【 koko の Valentine's Day
】 13話
園田家のリビングの電話機の前に すなおの母と祖母がたっていた。
華子が加賀美家の電話番号を書いたメモ用紙を祖母に差し出し
祖母は、受話器に手をかけた。
二人は顔を見合わせ、大きくうなずいた。
祖母が声を出し、電話番号を読み上げながら ダイヤルボタンをおしだした。
受話器から呼び出し音が
…
…… 5回 ……
あらためてかけなおした方がと思い 切りかけると
…
「 お待たせいたしました。 加賀美でございます。」
「 朝早くから申し訳ございません。
わたくし園田でございます。」
「
えっ! 園田さま。 神戸の園田のおばさまですか?
わたくし、なほこでございます。」
「
なほこさん。 なほこさんなの。」
「
はい。 なほこでございます。 おはようございます。
お元気でいらっしゃいましたか?」
「
なほこさんも、ご家族の皆様もおかわりございませんでしたか?」
「 はい。 みな元気で暮らしております。」
「
なほこさん。 こんなに早くお電話させていただいたのは
お母様とお話させていただきたい事ができまして
…
お電話口にお願いできますでしょうか? 」
「
すぐに呼んでまいりますが、 いったん切らせていただきまして
こちらからおかけなおしさせていただいてよろしいでしょうか?
」
祖母は、すこしためらったが
「
そうですか? それでは、よろしくお願いいたします。」
受話器をおき、大きく溜息をついた。
その様子を見ていた華子が、
「
お母様 … 」
「 そうね。 その方がいいかも … 」
すなおの祖母は自分に言い聞かせるかのようにつぶやいた。
心配そうに、華子が
「
いらっしゃらなかったのですか? 」
「
いらっしゃられるようだけれど、 折り返しお電話してくださるそうよ。
多分、おそばにいらっしゃったと思うのよ。
でも、なほこさんの計らいだとおもうわ。
なほこさんも驚かれているようでしたし、
お母様に告げてから心の準備をと思われたのでしょうね。」
「
なほこさんがお電話にでられたのですね。」
華子が何気なく言った言葉が、二人の間におもい空気が流れた。
電話の呼び出し音が鳴り響いた。
華子と祖母は顔を見合わせ、祖母がおおきくひと息し、
「
園田でございます。」
「
志乃さん。 お久しぶりです。 八重でございます。」
なつかしい、京都のやわらかい後尾で、すなおの祖母は胸に
こみ上げてくるのをおさえながら、二人の間に少し沈黙のあと
…
「
八重さん。 おひさしぶりでございます。
お変わりなくお元気でお過ごしでしたか。
突然にまた、こんな早いお時間に申し訳ございません。」
「
余程の思いでのお電話とお察しいたします。
どうぞ、 ご遠慮なくお話くださいませ。」
「
どこから、どのようにお話をさせていただいたらいいか
…?」
志乃は戸惑いの中、次の言葉に迷った。
電話のむこうから八重は感じ取った。
「
志乃さん大丈夫ですか? 」
「 おあいできますでしょうか?」
「 そうですね。
今から、いそぎ時間のやりくりをさせていただきます。
そちら様におこしいただきますより、
こちらからうかがわせていただいた方がよろしいようですね。」
多くを語らなくても、二人の間には通じる事柄があったのだろう?
「
はい。 ご指示いただけましたら私どもは、いかようにも … 」
「
そうですか。 どうしたらいいでしょうね。」
少し、沈黙のあと八重が
「 やはり、こちらがそちらの方に
… 少しお時間いただけますか?
あらためまして、なほこの方からお電話さし上げ、
詳細をご連絡させていただくと言うことでよろしいでしょうか?」
「
はい。 お待ちいたしております。 よろしくお願いいたします。」
志乃は華子にいきさつを話し、
いつでも出かけられるように、 身支度を
…
また、自宅にお招きする準備もそつのないようにと助言し、
いったん自室に引き上げた。
加賀美家では、少し大がかりのお茶会があり、お茶菓子の搬入時に、
主催者様へのご挨拶と八重となほこがお茶会の準備を引き受けていた。
手配に手間取った。
いろいろな方々から急に二人がぬけると言うことで
非難を浴びながらなんとか調整が出来た。
園田家には、時計の針が11時が過ぎ、 連絡を入れることができた。
園田家の二人は、今か今かと電話の前をいったりきたり
…
すわったり、たったり! 神経をすり減らしていた。
電話がなり響き、待っていたとは言え、呼び出し音に驚いた二人は
お互いに見つめあい、 ひと呼吸して、祖母志乃が受話器をとった。
「
園田でございます。」
「
もうしわけございません。 大変お待たせいたしました。
なほこでございます。」
「
ごめんなさいね。 急な事で、ご迷惑をおかけして …
今日は許してくださいね。」
「
とんでもございません。
母とも相談いたしましたが、とりあえずわたくしと母は
神戸の koko のマンションの方に …
つきましたら、園田様のお宅の方にお電話させていただきます。
いかがでしょうか?
お電話を切りましたらすぐに出かけます。
道路の方が、スムーズにむかう事ができましたら、
1時間ぐらいでつくと思います。」
「
お車でこちらの方に … 」
「 はい。 高速がつかえていなければいいのですが …
すでに、店の者が車で待機しております。」
「
なほこさん。 お昼はこちらでご用意させていただきますので
我が家の方にいらしていただけましたら …
」
車で待機しているはずの母、八重がのぞきにきた。
なほこは母にうなずき …
「
おば様。 このお電話いったん切らせていよろしいでしょうか?
すでに、母も車に乗り込んでいます。
車からあらためておかけなおしさせていただきます。」
「
ごめんなさい。 お待ちいたしております。」
なほこはいそぎエンジンのかかった車中に乗り込んだ。
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