いつものようにジニョンに添い寝をしたドンヒョクは、
その日も眠れないまま朝を迎えた
ジニョンはドンヒョクの腕の中で深い眠りの中にいた
心地よさそうに、笑みを浮かべながら・・・
ジニョン・・・
今、夢を見てる?
その中に僕はいるかい?
できるなら・・・
君の夢の中に入っていきたい・・・
君がいるところなら・・・どこだろうと
僕は存在していたい・・・
そう言ったら・・・君は笑うだろうね・・・
こうして、君の掌にキスをしながら・・・
君を見てるのが好きなんだ・・・
こうして、掌で君の頬を撫でながら・・・
君にキスをするのが・・・好きだ・・・
いつも・・・いつも・・・
息が掛かるほどそばに・・・
君のそばにいたい・・・
いつも・・・いつも・・・
泣きたいくらいに・・・
君を・・・
愛してる・・・
予定通り、ジニョンの出産と、手術が施されることになった
知らせを受けた、ヨンス、ジェニー、テジュン、そして、
アナベルの顔があった
それぞれが、各々にジニョンに励ましの言葉を掛け、
ジニョンは笑顔でそれに答えていた
昨夜ドンヒョクの前で見せた弱気なジニョンはどこにもいなかった
ドンヒョクが、皆に、休憩室で少し待ってくれるよう、声をかけた
ジニョンに、少しでいいからアナベルとふたりの機会を作って欲しい、
そう頼まれていたからだった
ひとり、事情を知らない、ヨンスは既にセヨンが連れ出していた
「アナ・・・仕事はいいの?」
「ええ、社長に許可を頂きました
ここで、あなたが手術室から出ていらっしゃるのを皆さんと一緒に待ちます
それに、緊急の時の・・・私、輸血剤です・・・」
「輸血剤?」
「ええ、あなたと同じ血液型なんです・・・それに
ここにいる誰より、近い血液ですから・・・」
「アナ・・」
「私、若いですし、健康ですから、いくら摂って頂いても構わない・・・
そう伝えています。だから・・・安心して下さい」
アナベルが、冗談めかして言った
「ありがとう・・・アナ・・・」
「大丈夫です。きっと私は必要ないと思うわ
でも・・・ここにいたいの」
「アナ・・・」
二人は互いに見詰め合ったまま、少し言葉を詰まらせた
「・・・・アナ・・・もうひとつ・・・お願いがあるの・・・」
「何でしょう?」
「あなたの・・・あなたのお父様に伝えて?・・・・・
母と愛し合って下さって・・・ありがとうございます、と
この世に生を与えて下さったこと、今心から・・・
感謝してます、と・・・」
「ジニョンssi・・・ごめんなさい、それは出来ません・・・」
「何故?」
「そういう大切なことは、どうかご自分で・・・
ご自分の口からおっしゃってください・・・
父は、愛した人を誰一人幸せに出来なかった・・・
そう思って、自戒しています
どうか・・・父の愛が、今のあなたの幸せをもたらしたと、
お元気になられた後に・・・伝えてあげてください・・・
私の幸せより、あなたの幸せの方が先ですから・・・
私が父にそのことを言ってあげられるのは・・・きっともう少し後です
どうか・・・あなたが先に・・・父を楽にしてあげて・・・」
「アナ・・・アナ・・・ええ、そうするわ・・・
私・・・早く、元気になって・・・必ずそうする・・・」
ジニョンの頬を涙が一筋伝って落ちた
「ジニョンssi・・私からもお願いです・・・必ず・・・
必ず、ドンヒョクssiの元に帰ってきて・・・
そうでないと・・・私、何の為に想いを断ち切ろうとしているのか・・・
分からなくなります・・・」
「そうね・・・そうだったわ・・・
あなたには譲れない・・・そう宣言したんだった・・・」
「ええ・・・そうです・・・お姉さん・・・」
「アナ・・・あなた・・・・あなたを抱いてもいい?」
ジニョンがそう言うと、アナベルは自分の方からジニョンをそっと抱きしめた
アナ・・・私の妹・・・
その瞬間に二人は本当の姉妹になった
ドンヒョクは二人の会話をドアの向こうで聞いていた
アナ・・・ありがとう・・・
何よりの励ましだよ・・・
手術が始まった
ドンヒョクの・・・ヨンスの・・・セヨンの・・・アナベルの・・・祈りの中で・・・
ジェニーも、テジュンも祈った
そして、遠く離れたニューヨークで、ヤンが同じように祈っていた
皆の祈りが・・・どうか・・・届きますように・・・
帝王切開は、問題無く施され、赤ちゃんは無事ジニョンのお腹の中から
この世に迎えられた
そして、ジニョンが手術室に入ると同時に、小さな赤ちゃんが
保育器に入れられて、分娩室から運び出された
生まれたのは、女の子だったが、産声は聞かれなかった
でも、大丈夫・・・そう、セヨンが言った
ジニョンの元から離された・・・小さな小さな赤ちゃん・・・
産まれたばかりの赤ちゃんが、保育器の中で眠っていた
ドンヒョクは、ガラスの向こうの我が子を見つめていた
小さくて、小さくて、握りしめた手が自分の親指ほどしかない
なんて・・・小さいんだ・・・
君は・・・本当に生きてるの?
ドンヒョクの心の問いに・・・応えるかのように赤ちゃんが動いた
生きてるんだね・・・
小さいまま、この世に生を受けた君・・・
直ぐに抱っこしてあげられなくて、ごめんよ・・・
ママが今、君の為に・・・僕の為に・・・
一生懸命、戦っている・・・
僕達のところに帰ろうと・・・頑張ってる・・・
僕達は祈ろうね・・・
ふたりで・・・祈ろうね・・・
長かった・・・
いったいどれくらいの時が流れたのだろう・・・
ジニョン・・・
君が戻るところは・・・
僕のところだけだよ・・・
間違えるなよ・・・
君が帰る場所は・・・
僕と・・・この子が待ってる・・・
僕の元しか、ないんだよ・・・
ドンヒョクは新生児室の前から、動かなかった
ジェニーが声を掛けようとして、テジュンに止められた
「そっとしておけ・・・終わったら、知らせに来てあげよう・・・」
「ええ・・・」
君を見ていると・・・
何故だか不思議だね・・・
消えない恐怖を、
少しの間忘れさせてくれる・・・
君がほんの少し動かす小さな手足・・・
何か話してるように動かす唇・・・
繋がれた管は痛々しいけれど・・・
君を助けるためだからね・・・
我慢しなさい・・・
早く大きくなって・・・
優しいママに抱っこしてもらうんだよ・・・
ドンヒョクは我が子に語り掛けることで、手術の恐怖に耐えていた
ジニョン・・・君が言った通りだ・・・
自分と血が繋がった子・・・
もっと、幸せになる・・・
そうだね・・・
君がいて・・・この子がいれば・・・
僕は世界で一番の幸せものになる・・・
「オッパ!オッパ!手術が終わった!」
ジェニーが大声を上げて、走ってきた
ドンヒョクは彼女の声に直ぐに反応して、階段を駆け下りた
そして、セヨンが手術室から出て来るのを待った
手術ランプが消えてから、しばらく経ってセヨンが笑顔で出てきた
「ドンヒョク!もう大丈夫よ・・・
腫瘍は完全に取り除いた!完全によ・・・安心なさい・・・
子宮も温存できた・・・ジニョンの望み通り・・・」
セヨンの言葉にドンヒョクは、言葉もなく、立ち尽くしていた
胸に押し寄せるものと懸命に戦いながら・・・ただ、無言で立っていた
「ドンヒョク?どうしたの?もう、大丈夫よ・・・安心して?
転移もなかった・・・」
ドンヒョクは、喜びと、安心に感極まり過ぎて胸がひどく苦しかった
セヨンはそんなドンヒョクに近づいて彼を優しく抱いた
「ドンヒョク・・・もう・・・大丈夫・・・」
セヨンに抱きしめられて、ドンヒョクは関を切ったように
声をあげて泣いた
「セヨンssi・・・セヨンssi・・・ありがとう・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ありがとう・・・ありがとう・・・お母さん・・・お母さん・・・」
「お母さんは止めてと言ったでしょ・・・ドンヒョク・・・
大きななりして・・・泣かないの・・・泣かないの!」
ヨンスも泣いていた
アナベルは嗚咽が止まらなかった
ジェニーはテジュンに抱きかかえられるように泣き崩れた
セヨンも、ドンヒョクの背中をさすりながら、一緒に泣いていた
みんなの祈りが・・・神に届いた・・・
ジニョン・・・
君が目覚めたら・・・
最初にどんな言葉を掛けようか・・・
良かったね・・・
もう心配ないよ・・・
安心しなさい・・・
赤ちゃんも元気だ・・・
ジニョン・・・
君が目覚めたら・・・
僕の抱えきれない愛をいっぱい伝えよう
こんなにも君が愛しくて
こんなにも君が恋しくて・・・
どんなに僕が怖い想いで待っていたか・・・
君がいなければ・・・
僕がどれだけ脆いものなのか・・・
ジニョン・・・
もうどれくらいの時が経っただろうか・・・
君のまぶたが動くのを
僕はこうしてずっと待っている・・・
ドンヒョクは時折、ジニョンの頬を・・・髪を・・・
優しく指で撫でながら・・・
ジニョンの目覚めをただただ、祈りながら待っていた
ジニョン・・・
ジニョン・・・早く・・・起きて・・・
僕を見て・・・僕の声を聞いて・・・
その時・・・
ドンヒョクの心の声が聞こえたかのように
ジニョンのまぶたがかすかに動いた
そしてゆっくりと目を開けた
ああ・・・ジニョン・・・
ドンヒョクはジニョンを優しく、包み込むように抱きしめた
そして・・・
君に一番言いたかった言葉・・・
「ジニョン・・・逢いたかった・・・」
・・・・私も・・・・