【 koko の Valentine's Day
】 9話
「 どうぞ。 よろしければお召し上がりください。
」
お二人は顔を見合わせますます様子がおかしいように感じた。
「
ありがと~ koko さんはいつもこのようにこのチョコレートを … 」
「 ちょくさんにも
同じことを聞かれました。」
お二人の様子を見ながら話を続けた。
「
私が、神戸でひとり暮らしをはじめる時に母から手渡されました。
それ以後、現在にいたるまで持ち歩いています。
私がこうして持ち歩いているのは、
ちょくさんの他誰も知らないと思います。
特別チョコがすきと言うわけではありません。
たまに思い出したように食べる程度です。
私にとっては家族と結ばれているお守りかな~?
実家に帰るたびに補充しています。
すなおさんが大学に入られて、はじめてのバレンタインの日には
女性にかこまれて大変でした。
なんとか騒ぎがおさまり、ちょく
…
ああ~ すなおさんは部室にいた私にチョコを要求して来ました。」
「 なおがですか? koko
さんお気を使われないで、
なおのことちょくさんでいいですよ。」
「 はい。 大学でみながそう呼んでいたものですから、私も
…
ちょくさんは私の事を最初は先輩と呼んでいました。
私はちょくさんより年下ですが 大学では先輩で
…
私を koko と呼ぶようになりましたのは、
私の高校の先輩が koko
と呼んでいましたので、
いつの頃からかちょくさんもそう呼ぶようになりました。」
何を言っているのだろ~ 話さなくてもいいことを
…
自分でも横道にそれ、たどたどしい話し方に気がつく。
しかし重苦しい変な空気に押しつぶされそうな私は、
空気の流れが変わったように感じ、この調子でもう少し話そうと思った。
「
私は、バレンタインは父の他には
チョコレートをプレゼントをしたことがありません。
ちょくさんからチョコと手のひらをむけられた時も、
用意していませんでしたので、今のようにバッグから
このカンケースを出し、ひとつちょくさんの手のひらにのせました。
その時、 『
いつもそうして持ち歩いているの? 』 と、聞かれました。」
「 なおは、 koko
さんから、
このチョコレートをいただいて何か言っていましたか?」
「
いいえ? すぐに食べないで、 しばらく不思議そうに眺めていました。
昨夜、
おじたんさんもちょうさんのように眺められておられていました。
ちょくさんがしばらく眺めているのは、珍しいチョコで
気にいってながめているのかと思いました。
私は、いつも母がこのチョコの説明を幼き頃より聞かされて
いましたのでそのことを、ちょくさんにそのまま話ました。」
「
私達にもなおになさった説明、聞かせていただきますか? 」
「 えっ!
」
私は驚きいた。
どうして …?
そうお思いながら
「 はい
…
『
そのチョコは、
母の古い友人から、お正月があけた頃に送られてくるの。
スイスチョコレートの老舗でマエストラーニ社が、
IMO(スイスのオーガニック認証機関)の認証を受けた
原材料のみを使用して製造したチョコレートよ。
原材料はIMOの認定を受けたドミニカ共和国やボリビアなどの
有機農家から輸入されスイスで製造・加工されているの。
乳化剤、香料、保存料などの食品添加物は
一切使用されていないそうよ。
小さなお子様にも安心して美味しいからと
送られてくるの。
私の遠い記憶にはこのチョコはすでに存在していたわ。
ヨーロッパでは、てんとう虫は「幸せのシンボル」として
広く親しまれているんだって
… 以上 … 』
と、いいました? 言ったと思います。 」
「 その時のなおは?
」
「 ちょくさんは、 『 そう~ 』
と、一言だけでした。
私は、あまり口数が多い方ではありませんので、自分では
そうとうがんばって話したのですが、『 そう
』の一言だけで …
その後、少し数を増やしましたが、
てんとう虫のチョコを毎年さし上げています。
私は研修を神戸の大学の付属病院でしましたので
昨年まではその日のうちに渡すことが出来ました。
しかし今年は、ちょくさんの研修医として
大阪の大学の付属病院ですし、研修部所によっては泊まりこんだり、
かなり遅くまで拘束されるという状況ですのでいつの日にか、
あった時に渡そうと思って8時過ぎまで仕事をしていました。
帰ろうといたしました時に、ちょくさんがひょっこり病院の方に
…
二人共夕食がまだだったので食事をと言う事になりました。
そして、昨夜、おばあ様とお母様におあいいたしました。
いつもは、かんたんなもので済ませていますが、
昨夜はどうしたことかちょくさんがこちらのお店に
… 」
私は、身内でもこんなに話すということは今までなかった。
と 思いながら、お茶をいただいた。
お茶が、この一口で最後になったことが気になりだした。
いつまで、このように話さなくてはいけないんだろ~
おなかの方も、もう限界にきていた。
ちょくさんのお母様が、
「
そうでしたか? おかあさまが
… 」
そのお言葉が、なんだか意味ありげに聞こえた様にも感じたが
その時は気にも止めず、次の質問に答えていた。
「
なお? どうして昨夜はこちらのお店だったのでしょうね。
何か特別な日だったのかしら?
」
私は、今、昨夜の事を話す雰囲気ではないと判断し、
軽く笑み、お母様のお顔を見た。
お母様も 「
ああ~ ごめんなさい。 いやだわ。 私ったら!」
おばあ様が
「 koko さん
」
「 はい 」
… 少し時間をおかれ、
「
こうしてわざわざ呼びだてをして、
ありがとうの一言でお開きとさせていただくのは、
心苦しいのですが、今日は、お許しをいただけないかしら
… 」
「 …… ? …… 」
「 ながく時間(とき)を重ねてきましたら、
時として予期しない事柄が
…
しかし、わたくしの一存で事を進めると言うわけにはいかない
事柄もありまして、
出来るだけ早い段階で今日の日の事のお詫びをかねて、
あらためてお席をもうけて、お話をさせていただくと言うことで、
今日のところはご理解いただけないかしら
…
」
私は、ますますお二人に違和感を感じたが、
しかし、反論する気にもならず、
なんだかのらりくらりとこの方々との今日の行動にふりまわされ、
出来ることなら、今後、かかわりたくないとも頭をよぎった。
しかし、私は 「
はい … 」 と、一言。
…
そして一礼した。
おばあさまがお部屋の電話でなにやらお話され数分後に、
「
失礼いたします。」
と おじたんさんとお部屋係りの方がお茶がはこばれてきた。
そして、おじたんさんだけがのこられおばあ様が
「
筒井さん、いつもわたくし事で振り回してしまいますね。
お茶をご馳走になったら、
koko さんにタクシーをお願いできますか?
」
「 はい。」
と、
ふかぶかとお辞儀された。
私は、一刻も早く外にでたかった。
思いっきり外の空気を吸いたい! 少し歩きたかった。
「
わたくしは、最近運動不足ですので歩いて帰ります。 」
おばあ様は
「 そうですか。 いいわね。 お若い方は …
」
身体の隅々まであたたかいお茶が
…
ちょくさんのお母様とおばあ様をお母様が運転される車を
おじたんさんとお見送りし、
おじたんさんがお話されたいようにも思えたが、
そこまでも気力が残っていなかった私は、
ご挨拶をしその場をあとにした。
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