ホテルに戻って、予約しておいたレストランの個室に向かった
ドンヒョクはジニョンのことが気になっていた
今朝、部屋を出てから、一度も彼女を見かけていない
ホテルのロビーを歩きながらも、ドンヒョクはジニョンを探していた
「ドンヒョク?ジニョンが気になる?」 セヨンは少し面白がって聞いた
しかし、ドンヒョクは至って真面目な顔で答えた
「いいえ、ただ・・・今朝、少し気分が悪そうだったので、
どうしたかなと想って・・」
「そうなの?それで?」
「ええ、本人は大丈夫だと、笑ってたんですが・・・
彼女、忙しいと休むこと忘れてしまうから・・・」
「あなたに似てきたのね、仕事にかける情熱」
「僕に?」
「ええ、言ってたわ、ジニョン・・・ドンヒョクssiと仕事するようになって
自分が今まで、いかに甘えた仕事していたか分かったって・・・
あの人は、私を啓発してくれて、高みへと導く人なのって・・・
あの子、親に向かって堂々とのろけるのよ」
「ジニョンがそんなことを?
僕は、彼女にそんなこと求めてやしない・・
仕事なんてしてくれなくてもいいのに・・・
本当は、僕のそばにいてくれれば、それで良いんだ・・・」
「あらあら、そういうのを封建的というのよ
そばにいるだけ、なんて、女は満足しないの
女はね、愛する人と、共に・・生きたいものなの。
愛する人が大きければ大きいほどその人に相応しく、
並んで歩けるように・・・努力するものよ・・・」
「並んで歩く?」
「そう・・・後ろを付いて歩くのではなくて、並んで・・・
互いの横顔を見ながら・・・時には横を向いて見つめ合いながら・・・
そうやって生きていきたいのよ・・・
ジニョンはきっとそう思ってる・・・私の子だもの・・・」
「セヨンssi・・・」
「何の話しだい?」 ヨンスが近づいて二人の肩に手を置いた
「何でも無いわよ・・・ね、ドンヒョク・・・」
「え?ええ」
「この人ね、あなたにやきもち妬いてるのよ、あなたには見せないけど」
「僕にですか?」
「私が、ドンヒョク、ドンヒョク、っていつも話題にしてるから・・・」
「私がかい?やきもちなんか妬くわけ無いだろ、息子に」
「いいえ、妬いてます・・・」
「しかし、ドンヒョク・・・今更言うのもなんだが・・
母さんのことセヨンssiと呼ぶのは、どうかと」
ヨンスはそう言って笑った
「ほらね・・・でもだめよ、それ聞いちゃ・・・私あなたにお母さんなんて
言って欲しくありませんからね・・・あなた達の子供にだって
おばあちゃん、なんて言わせないつもりなんだから・・・」
「おばあちゃん?」
「随分先の話だな・・・ま、いいよ、セヨンssiで・・・」
「すみません・・・」 ドンヒョクはヨンスに向かって苦笑しながら謝った
「あなたが謝ることないわ」
セヨンはドンヒョク向かってそう言いながら、ヨンスの腕に自分の腕を絡めた
7時になろうとしている頃、アナベルとロイがウエイターに案内されて
ドンヒョク達が待つVIPルームへと入って来た
「本日はお招き頂きまして、有難う御座います」 ロイがまず丁寧に挨拶をした
アナベルはロイの後ろに俯きがちに立っていた
「初めまして、ロイ・スミスと申します・・・
こちらが、アナベル・ヤンです」
「アナベルです・・・初めまして」 アナベルがやっと顔をあげた
しかし、顔を上げた先にドンヒョクの顔を見つけて、思わずまた、
下を向いてしまった
その時、アナベルの様子を見ていたセヨンは先日ジニョンが
突然戻って来た日の事を思い浮かべた
「初めまして、ソ・ヨンスと申します
こちらは家内のイ・セヨンです・・・どうぞよろしく」
「セヨンです・・・何だか、初めてお会いする感じがしないわね
アナベルさん、ジニョンによく似ていること・・・」
「ロイさん、アナベル・・・よく来てくれたね
こちらへ・・・掛けて・・・」
「はい」
二人は、ドンヒョクに促されて席についた
しかし席には付いたものの、しばし無言だった二人に気を遣い
ドンヒョクが話しかけた
「今日の食事はシェフにお任せしたが、良かったかな」
「ええ」
アナベルは返事をしたものの、ドンヒョクの顔を見ようとはしなかった
そんなアナベルに、セヨンは彼女の気分を変えようと声を掛けた
「アナベルさん、私達があなたにお会いしたい、と
ドンヒョクに無理を言いました
気を悪くされたら、ごめんなさいね」
「いいえ、私も、あなた方にお目にかかりたかったです・・・」
「そう・・・良かった・・・お二人は・・・もしかして恋人同士?」
セヨンはアナベルとロイを交互に見ながらそう言った
「いいえ」
「はい・・・そうです・・・いえ、いずれ、そうなります」
アナベルが否定した後にロイがすかさずそう言った
アナベルはロイの言葉に驚いて、思わず彼の顔を見た
その時、ロイはドンヒョクの顔をしっかりと見ていた
ドンヒョクもまた、彼の力強い言葉と表情に笑みを返した
五人は次第に打ち解けて、アナベルもセヨンの軽快で明るい会話に
誘導されるように明るく彼らに交わった
ジニョン・・・
アナベルをお二人に会わせて良かったよ・・・
お父さんはアナを愛情のこもった眼差しで包んでくださる
愛する君と血が繋がった子・・・
きっと、感慨深くていらっしゃるんだね・・・
そして、セヨンssiには、人の心を開く力がある・・・
ジニョン・・・君と同じだ・・・
アナベルと会ってもらって、本当に良かった・・・
アナが声をあげて笑う様子、君にも見せてあげたいよ・・・
5人の笑い声が快く響くそんな中、ユンヒが慌てた様子で掛けこんで来た
「失礼致します・・・ドンヒョクssi・・・」
「ユンヒ・・どうして、ここへ?・・・いつ帰国したの?
知らせてくれれば・・」
「オッパ、それは後で・・・ジニョンssiが大変です」
「ジニョンが?何?」
「倒れました・・・今テジュンssiが医務室に運んでます・・・
急いで!」
その予期せぬ事態に、さっきまで笑顔が耐えなかった円卓が静まり返った
ドンヒョクは顔面蒼白になりながらも、ユンヒの後を追った
両親もアナベルとロイも彼に続いた
医務室に入ると、ジニョンがベットに横たわって、苦痛に顔を歪めていた
「ジニョン!どうした?どこが痛いの?」
ドンヒョクは痛みに苦しむジニョンの手を掴んで性急に聞いた
「ドン・・ヒョク・・ssi・・ごめんなさい・・アナ・・せっかくアナと・・・」
「ジ・・・」
アナベルはジニョンの言葉が、自分を気遣っていることに気がついて、
思わずジニョンに言葉を掛けようとしたが飲みこんでしまった
「ジニョン!」 セヨンがジニョンの傍らに駆け寄った
「オンマ・・・」
「ジニョン・・・何処が痛い?」
「オン・・マ・・・痛い・・・」
「何処が痛いの?ちゃんと言いなさい!」
「お腹・・・」
「お腹の何処?」
「この辺・・・が痛い・・・」 ジニョンは下腹部を示した
「今、救急車を呼んでいる・・・後、2~3分で着くかと」
テジュンが後方からそう言った
その時、ドンヒョクが振り返り、テジュンに向かって語気を荒げた
「テジュンssi!彼女は数日前も具合が悪くなって、
ここへ来たと言っていた
その時、過労だろうって言われたそうだ!
ここの医者は何を診てる?これがただの過労か?」
隣にいた勤務医がビクリとして下を向いた
「ドンヒョクssi・・・止めて・・・私が、ちゃんと・・・休まなかったから
他の人・・・悪くない・・・止めて・・・」
ジニョンは痛みに耐えながらも必死にドンヒョクを制した
ドンヒョクはそれ以上何も言わなかった
「それで、先生のご診察は?」 セヨンが、勤務医に尋ねた
「まだ、よく分かりませんが、妊娠しているかと・・・」
「妊娠?」
「でも、この痛みは?」
「検査をしてみないことには何とも・・・」
「もういい!セヨンssiは?どうなんだ!ちゃんと診て。」
ドンヒョクは勤務医を制して、セヨンに迫った
「ジニョン?そうなの?妊娠してる可能性あるの?」
「分からない・・・でも、遅れてる・・・私、不順だから・・・
気にしてなかった・・・ごめんなさい」
「ジニョン・・・少し静かに・・・お腹を触るわよ・・・」
セヨンは、ジニョンの腹部に掌を当てた
ジニョンはドンヒョクの手を握ったまま、激しい痛みを訴えていた
「安定剤を・・用意して」
勤務医が用意した安定剤をセヨンが受け取り、ジニョンに施した
ジニョンは直ぐに落ち着いて、緩い眠りに入った
「救急車はまだ?」
「今、裏口に着きました」
「ドンヒョク、急ぎなさい!」
「はい」
ドンヒョクはジニョンを抱き上げ、裏口に急いだ
「ソウル病院癌センターに行って下さい」
セヨンが救急隊員に告げるのを聞いて、ドンヒョクは顔色を変えた
「セヨンssi・・・」
「まだ、分からないわ・・・念の為よ・・・あそこには友人がいる
急いで検査させる・・・」
ドンヒョクはセヨンの言葉だけで、気が遠くなりそうな思いだった
ヨンスとアナベルはロイが用意した車で救急車の後に続いた
ドンヒョクは救急車の簡易ベッドに横たわるジニョンの手を
しっかり握って離さなかった
ジニョン!ジニョン!
いったい・・・どういうことなんだ?
何が・・・
君に何が起こってるんだ!
・・・ジニョン・・・