【 koko の Valentine's Day 】 4話
さあ~ 帰るとしますかあ~ とひとりごとをいいながら
電気を消し、鍵をかけ廊下を歩き出した。
顔見知りが 「
おかえりですか~ さよなら 」
と声をかけられながら出口に近づいた時、
「 やあ~ お疲れ …
」
ちょくさんが軽く手をあげたっていた。
「 どうしたの~
」
ちょくさんの事をぶっきら棒と言ったが、二人はよく似ていた。
私もちょくさんに負けず劣らず、そちらの方は
自分でもどうにかならないものかと多々思う。
手のひらを広げ、
「 チョコ 」
「 えっ! わざわざ … 」
立ち止まり、鞄から取り出し手渡した。
「
ねえ~ さっきどこから電話していたの~? 」
「 このあたりかな~ 」
「 今日は早かったんだ~
」
「 まあな~
」
病院の敷地内は出口まで結構距離はある。
多くを語ることもなく広い道路に出た。
「
ちょくさん、食事は? 」
「 まだ!」
と言い、携帯を取り出した。
「
園田のすなおです。今からお願いできますか?
二人です。
15分ぐらいでいけると思います。
お願いします。」
「 いそご~
」
ちょくさんは私の手を取り早足になった。
広い通りから路地にはいると静かなたたずまいで、
こじんまりした数軒お店が並んでいた。
老舗旅館を小さくした様な感じのお店の前でちょくさんは足を止めた。
お店の中から声が聞こえ、人の気配がした。
私たちは、入り口を譲り、外で待っていると、
ちょくさんが軽く手をあげた。
中からでてきたお客様とお店の方が、手をあげたちょくさんに
気がついたのか笑みながら近づいてきた。
「
あら~ なお! 」
なお~? ああ~ ちょくさんの事。
「 なお 」 と呼ぶ、このご婦人達どなたかしら
…?
そう思いながら、ちょくさんの身後に立ち様子を伺っていた。
ちょくさんがお店の年配の男性の方に、 「
急にすみません 」
「 とんでもございません。」
ちょくさんが私の方を振り返り、
「 祖母
と 母 」
おばあさまとお母様の方をむき、「 kokoちゃん 」
「
あら~ kokoちゃん かわいいお名前ねえ~
あなた予約もしないでお願いしたの~ 」
そういいながら男性の方に微笑みながら
「
この子たちまで、申し訳ございません。」
と頭を下げ
「 … というわたくし達もそうなんだけれど …
だって、急にお父様もあなたもお食事いらないなんて
言うもんだから
…
あらあら、大変! こんなお時間。
ごめんなさい。
おなかすいているでしょ~
さあさあ早く
… 」
と、なんとも言えない品のいいかわいいしぐさの、
おばあ様に私も微笑んでいた。
「
残念だわ。 是非次はごいっしょさせてね。」
と 私に話しかけた。
おばあ様たちをお見送りに来ていた、お店の女性の方に
案内され、私達はお二人に軽く会釈をし、お店の中へ
…
「 ねえ~ あの二人はちょくちょくお邪魔しているのかしら~」
「
はじめてでございます。
なおぼっちゃまが、ご家族様以外の方とこちらへ
おこしになられるのもはじめてでございます。」
「
そ~ そうよね。
まだ研修医でこちらのお店デビューは早いわよね~
と言う事は、お母様そういうことなの~でしょうか?
お手数ですが、なお達のお支払いこちらの方にまわしておいてね。」
「
はい。 そうさせていただきます。」
こんな出逢いがあり、
この時はテレビドラマや小説の中だけと思っていた出来事が
数日後に展開するなど誰もが予期しなかった。
カウンター席が少し、 テーブル席も多くなくこじんまりとした店内。
店中に入るとお店の方は、ちょくさんに
あたたかい視線で笑みをたたえ軽く会釈した。
そのまま奥に進み、個室へと案内された。
京都ではよく目にする
間口は狭いが奥に長くいくつかの部屋が並んでいた。
その後、品のいい年配の方に ず~っとお世話していただき、
お料理も運ばれてきた頃に、ちょくさんが
「 このような時間に申し訳ありません。
今度ゆっくりいただかせていたきますので、今日は少し急いでいただいて
…
食事が終わりましたら少しお部屋を使わせていただけますか?」
私は、なになに? なにかな~
いつものちょくさんより凛々しく、
たくましく感じながら、お料理を口に運んだ。
食事も終え、片付けられテーブルにはお茶が運ばれてきた。
ちらっと腕時計を見るとすでに、時計の針は10時がすぎていた。
「 どう。 気にいった。
」
「 ええ~ 久しぶりにおご馳走にありついたという感じ
…
おいしくいただかせていただきました。 ご馳走様。」
いつもそうだが、ちょくさんとの食事中は特に今日のように
コースのものの時はほとんど、会話は運ばれてきた料理の
感想程度で、私的な事は話さない。
そのあたりは感性が似ている。
食事中には、
触れられなかったがちょくさんがお母様達の話をきりだした。
「
まさか母達に会うなんて! 驚いた? 」
「
すこしね。 素敵なお母様におばあさまね。
我が家と同じかしら?」
「 同じって? 」
「
お母様と、おばあさまはお嫁さんではなく、娘さん? 」
「
いいや~ 母は園田家に嫁いで来たんだよ。
あの二人にあうとよくそう言われるけれど? どうして …? 」
「 なんとなく …
」
「 我が家と同じって …? 」
「
私達、もう知り合って8年目になるのにねえ~
話してなかった。
うちの家ねえ~ そうそう、ちょくさんと同い年の姉がいるの。
その姉は、大学卒業と同時に結婚したんだけど、
姉も 母も おばあちゃまも 婿養子なの。
すごいでしょ~ 3代もよ~
」
「 そ~ そうなんだあ!
母と祖母はいつもあんな感じで、何をするにもつるんでいるんだあ~
僕は小さい頃、時々どちらが母かわからなくなっていた。
母は僕の事は、必ず祖母に相談というか聞くんだ。
子供心に違和感を感じていたんだ。
高校に入った頃、母たちは知らないが、ふとしたことから
母が、僕の母ではないと言う事を知ったんだ。
血液型がおかしんだ。」
ちょくは、さらっと話したが、
koko はどうこたてていいかわからないまま
少し沈黙が続きいた。
「
すなおぼっちゃま。 よろしいでしょうか? 」
ふすま越しに …
「 どうぞ …
」
ちょくさんのお母様たちをお見送りに来ていた男性がふすまをあけた。
「
ご挨拶がおそくなりました。
お店は終わりましたが、ごゆっくりなさってください。
わたくしは事務所で仕事をしておりますので
お帰りの時は、そちらのお電話でお声をおかけいただけましたら
裏木戸をご案内させていただきます
」
「 ああ~ こんな時間に
…
いつもの事ながらご迷惑をかけます。
大切な話がありました。
すみません。 もう少し時間いただけますか?
お支払いの方こちらで
… 」
ちょくさんは、上着の内ポケットからカードケースを出し、カードを …
「
お支払いの方は、お母様が …
お急ぎなさらなくてもごゆっくり … 」
「
いえ。 そうもいきません。 帰りにタクシーお願いできますか? 」
ちょくさんは私に 「
koko この方はいつも僕の見方で、
家出とまではいかないが、家にいずらい時には
いつも駆け込み寺でおじたんにお世話になっていたんだ。
この方 おじたん。 物心ついたころからそうよばせていただいている。
母たちの話によるとおじさんといえなかったらしい~
それから、違和感もなくず~っとそのままおじたん。」
いつの頃からか、ちょくさんは私の事を最初は
「 先輩 」
あの最初のチョコから
「 koko ちゃん 」 最近 「 koko 」
と呼ぶようになっていた。
おじたんという方はにこにこしながら、 「 なつかしゅうございます。」
「
それでは、もうしばらくお願いできますか?
」
おじたんさんは、
丁寧にご挨拶されその場を離れようとした時、私は声をかけた。
「 あの~
」
私は、そばにおいてあった鞄から、小さな缶を取り出し、
ちょくさんに、はじめて手渡した時と同じように、
てんとう虫のチョコをひとつとりだし、
おじたんという方のそばに行き手のひらにのせた。
「
今日はバレンタインデーですので … どうぞ …
」
おじたんという方がそのチョコを不思議そうに眺めている。
ちょくさんに、はじめてこのチョコを今のように手のひらに
のせた時と同じようにしばらく眺めていた。
私の気のせいか?
ちらっと!
ちょくさんの方を見ると、ちょくさんは目をそらしたように
…?
「
ああ~ 失礼いたしました。
かわいいですね。
ありがとうございます。」
丁寧にご挨拶をされ部屋をあとにした。
私は、ちょくさんも、
おじたんさんも珍しそうにしばらくながめていたのは
、
あの時と同じようにチョコが珍しいから?
ひとつだけだから?
と、思っていましたがそうではなく
このチョコが、意外なつながりがあった事など知らなかった。
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