【 koko の Valentine's Day 】 5話
ちょくさんは姿勢をただし私の方を見た。
私は、ちょくさんをみつめていた。
「 koko
さっき僕達が知り合って8年目にと言っていたけれど、
そうなんだよなあ~ 7年過ぎた。
僕も、あと1年で研修医は終わる。
終わった段階でここと結婚をしたい。
予定としては、来年の四月に
koko
の実家にご挨拶に行く。
その後できるだけ早く結婚したい。
出来たら、ごあいさつに行ってすぐにでも
一緒に生活をはじめたいと思っている。
それと、ご挨拶に行った時に、僕はよく言う
『
お宅のお嬢様を僕にください 』 とは言わないから …
koko は、ものではない。
僕も、koko
も、成人した大人。
それぞれの意志で二人は結婚する事を決め、
その報告をかねたご挨拶をしにいくと理解してほしい。
koko
僕と結婚してくれますか? 」
も~ なによ~ これって
…
と 不満もあったがちょくさんにしたら上出来。
ちょくさんらしいかな~ と思いなおし、
「
わかりました。」
「 じゃ~ そういうことで … 」
「 はい。」
「 ありがと~
」
「 ありがと~? 」
「 …? えっ! OKではないの? 」
「
ちょくさんの話したことがわかったと言うことで、まだ、先の事でしょ~
それよりプロポーズもしてもらってないし
…
愛しています。
とか 男女の関係とまでいかなくても、せめてキスぐらいはねえ~
」
テレもあったが、少しふざけて言った。
「 ややこしいなあ~ koko
は、僕と結婚するの?
しないの~? 僕の事好き? 嫌い?」
ちょくさんにしては珍しくいらだちが伝わってきた。
思っていた想定していた流れからそれたのだろう。
いつも冷静沈着なちょくさんにしてがあら声を
…
多分、思いつきではなく今日いち日中、少なくとも
落ち着かない日を過ごしたのだろうと思った。
それとは反対に私は自分でも内心驚いている。
ちょくさんには悪いと思うが、まったく動揺しないで、冷静でいる。
結婚は私の中では想定外である。
母達も卒業して、ついこの間まではうるさく言っていたが、
最近は急に静かになって、わたし的には心地よく過ごしている。
私としては、まだ? 30歳まで2年ある。
仕事の方も今日のように不規則だ。
しかし、それなりに生活リズムも整ってきている。
私達を長く見てきた先輩や同級生は二人の関係を
「
信じられない? 」 と よく口にする。
何がどう信じられないと言うのか私にはわからないが
わたし的には自然な過ごし方をしていると思う。
8年目に入ったが、
同じ神戸市内にあるちょくさんの家に訪問した事はない。
私の実家京都の家にもちょくさんを連れて帰ったこともない。
ちょくさんは、私が住むマンションには出入りしている。
あの3人組み。
母 ・ 祖母 ・ 姉 が なんだかんだと言っては
最近はすくなくなったが、
それでも2ヶ月に3度ぐらいは、訪ねてきて日帰りで帰っていく。
訪問者は、
この3人組とちょくさんだけで、泊まっていくのはちょくさんだけだ。
しかし、愛し合う二人が過ごすという流れではなく、
私には兄がいないが、
兄や父が同じ部屋にいるという感じに近いのではと思う。
ちょくさんが訪問しだして5年ぐらいの月日は流れたが、
男女の関係という雰囲気にはならなかった。
運がいいと言うか、母達とちょくさんは出逢うことはなかった。
もし、出逢ったとしても今日のちょくさんがお母さん達に
私を紹介したようにしたと思う。
「
ねえ~ おじたんさんにこれ以上またせたら悪いから、かえろ~
」
ご機嫌斜めのちょくさんは電話の受話器をとり、
「
すなおです。 話が込み入っているからもう少しかかります。」
そう言って受話器を置いた。
私は 「
ちょくさん怒っているみたい? 」
ちょくさんは、私をにらみつけ 「 はあ~ 」 と
大きな溜息をつき そのあと吐息をひとつ。
ドスンと大きな身体がひっくりかえり、天井を仰いだ。
私の湯のみのお茶はなくなり、ちょくさんの湯のみを
見ると残っていた。
「 ちょくさん! お茶いただいていい … 」
「 どうぞ~
」
と、背をむけ海老のようにまるまった。
私は、お茶を飲み干し、電話の受話器をあげ、
電話から聞こえてきた声がおじたんさんである事がわかったので
「
タクシー お願いしていただけますか?
」
そして、私は帰り支度をし部屋をあとにした。
ちょくさんからではなく私からのタクシーの依頼がおかしいと思ったのか
廊下に出ると、おじたんさんが
…
「 私だけ先に帰りますので …
」
おじたんさんがおろおろするのはわかったが、私は部屋から離れた。
後から、おじたんさんが早足でついてきた。
タクシーを待っている間、
私とおじたんさんの間に気まずい空気を感じた。
「 ご心配いりませんから。 ただのだだっ子です。」
と 私が微笑むとおじたんさんは 「
はい。」 と会釈された。
名刺を取り出し、裏に携帯の番号を書き込み、おじたんさんに
「
メールはできますか? 」
「 はい
」
メールアドレスも書き添えおじたんさんに手渡した。
「 koko
様も、お医者様なんですね。」
「 はい。 臨床医ではありませんが …
ちょくさんよろしくお願いいたします。
お部屋でふて寝していますから
…
何かありましたらお電話いただけますか?
時間は気になさらないで結構です。」
koko
が 帰ったあと、おじたんは部屋をのぞき、
「 なおぼっちゃま、koko
様お帰りになられました。」
ちょくさんはおじたんさんとお酒を酌み交わしながら
数十分前の出来事のすべてを話したと、あくる日に、
私からおじたんさんに
その後のちょくさんの様子も気なり電話をいれ知った。
ちょくさんにとって、
おじたんさんは特別な人とこの時あらためて感じとった。
親には言えなくてもおじたんさんには
…
おじたんさんは
ちょくさんにとってこの世で唯一心を許るせる人だと思った。
数日後、
ちょくさんのお母様達が私の職場である研究室に訪ねてこられた。
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