顎を上げてそう言った
「何か、僕の悪口ですか?」
ドンヒョクがチェックインを済ませて、三人のところへ近づいてきた
「ソ支配人、チェックインは完了しました
おふたりをお部屋にご案内してください」
ドンヒョクはジニョンに向かって、うやうやしく言った
「かしこまりました、理事」 ジニョンは姿勢を正して、微笑んだ
「僕も予定通り、今夜からサファイヤに滞在するよ
君は仕事が終わったら、直ちに“客”になるように。」
彼は“約束だよ”と言う様に目に力を入れて、ジニョンを見た
「はい」 ジニョンは“わかっています”と言う様に頷いてみせた
「お父さん、セヨンssi、今日は僕も遅くなりますので
今夜のお食事は申し訳ありませんが、おふたりで・・・
レストランの方は予約入れておきましたから」
「ええ、今夜は、誰にも邪魔をされず、ふたりだけで過ごすわ」
セヨンがそう言って、ヨンスの腕に自分の腕を回した
ヨンスはセヨンに愛しさを込めた眼差しを向ける
そんなふたりを見て、ドンヒョクとジニョンも自然と笑顔になった
思わずジニョンはドンヒョクの腕に自分の腕を絡ませたものの、
自分の行動にハッとして、ドンヒョクから離れた
いけない・・・ここはまだ、ロビーだったわ・・・
ドンヒョクもまた、そんなジニョンの仕草をいとおしそうに眺めて
彼女の耳元に唇を寄せた、そして、優しく囁いた
「早く仕事片付けて・・・1分でも早く僕のジニョンに戻って・・・
今夜、待ってる・・・」
ジニョンは自分の顔が赤くなるのが分かって、余計に恥ずかしくなった
「ジニョン、何、顔赤くしてるの?
早くお部屋に案内して」 セヨンが振り向いてそう言った
「あ、は、はい」
「では、僕はここで・・・今夜は遅いので
明日の朝、お誘いに伺います」
父たちと別れたその足でドンヒョクはアナベルの部屋を訪ねた
ロイが応対してくれたが、アナベルはというと、寝室から出て来そうになかった
「明日の・・・ジニョンの両親との会食、受けてくれて
有難う、と伝えてください」
「はい、アナベルも楽しみにしています
彼女、顔こそ出しませんが、おふたりのお気持ち、
少しずつ、受け入れています・・・ご安心下さい」
ロイの力強い言葉に、ドンヒョクは男としての自信を感じ取った
「有難う・・・明日はあなたも同席を・・・是非」
「有難う御座います」
「アナ・・・どうして、顔を出さない?」
「・・・・・・」
「開けるよ・・・」
ロイが部屋に入ると、アナベルはベットに腰をかけて、外を眺めていた
「兄さん・・・あの人の声・・聞こえてた・・・
割り切ったはずなのに・・・まだ、声を聞くと胸が震えるわ
・・・・兄さんがいてくれて、良かった・・私・・まだ
ふたりきりでなんて、顔を合わせられない・・・」
アナベルはそう言いながら俯いた
「アナ・・・明日は・・・」
「分かってるわ・・・
もう、フランクを困らせることはしない
分かってる・・・
ジニョンssiのご両親が、私に会いたい気持ち、分かる気がするの
私もお会いしたいわ・・・父が愛した人に関わる人達・・・
兄さん・・・
私・・・まだ、あの人を忘れられない・・・
それでも・・・それでも・・・私を?」
アナベルの問い掛けに、ロイは微笑んでゆっくりと頷いた
「いつになるかも、分からないのに?」
「構わない・・・今までもう随分待った。
それが少し延びたところで、そんなに変らないだろ?」
「私の気持ちが・・変らなかったら?」
「それでも、言いつづけるよ・・・愛してるって
ある人に教わったんだ・・・本当に愛していたら・・・
ただそれを精一杯伝え続けろ、と
アナ・・・ゆっくりでいい・・・
僕の方を見て・・・少しずつ僕の声を聞いてくれればいい
少しずつ・・・そうしたら、いつか・・・いつの日か・・・
僕の声しか聞こえなくなる・・・
僕はいつまでも絶える事無く・・・君に話しかける
君の横で・・・君の後ろで・・・時には君の目の前で・・・
愛してる、と伝え続ける・・・
そして、いつの日か、君が僕を受け入れることができたとき
きっと、僕の声は君の心の中で聞こえるはずだ・・・
そのことに気が付いたら、僕の手を取って?・・・
待ってるから・・・」
アナベルはロイを見つめて微笑んだ
久しぶりに見るアナベルの笑顔がまぶしくて、ロイは胸を熱くした
ジニョンが仕事を終えて、サファイヤヴィラに向かった時は、
既に日付が変っていた
ドンヒョクssi、怒ってるだろうな・・・
ジニョンはそっと音を立てずに入った
ドンヒョクは椅子に腰掛けて目を閉じていた
寝てるの?ドンヒョクssi・・・
ジニョンは、ドンヒョクの目の前に置かれた椅子に腰掛けて、
黙って彼を見つめていた
ドンヒョクssi・・ごめんなさい・・・また、待たせてしまって・・
目を閉じたままのドンヒョクがおもむろに口を開いた
「愛してる?」
「え?」
「僕を愛してる?・・・やっと、再会したあの日・・
僕はここで、こうして君に愛の言葉を求めた」
ドンヒョクが目を開けてジニョンに視線を向けた
「ええ・・・そうだったわ・・・
私、それまであなたに、愛してるって、一度も言ったことが
無かったなんて気がつかなかった・・・」
「僕達の間に言葉なんていらない・・・そんなことは分かってる・・・
でも、僕はいつも君にそれを求めてしまう・・・
いつも君を困らせて・・・泣かせて・・・自分の欲求を満たそうとする
君の言う通り・・まるで、子供だ・・・」
ドンヒョクは自嘲したようにして下を向いた
「ドンヒョクssi・・・いいわ・・・子供でいてくれて・・・
あなたが、そうして私を求めてくれる・・・
私をいつも愛してくれる・・・
これからも・・・そうしてくれていいわ
私はその度に、あなたのその瞳に魅入られて・・・吸い込まれて・・・
あなたの腕の中に引き寄せられる・・・
心配しないで?例え、その時に私が泣いていたとしても、
私の心は直ぐに満たされるの・・・あなたの愛で・・・
そんな気持ち・・・あなた以外の人に感じることはきっと一生ないわ・・・
だから、いつもそうして私を求めていて・・・
私は、あなたにいつまでも求められる女でいられるように努力する」
「努力?そんなの必要無いよ・・・今のままでいて・・・
それ以上の努力は無用だ」
「えっ?」
「君が今以上に素敵になってしまって、他の男に好意を持たれたら、
僕の身が持たない」
「ふふ、冗談は止めて?それは、私の台詞でしょ・・・
私、そんなにもてないもの」
声を立てて笑うジニョンに、ドンヒョクは下を向いて含み笑いを見せた
「あーそれは、君が知らないだけだね・・・
君は困ったことに、自分の魅力に気がつかないんだ
君・・僕のこと鈍感って言うけど、
僕に言わせれば君ほど鈍感な人いないよ」
「オモ・・失礼ね」
「本当のことだろ?僕がどれだけ苦労してるか・・・
君の知らないところで、僕が何人の男をつぶしてきたと思う?」
「つぶした?」
「そう・・・ホテルの業者・・・従業員・・・君の前から急に消えた奴・・・
覚えあるでしょ?」 ドンヒョクはそう言って、ジニョンをに不敵な笑みを向けた
ジニョンは彼のその笑みに、思わず喉を鳴らした
「僕はね、伊達にここの理事をやってるわけじゃない
ここに来るのは、仕事をしに来るだけじゃないんだ・・・
ここでは、僕は君にやたらと近づけない・・君が嫌がるから
その代わりに君の周りが良く見える
おもしろいくらいにね
テジュンssiに近づいたのも、最初は君に近づけないため・・・
でも、彼には僕を惹き付ける力があった・・・
だから、彼はまだ生きている。」 ドンヒョクは断言するように言った
そして彼はその後、愉快に声を立てて笑った
「オモ!・・あなた、権力笠に着て、随分ひどいこと・・・」
「関係無いよ・・・君に関しては僕はどんな力も使う・・・
誰に何を言われようが、全く意に介さない・・・
知ってるでしょ・・・そんなこと」
ジニョンは、ドンヒョクの決して冗談ではない告白に苦笑していた
「あなた、少しその性格直した方がいいわ・・・」
ドンヒョクも下を向いて笑っていた
美しい月夜だった
ドンヒョクはジニョンの座る椅子の前にひざまずいて、
彼女の頬を右手で撫でた
そして、左手を添えてゆっくりと目を閉じながら、唇を寄せた
静けさと淡い月夜の光がふたりに舞い降りた
ジニョンは自然に目を閉じて、ドンヒョクのくちづけを待った
唇と唇が優しく触れ、互いの心をその温もりが癒すかのように撫でていく
僅かな時間が、ふたりの周りだけ宙に浮いたように止まっていた
そして、ドンヒョクは唇をゆっくり離し、ジニョンの目をしっかり見つめて囁いた
「あなたは・・・僕の・・・全てだ・・・ジニョンssi・・・
こうして、いつまでも僕の手に触れさせて・・・
僕の唇に触れさせて・・・
いつまでも・・・僕の愛を受け入れてください
僕は・・・全身で・・・全霊で・・・生涯、あなたを愛します・・・」
そう言って、ドンヒョクはジニョンの手の甲に優しくくちづけた
ドンヒョクssi・・・
私も・・・あなたは、私の全てよ・・・
私の愛をいつも受け入れて・・・
私も・・・あなたを全身で・・・全霊で・・・愛するわ・・・
「ジニョン・・・
あの日・・・再会したあの日・・・僕はこの部屋で
君をこうして抱きたかった・・・」
「私も・・・本当はそうして欲しかったのかも・・・」
「そうなの?じゃ、やせ我慢するんじゃなかったな」
「やせ我慢したの?」
「かなりね・・・君は僕の気持ちを知りながら
何度もはぐらかして、拒否した・・・
僕はそんな君の気持ちに応えようと無理した
嫌われたくなかったから・・・」
「じゃ、もう一度、再会したあの日から始めるというのはどう?」
「初めから?・・・嫌だよ・・・もう、君と離れる苦しみは
味わいたくない・・・」
「そうね・・・私も・・・」
君の髪が僕の頬をくすぐって、甘い香りが心地いい・・・
僕の肩に君の唇が微かに触れている・・・
そのままキスして・・・ジニョン・・・ためらわないで・・・
君に触れられるだけで、僕は幸せを感じることができるんだ
君の吐息を耳元に感じて、僕はまた君に魅せられていく・・・
全身で・・・
全霊で・・・
・・・生涯、あなたを愛します・・・