「社長・・・社長ってジニョンssiと恋人同士だったんでしょ?」
アナベルが突然そう切り出したので、テジュンは思わず
料理を喉に詰まらせそうになった
「今頃、誰がそんなことを?ま、大体想像はつくが・・・
もう昔のことだよ」
「どうしてお別れになったんですか?」
「どうしてって・・・そんなこと聞いてどうする・・・」
「社長も素敵ですし、ジニョンssiも素敵です
お二人が仕事中によく言い合いをなさってる時があるでしょ?
そんな様子を拝見していて・・仲が良いんだな~って・・それに・・
とてもお似合いだと思ったものですから・・・」
「ふっ・・お似合いね・・・確かに・・
あいつが現れなかったら、そう言われていたかもな」
「あいつって・・ドンヒョクssiのことですよね?
どうしてドンヒョクssiとジニョンssi・・・
愛し合うようになったんでしょう
ドンヒョクssiより社長の方がずっとお似合いなのに・・・」
「そうか?奴にそう言っておこう」 テジュンは冗談で交わそうとしていたが
アナベルの真剣な表情に、小さく溜息を吐いて続けた
「アナベル・・・あいつらふたりはな・・・運命なんだよ
どんな状況であっても、いつかは出逢って結ばれる運命だった
俺はそう思ってる・・・」
「運命?」
「ああ、あいつらは自分達のことを半身だと言ってる」
「半身・・・・・・」
アナベルは俯いて、その言葉を呟いたまま、黙ってしまった
「どうした?」
「運命なんて・・・あるはずないわ」 そして俯いたままポツリと言った
「ん?」 テジュンはその呟きがよく聞こえなかったので、
思わず聞き返していた
「私、信じてないんです、運命・・・
運命は神様から与えられるものじゃない・・・
・・・勝ち取るものだと思っていますから・・」
「勝ち取るものね」
「ええ・・もしもこの世に心から愛した人がいたら、
例え相手が誰であろうと奪い取るべき。・・・社長は・・・
どうしてそうなさらなかったの?
そんなに愛してなかったのね・・ジニョンssiのこと、きっと。」
「愛してたよ・・・凄く。・・・正直言えば、今でもまだ心に残ってる
でも愛は奪い取るだけじゃない・・・
俺はあいつにとってドンヒョクが運命の相手と理解できた・・・
ただそれだけだ・・・」
いつの間にか、テジュンはアナベルに向かって、真剣に答えていた
「私は・・・愛する人に他に愛する人がいたとしても
自分の心には嘘はつきたくありません・・・だから・・・
その人に精一杯、自分の想いを伝えます・・・
後悔したくありませんから・・・
一生懸命、彼を想って・・彼を愛して・・彼に尽くして・・・
彼に自分を認めてもらえるよう努力します
彼に振り向いてもらえるまで・・・彼が私の元に来るまで・・・
諦めたりはしません・・・どんなことがあっても・・・」
「好きな男がいるのか?」
「いいえ・・・例え話です」 そう言ってアナベルはにっこりと笑った
「例え話にしては真実味があるな・・・」
テジュンはアナベルの目を探るように見つめ、そして続けた
「しかし・・若いな・・・」
「・・・・社長、偏見だわ」
「すまん・・そうだな」
「・・・・人を愛することに・・・年齢なんて・・・」
そしてアナベルは自分に言い聞かせるように呟いた
私は・・・あの人を愛するために生きてきた・・・
ただそれだけですもの・・・
テジュンにはその言葉は聞こえなかった
夜遅くになってカサブランカではドンヒョクとテジュンが
久しぶりにグラスを傾けていた
「ドンヒョク・・・・」
「んっ?」
「アナベルだが・・・」 テジュンが正面を向いたまま口を開いた
「アナベルがどうした?」
「お前の所でもう少し勉強したいらしい・・・」
「そう・・・」
「お前・・・アナベルと本当にアメリカで何も無かったか?」
「何もって?」
「本当に覚えてなかったか?彼女のこと」
「覚えてないよ・・・それがどうかした?」
「いや・・・何だか、あの子のお前への・・・・
何と言ったらいいか、良くわからないが・・・・」
「はっきり言ってよ」
「お前のことを話す時のあの子のひとことひとことが
何だか重いんだよ」
「重い?何それ・・・」
「いや・・・わからない・・・何となくそう感じる、だけだ。」
「何を気にしてる?あの子が僕と何かあったとでも?
はっきり言うけど、付き合った女の中に彼女はいなかった。」
「お前、そんなに付き合った女多いのか・・・」
テジュンが突然面白がるようにドンヒョクを覗きこんで聞いた
「何だよ・・・ま、少なくは・・なかった・・かも。」
「お前、知らないうちに恨みかってること、してないだろうな」
「レオみたいなこと言わないでよ・・・・してないよ
とにかく・・・あの子に関して、僕に後ろめたいことは何も無い。」
「ならいい・・・しかしお前、女に関して鈍感だって
ジニョン・・・言ってたからな」 そう言ってテジュンは小さく溜息を吐いた
「鈍感?ジニョンがそんなことを?あなたに?」
ドンヒョクは思わず苦虫を潰したような表情を作って、
持っていたグラスの中身をグイと空け、席を立った「じゃ、これで・・」
「おい、もう帰るのか?」
「悪いけど・・あなたとこうして飲んでいたのは
ジニョンの退勤を待っていたからであって
好き好んではいない。では、失礼。」
ドンヒョクは腕時計を覗きながら、抜け抜けとそう言った
その目に不機嫌さを漂わせながら。
「あ、そ。」 テジュンは短く答えて、ドンヒョクに手の甲を振って見せると
仏頂面を露にしてグラスを口に運んだ ≪こっちだって、同じだよ≫
「おまたせ」 従業員通用口でドンヒョクが待っていると
ジニョンが小走りにやって来た
「お帰り、奥様」
「ただいま・・あ・・あなたもお帰りなさい」
「ただいま・・ちょっと飲んじゃったんだ
歩いて帰らない?」
「ええ、いいわ」
ドンヒョクとジニョンは、たまに車をホテルに置いたまま
自宅までの20分を歩いて帰ることがある
「さっき、テジュンssiと飲んでたんだ」
「ええ、知ってるわ・・テジュンssiがそう言ってオフィスを出て行ったから」
「何でも話すんだね、彼・・君に・・」
「何でもって訳じゃないと思うけど?」
「君も?」
「えっ?」 ジニョンは何のことだかわからず、首をかしげた
するとドンヒョクはふいにジニョンの手を取って、小さな公園に入っていった
そこは初めて見る公園だった。「静かだな・・誰もいない」
「そうね・・・こんな公園があるなんて、今まで気が付かなかっ・・・」
ジニョンがそう言い掛けた時、ドンヒョクはふいに振り向いて
彼女を抱きしめた
「ドンヒョクssi・・・苦しいわ・・・どうしたの?」
「ちょっと・・酔ったみたいだ・・少しこうして酔いを醒ますの」
「酔ってるようには見えないけど?」
「そう?ひとりでは立てないくらい、フラフラだよ・・」
ドンヒョクはそう言いながらジニョンに体重を掛けた
「オモ!・・ふふ・・」 ジニョンは、しょうがないわね、と
彼の背中に腕を回して、彼を支えた
そうしてふたりはしばらく黙って抱き合っていた
「テジュンssiに・・・言ったでしょ?」 ドンヒョクが口を開いた
「何を?・・」
「僕が女性に関して鈍感だって・・・」
「えっ?ああ・・そんなこと言ったかしら・・
う~ん、言ったかも・・
でも、どうしたの?急に・・・そんなこと」
「何でもない」 ドンヒョクは彼女に回した腕に力を込めた
「・・・何でも無くなさそう、ね、何かあったの?」
ジニョンは彼の肩に頬を乗せるように彼にもたれながら、
会話を続けた
「別に・・」 ドンヒョクが拗ねている時の声だと、ジニョンは察した
しかしそんな時彼女は敢えて彼に拗ねさせたままにしておく
「ふふ・・・でも本当のことじゃない
あなたは仕事では研ぎ澄まされたハンター・・でも
あなたを愛する人の気持ちを汲む能力には欠けてるわ・・・
愛されることに・・・鈍感なの・・・」
「何を根拠にそんなこと・・失敬だな」
「そう?当たってると思うけど?自分だってわかるでしょ?
私・・アンジェさんの時そう思ったもの」
「アンジェ?・・君・・・彼女といったい何を話したの?」
ジニョンは昔、NYにドンヒョクを追って行った時に偶然出会った
彼の元恋人の話しをしていた
ドンヒョクはあの時、彼女がアンジェと出会っていたことは知っていた
しかし今まで、その時に何があったかなど、聞いたこともなかった
「何を話したわけじゃないわ・・・
彼女・・・あなたがいつも座るカウンターでお酒飲んでた
あなたを待ってたんだと思うわ
あなたが来るという確信もなく、ただそこに座ってるの
あなたを感じながらね・・・
何だか彼女の想いが切なくて・・彼女が店を出て行った後、私・・・
彼女と同じようにあなたをそこで待てなかった・・・」
「・・・・・・」
「あなた・・結構女の人泣かせたでしょ」
「そんなことないよ」
「そんなこと・・きっとある・・・・あなたがわからないだけなのよ・・・
あなたを想う相手の気持ち・・・」
「・・・・君の気持ちも?・・・わかってないの?僕は・・・」
彼は少しだけ彼女から体を離し、彼女の顔を覗くようにして言った
「私の気持ち・・・・
そうね・・・・わかってないかも・・・・」
ジニョンはドンヒョクをからかうように、微笑んだ
「本当に?」 彼は彼女を見つめて言った
「ええ・・・あなたは・・・鈍感。」 彼女も彼を見つめて言った
君は僕に辛辣に言葉を投げつけた後
それでも・・・あなたが好き
そう言って僕を誘うように首に腕を巻きつけ
そっとくちづけた
そして君は僕が君のくちびるを深く求めるのを
ゆっくりと待った・・・
ずるいね・・・・君は・・・
君の何を僕はわかってないの?
ねぇ・・
君の全てを知っていると思うのは
僕の思いあがり?
君は・・僕に何を見せてないの?
僕に・・君の何を知って欲しい?
教えてくれ・・・・ジニョン
僕はこうして君をこの手に得た今でも
君のひとことひとことに心を震わせている
君がテジュンssiと交す言葉ひとつにも
まだ敏感に反応する僕がいる
君に関して僕はそれほど小心者なんだ
他の誰かのことなんて関係ない
他のことなんてどうでもいい
でも・・・
君の気持ちをわかってないなんて
それだけは・・・
言わないでくれ・・・ジニョン・・・