【 koko の Valentine's Day
】 6話
「 加賀美先生、園田様と言うご婦人が …
」
研究室の事務員から連絡をうけ、
すぐには手があかなかったので少し待っていただくことになった。
園田と言うとちょくさんが園田だが、ご婦人?
気になりながら仕事を続けた。
となるとお母様? おばあさま?
20分あまりお待たせしたあと、廊下にでて、
辺りを見回しているとやはりちょくさんのお母様と、おばあ様だった。
ちょくさんが、お母様とおばあ様は
いつもつるんでいると言う言葉を思い出した。
お二人は私を見つけると、廊下におかれた
長いすから立ちあがり、お互いに軽く一礼をし歩み寄った。
申し訳なさそうに
「 ごめんなさいね。」
「 ことらこそお待たせいたしました。
でも、あまりお時間は … 」
と言いかけると
「 本当に、ごめんなさいね。
なおに知れたら親子の縁きられそうだわ。
お席を設けて、是非
koko さん とお話させていただきたいの。
出来ましたら、できるだけ早いほうが …
それで、なおには
…
じゅうじゅうわかっているのですよ。
失礼な行動をとっていると言う事は …
」
ちょくさんには内緒にと言うことなんだあ~
それにしても、何の話があると言うのだろう?
お二人を見ていると、何か思いつめられた様子で
とにかく、このままではと思い
「
わかりました。 このような仕事ですのではっきりとした
お約束はできません。 お時間の方も … 」
「
わたくしも母も医師の夫に使えた身。
ああ~ わたくしはまだつかえておりました。
そのあたりは、よく理解いたしております。
こちらからご無理をお願いしておりますので、
いかようにもさせていただきます。」
そうだった。
確かお父様もおじい様も医師だった。
私の実家の家族は、特に母・姉・祖母の3人組は、
時間の約束はまもれないと何度説明しても、
わかってもらえず、最近はあきらめた。
「
お急ぎと言う事ですので、今日できるだけ時間を
とらせていただきます。
しかし、時間の方は遅くてもよろしいのですか?
」
お二人の様子から後日の日程を伝える事が出来なかった。
私もお二人の用件も気になり早く知りたかった。
「
はい。何時でも … 本当にごめんなさいね。
お仕事のあとお疲れなのに … 今日だけは許してね。」
「
それでは、7時はすぎると思います。
7時頃にあらためまして、ご連絡をさせてただきます。
ご連絡はどのようにさせていただければいいでしょうか?
」
お母様が白い封筒をバッグからとり出し、私に手渡した。
「
そちらの中にわたくしの携帯の番号と
昨夜のお店の番号を書きしるしております。
昨夜のお店でということでよろしいでしょうか?
どちらにいたしましても、
7時までにはお店の方には行っておりますので
…
どれだけ遅くなりましても お待ちいたしますので … 」
「
はい。 食事の方はすませてまいります。」
「 そうですか? わかりました。 わたくし共もすませておきます。 」
「
それでは私は仕事に戻りますので 、
これで失礼させていただきます。」
「
本当にごめんなさいね。 お気を悪くされないでね。」
お母様は、それ以上話すと今にも泣きそうな感じにも思えた。
「
とんでもございません。 こちらこそ …
」
そのあとの言葉が見つからず、
私はどうしてか早くこの場から離れたかった。
koko
のうしろ姿を見送りながら、すなおの母と祖母は
「 お母様これでよかったのでしょうか?
」
祖母は、すなおの母 華子の手をそっと包み込み
「
そうね。 私にもどうしたことか?
とにかく、1歩踏み出してしまいましたね。 」
「 はい!
」
重い足取りでその場をあとにした。
私は仕事に戻ったものの、
お二人の様子を思い起こすと不安になってきた。
昨夜のちょくさんが脳裏に浮かび、まさかそのことではと
…
あれから、ちょくさん、どおしたのかしら
…?
朝から手がけていた仕事の区切りがついた。
時計に目をやると5時すぎだった。
そのあと、引き続きし始めると9時は過ぎてしまう。
しかし、本来ならそこまでは仕上げてしまいたかった。
少し考え、上司に仕事の報告をかね、今日はこれで帰る事を伝えた。
上司はしばらく私の顔をみていた。
「
珍しいね。 加賀美君が
…
ああ~ さっき訪問者があったようだね。 お疲れ様。」
白衣のパケットから携帯をとり出したが、
お母様とおばあ様の小奇麗なお姿を思い浮かべると
急いでシャワーをして身支度をしたかった。
携帯をポケットに戻し机の上を整理した。
帰宅後、自分でもおどろろいている。
いつもは、スローペースだが、やればできるものだと
…
シャワーをすませ、バスロープのまま、朝たてたコーヒーの残りを
レンジであたため、クッキーを数枚食べたあと、身支度をした。
時計を見ると7時少し前。
指示された電話に連絡をいれた。
「
koko です。」
加賀美と言うべきか?
昨夜、ちょくさんが、
お母様とおばあ様には 「
koko 」 と紹介された。
迷いながらだったが、koko と告げた。
「
今からそちらにむかわせていただきますが、
ご都合はよろしいでしょうか?」
電話の受話器をおき、あれっ! お母様たちどうして、
私が加賀美と言う事をしっているのだろ~?
確か?
大学病院で私を呼び出す時、
「 加賀美呼子さんにお逢いしたいのですが …
」
と 告げられた。
ちょくさんは、私の事を 「 koko
」 とだけ紹介したはずだ。
そんな事を考えながら戸締りの確認を
…
出かける前に、全身を鏡で見る事など長く忘れていたが、
鏡の前で立ち止まり鏡の中の koko
をしばらく眺めていた。
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